プロップサイクル / Prop Cycle


  • ナムコ/namco
  • 業務用ビデオゲーム
  • 1996.6
  • 楽曲製作

  • 楽曲がゲームの流れに合わせ任意に展開していく仕掛けを実現した。
  • ヘルプで1曲、という話だったが、担当した箇所が同じ雰囲気で続く面ではなく、3つの違った雰囲気を持つエリアで構成されたものだった。それぞれのエリアにプレイヤーが滞留する時間が決定しているのであれば、それに基づいた展開をする曲にすれば良いだけだが、それらの時間はプレイヤーのスキルに完全に依存しているのでそうもいかない。かといってこれら3エリアのどのイメージにも合う曲というのも、それぞれの雰囲気が大きく違うので不可能、という背景が発案のきっかけである。
  • 3エリアで3つの曲ではなく、一つの曲で成り立たせたいと思った。それぞれのエリア用の曲をクロスフェードでつなげるなどという芸の無い事はしたくなかった。あくまでも一つの曲が、プレイヤーのいるエリアの雰囲気に合った展開をしていく、というのが美しいのではと思い作り始めた。
  • 当時のサウンド周りの環境は、内蔵音源でしかもシーケンスデータ内部にプログラム的な仕掛けを実装できた。それまでも、簡単な計算式でメロディを作ったり、(リッジレーサー1"Rare Hero"のループ最終部の変わった上昇メロディはこれによるもの)、ランダムアルペジエーターを実装したりしていた。条件分岐によるフレキシブルな楽曲展開は初めてだったが、理屈では実現可能であった。
  • しかし、各エリア用のパート3つ分に加え、エリアを跨ぐパターン4つの計7パターンを作る必要がある。しかもそれらは楽曲的に美しく繋いでいかなくてはならず、かつ「エリアが変わったら曲も展開した」と言う事がプレイヤーに伝わらなければならない。これらを満足させるのには非常に手間がかかったが、大変楽しい作業だった。流れている曲を任意の場所で展開させる事ができるのは、想像よりもはるかに楽しいものだと感じた。
    • ちなみにこの時のノウハウが業務用鉄拳3でのラウンドが変わる度に楽曲が展開する仕組み作りにつながっていく。仕組みとしては鉄3のほうがはるかに簡単だったが。
  • 楽音は効果音担当の石井氏の凄まじい職人技を駆使して作られており、実際には容量的な制限からレートが限定されているにも関わらず抜けが素晴らしく良く、曲調的にも大変効果的だった。
  • 「仕掛けは面白いんだけど曲は大した事が無い」というのは絶対に避けようと思ってはじめたが、楽曲自体も非常に素晴らしく仕上がった。これは、ゲーム開発当初から「ナムコらしい夢のあるゲーム」だと感じ大変気に入っていた、その感情が最高の形で楽曲に昇華されていったのだと思う。特に洞窟を抜ける直前から(普段ほとんど使う事のないリタルダンドになっている)、美しい夜の村にパーーンと抜ける時が一番好きだ。映像と音楽の相乗効果で何度やっても涙腺が緩む。
  • 余談だが、ゲームスタート後洞窟に入ってすぐに、それまで鳴っていたリズムが逆相で鳴るようになっている。洞窟に入ったことで今までいたエリアが自分の後方に過ぎ去っていくという表現である。まず普通の人は気がつかないだろうが、自分だけが分かれば良い、逆にそれが嬉しいとこっそり入れておいたのだが、担当ディレクターに一発で指摘されたのには驚いた。と同時に嬉しかった。