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4 二〇〇三年一月二十二日 学園島南部 オターキングラード戦域上空

 「あれが!?」

 高速で小さな陰の編隊とすれ違い、ユウキは制動をかけて急旋回した。
 先ほどよりも小さい出力で腹部の魔道砲を、編隊に向けて放つ。

 <<警告!レーザー攻撃だ!>>
 <<ブレイク!ブレイク!フレア!>>

 駄目か、とユウキは苦々しく吐き捨てた。
 彼女の魔道砲は威力こそ高いが、誘導されないのが欠点だった。
 戦車や爆撃機は楽に仕留められるが、ただでさえ小さい的―――WGには命中させることが難しい。
 
 「避けた!?ええい、ハイテクか!エネルギーも!?」

 ユウキは時折、ローブが点滅することに気付いていた。
 ガス欠―――体内のマナが限界に達し、マナを消費することで具現化するローブが維持できなくなる―――が近いからだ。

 敵の編隊は方向を変え、銃撃を加えながらユウキへ肉薄する。
 ユウキはそれを結界で弾き返しながら、距離を詰めた。

 <<散開!訓練通りでいい>>

 ユウキの驚いた声が聞こえたのか聞こえなかったのか、稲葉のWGの口調は冷静だった。
 敵は場数を踏んでいるらしい。
 まだ実戦経験の少ない稲葉のWGも、中には手練がいるようだ。

 <<グラウフォーゲル1より各員、向こうは一人だ。訓練通りにやれば勝てるぞ>>
 「フフ・・・言ってくれるじゃない」

 ユウキは気合を入れ直し、最大速度で編隊へ突っ込んだ。
 銃が作動不良を起こしたのか、一人のSGが編隊から孤立している。

 <<しまった!>>
 「もう遅いわよ!」
 
 ユウキは両拳を合わせ、ハンマーよろしく振り下ろした。
 腹部魔道砲以外のユウキの武器は、自分の体―――つまり、殴るか蹴るかしかない。
 ローブの着用によって著しく身体能力が向上している所為か、突撃砲の側面装甲を破るぐらいはできる。

 「何!?」

 だがその鉄槌は、空しく空を切った。
 指揮官のWGがユウキのターゲットの背中を掴み、離脱する。

 <<す、すみません隊長!>>
 <<気にするな。2、3、4、5、火力を集中しろ>>
 <<了解!>>

 ユウキから距離を取った稲葉のWGたちは、一斉にライフルやフリーガーファウストで集中砲火を浴びせた。

 「いつもの稲葉じゃない!」

 ユウキは悪態をつく。
 稲葉と言えば、いつだって一人の怪物じみた奴が戦局をひっくり返してきた。
 だが裏を返せば、稲葉には単独行動を重要視する兵士が多く、数的優位に立とうとする敵は少ない。

 「ロケット弾が!?」

 ユウキは急機動を繰り返して、背後から迫ってくるロケット弾を振り切ろうとする。
 だがロケットは何らかの形で誘導され、ユウキを追い続けた。

 「ええい!女の尻を追いかけて!」

 ユウキはエネルギーを搾り、腹部魔道砲でロケットを迎撃する。
 "線"で狙い撃つのではなく、"面"で薙ぎ払う。
 
 <<試作機風情が、量産機に勝てるはずがない!>>
 「なんだと!?」

 ロケット弾が爆発に包まれた後、稲葉のWG―――恐らく指揮官の声が無線に入り込んでくる。
 確か濃紺の髪で、対戦車ライフルを持った奴だ。

 <<お前らは所詮、完成されていないプロトタイプに過ぎん。だが、我々はデータと経験を糧に生み出されたマスプロダクション!量産機に勝る試作機など存在しない!>>
 「言うじゃない。確かにその通りだけど!」

 全くその通りだとユウキは考えている。
 兵器としてのWG―――魔法少女は不完全なことこの上ない。
 だが稲葉の連中が着ている"量産型"とやらは、全員に平均した能力を与えることができるのだ。
 単一の兵器としての視点から見れば、ごく限られた個人単位の能力よりも、多数の平均的なバランスの方が量産品として圧倒的に優秀だ。
 
 「でもね、戦場に百%など存在しない!」

 ユウキは叫ぶ。
 フェイスガードが顔の下半分を覆い、より戦闘に適した姿へと変わる。

 「一%でも勝利できる可能性があれば十分!」