人物紹介 / 王戎

王戎 †

魏〜晋の学者・政治家。
幼い頃から曹叡にもその名を知られるほどの神童であったとされ、
当時から仲の良かった阮籍と数々の議論に興じ、後世には竹林の七賢のひとりに数えられた。
胆力にも優れ、小柄な体格でありながら常に堂々と振る舞い、礼儀に固執することがなかったという。
また清談高論ばかりの人物というわけでもなく、呉征伐に従軍して戦功を挙げ、呉の民衆には恩寵を施して人心を掴むなど、武将・統治者としても非常に有能であった。

竹林の七賢・王戎と言えば、有名なのは当代屈指の守銭奴としての逸話の数々であり、
・庭の李を売って小銭を稼いでいたが、後で発芽しないよう種に穴をあけていた
・甥の婚儀のために上等な着物を用意したが、後で代金を請求した
・娘の嫁入りの際に大金を用立てた後しばらく不機嫌だったが、娘に銭を返されると途端に笑顔になった
などといった話が『世説新語』に記されている。
しかしこれらは、その名声で政治的な危険や面倒事に巻き込まれることを何より嫌った王戎の処世術であったとも言われ、
父が死没した時に莫大な香典が集まったが一切受け取らなかったという逸話の方が本性ではないか、という指摘がある。

実際に本物のドケチであったかどうかはともかく、政争を嫌っていたのは本当らしく、
晋による中華統一後は、数々の要職を歴任しながらも大きな事績をあまり残さず、時には賈充の一族と結びつくなど立ち回りに徹することで72歳の天寿を全うしている。
これを「出過ぎた行為を控えることで一族の命脈を守った賢人」ととるか、「類稀な名望と才覚を持ちながら晋王朝の混乱を止めようとしなかった惰弱」ととるかは評価が分かれるところだろう。