[天空勇者フライトナー]]
『思い出は今も胸の中に』
お母さんが、隣の家に家族が引っ越してきたって言ってた。
挨拶しに行くっていう。めんどくさい。でも、行った。
「いいえ、こちらこそ」
「――――」
「――――」
お母さんが新しいお隣さんとお話してる。
何を話してるのか、全然解らない。
ふと、お隣さんの家の門で何か動いた。誰かいる?
そばに寄っていった。女の子だ。
頭に着いたリボンからしっぽみたいに長い茶色の髪の毛が伸びてる。
たまに頭を出してたみたい。
こっちに気付いた。びっくりしたように隠れる。
また近寄った。また隠れた。また近寄った。また隠れた。
次に近寄ったら門の中。隠れるところなんかないよ。
また近寄った。頭を手で隠してしゃがみこんだ。
「どうして逃げるの?」
僕は気になったから聞いた。女の子は頭を上げてチラッとこっちを見た。
あ、プイッて。でも恥ずかしそうに言った。
「逃げてない……もん」
違う、この子は逃げてる。絶対に逃げてる。だから僕はもう一度言った。
「どうして逃げるの?」
「逃げてないもん」
「逃げてる」
「逃げてない」
「逃げてる」
「逃げてない!」
「逃げてる」
「逃げてない!」
「逃げてない」
「逃げてる!」
「うん」
「今のはズルい!」
「うん。僕はズルい」
「……ズルい」
女の子のほっぺたがちょっとだけ膨らむ。怒らせちゃったかな。
「カイト、挨拶なさい」
「アイー、こっちに来なさい」
あ、お母さんが呼んでる。多分、女の子のお母さんも。
だから、僕は手を出して言った。
「お母さんが呼んでるよ。ほら、一緒に行こう」
「うぅ……」
女の子がゆっくり手を出してくる。僕はその手を掴む。
「ふふっ、僕は大空カイト。隣の家に住んでるんだ」
「おおぞらカイト……」
「そう。大きな空のカイト」
「……アイはアイ」
「アイちゃん?」
「うん。アイはアイちゃん」
「そうか。よろしくね、アイちゃん」
「うん」
これが主人公、大空カイトとその幼馴染み、木谷美アイとの出会いである。