第８節～第１３節

第二回　第８節～第１３節 †

第二回です。ページの方はＷａｋｉ君の第一回のをそのまま流用。第１４節からは「意識」というタームが見られたので、区切りました。ちょっと短いし問題の提示も少ないですが、よろしくお願いします。んで、続きの第三回の担当者を募集しますので、どなたかよろしくお願いします。
なお、四苦八苦しておりましたウムラウトなどの打ち込みの件は、実に簡単に解決することが判明しました。「コンパネ」→「キーボード」から「言語を追加」し、タスクトレイで選択するだけでＯＫ。ただし、フランス語は「文字のキーボード配列が異様に異なっている」ようなので注意が必要です。

第８節、第９節　モナドの性質と不可識別者同一の原理principe de l’identité des indiscernables †

モナドは必ずなんらかの性質を持つ。と言うことは、モナドは一種類ではなく無数の種類があることになる。しかしその直後「でないとモナドは、存在ですらない」と続く。これは、「存在することは事物の持つ性質の一つである」というデカルト的発想からきているのだろう。現在はあまり支持されていないと思う。それはともかく、「もし性質がないとしたら、モナドを互いに区別することができない」と述べられているように、モナドは複数種類存在し、それぞれのモナドは性質の相違によって他のモナドから区別される。（第８節）
『世界の名著』の言葉では「不可弁別者同一の原理」について述べられている。現在は、「不可識別者同一の原理」と呼ぶのが一般的である。どのモナドもほかのモナドと性質の点で異なっているのだか、そのようなモナドの同一性の基準がこの原理によって与えられることになる。以下『岩波哲学・思想事典』より引用。

ライプニッツによる＜個体の同一性に関する原理＞。いくつかの表現がある。「自然の内には数においてのみ異なる二つの個体は存在しない」〔第一真理〕、「識別できない二つの個体はない」〔クラーク宛第４書簡〕（そのほか、『形而上学序説』９節、『人間知性新論』第２巻２７章３節、『モナドロジー』９節など）。ライプニッツにとって個体とは、過去から未来に到るまでそれについて生じることのすべてがその個体の概念に含まれているものである。したがって、一見外的であるような規定、例えば空間的な位置関係も、その個体がいかなるものかを決定する際に不可欠となる。それは、「規定を受ける事物そのものの内に基礎を全くもたない純粋に外的な規定は存在しない」〔第一真理〕からである。そこで、かりに２つの個体があるとして、それに帰属される述語がそれぞれまったく等しくお互いに識別できないとしたら、それは「同一の事物を２つの名のもとに立てる」〔クラーク宛第４書簡〕ことで、結局は同一であることになる。
この原理は、ライプニッツにとって最も重要な原理の一つの充足理由律を補完する。なぜなら、複数の個体に無差別なあり方を認めるとすると、それぞれをしかるべく決定するための理由が見出せなくなるからである。したがってこれは原子論を批判する根拠の一つになる。さらにニュートンの絶対空間・絶対時間説に対しても、それが無差別の実在者の存在を認めるものだとして反対する論拠になっている。この原理の背景には、宇宙では無数の実体が互いに関連しあいながらそれぞれ独自性をもって存在しているのだというライプニッツの世界観がある。なお「ライプニッツの原理」とも言われる「同一者不可識別の原理」は、ライプニッツ自身のものではない。〔佐々木能章〕『岩波哲学・思想事典』（岩波書店、1998）p. 1366

「不可識別者同一の原理」aとbがもつすべての性質が区別できないならば、a=bである
「ライプニッツの原理（同一者不可識別の原理）」a=bならば、aがもつすべての性質をbがもつし逆も言える（aとbがもつすべての性質は区別できない）

「不可識別者同一の原理」は、同一性の規準を与える原理で、「ライプニッツの原理」は、同一性から不可識別性を導く原理です。この二つの原理に関する問題が何かあったような気がしますが、忘れてしまいました。（余談。資料が手元になかったのでインターネットで検索したらＷ師匠のページがヒットしましたのでお知らせいたします。）
さて、不可識別者同一の原理を認めるか否かで議論ができるかと思いますので、一言。一枚の白紙について考えてみよう。（前提として、時間・空間はモナドの内的規定に含まれるとする。）不可識別者同一の原理を認めるとするならば、第一に、同じ場所にあり「異なる時間」にある白紙は同一といえるだろうか。つまり今この瞬間にこの場所にある白紙と、「一秒後の」この場所にある白紙は、時間という性質の違いから同一とは言えなくなる。これは奇妙ではないか。第二に、異なる場所にある以外は全く性質を同じくする二枚の白紙Ａ・Ｂがあるとして、不可識別者同一の原理を認めるならば、私たちはそれらの二枚の白紙を異なるものとみなさなければならない。厳密にはその通りだが、このような区別はトリヴィアルな区別であって、このような区別に積極的な意味付けができるとは思えない。例えば、これらの二枚の白紙の位置が左右反対Ｂ・Ａだったとして、認識論的に、二枚の白紙がＡ・Ｂの状態とＢ・Ａの状態を区別できないだろうし、また区別することに意味があるか疑問である。（第９節）

第１０節～第１３節　モナドと変化 †

第７節において、「モナドに窓がない」と述べられ、モナドは外的な作用によって変化しないと述べられているのだが、以下の節では、「モナドの変化」があると述べられている。どういうことだろうか。
創造された存在、モナドは変化を免れないと述べられている。『世界の名著』の注１１によれば、「この個体の変化は、神の側からの動きに対応している」と書かれているが、創造するものが神であるとすると、たしかにそう言える。（第１０節）
「このようなところから、モナドの自然的変化は「内的な原理」からきていることになる」。「内的な原理」とは「神の作用」のことであろう。そして、「外部の原因がモナドの内部に作用を及ぼすことができない」ということは、第７節で述べられている通りである。（第１１節）
- したがって、モナドは、１．私たちが変化させることはできないが、２．神は変化させることができるもの、となる。
「「変化するもののなか」にも「具体的な内容」が、必ずある」とあるが、この「具体的な内容」とは、モナドの性質のことである。モナドが性質を持っていないとするならば、いかに神であっても変化を被るべきものを持たないものを変化させることはできない、よってモナドは変化させられないことになる。ここから、モナドが性質を持つことが確認される。そして、モナドは外的な作用によって分割される部分はもたないが、様々な性質を持っていることになる。（第１２節、第１３節）
- 以上、第９節～第１３節においては、モナドの性質と変化の関係、つまり「モナドが神により変化させられることと、モナドが多種多様である、すなわちモナドが様々な性質をもつということの間の関係」が述べられているのではないでしょうか。第７節との関係では、変化を外的なものと内的なものに分け、モナドが変化するのは内的な影響によるものとしているのですから、矛盾もないようです。
- 最もプリミティヴなものとして神の存在があるので不毛な問題かもしれないですが、性質と変化、どちらがモナドにとってよりプリミティヴなものだとライプニッツは考えているのでしょうか。議論の流れから行くと、「性質をもっているから変化する」となりますが、「変化するから性質をもっている」という説明でも筋は通っているようです。第１２節の表現から考えると、差があると考えているようには見受けられないのですが…。

テキストについて †

仏語テキストの単語は、「o」を「a」、「y」を「i」に変えるとだいたい辞書で調べることができますね。綴り以外で気になったのは第８節の以下の三箇所です。
- seroient – seraient、etreの条件法現在三人称複数と思われる。もしそうなら、ce ne seroient pasは正しくはces ne seroient pasとなるのではないでしょうか。ceだけでも複数の単語って受けれたっけ、確認をお願いします。独語テキストではsie sonst … wärenとなっています。ceとsieが「複数のモナド」を受けるの間違いないと思います。
- ingrediensとtousjours は、それぞれingredient、toujoursと思われます。
独語テキストは、余計なものが増えていることが多々あり、あまりよい独訳ではない。例えば、第９節２行目にoder würklichen(wirklichen) Dingeとあるが、仏語テキストにはこれに対応する部分はない。意味的には正しいけど、気になります。

掲示板 †

私見＆質問 †

＊? (2004-03-22 (月) 11:02:45)

＞さて、不可識別者同一の原理を認めるか否かで議論ができるかと思いますので、一言。
で始まる文章についていくつか私見をば。
　時間について言えば、ｔ1における白紙Ａは1秒後のｔ2における白紙Ａをも含む形で存在している（第22節、『形而上学叙説』13章参照）。逆も同様である。故に、両者は性質において同一である。
　場所について言えば、我々が白紙ＡとＢを区別できるということそのものに「不可識別者同一の原理」が働いている。それは「トリヴィアルな区別」ではあるが、それがトリヴィアルな区別であると分かるためにもこの原理が必要とされる。
　ところで、「異なる場所にある以外は全く性質を同じくする二枚の白紙Ａ・Ｂ」というものは僕は現実には存在し得ないと思います。なぜなら、「異なる場所にある」ことには理由があり、各々が各々の場所に存在することにはそれぞれ理由があり、その理由にはこれまた理由があり、その理由にもまたまた理由があり……と、無限に異なる理由によって両者は異なる場所に存在しているので、両者は無限に異なる述語において異なるので、無限に異なる性質の違いがあると言えるからです。

　質問です。
＞「このようなところから、モナドの自然的変化は「内的な原理」からきていることになる」。「内的な原理」とは「神の作用」のことであろう。
　ということは、ライプニッツはスピノザのごとく、外在神ではなく内在神を信じているということですか？　でも、スピノザの神に激しく反発したライプニッツとしてはそれはおかしくないのでしょうか？　キリスト教の教義にも反することになりますし、ライプニッツはしばしば神を機械製作職人や王や建築家や上官や父親に喩えていますし。

あまりまとまっていませんが返答です。
＞ところで、「異なる場所にある以外は全く性質を同じくする二枚の白紙Ａ・Ｂ」というものは僕は現実には存在し得ないと思います。…
この原理の説明のための想定として提出した例ではありますが、このような見解は正当だと思います。このような厳密な立場を取れば、不可識別者同一の原理の作用する範囲は非常に狭まる、ほとんどないと考えておられるように思われます。まあ、同一性の基準は様々ありますので。ところで個人的には、不可識別者同一の原理が同一性の基準を確定する原理としては不完全であると考えています。それは、「性質」というファクターを用いているからで、性質という概念がわれわれには明らかではないからです。そして、私は無限後退するものそれ自体に対して積極的な意味を付加することに対しても疑問があります。この場合だと、存在の意味が無限に後退しているわけですが、それは結局「確定した存在の意味」に到達するとこがないということです。ライプニッツの個体概念についても言えることですが、この場合モナドの性質は確定しない、したがって記述不可能なものとなります。解釈上はこのようになる（Prof.上野及び石黒説）のですが、ライプニッツはそれでも完全なモナドを前提としていたと思われます。無限後退するものは排除される、あるいはその交代を止めようとする試みにその意味があるのではないでしょうか。（補足ながら、以前はこのような方向性だった入不二先生は、無限後退（循環）を含んだ状態を容認する方向へと進まれているような気がします。）

＞ということは、ライプニッツはスピノザのごとく、外在神ではなく内在神を信じているということですか？…
もちろん、内在神を信じているわけではないでしょう。モナドに性質の変化を与える「内的原理」＝「神の作用」から、内在神の存在を語ろうとしているわけではないと思います。では、「内的原理」とは具体的にはどのようなものか。「水」を例にしましょう。「水」を内的原理により変化させるとは、「H2OをH4Oに変える」ということを意味している。反対に、外的原理によって変化させるとは、「水（液体）を、水蒸気に、あるいは氷に変える」ということを意味している。私たちは、後者はできるが前者はできない（と思うのですが…、科学的に可能なのでしょうか？）。前者ができるのは、神であろう。後者の変化は単なる状態変化でしかないですが、前者の変化は水とは別のものへの変化です。水をモナドに置きかえた場合、モナドは外的な変化、つまり私たちが与えることが可能な変化を受けないわけですから、モナドが受ける変化は前者ということになります。このようにモナドに変化を与える神が、そのモナドの中に内在していなければならない理由はないと思われます。内的原理＝神の作用とは、私たちには不可能な部分、つまりモナドの内的なものを変化させるという意味で、そういわれているに過ぎないのではないでしょうか。

＞モナドはいかなる部分ももたないのに、なぜ「様々な性質を持っている」のでしょうか？
性質はモナドの部分ではないからです。部分というからには全体との関係が思い起こされますが、性質に部分－全体関係を持ち込むことができるのでしょうか。例えば「ミックス・ジュース」があるとして、パイナップル・オレンジ・グレープフルーツの果汁がミックスされているとします。概念としてこの三つの果汁が入っていることは分かりますが、それぞれの果汁の味がこのジュースのどの部分を占めているか明示することはできないのではないでしょうか。このように、モナドは様々な性質がミックスされて創造されたものの全体であるといえると思うのですが。このミックスされた性質は私たちには部分に分けることが不可能で、モナドの部分であるとは言えない。これが言えるのは、その性質を自由に操作できる神のみ、ということになると思われます。文照? 2004-03-26 (金) 16:53:30

補足 †

Waki? (2004-03-14 (日) 20:16:35)

ce
①(a) c'est [ce sont]･･･　それは･･･である.―C'est un étudiant. あれは学生です. Qu'est-ce que c'est?―Ce sont des livres [《話》 C'est des livres]. ｢これは何ですか｣｢それは(数冊の)本です｣.（『クラウン仏和辞典』より）
　それから、翻訳ではどうしても解釈が入ってしまうので、こちらで気をつけるしかないでしょう。

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