なお、このページの内容は、元々なかやさんとの「効率的な分割コロガシの分割数は?」と言う議題に付いて、電子メールでやり取りした往復書簡が元になっています。当初では指数分布を用いた近似式での議論を行っていました。
分割コロガシとは、古くは&amazon;の付録、新しくは&amazon;で紹介されていた「馬券投資法」です。
「馬券投資法」とは一体何でしょうか?
実は競馬と言うのは予想だけで勝つ事は至極難しいゲームです。投資競馬と言うジャンルが創設されてから、「馬券の買い方」がとても重要な物である、と認知されてきました。つまり、せっかくの上手な予想でも「馬券の買い方」がヘタだったら負ける可能性は充分あり得るのです。
この観点から、最近の競馬では「資金マネージメント」と言うジャンルもそれなりに定着して来た感じはします。
結論から言うと、投資競馬の主張しているように「資金マネージメント」だけでは競馬で勝つ事は出来ません。同様に「競馬予想」だけでも競馬で勝つ事は出来ないのです。大事なのは如何にこの二つを組み合わせるのか?これが上手く行かないと回収率100%超えは難しいでしょう。
分割コロガシとは、馬券プロが自己資金を溶かさないように、徐々に投資額を上げていって、大きな利益率を叩き出す為に自然発生的に生まれてきた投資法だと言えるでしょう。
ここでは、数学的に効果的な「分割コロガシの方法」に付いて、思いついた事を記述して行きたいと思います。
確率的な議論としては、馬券の的中率は次の条件を満たすもの、とします。
馬券の的中率は独立事象である
独立事象とは、例えば、前のレースの馬券を当たった/ハズしたとして、その結果が現在買おうとしている馬券の的中率に影響しない、と言った意味です。
ところで、&amazon;でも「馬券の的中率は独立事象である」と言い切って書いてありますが、実はこの認識は正しくありません。正確には「独立事象と仮定する」なのです。*1
本当の事を言えば、確率事象が「独立である/ない」を見分けるのは大変難しいです。仮想的な数学的な議論はいくらでも出来ますが、問題は現実の観察している事象に関して、これをどちらか、と判定するのは実は容易な事ではありません。*2
そんな中で、「独立であると仮定する」のが好まれる理由は、次の一言によるのです。
数学的な扱いが簡単だから(笑)
いや、これがマジなトコなんです(笑)。*3
実は、仮定を「独立ではない」とした途端に、数学的な議論は激ムズになっちゃうんです。「独立事象でない確率」を通称「確率過程」(Stochastic Process)と呼ぶんですが、この数学議論はチョー激ムズで、確率・統計ジャンルでも、純数学やっている人間以外にはムチャクチャ評判悪いです(笑)。
ホント、誰かこれを易しく解説してくれ(笑)!←ヘタレ
まあ、そんなワケで、ここではオーソドックスに
馬券の的中率は独立事象である
としましょう。
なお数学的には、事象A、Bがあって、
と表現できる場合*4の、事象A、Bを独立事象と呼びます。
馬券を買う時大事なのは「当たる可能性」だけではなくって、「ハズれる可能性」も常に考慮していなければなりません。
一般に馬券の不的中率qは的中率pを用いて次のように表現されます。
例えば、的中率30%の馬券術があったとして*5、その不的中率qは次のように計算されます。
まあ、これは簡単ですよね。
では、的中率30%の馬券術があったとして、2連敗する確率はいくらか?
この計算に必要なのが、前項で仮定した「独立事象」で、2連敗する確率は次のように簡単に求める事が出来ます。
同様に、的中率30%の馬券術で6連敗する確率は、
そして、的中率30%の馬券術で1日中ハズれまくる(12連敗)確率は、
このように、一般的にx連敗する確率は次のように記述されるのです。
前項で定義した「連敗率」を、もう少し数学的に「確率分布」として定義しなおしましょう。
統計学では、「x回連敗したあと、x+1回目に初めて馬券が当たる確率」を表現した確率分布を幾何分布*6として定式化しています。
数式はx=0、1、2、3・・・・・・、p>0、q>0、p+q=1として、次のようになっています。
例えば、的中率30%の馬券術の幾何分布のグラフは次のようになっています。
上のグラフがx=0〜16の範囲(つまり連敗数が0から16連敗まで)の的中率30%の幾何分布です。
棒グラフで表されている確率(x=0〜∞)を全て足し合わせれば1になるのが確率分布の特徴です。*7
ちなみに、グラフを見てもらえば分かりますが、どんな的中率の馬券術でも投資1レース目に的中するのが一番確率が高い、と言う事が分かります。
では的中率30%の馬券術では平均で何連敗後に的中するのでしょうか? 幾何分布の期待値(平均)E(x)は次のように定義されます。
上式を利用すると、
となり、「平均で2連敗後に的中する」と言う事が分かります。
言い換えると「3回に1回は当たる」と言う事。これは僕らの常識と照らし合わせて考えてみても納得できる結果と言えるでしょう。
では的中率30%の馬券術だったら手持ち総資金を3等分すればやり過ごせるのでしょうか?
そう考えるのは大変アブない、と言うのが結論です。平均はあくまで平均なのです。連敗と言うのはとても怖ろしい物。連敗をナメたら痛い目にあいます。そしてこのとんでもない“連敗”と言う現象を避ける術はありません。
僕らにできる事は、「連敗を計算に入れた資金マネージメント」を考案する事だけなのです。
連敗を避ける事は不可能、でも連敗を考慮に入れた上での資金マネージメントを作成する事。
一体この相反したような二つの事柄を併せる事なんてできるのでしょうか?
ここでちょっと視点を変えてみます。
例えば、的中率30%の馬券術で、平均である3レース目までに的中する確率とは如何程のものなんでしょうか?
数学の問題みたいなんですが、これは「全くハズさないで投資1レース目に当てる確率+1レース目をハズして2レース目に当たる確率+1レース目、2レース目共にハズして3レース目に当たる確率」と全ての「可能性」に関して足し合わせれば答えとなります。
前項の「幾何分布」に照らして考えてみれば、
となります。つまり的中率30%の馬券術では50%弱の確率で投資3レース目「まで」には的中馬券を手にする事が出来るといえます(別の言い方では的中率30%の馬券術では、50%の確率で的中するまで3レース以上かかる、と言った意味になります)。
では的中率30%の馬券術で、6レース目までに的中する確率は如何なもんでしょう?
同様の議論で、
つまり、的中率30%の馬券術では88%弱の確率で投資6レース目「まで」には当たり馬券を手にする事ができるのです。
もう一つ例を考えてみましょうか?
的中率30%の馬券術で第1レースから買い始めて、最終レース(第12レース)までに的中する確率は何%でしょう?
つまり、的中率30%の馬券術ですと、98%弱の確率で12レース以内に当たるという事が出来ます。
この様に、任意のx+1レース目までの累積的中率P(x)を求める場合、次の式が一般式になります。
そして上のような確率分布上の確率の和を特に累積分布関数(もしくは単に分布関数)と呼びます。
なお、上式をもうちょっと数学的にキレイに整理すると、次のようになります。
これが幾何分布の累積分布関数(舌を噛みそうですが・笑)の公式となります。
なお、的中率30%の幾何分布の分布関数のグラフは下の図のようになります。
ご覧の通り連敗数xが大きくなるに従って、累積分布関数の値は1(100%)に近づいていきます。
数学的に書きなおすと次のような性質を持っている、と言えます。
言い換えると、「どんな馬券術でも永遠に買い続けていくといつかは当たる」という事です。
当たり前と言えばあまりにも当たり前な話ですよね。
しかしながら、僕らにはそれを実現する無限大の資金はありません。また、有限の資金を無限大に分割する、と言うのも現実的ではありません。なんせ馬券は100円単位でないと購入できないのですから。
という事で、有限の資金で有限の分割数と言った条件の下で如何にして資金を溶かさないようにすればいいのか、が課題となるわけです。
さて、前項の議論を振り返ると次の事が言えます。
上のテーゼは次のように言い換えることも出来ます。
当たり前の話ですが、破産する確率と累積分布関数の値はトレードオフの関係になっています。
そこで、破産する確率を危険率αとして定義すると、次のような関係になっています。
この危険率αを0%にする事は有限の資金、有限の分割数を考えると原理的に不可能です。
しかしながら、主観で・・・・・・個人的に納得できる程度まで小さくする事は理論的には可能なのです。そして、それによって総資金の分割数を決定する事も可能となるわけです。
そこで、上の式を書き換えて、
とした時、xに付いて上の方程式を解けるのかどうかが、焦点となるわけです。
ところで、次の2つの数式を見比べてみてください。
最初の式は先程の幾何分布の分布関数の方程式です。
もう一つの式は高校数学でお馴染みの、初項a、公比r、項数nの等比数列の和と呼ばれるものです。両者とも大変良く似ていますね。
この「大変良く似ている」と言うのは数学的には重要な性質です。言い換えると、幾何分布の分布関数の方程式は初項p、公比q、項数x+1の等比数列の和と捉える事ができるのです。
また、等比数列の和には次の公式が存在していました。
従って、これを利用すると、幾何分布の分布関数は次のように書き換えられます。
ここで、q=1−p⇔p=1−qに注意すると、結果分母と分子は約分が出来て、
と大変簡単な式に変形する事ができるのです。
よって、危険率と累積分布関数の関係は、
となります。
あとは上で得られた方程式をxに付いて整理すればいいだけなんですが、ご覧の通り、
とxを含んだ項が不的中率qの指数となっています。
こう言う場合は、底は何でもいいので、取りあえず両辺対数を取ってしまいます。*8
そして、対数の公式としては次のようなものがあります。
nが正の数のとき、
これを利用して与式を整理すると、
このままでも構わないのですが、もう一つの対数の公式、
を利用して整理すると、結果、
となります。これが分割コロガシの総資金最適分割数を決定する公式となり、それは馬券の不的中率q=1−pを底とした危険率αの対数として求める事ができるわけです。
なお、左辺の+1を移項しない理由は、あくまでもxは連敗数であり、連敗数+1レース目で的中するギリギリのラインを表しているからです。
よって、これが気になる方は分割数n=x+1とでもして、
と覚えておけば宜しいでしょう。
では実際に前項で求めた総資金最適分割数の公式を用いて、様々な的中率の馬券術での最適分割数を求めてみましょう。
例えばここに総資金が4万円あって、的中率30%の馬券術があるとする。破産危険率を5%(つまり、95%の確率で分割コロガシは成功し、と同時に20回に1回は破産する)として、一体いくらから投資金額をスタートすればいいのか?
公式を用いて計算すると次のようになります。
つまり、4万円を8〜9分割程しておけば、95%の確率で分割コロガシは成功するのです(そして20回に1回の割合で失敗します)。この場合初期投資額は4,400〜5,000円くらいになりますね。
今度は的中率25%の馬券術だったら如何な物でしょう?その他の条件は全て同じとします。
今度は4万円を10〜11分割程しておけば95%の確率で分割コロガシは成功します。この場合、初期投資額は3,600〜4,000円程度になりますね。
もう一丁行ってみますか?的中率15%の馬券術だったら如何程のものでしょうか?
4万円を18〜19分割程度にしておけば95%の確率で破産を回避できるようです。初期投資金は2,100〜2,200円程ですね。
的中率だけでなく、危険率も色々変えてみて、ご自分の馬券術に合わせた最適分割数を探してみてください。
なお、これは個人判断の範疇ではありますが、端数は切り上げて考えた方がより安全だと思います。
なお、ものぐさなお方の為に、ここで総資金分割表なるものを挙げておきます。
的中率は大穴狙い(5%程?)から堅実な複勝狙い(60%程度?)まで対応できるように5%刻みで掲載いたします。
また、どんなに口を酸っぱくして言っても、
「ワイは馬券をハズしそうな時のドキドキ感がタマランのや!!!」
等と言った奇特なお方もいる事でしょうし(笑)、逆に
「万が一、資金が溶けてしもうたら目も当てられへん」
と言った慎重なお方もおいででしょう。なので、危険率の幅も10%〜0.01%(文字通り万が一の確率)と取り揃えております。
自分の馬券の的中実績、そしてお好みの破産危険率と相談して最適な分割数を決めてください。
なお、端数は切り上げ、となっています。
危険率 | |||||
馬券の的中率 | 10.00% | 5.00% | 1.00% | 0.10% | 0.01% |
60% | 3 | 4 | 6 | 8 | 11 |
55% | 3 | 4 | 6 | 9 | 12 |
50% | 4 | 5 | 7 | 10 | 14 |
45% | 4 | 6 | 8 | 12 | 16 |
40% | 5 | 6 | 10 | 14 | 19 |
35% | 6 | 7 | 11 | 17 | 22 |
30% | 7 | 9 | 13 | 20 | 26 |
25% | 9 | 11 | 17 | 25 | 33 |
20% | 11 | 14 | 21 | 31 | 42 |
15% | 15 | 19 | 29 | 43 | 57 |
10% | 22 | 29 | 44 | 66 | 88 |
5% | 45 | 59 | 90 | 135 | 180 |
なお、余談ではありますが、&amazon;で著者の鶴田仁氏が、
「的中率25%の馬券術で総資金を24分割」
と言っていましたが、これは計算上破産する確率が約1000分の1と言った大変小さな値となっています。
もちろん、数学的に計算して出した値ではなくって、経験上のものなんでしょうけど、非常に理に適っていると思います。
プロの経験と勘って怖ろしいものですね。
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