天空勇者フライトナー第8話


天空勇者フライトナー

「緊急発進!セカンディ!」


暑い日が続き灼熱となったフライヤーズ格納庫。
シャッターは開けられているため多少の風は入るが、暑さに大した違いはない。
真っ昼間なのだが、それでも元気な奴が一人。
「カイトー、お腹空いたー」
修理用スポットの横で椅子に座るアイが、スポット上の布が被せられた何かの中で作業中のカイトに訴えた。
しかし、返事はない。連日連夜この何かの作業に集中していたカイトは襲いくる睡魔に勝てず熟睡していたからだ。
「この暑さでよく眠れるよ……私には絶対に無理」
耳を澄ませば聞こえる微かな寝息にアイは感心しながらも呆れる。
「ほらほら〜、そんなところで寝てたら熱中症で倒れちゃうよー。バスターズもメンテナンス中でしょ」
アイが布の中に潜り込む。それと同時、カイトの通信機が呼出音を鳴らした。
カイトは起きない。仕方ないとアイが出る。
「はい、フライヤーズです」
「郊外区域パトロール中、港で微妙に見たことのない怪しい機体を発見した。対処たのむ」
「了解しましたー」
アイは通信機をポケットにしまうとカイトを揺すった。
「カイト起きてよー!」
もちろん起きない。汗だくになりながら熟睡している。
「出動要請だってば起きてー!」
一向に起きる気配がないカイト。そんなカイトと暑さに苛立つアイ。
アイはため息をつき、もうこれしかないと拳を構えた。
「……ん、ん?」
と、カイトがうっすらと目を開けた。しかし、遅かった。
「はぁっ!」
アイの必殺顔面ストレートパンチ!
華麗に決まったぁぁぁぁぁ!
「が……うきゅぅ……」
ドサッ――
カイト、うめき声をあげて倒れる。ハッとしてアイが揺するも、カイトは白目を剥いたまま動かない。
「あ、やばっ! どどどどどーしよー!!」
アイは目の前が真っ暗になった。しばらく、座り込み精一杯考えた。
そして出た結論が、
「よし、こうなったら私が出る!」
アイは気絶したカイトを残し、その場を去ることにした。

そしてフライヤーのコックピット。アイがマニュアルブックを見ながら慣れない手つきで各装置を起動させる。
「アイ、私はかまわないが……カイトに怒られるぞ」
「だ、大丈夫。カイトの許可はとってるから!」
フライヤーの忠告も、嘘でごまかす。ヘルメットを被り操縦桿を握った。
「フライヤー、ライナーズ! 出動!」
『了解!』
フライヤーの横を走り抜けていくライナーズ。そしてフライヤーは、
「すまないアイ。操縦桿を握られると動かしにくい」
超AIによる自動操縦でも操縦桿は連動して動くため。
「ご、ごめん!」
パッと手を離すアイ。
こうしてなんとか出動したフライヤーズ。大丈夫なのだろうか!?


郊外にある大きな港。
第3港区より広く、利用者、貨物も多い。しかし、今は一機のロボットにより占拠されている。
一般市民は避難済のようだ。
黒い大剣を腰に提げ、海を背に立つその機影はブラックナイトメアそのものだった。
だが青くペイントされたその機体は、バックパックがボンベのような形状をし、
モノアイ周辺を覆うようにゴーグルを、そしてシュノーケルを装着している。
両腕には丸い筒のような物がつけられ、中に鋭く尖った物が光る。
「ふん……弱点は見切ったぞフライヤーズ。このブルークラーケンならやれる」
いつにも増して自信満々なパイロット。もちろんだが、フォグ・ラインである。
しかし、一向に現れないフライヤーズ。フォグ・ラインはつまらなそうに欠伸をすると、呟いた。
「フライトナーをコピーすれば勝てたり、しないだろうか……」
しかしフォグ・ラインは首を横に振り、その考えを振り払った。
「ふん。それで勝っても仕方がないな」
自嘲的な笑みを浮かべ頭を上げる。
――ピピッ
敵機接近警告音とともにモニターにロックオンカーソル。
「来たか……よし、行くぞ!」
ブルークラーケンの大剣を引き抜き構える。太陽の光が反射して、白く輝く。
ライナーズが変形。ブルークラーケンの前に立ちはだかる。
「チェンジフォレッド!」
「チェンジサーディ!」
決めポーズ。フォレッドが前で腕を組み、サーディが背中を合わせ、ライフルを胸で構える。
「スカイライナーズ! 参上!」
「なんだお前らか」
フォグ・ラインの目的はあくまで打倒フライトナーである。
他がどうあれフライトナーを倒せればそれでいい。
「相変わらず俺たちは甘く見られてるな」
「もう慣れたよ。どうせライフルは効かないだろうけど、えいっ」
サーディがライフルの引き金を引いた。高速で発射されるビーム弾。
微動だにしない敵機の装甲に着弾する。瞬間に弾け散るビーム。
「ほらね……ライナーズミサイルっ」
胸の連結部分が開き小型のミサイルが数発、発射される。
しかし、軽く避けられ、虚しくも空中で爆発する。
「まったく情けない攻撃だな、スカイライナーズうぉ!?」
突然の激しい横揺れに不意打ちを喰らうフォグ・ライン。
装甲にダメージはないようだ。ミサイルを撃ち込まれたか。
視界の端に一機の戦闘ヘリが写る。フライヤーだ。
「フライヤーか……不覚」
「へっへーん! 奇襲成功! ってあれ、無傷?」
コックピットに響く聞き慣れない少女の声。フォグ・ラインは動揺する。
「女? どういうことだ」
今日のパイロットは気絶したカイトに代わりアイが担当しています。
「今日の隊長は私! 行くよ、フライヤー!」
「了解! チェンジ!」
毎度のごとく降下しながらガトリングガンを撃ち込む。もちろん、軽くあしらわれて終わりだろう。
全弾命中するもダメージを受けた感じはない。全くの無傷だ。
「たったこれだけ!?」
アイがフライヤーズガトリングのあまりの弱さに驚愕した。
そこでフライヤーが弁解。
「ガトリングガン、いや兵器自体旧世代の物なもんで、いささか破壊力不足なのは否めない。
 だが、実弾武器にはロマンがある! そう、旧人の追い求めた何かがあるはずだ! とカイトが言っていた」
その言葉に思わず愚痴をこぼすアイ。
「まったくカイトってば……ミサイルも効かなかったし、もっと強いのつけてよね」
ごもっとも。
「まあ、今は仕方ないね。合体するよ、フライヤー、ライナーズ!」
『了解!』
空中に飛び上がり変形。合体を果たす。
「天空合体! フライトナー!」
「特急合体! スカイライナー!」
逆噴射で砂ぼこりをたてながら着陸する。
「合体完了。さぁ観念しなさいフォグ・ラインってあれ……居なくなってる」
アイは辺りを見渡したがブルークラーケンは見当たらなかった。
「フライトナー! あれだ!」
突然、海を指差し声を上げるスカイライナー。その先には……シュノーケルの先が小さな波を立てながら動いていた。
人間サイズではない。間違いなくブルークラーケンのシュノーケルだ。
「あっはっはっはっ! どうだフライトナー。敵が水中では手も足も出まい!」
得意気な顔で笑うフォグ・ライン。
「これまでの戦いを分析した結果、お前たちに水中戦は出来ないと判断した!」
「何を! Maxキャノン、シュート!!」
スカイライナーが水中の敵機にビームを放つ。しかし、海面にぶち当たり水中を進む間にビームは減推。
ブルークラーケンには全く届かなかった。
「ちくしょう、なんてこった!」
その場で経たり込むスカイライナー。
「残念だな、フライヤーズ」
フォグ・ラインはニヤリと笑いフライトナーをロックオン。
カーソルの色が緑から赤に変わる。ロックオン完了の合図だ。
「ブルークラーケンの新装備見せてやる……超捕鯨砲"ホエールランス"!」
右腕から爆音と共に巨大なワイヤー付の銛が発射される。
海水を物ともせず、海面を突き破り、凄まじい勢いでフライトナーのコックピット目掛けて一直線に飛来する。
「ミサイルか!? 早い!」
フライトナーは間一髪、胸部コックピットすれすれでホエールランスを避ける。
「し、死ぬかと思ったぁぁ……」
急なGに振り回されたアイが死にそうな顔で呟いた。と思ったのも束の間。
もう一本のホエールランスがすぐそこに迫る。
最初に飛来したランスに気をとられ気付かなかったのか。
「危ないフライトナー!」
スカイライナーがフライトナーを庇うように飛び込んだ。

瞬間、辺り一帯に聞き慣れた声が響いた。
「シャトルバスター! 撃ち落とせ!」
「了解、チェンジ! バーンシュート!!」
カンッカラン――スカイライナーの足元にホエールランスが転がる。
スカイライナーが振り返ると、そこに居たのは。
遥か上空を飛行するシャトルバスター、ナローバスター。
「まったく世話かけさせやがって」
「ナロー、今回は俺のセリフだ」
そして地上を爆走するE2系はやて型の新幹線車両。
「アイ、フライヤー、ライナーズ無事だな!」
そう、このE2系型を操縦する人物の正体。我らが隊長、大空カイトだ。
皆が無事であることを確認すると、ニヤリ。
「この新型ライナー"セカンディ"が完成したからには海に居ようとお前の負けだ、フォグ・ライン!」
高らかに宣言するカイト。だがフォグ・ラインは嘲笑うかのようにいい放つ。
「何を言うかと思えば、どうやって勝つつもりだ」
カイトは再びニヤリと笑い、マスコンを最大まで動かした。
「こうするのさ。スカイライナー、跳べ!」
「了解!」
カイトの指示に疑うことなく飛び上がるスカイライナー。
それを追いかけるように底面ブースターで空に浮くセカンディ。
「見てろフォグ・ライン! 新生ライナーの力を! 超特急合体!」

スカイライナーの頭部が格納されフォーシィが分離。車両モードになり前後に分割される。
さらに後部は左右に分割。
そしてセカンディの後部が左右に開き、折り畳まれた翼が展開。
前部左右側面に分割されたフォーシィの後部が合体。コアとなり腕、下半身が合体する。
スカイライナー背部にフォーシィの前部が機首を上にバックパックとして合体。
下部から高出力ブースターが展開する。
最後、コアとなったセカンディから頭部がせりだし緑色の目が光る。

「超特急合体! スカイライナーEx(エックス)!」
フォレッドもといスカイライナーExが叫び地面に降り立つ。
背中に生えた巨大な翼が機体が大幅にパワーアップしたことを物語る。
「すげぇ……コックピットがある感覚は初めてだぜ」
そう、セカンディがコアになったことで人による操縦が可能となったのだ。
しかしフォグ・ラインは再び嘲笑う。
「何をするかと思えば、合体したとて海には潜れまい!」
「甘いぜフォグ・ライン。海に潜らなくともこいつなら……スーパーMaxキャノン起動!」
カイトがコックピットパネルについたボタンを押す。
背中のフォーシィが分離、セカンディから展開されたマウントに接続。右肩に乗った状態となる。
そして連結部分が開き砲身が現れる。
「全四機のエネルギーを開放する。行くぞスカイライナー!」
海中、ブルークラーケンにロックオン。
「Maxキャノン、フルチャージ」
砲口に集中するスカイライナーExの全エネルギー。通常のMaxキャノン以上に輝く。
直感的に危険を感じたフォグ・ライン。スカイライナーExにホエールランスを放つ。
「フライヤー、エアバスター! 援護だ!」
『了解!』
エアバスターがバーンシューターを構え、フライトナーが揚力刀の柄に手をかける。
「バーンシュート!」
二筋の黄色い光が巨大な銛を撃ち落とし、
「揚力刀……居合い斬り!」
黒く光る刃がワイヤーを切断する。
ホエールランスが落とされに、ワイヤーも切断されたフォグ・ライン、為す術なし。
「凄ーい」
アイが驚嘆の声を上げる。そして……
「Maxキャノン……シュートぉぉぉぉぉ!!」
スカイライナーExの全エネルギーを海中へと撃ち放つ。
海面を突き破り、海中に潜るも勢いは劣らない。
「くそぅフライヤーズめ……覚えておれ!」
攻撃が当たるより先に脱出ポッドを起動させるフォグ・ライン。半ば諦めモードである。
脱出ポッドが射出されると同時、図太い光線が機体を貫いた。
「やったぜ、カイト」
そう言うスカイライナーExに親指を立てるカイト。
こうして街の平和は守られたのであった。

「ってことで、アイ。あとで説教部屋行きだ」
「えぇー!?」
「当たり前だ。結構痛かったからな」
「だってカイトが起きないから」
「言い訳無用! フライヤーズ帰還する!」
「酷いよ酷いよ! カイトのバカぁぁぁ!!」
こうして帰還後アイはこっぴどく叱らたのであった。

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