創発ブレサガ番外編005


創作発表版ブレイブサーガ

 どこをどう歩めばそこに辿り着けるのだろうか、世界の果てに魔窟があった。怪物たちが住まう暗がりだ。
 怪物たち。機械を積み上げた身はひとに仇なすために。
 怪物たち。機巧を組み上げた身はひとを害するために。
 怪物たち、怪物たち。
 ただの怪物ではない、ああ、彼らこそ“怪物機械”たちだ。

『栄えある種族、それは我ら怪物機械なり』

 英語圏において“モンスターマシーンフェノメナ”と呼ばれた、恐怖の噂の正体。真相を暴こうと飛び出した
フリージャーナリストからの連絡は途絶えて久しい。
 製造元は不明、いかな機構にて稼働するかも不明、どこからやって来たかさえ不明とされる。
 機械の姿を借りて地上に顕現する悪魔か、ポルターガイストなる器械たちの狂宴か、野望の狂博士造りし最も
奇怪なるものか、その正体は誰にも分からない。
 ただひとつ確かなことは、それは人類に牙剥く機械仕掛けだ。機械仕掛けの王だ。

『かの“電光の勇者”、果たして我らの討ち手となるか、救い手となるか。それは分からぬまま。怪物スーパー
コンピュータの超演算をもってしても』

 モンスターマシーン大幹部のひとつ、怪物クロックを名乗る紳士は呟いた。
 時計仕掛けの貌の中で、カチコチカチコチ、音がする。いつものように。今も、今も。

『どちらでも構わぬか。吾輩は想いを遂げるのみ……』

 電光の勇者、アイバンホーン。
 人類征伐の尖兵となった怪物ゲームハード率いる軍団、それを壊走させた巨大な人型の名だ。およそ不滅であ
るはずの怪物機械を破壊した銀光の魔手、その輝きは怪物クロックの心に灼きついて。未だ、未だ。
 怪物クロックには確信がある。
 あれは、怪物機械と同じだ。
 あれもまた、ひとの手を離れて動き出すという機械仕掛けの御伽噺。モンスターマシーンフェノメナのそっく
り逆位相にあるもの、“鋼の英雄格”といえるか。
 怪物と英雄。
 しかし、電光の勇者アイバンホーンが怪物機械を討ち果たす単なる敵対者なのか、怪物クロックはその判断を
保留している。怪物機械を破壊し、逆襲を妨害するものであることは確かだが、それだけなのか、どうか。

『ところで――』

 そこまでで思索を打ちきり、怪物クロックは不意に虚空の一点に時計盤を向けた。

『――何者であるか』

 誰何に答えて白々しく、そいつは声を。

「おっとこいつは驚いた」

 発する。
 いつからか、どこからともなく、いたのだ。そこに。
 ああ、怪異の現れる兆しとされる生温かい風のような、不穏な瘴気が湧いて。誘うように、試すように。
 お前は何だ。お前は誰だ。
 世界の果ての暗闇に、不気味な白塗りの貌が浮かび上がる。蒙古の大砂漠に棲息するという人食い芋虫を思わ
せる、べたつく色の唇が蠕動している。目もとの涙には嘘の輝き。
 それは“道化”だ。
 機械仕掛けの王に物申す。階級外れたおどけ者。
 奇抜な衣装で着飾って、時計仕掛けの紳士に対面する。~
「みんなで遊ぼうワンダラーンド! 超次元だよワンダラーンド! 愉快がいっぱいアミューズメントパーク、
そこはボクらの御伽の国さ、おいでよ超次元ワンダラーンド!」

 押しつけがましい宣伝文句を、声も高らかに謳い上げる。
 目にも煩い悪趣味なビラを、手品のように取り出して撒く。

「お初にお目に掛かります。モンスターマシーン大幹部、お噂はかねがね、怪物クロック。“ワガハイ”の名は
ダークラウン。卑しい道化にございます。此度は我らの遊園地、超次元ワンダランドへお誘いに」

 舞い踊る無数の紙切れの中、慇懃無礼に一礼した。
 凄絶な笑みにも、怪物クロックは気圧されはしなかった。

『ひとではない、機械でもない。吾輩への無礼は大目に見よう、闇の道化よ』
「それは僥倖、恐悦至極」
『しかし一方で、吾輩には分かる。お前達が機械仕掛けを冒瀆する者だと』

 機械仕掛けの王たちは、それを許さない。
 ひとを、ひとに唯々諾々と従う機械を。あるいはひとでなくともだ。異界の遊園地において稼動するメカの類
を我が物とするダークラウンも、その範疇。

『極めて、――不愉快である』

 奇しくも時刻は一時五十一分を指し、怪物クロック、憤怒の相。
 金属の軋みが、木の打ち鳴らされる音が、機関の唸りが。ダークラウンの周囲、蝟集していた機械仕掛けが威
嚇するように物音を立てる。
 怪物メリーゴーランドが回転し、怪物ジェットコースターが鎌首もたげ、怪物ゴーカートが敵意の咆哮を上げ
た。他にも、他にも。いずれも遊園地を飛び出した、アミューズメントマシーンの怪物機械たちだ。

「おっとこいつは大ピンチ! 機械仕掛けのバケモノどもが、いかれた道化を完全包囲? ピエロ一世一代の、
脱出劇にご注目! 見事成功の暁には、どうか皆様ご喝采あれ!」

 ホホホと嗤って道化が踊る。
 おちょくった言い草に殺気立つ怪物機械たちを更におちょくる。
 出自から因縁ありげな怪物ゴーカートが、コンパクトな車体で飛ぶように滑走、ふざけた侵入者を黙らせに掛
かる。轢殺せんとバンパーの上で牙を剥く。
 だが、手ごたえはない。

「おお恐ろしや、恐ろしや。退散、退散。またいずれ」

 そんな残響を最後に、ダークラウンが煙のように消えてしまったからだ。
 忽然と。
 あとに実体として残ったのは床を覆うチラシくらいのもので。

『ジェントル・クロック。今のは』
『この世界の果てにどうやって……』
『がしゃがしゃ?』
『異次元からの敵であるか』

 くちぐちに騒ぎ始める怪物機械を落ち着かせてから、怪物クロックは腕を組む。
 闇の道化が口にした“御伽の国”という一句が、妙に気になった。御伽噺とは、つまりひとの幻想であるはず
だ。畏怖されたものであれ、希望されたものであれ。

(怪物機械も、電光の勇者も、どちらも“生ける御伽噺”だという)

 製造元は不明、いかな機構にて稼働するかも不明、どこからやって来たかさえ不明。
 人類に牙剥く機械仕掛け。機械仕掛けの王。我が事であるにも関わらず、それ以上のことは、怪物機械自身も
知らないのだ。王たちの王“モンスターマシーンキング”でさえ、どうか。

(ならば我らはどこから来て、どこへ行くのであろうな)

 あるいは怪物機械もまた、ひとの幻想が生み出したものなのではないか。
 想いを遂げるためには、それを考えることが肝要なのかもしれないと。
 怪物クロックは思うのだった。


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