7 2003年11月4日 ザトミフ包囲陣内 白石陣地

 「畜生!畜生!畜生!空から来んなよ!」
 
 白石軍は遥か南の同盟校から無償で譲り受けたC‐47から魔法少女を空挺降下させ、やっとの思いでパックフロントを突破した稲葉軍に反撃を加えた。

 「ほらほら逃げなさい!ゴキブリどもがぁ!」
 「へへっ、トップアタックなら弦罎睇燭盍愀犬覆ぁ」

 魔法少女たちはパラシュートを付けたまま各々のやり方で地上を逃げ回る戦車、歩兵に攻撃魔法を放っていく。
 戦車は砲塔上面やエンジンカバーの部分を優先的に狙われ、束になった火炎瓶の雨が歩兵の上に撒き散らされた。
 地上からの反撃も小口径の銃弾は弾き返され、逆に対空機関砲が撃破される。

 「地上に降りた奴は一人ずつ囲んで袋叩きにしろ!降下中の奴は肉切り包丁で始末だ!フライパンでもなんでもいいから持って来い!」

 間耶は携帯電話に吼えた。
 命令は各中隊長から小隊長、そして分隊長へと伝送され、実行される。
 
 「囲め囲め!早くしろ!」

 パラシュートを開いて防御結界を張ったまま着地した魔法少女を二個分隊が取り囲み、360度の全方向から銃撃を浴びせる。 
 最初のうちは弾いていた結界も銃撃を浴びるにつれて消耗し、対戦車ライフルの一撃で崩壊した。

 「嘘・・・ちょっと待ってよ!」

 魔法に頼り過ぎて窮地に陥った魔法少女は顔面蒼白になり、ぶんぶんと手を振った。
 大粒の脂汗を流す魔法少女に構わず、稲葉兵たちは容赦の無い反撃を開始する。
 
 「情け無用だ!風穴空けてやれ!」
 「ヒャーハッハァ!ざまあねぇなぁ!」
 「全く、戦争は容赦ねぇなぁ!」

 ありったけの銃弾の魔法少女に叩き込んだ後、兵士たちは次の獲物を求めて駆け出した。
 彼らはかつて白石本校前で、その後の退却戦で魔法少女に恐怖していた若者ではない。
 地獄を経験し、互いに協力し合うことで勝利を掴むことを知る兵士たちだ。

 「クールだぜ、よぉ」

 その様子を横目で見ながら、間耶は言葉を漏らした。
 別に珍しいことじゃない。人が死ぬのが戦争だ。
 どんな綺麗事を並べて始めたところで、誰かが消えるのは変わらない。
 報道部の糞野朗共はこの島には回帰圏があって、人はいつか生き返るから殺したことにはなりませんなどと伝えている。
 全くおめでたい奴らだな、と間耶は失笑してしまう。
 本当にそう思うのならば、実際に戦場に来て戦ってみるといい。

 「ったく、卒業までに戦争終わるのかよ。ん?」

 間耶はハーフトラックの脇で見慣れないロケット砲を準備している空軍野戦師団の兵士に気付いた。 

 「オイ、そいつは何だ?新品の掃除機か?」
 「地対空ミサイルです。HMIの新品ですよ!」
 「そいつはいいな。立花優香が死んだのと同じぐらいいい!」

 兵士は「同感です」と頷いた後、フリーガ―ファウストの用意を進めた。
 イラストが書かれたマニュアルに従って手順を踏み、発射準備を整える。
 スコープを出し、兵士は降下しながら火の玉を撒き散らす魔法少女に狙いをつける。

 「あ、ガス出るんで危ないですよ」
 「お、おう。先に言ってくれよな」
 「んじゃ行きますよ。そぉーら!」
 
 発射筒を塞いでいた蓋が吹き飛び、凄まじい煙を残してミサイルが空に打ち上げられた。
 白煙を残してミサイルは熱を頼りに魔法少女へと向かい、すぐ近くで近接信管を作動させる。
 爆発が起き、主を無くしたパラシュートが風に流されていく。

 「すげぇ。一発だぜ…」
 「配備数増やしてもらえるように署名御願いします」
 
 空軍兵士は自慢げに笑った。
 降下中で身動きが取れないとは言え、魔法少女を一発で撃破できるのなら十分誇れる性能だ。
 稲葉は確かに学園島の制空権を握っていたが、エアカバーの至らない戦線では空からの攻撃に悩まされていた。
 そのため現在、稲葉の地上部隊は対空火器の配備に目の色を変えている節があった。
 損傷した弦羸鐚屬亘づ磴魍阿気譴涜亢戦車となり、擲弾兵部隊に送られるはずのハーフトラックにまで対空機関砲が装備された。
 これらの対空兵器類は白石が航空戦力を瓦解させるに従って、対地目標に使われ地獄を生み出していくことになる。

 「ああ。百票でも二百票でも入れてやるよ。ん?また電話だ」

 間耶は震える携帯を開いて渋い顔になった。 
 
 「ああ?」

 着信画面に表示されていたのはファルケシャンツェ―――稲葉空軍のAWACSのコードネームだ。

 「せめてイーグル・アイとかにしろよな。ネーミングセンスがねぇぞ」
 「マヤ、私語は慎め」
 
 堅物の管制官が気の利いた冗談を言ってくれたので、間耶は嬉しくなる。

 「てめぇもわかってるぜ」
 「私もあのゲームは大好きだ。いいニュースがある。JG5のグスタフとSG18のスツーカがそちらに向かっている」
 「嬉しい知らせだぜ。俺たちは帰っていいか?」
 「カノンフォーゲル1ならそうしてもらっても構わないがな。SG18の多くはルーキーなんだ。過大に期待はできない」
 「お互い人手不足は深刻だな。じゃあ切るぜ」
 
 通話が終わった後、間耶は戦車中隊長に電話をかけた。

 「もしもし?こちらレーゲンボーゲン1」
 「俺だ。間耶だよ。今戦車はどれぐらい残ってる?」
 「パンター2台、弦罎5台。突撃砲は3台です」
 「厳しいな。ちょっと待ってくれ」

 間耶は額に手の甲を当てた。
 今の戦力で何ができて、何ができないのかを整理する。
 その時、視界の端に飛翔する黒点が見えた。
 銀と黒の魔道服に身を包んだ、彼女の相棒だ。

 「よし、行こうぜ」

 間耶はそう伝えた。
 相棒と一緒ならば、何だってできるのだから。