New_WAN_Services


【取材執筆メモ2008】

OEM0805構想メモ

【解説】

2010年以降の次世代コンピュータ利用モデルは、広域アプリケーションが主体となる。これは、パッケージ・ソフト・ベースやLANベース・クライアント・サーバ・ソフトの時代が終わることを意味する。アプリケーション間通信はWAN(広域網サービス)をベースとする。そうした次世代環境において通信サービスはどうあるべきか。それを模索しているのがNew WAN Servicesと呼ばれるうごきだ。

【アプリケーション利用環境の変遷】

アプリケーションの利用環境は、メインフレーム時代(マルチ・テナント、アプリ共有、集中処理)から始まり、1980年代のパソコン本格普及によりLANベースのClient-Server時代(プライベート・アプリ/パッケージソフト、分散処理、データ共有)へと移り、2000年代にはWANベースのClient-Server時代(SaaSモデル、マルチ・テナント、ウェブ・アプリ、集中処理)に達した。2010年以降はWANベースのPaaS/Cloud Computing時代(プライベート・アプリ、ウェブ・アプリ、集中処理)へと向かう。

アプリケーション処理アプリ間通信C/S関係備 考
マルチ・テナント、アプリ共有集中処理LAN高密設計メインフレーム(60年代〜)ラック・サーバまで
シングル・テナント、アプリ占有分散処理LAN高密設計パソコンの普及(80年代〜90年代)
マルチ・テナント、アプリ共有集中処理WAN粗結合設計データ・センターへのIT資源集中によるアプリの広域化、SaaSモデル
シングル・テナント、アプリ占有集中処理WAN粗結合設計仮想化技術、PaaSモデル、クラウド・コンピューティング・モデル

【New WAN Servicesのポイント】

次世代環境では、アプリケーションや利用対象に応じて、コンピューティング・パワーの拡充・縮小をリアルタイムで行うようになる。それに対応して広域ネットワークもサービスのリアルタイム化、知性化をめざさなければならない。

  • サービスのリアルタイム化:
    • Bandwidth On-Demand(帯域オンディマンド)事例:Reliance Globalcom社のYipes Bandwidth OnDemand
    • データライン、幹線網の短期間開通、
    • QoS On-Demand(QOSオンディマンド)→flexible SLA、QoS Automation
  • ハイパフォーマンス化:ネットワークを流れる情報の種別を認識し、通信環境を最適化する。
    • Application Delively
      • WAN Acceleration→RiverBed社 Akamai社はinternet+Layer4-7accelerationサービスを展開
      • adapteive network→Application Recognition、inteligence on WAN Switch Router
    • Network Security→DOS攻撃(個人認証は端末に任せる)
  • 異種混合ネットワーク: Heterogeneous Network Management
    • ApplicationとVoice & Videoの識別、混合・最適化
    • 事例:AT&Tのビデオ会議・コラボレーション・サービス
  • 通信インタフェース、ネットワーク・データの解放:
    • 通話管理から課金までのバックオフィース機能をクラウド化、ウィジェットなどで簡単に様々なアプリケーション/デバイスに音声・ビデオ通信機能を提供
    • ネットワーク・モニタリング(トラブル・レポート)、パフォーマンス・モニタリング
  • 課金・集金機能、保守・メンテ、顧客相談
    • 電話ビジネスで養った課金・集金ビジネス、保守・メンテ・ビジネス、顧客相談ビジネスなどをネットビジネス・プロバイダーに提供できるか? 逆に、彼らは必要とするか?

【OEMの記事】

〜騒がれ始めたNew WAN Servicesとは〜
クラウド・コンピューティング時代の通信サービスを模索する

 ここ数年、米企業情報システムにおける利用環境は、大きく進化している。データ・センターではバーチャライゼーション(仮想化)による技術革新が進み、ハードウェアにおける拡張性・柔軟性が高まっている。その一方で、SaaSに象徴されるようにアプリケーションの広域利用も加速している。こうした2010年以降の企業情報システム・モデルが見え始めた現在、通信業界では広域アプリケーションに適したサービスを模索する“New WAN Services(新広域網サービス)”という言葉が聞かれるようになってきた。今回は、変化する通信サービスと企業情報システムの関係を追ってみよう。

変わるコンピュータ利用環境''

 最近の米国の企業情報システムでよく耳にするトピックスといえば、.▲廛螢院璽轡腑鵝Ε妊螢丱蝓次↓▲┘鵐拭璽廛薀ぅ此Ε優奪肇錙璽・マネージメント、次世代データセンター、ぅ▲Ε肇宗璽轡鵐亜↓ゥ札ュリティー、Ε罐縫侫.ぅ鼻Ε灰潺絅縫院璽轡腑鵝↓Дープンソース・アプリケーション、┘┘鵐拭璽廛薀ぅ2.0、などがある。

 こうしたトピックをデータ・センターから見ると、コンピューターの利用環境におけるふたつの大きな流れが見える。ひとつは仮想化(Virtualization)技術を軸とした次世代データ・センターの動きだ。仮想化技術はサーバーやストレージから、現在はネットワーク関連(仮想ルータ、仮想ファイヤー・ウォールなど)まで拡大し、ハードウェアの構成は自由度と拡張性が格段に高まった。こうした流れを受け、米国のホスティング業界では、マネージド・ホスティングからオンディマンド・サービスへの流れが始まっている。

 一方、ソフトウェア分野に目を向けると、広域アプリケーションの利用が急速に拡大している。過去数年にわたって、大手企業はコスト削減から各事業所においていたサーバーをデータ・センターにまとめる“IT資源集中化”を進めてきた。それに伴い、各事業所から遠隔にあるデータ・センターを利用することとなり、広域アプリケーションが普及した。また、中小企業では、salesforce.com社を筆頭にSaaS(Software-as-a-Service)ブームによるアプリケーションの広域化が広がっている。

 こうして、ホスティング、アプリケーション、システム・インテグレーターとそれぞれに発展してきた各業界が、次世代コンピューティング・モデルでは、統合へと向かっている。この動きを促進するのがクラウド・コンピューティングといわれている。

 動き出すクラウド・ビジネス

 グーグル社のエリック・シュミットCEOが2006年に提唱したクラウド・コンピューティングは、次世代コンピュータ・モデルとして注目されている。これは──サーバーやストレージ、ネットワーク、アプリケーションなどは雲の向こうに隠れ、ユーザはそうしたことに煩わされず、サービスだけがやってくる──というイメージだ。この雲はインターネットや専用線などのWAN(広域網サービス)を指している。

 クラウド・コンピューティングは、2010年以降のコンピューティング・モデル、つまり広域アプリケーションと仮想化技術がより一体化した次世代環境をうまく表現している。

 また、アマゾン・ウェブ・サービス社が中小企業や個人向けに提供しているEC2(Elastic Compute Cloud)はクラウド・コンピューティングのパイオニアといわれている。2006年からベータ・サービスを開始している同サービスは.好院璽薀咼螢謄ー(新サーバーを数分で追加拡張できる)、▲螢淵奪ス・マシンにルート・レベルアクセスできる、M用した時間だけ料金を払う(1時間あたり10セント/EC2 Unit)などの特徴を持つ。また、EC2をサポートする開発環境ツールやデータベースなども徐々に増えている。使っただけ料金を支払えば良いこともあり、EC2はウェブ・アプリケーションの負荷テストや個人のちょっとしたアプリケーション、十分なITインフラを持たない中小零細企業などで利用が進むと予想されている。

 また、4月にグーグルが発表したGoogle App Engineも基本的にはAmazon EC2と同じクラウド・コンピューティングといえる。しかし、グーグルの場合は、G-Mailなど様々なGoogle Appsとの統合で個人から大手企業まで、より広範なサービス提供を狙っている。

 一方、大手向けマネージド・ホスティング・サービスでは、クラウド・コンピューティングを巡ってIBMとHP(Hewlett-Packard)が競争を開始している。まず、IBMは2007年11月、ブルー・クラウド(Blue Cloud)構想を発表した。これは同社のブレード・サーバにXen、PowerVMを活用して高度なバーチャライゼーションを行うもので、現在のオンディマンド・サービスのスケーラビリティーを更に拡張し、広域アプリケーションの最適化も狙っている。これに対抗してHP社は2008年3月、DCaaS(data center as a service)構想を発表している。HPはシステム・インテグレータ大手のEDS(Electronic Data Systems)社を買収し、ホスティング・ユーザーの拡大を進めるとともに、DCaaSによる競争力強化を進めている。

 このようにIT関連大手は2010年以降、アプリケーションの広域利用が一般化すると見ており、アプリケーションの開発から統合や運用までをすべて遠隔にあるデータ・センター上で行う環境作りを急いでいる。SAPやOracleなどのアプリケーションを購入し、独自に組み立てるのではなく、財務や生産管理、流通など情報処理をサービスとして購入し、自社のプラットフォーム(PaaS、Platform-as-a-Service)で統合するスタイルが広がると見られている。

 こうした次世代コンピュータ利用環境のインパクトは、アプリケーション業界だけにとどまらない。LANからWANへとアプリケーション間通信が移ることにより、通信事業者の役割はより重要になってゆく。そうした次世代環境に適応しようとする動きが“New WAN Services”と言えるだろう。

通信もオンディマンド時代

 New WAN Servicesについては、大手通信会社のオレンジ(注1)や大手通信器機のシスコ・システムズなどが提唱しているが、まだ明確な定義がない。とはいえ、コンピュータ利用環境の次世代化にともない、より高い信頼性と知性をもった広域網サービスが必要だという点では一致している。

 様々な提案を見ると、New WAN Servicesは大きく次のような分野に分かれている。

  • WANサービスのリアルタイム化
  • WANサービスの高機能化
  • 異種混合ネットワーク管理
  • 通信インタフェース解放

 最初のリアルタイム化は、帯域オンディマンド(Bandwidth On-Demand)に代表されるサービスだ。たとえば、大手イーサネット・プロバイダーのリライアンス社(Reliance Globalcom、注2)が提供している。同サービス(Yipes Bandwidth On-Demand)は、ユーザーがリアルタイムで必要な回線容量を変更できる。ちなみに、同社のKeao Caindec氏(Chief Marketing Officer)は利用状況について“毎週、特定の日にデータ・リカバリー処理などのため大容量で利用する顧客が多い。また、イベントなどで急に回線を増やす場合もあるが、頻繁に回線設定を変更するユーザーはほとんどいない”と述べている。

 今後、クラウド・コンピューティングによるコンピューティング・パワーの変更にともなって、ある程度自動的に帯域を変化させるサービスなども出てくるだろう。

 もう一つのサービスとして想定されているのがQoSオンディマンド(QoS On-Demand)サービスだ。米国では、MPLSを使ったQoSサービスが徐々に広がっている。たとえば、AT&Tビジネスでは、MPLSサービスに5段階優先度設定ができるサービスを提供している。ビデオ会議や取引情報処理など、重要度の高いパケットと電子メールのような重要度の低いパケットを細かく設定し、最適のQoSを提供しようとしている。ただ、現状ではQoSの運用は難しく(注3)、通信事業者による設定自動化などの付加価値サービスが望まれている。

 2つ目の“WANサービスの高機能化”では、流れる情報の種別を認識し、通信環境の最適化が必要となる。広域アプリケーションの普及にともない、このアプリケーション・デリバリー(WAN Optimization)分野は、リバーベッド(Riverbed Technology)社、ジュニパー社(Juniper Networks)、ブルー・コート社(Blue Coat Systems)、エキスパンド社(Expand Networks)など、多くの企業が競争を繰り広げている。

 ただ、これらの企業はネットワークの両端に設置するディバイス・ベースでWANそのものに違いはない。一方、CDN(Contents Delivery Network)の最大手アカマイ(Akamai Technologies)は、自社ネットワーク内で最適化(L4〜L7アクセレレーション)サービスを提供しだしている。

 一方、次世代コンピュータ利用環境では、セキュリティーも変わってくるだろう。端末認証やユーザー認証といった末端レベルのセキュリティーではなく、DoS攻撃といったネットワーク・セキュリティーがNew WAN Servicesでは重要になる。DoS攻撃では、様々なネットワークに散らばったサーバから大量のアクセスが集中するが、そうした状況を把握できるのは広域網事業者しかいない。この分野は「通信の秘守」義務に関係するため、具体的なサービスとして提供しにくいが、次世代ではこうした機能は非常に重要になる。

ネット大手と電話屋の溝を埋める

 3番目の異種混合ネットワーク管理は、企業網における通信とデータの融合を指す。

 たとえば、通信最大手のAT&Tは“AT&T Connect”というサービスの卸売り販売を今年から始めている。これはビデオ会議を含めたコラボレーション・サービスで、ユーザー企業はいつでもビデオ会議とアプリケーション共有ができる。従来は、SIPサーバーなどを設置して、社内で音声(VoIP)/ビデオとデータ・アプリケーションを統合していたが、AT&T Connectでは利用ソフトは限定されるが、WANサービスのひとつとして提供している。

 4番目の通信インターフェース解放は、NGN(次世代ネットワーク)に絡んだ動きとなる。グーグルやヤフー、マイクロソフトなどネット大手は通信サービスをウェブ・アプリケーションとして簡単に提供したいと考えている。しかし、彼らの開発環境はASPやC言語、Java、PHP、Peal、Rubyなどに依存しており、通信事業者が取り扱うSIPやParlay Xといった環境とは大きくかけ離れている。

 この両者のギャップは大きいが、次世代が広域アプリケーション主導となる以上、大手ネット企業のサービスに通信サービスをウィジェットなどのウェブ・アプリケーション・インターフェースとして提供することは避けられない。

 また、このコラムでも紹介したリビット(Ribbit)社やグーグルが買収したグランドセントラル(GrandCentral)社のほか、オープン・ソース系ではアヒーバ(Aheeva)など、このギャップを埋める通信ベンチャーが、米国では少しずつ現れている。

 彼らは、大手ネット事業者に使いやすいVoiceXMLやCCSML、SCXMLといったアプリ間通信サービスとして通信を提供する一方、通信事業者にはゲートウェービジネスとしてネットワークへのつなぎ込みを可能にしている。

 NGNでは、通信事業者がSDP(Service Delivery Platform)の開発で頭を悩ませているが、こうした通信ベンチャーの機能をSDPにおける一種の高機能サービスとして提供することも考えられる。

◇◇◇

 クラウド・コンピューティングに代表される次世代コンピューティング・モデルで、企業や個人はコンピューティング・パワーの柔軟性やコストダウン、シンプルな操作性を享受することになるだろう。Google Docsが多彩な機能を個人に無料で提供しているように、次世代ではアプリケーションの廉価化・無料化が急速に進むだろう。そうした時代になれば、BB回線を契約すれば、アプリケーションは無料でついてくる時代になるかもしれない。


注1:オレンジ(Orange SA)は、フランス・テレコム社の子会社で、携帯およびブロードバンド・サービスを欧州を中心に世界各地で提供している。
注2:もともとニューヨークなどで営業していたYipes(ヤイプス)Enterprise Services社が帯域オンディマンドを提供していた。インドの大手通信会社リライアンスが、2008年2月ヤイプス社を買収している。
注3:実際のQoS設定は複雑で、トラフィック状況に応じて最適化することは難しい。MPLSを導入してもQoS機能を使いこなせない、あるいは使わない企業ユーザーは多い。

[作成日:2008年6月11日]