3 2003年11月2日 ザトミフ近郊 第12戦車師団戦車修理工場

 三人での話し合いが終わった後、舞虎は野島から少し時間をもらいたいと引き止められた。
 赤錆の浮いた車体が壁を作り、クレーンにはティーガー気遼づ磴主を無くして所在無げに吊るされていた。 
 ザトミフは元々、学園島開拓時代に渡良瀬川周辺の開発事業のために作られた町だった。
 そのため町には工場施設がそのまま残されており、今は稲葉軍が間借りさせてもらっていた。
 とは言え、働いているのは圧倒的に稲葉兵の割合が多かった。
 作業服を着た東側の工員の姿も見えるが、そう数は多くない。
 学園島における戦争で、大人はあくまで脇役なのだ。

 「君の働きは聞いているよ。随分、活躍しているようじゃないか」
 「いえ…」

 褒め言葉をもらった舞虎は、語尾を濁し、目を伏せた。
 そんな彼女の様子に、野島は声をかける。
 
 「敵だけではなく味方からもいい目で見られないのは、辛いだろう」
 「今は良くなりました。報道部の力はすごいものです」

 舞虎が何であるか、知らない者は少ない。
 彼女は魔法少女だ。常人ならざる力を使い、戦車の火力と航空機の機動力を兼ね備える生きた兵器。
 半世紀前西方公国と東方共和国連邦が戦った後、東では魔法を使う少女たちが生まれるようになった。
 数こそ少なかったが、彼女たちを共和国の人間たちは非常に恐れた。
 無理も無い話だ。おとぎ話に出てくる魔法使いが、ある日突然出てきたら誰だって驚くだろう。
 そして共和国は表向きは魔女だけの名門校という形で白石学園を作り、そこに隔離することで一応の安心を得た。
 魔法少女が登場したのは東だけではなかった。
 学園島戦争において稲葉が魔法少女の猛威を見せ付けられるにつれ、稲葉もまた独自の魔法少女を欲した。
 そんな中にあって、舞虎は特に理想的な存在だった。
 母子家庭に育ち、家計を支えていた母が病死、病弱の弟と共に行く当ても無いところを稲葉が手を差し伸べたのだ。
 ―――君の能力を使って、弟さんを助けたくは無いかい?
 係官はそう言って笑った。舞虎に選ぶ余裕などなかった。
 報道部は挙って彼女の活躍を伝えた。
 弟のため、戦い続ける魔法少女。
 舞虎の報道は多くの生徒の同情と支持を集め、魔法少女=恐怖という認識を改めさせるに至る。 
 
 「こんなことを聞くのは、失礼かもしれんがね」
 「なんでありましょうか?」
 「君は自分の同胞を撃つことができるか?」

 同胞―――自分と同じ魔法少女のことだ。
 
 「撃ちます」

 舞虎は澱み無い口調で答えた。
 
 「抵抗が無いわけではありません。しかし撃たなければ、私が撃たれるだけです」
 
 強い調子で言い、続ける。

 「私には待っていてくれる人がいます。その人を、もう悲しませるわけにはいかない」
 「そうか…そうだな」

 野島は小さく頷き、あるところで止まった。
 焼け焦げたFw190の残骸だ。骨組がむき出しになり、機体のあちこちに無残な弾痕がいくつも刻まれていた。

 「こんなものばかりよく作るものです」
 「彼らも仕事なのだ。仕方あるまい」
 
 機体にHMIと書かれたマーキングを見つけ、舞虎は嫌悪感を覚えた。
 HMI―――HANABISHI・MILITARY・INDUSTRIES。
 西方公国国営兵器工廠であり、本土の国防産業を一手に引き受けている巨大企業だ。
 西方公国は稲葉生徒会総統水無月京子の生家である水無月家を筆頭とした軍産複合体、十五家によって管理・運営されている。
 稲葉学園にも十五家に人間は在籍している。HMIの次期党首華菱有紀、伴侶である桜坂龍之介、その他にも何人か籍を置いていた。

 「いずれ私も彼らの稼ぎの足しになるんでしょうな…」
 「本土では魔女探しが本格化しているそうじゃないか。よくはわからんがね」

 あと10年もすれば、HMIの製品カタログには魔法少女用の武器や装備が所狭しと並べられ、アフターケアまで完備していることだろう。
 その製品の部品となるのは、舞虎や稲葉、白石の魔法少女たちが血を流して得たデータだ。
 大体、この戦争に勝っても負けてもHMIや十五家は残る。今や彼らは「国」そのものであり、権力と言う名の根を地の底まで伸ばしているのだから。

 「…くそ」

 思いつめた様子で飛行機を見つめる舞虎に、野島は優しく声をかけた。

 「しかし君は我々の仲間じゃないか。かけがえの無い、ね」
 「ええ…」
 「働きに期待しているよ、大尉」 

 仲間たちのため。
 そう思わないと、舞虎は壊れてしまいそうだった。