鉄拳3 / Tekken3


  • ナムコ/namco
  • 業務用ビデオゲーム
  • 1996.8-1997.3
  • 楽曲制作

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  • ギターと遅めのBPMという当時の二大タブーを冒したにも関わらず、極めて格好良い楽曲を作り上げたケミカルブラザーズ。これを聴き衝撃を受けた事から始まる。
    • 緩く腰に来るグルーヴと熱いギターフレーズが人と人の格闘そのものであるとすれば、それらのサンプリングはビデオゲーム化に当たるのでは?と考えた。この考えはこのジャンル採用の最終的な決め手になっている。
  • ただし、ケミカルブラザーズや、ファットボーイスリム等で一部見られるコミカルさやハッピーさは徹底的に削ぎ落とし、極めてクールに、かつダークに行こうと決めた。
  • 今でこそ、ゲームはもとよりハリウッド映画に多用されるようにまでなったこのジャンルだが、当時少なくともゲーム業界ではほとんど知られていなかった。
  • そのせいもあってか「メロディーが無い」「どの曲も同じに聞こえる」「テクノの方が良い」など、内外で極めて風当たりは強かった。バグレポートに「バーチャファイターの様な曲が良いと思う」という記述を見つけた時は、冗談抜きでめまいを覚えた。が、当時のディレクター阿部氏が一番最初に作ったポールの曲を大変評価し、喜んでくれたため、精神的になんとか助かっていた。
    • とはいえ、プロジェクト内で最終的に楽曲に対しはっきりと喜んでくれたのは彼と、セレクト曲を格好良いと誉めてくれたプログラマーの播磨氏のみだった。予想以上に反応が鈍く結構堪えた。
  • ケミカルブラザーズが全てのサンプルネタを一度ギターアンプで鳴らしマイクで拾ったという話を聞き、ギターに造詣が深すぎるサウンドスタッフのひげ中村氏が非常に大事にしていたギターアンプを先輩風を吹かせて略奪した。
    • あの時の中村氏の異常なほどの心配顔は今思い出しても微笑ましい。加えて申し訳ない事にイメージする音にならずこれを通した音は使わなかった。
    • また、カセットテープにクリップぎみにサンプルネタを突っ込みリサンプルするテープコンプも試したが、結果的にこれらも使用しなかった。
    • 通常の楽曲製作であればこれらの方法も有効なのだろうが、業務用ゲームにおいては容量の問題からレートを落とす必要がある事と、筐体の劣悪なスピーカーからでも上手く聴こえさせる様に豪快にコンプで潰すので、この辺のある意味高級な音色作りはあまり意味が無かった。
  • プロップサイクル / Prop Cycleで実現した、楽曲の展開をゲームの展開に依存させるシステムをここでも使用した。
    • ラウンド1はリズム無し、ラウンド2以降の偶数ラウンドはリズム有りのAパターン、ラウンド3以降の奇数ステージはリズム有りのBパターン、という設定。プロップサイクルの際よりも仕組み的には楽だったが、楽曲数が多いため、パターンのブリッジを考えるのが大変だった。
      • 通常の楽曲のブリッジと違い、1/2小節単位の任意の場所においても楽曲的におかしくない、また、1小節で完全に完了するものを作る必要があった。かつ、各曲につき3パターンづつ必要。
  • 楽曲からも分かるが、ラウンドが変わってから最初の1/2小節単位のタイミングでドラムにフィルが入る。ただし、単なるフィルインではつまらないので、それと同時に鳴っている別の楽音をフィルのフレーズでチョップするというような、ドラムシーケンスからドラム以外のトラックをコントロールするような仕掛けにした。これは音量だけでなく、ピッチやパニングも含まれる。イメージ的にはDJ的リミックス、ミキサーのフェーダー操作やミュートで行うギミックやアナログ盤のスクラッチ等に非常に近い。ちなみに前述のドラムフィルと同タイミングに、それ以外の楽音を新たなシーケンス/フレーズで鳴らしてしまうと、曲が展開したのではなく、別の曲がスタートしたに印象を与えてしまう場合がある。よってそれまで鳴っていたものが続いている上での変化にとどめる必要があるため、このような仕掛けにした。
  • これは細江氏がサイバースレッドで編み出した、全トラックをテンポに合わせて瞬間的にミュートする方法の発展系である。サイバースレッド開発当時、この細江氏のギミックを本人から未来研(横浜未来研究所)のスタジオで聴かせてもらった時には本当に衝撃的だった。そしてその際のしてやったりという満足げな顔を見た時は正味な話、大変悔しかった。当時悔しがるほどのスキルは持ち合わせていなかったのにも関わらず、である。
  • このような恐ろしい縛りの中一緒に曲を書いてくれた岡部氏には本当に感謝している。彼は質の高い楽曲を文句一つ言わず提供してくれたが、開発も佳境を迎えた頃、彼の体そのものからは大いに文句が出ており、いまだに大変申し訳なく思っている。
  • 岡部氏で思い出されるのは、ベースのフレーズサンプルを同ピッチで微小時間ずらして発音させフェイザーをシミュレートしたギミック。これは大変効果的であったので、自分がそれを生み出せなかった事が非常に悔しかった。
  • この仕掛けを実際にゲームに乗せてみると、曲調と絡んで演出上非常に効果的だと感じたのだが、これもジャンル同様、一般の人にあまり伝わらなかった。今でも非常に残念である。
  • 前述の「ポール」曲に加えて、特に印象深い曲を挙げると、「吉光」「オーガ」「アトラクト〜演舞」
    • 「吉光」
      • ギターは、当時一番気に入っていたKorg Trinityのプリセット音を使用し打ち込み、サンプリングしたもの。
      • 他のゲーム曲でありがちな、楽音やフレージングであからさまな雰囲気作りを避け、他の曲とジャンル的にずれる事無く、かつ、全体としてどこか日本的な感じを出したいと思っていた。結果として成功したと思っている。
      • Bパターン部のコード進行が特に気に入っている。このパッドは当時公私共に大活躍していたE-mu Vintage Keysのプリセット音。M12stringsだったと思う。
    • 「オーガ」
      • 特にAパートが気に入っている。楽曲自体もさることながら、前述の曲のテンポに合わせて細かく全ミュートするギミックの楽曲へのハマリ具合、リバーブ等のエフェクトが存在しないのにも関わらず、背景からイメージを膨らませてウェットに仕上げられた音場など、テクニック的にも満足いく作品。
    • 「アトラクト〜演舞」
      • プロジェクト中一番最後に書いた曲
      • 既に完成していた演舞のカット割りや要所要所のモーションのタイミングを担当者に協力してもらいフレーム数を出してもらいリスト化、これに楽曲を徹底的に合わせていった。
      • 単純にカット割りに曲のタイミングを合わせるのではなく、流れの中で印象的なフックをキーにした。カット内のキャラのモーションやカメラのモーションに合わせた部分も多い。吉光が空中で回転して登場、着地でポーズ、というシーンでは、回転とパッドのトレモロを合わせSE的な効果も狙った。
      • 楽曲を合わせるといっても、テンポ的にどうしても譲れないところもある。これらはエクセルを使用し、映像的なタイミングと楽曲的なタイミングを数値で照らし合わせ、どちらも満足させるポイントを追い込んでいった。つまり、完成したものを観ると、楽曲と映像がピッタリ合っている印象を与えるが、実は微小にずれている。
      • 映像に合わせるために、普段自分がしない符割や小節割を行ったが、これらが楽曲単体で聴いても大変効果的だったと思う。ちなみにこの曲は、スタッフの曲を誉めたりする事が無かった当時の上司である川田氏から珍しく評価されたのだが、この変拍子風な構成が、氏のプログレ系フュージョン精神をくすぐったのだろうか?まあ、理由はどうあれ、大変嬉しかった。

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