プロローグ 二〇〇三年一月二十二日 学園島南部 オターキングラード戦域
「よぉおはよう。今日も冷えるな」
「いつものことだろ。いいニュースは?」
「空軍の輸送機がプレゼントをくれたぞ。肉入りのシチューだ」
「こいつはいい。ツイてるな」
泥に汚れた稲葉学園校防軍の兵士二人は、塹壕の中で、シチューを掬ったスプーンを口へと運ぶ。
「クリスマスには本校に帰れると思ってたんだがな・・・期待しただけ馬鹿だったか」
「言うなよ。ビスケット食うか?」
「ああ」
稲葉学園が東の白石学園に戦いを挑んで、もう二年になる。
一週間かそこらで終わると予想されていた戦いは長期化し、そして泥沼化していた。
「敵さんも今は冬休みなのかなぁ・・・」
「馬鹿。奴らは冬が一番元気なんだぜ?一昨年の冬を思い出せよ」
「俺は本校で補習やってましたよ。ハァ、擲弾兵なんかに志願するんじゃなかった」
年若い一等兵の愚痴に、無精髭を浮かべた伍長は苦笑を浮かべる。
「現実を受け止めてたのしくやろうぜ。それが一番だ」
「愚痴らなきゃやってられないよ」
「ん?こいつは・・・!」
伍長は乾いた音に気付いた。
嫌というほど聞き慣れた、ロケットの斉射音だ。
「オルガンが来たぞ!伏せろ!」
伍長は急いで一等兵を押し倒す。
間を置かず、陣地の周囲を爆発の波が襲った。
「畜生!畜生!」
「絶対に頭を上げるなよ!」
「死んでも上げるもんか!」
十五分ほどで砲撃は終わり、二人は塹壕から頭を上げた。
濃い煙の向こうからは、数え切れないほどの戦車のエンジン音と歩兵の唸り声が聞こえてくる。
「エラいことになったぞ・・・」
「どうする?」
「逃げるに決まってるだろ!走れ!」