第5話「再起不能!? フライトナー!」


「再起不能!?フライトナー!」

フライヤーズ格納庫。
一角に配置されたコンピューター。
そのキーボードにもたれかかるようにカイトが眠っている。

その背後にそっと立つ者がいた。
研究所の白衣を着ていることから内部の人間だろう。
そいつは手を振りかざし、そして思いっきりそれを振り下ろした。
もちろんカイトの脳天目がけて、だ。
鈍い音が響く。
「んがっ……!」
カイトは素早く頭を上げ、周りを見渡した。
「やっ、おはようおはよう」
声がしたほうへ振り向くとそこには……。
短パンにショートカット、そしてスニーカーといかにもボーイッシュな少女が立っていた。
実はカイトの幼なじみであり、名を木谷美アイという。
ちなみにカイトがロボ研なのに対してアイはバイオ研である。
カイト曰く『こいつといるとろくな事がない』らしい。
「アイ……俺を殺す気なのか」
しかしアイはカイトのことなど気にも留めず、どこからともなく封筒を取出しカイトに手渡した。
「この前、カイトが持ってきた植物サンプルについての報告書を届けにね。それから……」
白衣のポケットを探りはじめるアイ。
「あったあった。薬品サンプル」
そう言って取り出したのは一つの小瓶。
中には液体が入れられていた。
「なんだこれ」
−AX−と書かれたラベルが貼られている小瓶を不信そうに中身を眺めつつ受けとるカイト。
「じゃ、渡したからね」
アイはそれだけ言うとそそくさと足早に格納庫から去っていってしまった。
「……報告書か」
アイがいなくなって静かな格納庫にうとうとしながらも封筒を開け中身を確認するカイト。

_植物サンプルの調査結果
先日カイトが持ち帰った植物の表皮から未知の物質が検出された。
それを解析した結果、なんと成長促進効果があると判明した。
さらに研究を重ね、我々はそれを無効化する物質を開発することに成功した。
−AX−。
これをかければすぐさま退縮し、やがては枯れはてる。
うまく使えば戦闘も容易になるだろう。
――バイオ研究部

「なるほ……ど……zzZZ」
素晴らしい研究結果に頷きつつもカイトは再び眠りについたのであった。

数日後、夕刻。
所内に響き渡る警報。
廊下を猛ダッシュするカイト。
【緊急連絡 第8工場区画でロボットが暴れている模様】
カイトの通信機から漏れてくる声。
【フライヤーズは直ちに出動せよ】
カイトは格納庫のドアを蹴破るように開け、ジャンボライトナーに飛び乗った。
「エンジン始動、ランウェイオープン」
前面のシャッターが開き、夕焼けの赤い光が格納庫に差す。
「ライトナーズ、出動!」
スロットル全開、エンジンフル回転で3つの機影は大空へと飛び去った。

街外れ、工場が立ち並ぶ第8区画。
クレーンやガスタンクなどの隙間から黒く巨大な影が見える。
「出てこい、フライトナー。新しくなったブラック・ナイトメアで叩き斬ってくれるぞ」
そう。パイロットはお馴染み、フォグ・ラインだ。
初代ブラック・ナイトメアとは違い、漆黒の大剣を装備し、装甲もがっしりとしたものに変更されているようだ。
そして大剣をガスタンクに振り下ろされんというとき。
「フライヤーズミサイル!」
ブラック・ナイトメアの腕部で爆発が起こった。
動きを止め辺りを見渡すフォグ・ライン。
遥か上空には4つの機影。
陸上からは、汽笛を鳴らし爆走する3台の列車。
「チェンジ!」
フライヤーがガトリングガンを撃ちながら降下する。
「フォグ・ライン! そこまでだ!」
先の攻撃にも傷一つ付いていないブラック・ナイトメアの正面に着地したフライヤーが言い放つ。
「これは……前の奴より強そうだ。フライヤー、スカイライナーズ、合体するぞ!」
『了解!』

「天空合体・フライトナー!」
「特急合体・スカイライナー!」
空中で合体し、再び着地する。
待ってましたと言わんばかりに漆黒の大剣を構え直すブラック・ナイトメア。
「ようやく現われたか、フライトナー!」
負けじとこちらも武器を構えるフライトナーとスカイライナー。
「またお前か……よし、スカイライナーは下がっててくれ。行くぞフライヤー!」
揚力刀を構えエンジン全開で斬り掛かる。
「そりゃ!」
ブラック・ナイトメアは動かない。
が、その斬撃はあっさりと大剣に止められてしまった。
「軽い軽すぎるぞフライトナー! ふんっ」
揚力刀を止めた格好のまま大剣を振るう。
大気を切る音とともに凄まじい衝撃がフライトナーに襲い掛かる。
「なに!?」
予想外の衝撃に後方へ吹き飛ぶフライトナー。
すぐ近くのビルに体当たりして止まる。
砂煙が立ち上り、辺りが真っ白となる。
唯一見えるものはブラック・ナイトメアの赤いモノアイの光だけだ。
しかし、フッとその光も消えた。
「どこに行った!? 見えるかフライヤー」
「ダメだ、カイト。目をやられた」
フライトナーのメインカメラに細かい砂粒が入り込んでカメラがいかれたようだ。
送られる映像にノイズが走る。
「さらばだ、フライトナー」
突如、フライトナーの左肩に衝撃がのしかかった。
「何っ……!?」
その衝撃は機体全体を揺るがした。
「どうした! フライヤー!」
「やられた、奴にコアを一突きだ……動けない……出力も低下している……」
どうやら大剣を突き立てられたようだった。
風が吹き視界が晴れていく。
目の前に、フライトナーを見下すように漆黒の機体が立っていた。
「フライトナー!!」
背後からスカイライナーの叫ぶ声が聞こえた。

次第に出力が落ちていくフライトナー。
肩からは大量のオイル、そして火花が散る。
コックピットの計器類の照明も暗くなっていく。
「フライヤー! しっかりしろ!」
フライトナーの眼が暗くなっていく。
「すまない……カイト……」
フライトナーの眼から光が消え、フライヤーは【AI機能停止】とだけ画面に残し、その機能を完全に停止した。
「ふ、フライヤーぁぁぁぁあああ!!」

動きを止めたフライトナーを見下ろす、フォグ・ライン。
「ふ、ふははははははっ! ついにやった! フライトナーを倒したぞ!」
ブラック・ナイトメアはオイルがべったり付いた大剣を抜き去り、それを天高く掲げた。
「私の目的は果たされた。これで私のロボットは最強だと証明されたのだ」
漆黒の大剣が太陽の光を反射し聖剣のごとく白く輝いた。
その時、微かだが声が聞こえた。
「まだだ。まだ終わっちゃいない……」
はっとしてフォグ・ラインが振り向くとそこには……。

ゆっくりとだが立ち上がるフライトナーの姿があった。
「マニュアルモードだ……。フライヤーがいなくても、フライトナーは動かせるんだ!!」
轟音を響かせ4機のエンジンをフル回転で迫るフライトナー。
慌てて大剣を構えようと柄に手を掛け引き抜く。
しかし、遅かった。
「揚力刀! 超音速突き!!」
繰り出された刃先は音速を越えソニックウェーブとともにブラック・ナイトメアのコアを突き抜けた。
そして、フライトナーは再び機能を停止させた。
「おのれ、フライトナー……だが今回はおあいこだ! お前に勝つまで諦めんからな!」
爆発するブラック・ナイトメア。脱出するフォグ・ライン。
こうして街の平和は守られた……かと思われた。

「ずいぶんと派手にやってくれたね。ここがボクの陣地だと知っての事かい?」
突如、上空から飛行艇が現われる。
側面には<Aeria.L BIOLAB(アエリア・L生物研究室)>と書かれている。
「けっ。スカイライナー、Maxキャノンフルチャージだ」
「了解」
スカイライナー胸部連結部が開き、砲口がせりだす。
エネルギーが先端に集まり、巨大な球となる。
最大出力時の数値上攻撃力はフライヤーズ最高を誇る。
「Maxキャノン! シュート……!?」
撃つ寸前、足元を何かに掬われたようにスカイライナーが転倒する。
よく見ると足元にツルが絡み付いている。
さらに倒れた場所が悪かった。
ガスタンクに倒れたために爆発に巻き込まれてしまったのだ。
「スカイライナー! 大丈夫か!?」
「ははっ、こんなことでやられはしません」
ホッとしたのも束の間、カイトは驚愕する。
おかしいのだ。声が。
フォレッドではない。サーディの声だ。
やはり、相当ダメージがあるのか。
「どうだい? ボクのハエトリ2号は気に入ってくれたかい?」
いつの間にいたのか、スカイライナーの目の前に例の巨大ハエトリ草が。
「キシャー!」
どうにかライフルで対抗するスカイライナー。
だが少し怯むだけでほぼ無力だ。
カイトはフライトナーが動かない以上何もできない。
しかし、このまま見殺しにするわけにもいかない。
ふと、カイトは白衣のポケットに手を突っ込んだ。
冷たい何かに手があたる。
一つの小瓶だ。
そう、アイに渡されたあの小瓶だ。
(これは……! いいぞ。アイ、今日だけはお前に感謝する!)
「スカイライナー! なんでもいい、俺の合図で攻撃しろ!!」
「り、了解!」
スカイライナーは困惑しながらも頷く。
カイトはそれを聞いてすぐに小瓶を忌々しい巨草に向かって投げた。
ハエトリ草は今にもスカイライナーに襲い掛かろうとしている。
「今だ!!」
カイトの声が響くと同時、小瓶が巨草にぶつかり割れる。
中の液体を被ったハエトリ草はみるみるうちに枯れていった。
そして、間髪いれずに数本のビームが巨草の茎を貫いた。
「キシャー!!」
甲高い鳴き声が響き、巨大なハエトリ草は爆散した。
「な、なんだと……ボクのハエトリ2号がやられた……? くそっ撤退だ!」
飛行艇が進行方向を変え、飛び去ろうとする。
もちろん、見逃すはずがない。
「逃がすか! Maxキャノンだ!!」
「了解! Maxキャノン・チャージ……シュートぉお!!」
胸部の連結部から発射される図太く色鮮やかなビームが空高くにいる飛行艇を仕留めた。
こうして、フライヤーズはフライヤーという大きな存在と引き替えに街の平和を守ったのであった。

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