標なき終わりへの未来論


「標なき終わりへの未来論ーーパノプティコンからのながめ」抜粋
2011年3月15日『朝日ジャーナル』より

世界はもっともっと暴力的にむきだされていくだろう。中国共産党はいずれ姿を消すであろう。中国のバブルはちかい将来かならずはじけ、騒乱がおきるだろう。北朝鮮の現政権は倒されるだろう。イスラエルは生きのこるだろう。モサドが活躍するだろう。日本は軍備を増強し、原子力潜水艦をもつかもしれない。海兵隊またはそれと同質の機動部隊をつくるだろう。戦術核を保有するかもしれない。天皇制は、だいじょうぶ、まったく安泰だろう。憲法九条は改定されるだろう。キミガヨはいつまでもうたわれるだろう。貧しい者はほりひどく貧しく、富めるものはよりいっそうゆたかになるだろう。すさまじい大地震がくるだろう。それをビジネスチャンスとねらっている者らはすでにいる。富める者はたくさん生きのこり、貧しい者たちはたくさん死ぬであろう。階級矛盾はどんどん拡大するのに、階級闘争は爆発的力を持たないだろう。性愛はますます衰頽するだろう。テクノロジーはまだまだ発展し、言語と思想はどんどん幼稚になっていくであろう。非常に大きな原発事故があるだろう。労働組合はけんめいに労働者をうらぎりつづけるだろう。多くの新聞社、テレビ局が倒産するだろう。生き残ったテレビ局はそれでもバカ番組をつくりつづけるだろう。ファシストだかスターリニストだかエコロジストだか市民主義者だかモサドの回し者だかわからない、あやしげな男が人気をはくするであろう。サイバー・アナキストがふえるだろう。サイバー・スパイ(公安)もふえにふえるだろう。サイバー・ラッディズムが生まれるだろう。第二、第三、第四のジュリアン・アサンジが登場するだろう。秋葉原事件によく似た無差別殺傷現象が続発するだろう。死刑制度はなくなるだろう。むごい私刑があるだろう。国家権力と秘密機関がうらでからむ不可思議な謀殺、暗殺、みせかけの「自殺」が続発するであろう。マスメディアはひきつづき権力の意のまま、いや、いまよりいそうたくみに偽装された権力の構成要素でありつづけるだろう。そして、死刑制度復活の声がたかまるであろう。戦時下でも、たとえ核爆発があっても、ワールドカップ・サッカーとオリンピックはつづけられ、大いにもりあがるだろう。大手広告代理店が戦争関連CMをつくるだろう。日本人宇宙飛行士のコメントと日本の新聞の社説は、ひきつづき死ぬほど退屈でありつづけるに違いない。あの老人Aの死は、だれの記憶にものこっていないだろう。そしてちかい将来、貧者のおおくは、直腸熱が四十五度にもなって、陸続と死ぬのだ。すべてはthe probableかthe inevitableである。