JOLT氏『ゾイド∞2on2 第2話 獅子の咆哮』


  4体の獅子の咆哮がペイヴォン岬に響き渡り、闘いの始まりを告げた。  開始直後、KlowのSLに向かって大量のミサイルが上空から降り注ぐ。 「く!この距離で届くだと!?」  ステップでほとんどのミサイルを回避し、同時に展開したシールドで数発の ミサイルを無効化、ギリギリのタイミングだったがダメージは皆無だった。 「3D−Mだろうね。範囲は変わらないけど、距離は40%UPしてるから」  驚愕するKlowの耳に、冷静なShilowの解説が聞こえる。 「ともかく、距離を詰めないと話にならんな。起伏の多い地形では、打ち上げ 式ミサイルの優位は明白だ」 「だね。近接は怖いけど、ゼロはシールドでなんとでもなると思うよ」 「……ならば、まずはパンツァーを叩く!」 「了解!ゼロはオレがひきつけておくよ」  ステップ回避を交えながら半ば強引にPAに接近するSL。  TLCの1本を被弾しながらも、3連衝撃砲とDCSの1本を当てる。 「この距離なら、グレネードしか残っていないはず!」  シールドアタックを試みたSLに、後ろ斜めステップで回り込んだPAから 3発のグレネードと……真っ直ぐ飛んできた4本のミサイルが直撃した。 「なにぃ!?」  ダウンしたSLに、容赦なく打ち上げ式ミサイルと格闘の追い討ちが入る。 「PAには、2連装ミサイルが追加されてるんだよ」 「先に言っとけ、そう言う重要なことは!」 「と言うかね、HBしながら引っかけてればシールド当たってたよ、今のは」  見れば、ShilowのBLはLZをダウンさせ、8味噌と格闘の追い討ち を入れている。が……、 「おい、HP負けてるじゃないか!」 「うん、シールドの接触直前に2連ビーム当てられた。強いね、やっぱり」  その後も、LZとPAの連携によって、二人のHPは徐々に削られていく。  120秒が過ぎ、タイムアップの文字と共に『LOSE』が表示された。

 大型モニター前のギャラリーからは、あきらめに満ちた溜息が漏れる。  しかし、ほんの一部の人間は違った。 (あいつら、本当に初めての対戦か?あのコら相手で生き延びやがった……)  極一部の人間はさらに違った。 (おかしい。あの二人、何かを狙っているようにも思える。何かある……)

 筐体に座る二人には、1本目を取られたという焦りなど微塵もなかった。 「さて、2本目からは全開でいけるよね?」 「ああ、地形も相手のクセも大体把握できた」  獅子の咆哮に合わせ、二人が咆える。 「「いくぜ!相棒!」」

 2本目は、大多数のギャラリーが驚愕するような展開となった。  SLが適度な距離を取りつつ、LZに2連ビームとDCSを当てていく。  BLが近距離で張り付きながら、ブレードでPAを切り刻む。  焦りからか、LZとPAの連携は微妙にずれていった。  相手のHPが3000を切った頃、レーダーに視線を向けたKlowが叫ぶ。 「PAをガードさせろ!」 「OK!」  BLのSDを覚悟した連続ブレード旋回に、ガードせざるを得ないPA。  ロックをPAに切り替えながら、LZの近接をガードするSL。  その瞬間、SL・LZ・BL・PAが一直線に並ぶ。  Klowは口元を軽く歪めながら、スティックを開き両トリガーを引いた。 「いけぇ!DCSマックスファイアー!」  黒獅子の咆哮と共に、SLから2本の閃光が輝き、戦場を貫く。  射線上の樹木ですら、閃光に貫かれ、消滅していく。  輝きが収まった時、LZとPA、そしてBLは黒煙を上げ地に伏していた。  画面の『WINNER』の文字と同時に、ギャラリーから歓声が上がる。

 筐体で力を抜きながら、Klowは歓声を心地よく感じていた。 「いいもんだな、勝利というのは」  しかし、勝利の余韻にひたるのは一瞬だった。 「オレは、複雑だけどね……」  Shilowの恨み節を誤魔化すようにKlowは言い放つ。 「まだ、3本目がある。ここまできたら勝つしかない」 「そうだね。でも、相手も切り札は残しているはずだよ」 「ああ。バーニングもそうだが、ゼロがな」 「確かに、気になるね。でも……」 「俺のDark Aegisが……」 「オレのUrano Earthが……」 「「勝つ!」」  最終幕の幕開けを告げる獅子の咆哮が、岬の空に響き渡った。

 3本目は、戦略と戦術の全てをかけた闘いとなった。  基本的には、BLとLZの近距離戦、SLとPAとの援護射撃。  だが、双方ロックを瞬時に切り替え、どさくさまぎれの射撃がHITする。 「いいなあ!楽しいよなあ!」 「同感!最高のデビュー戦だね!」  全身に汗をかき、肉体にも精神にも疲労を感じるほどの闘い。  しかし、二人の瞳は輝きを増していく。  いつまでも、この闘いを楽しんでいたい。  だが、物事に終わりはあり、楽しめば楽しむほど終わりは近づいてくる。  楽しくも寂しい、そんな気持ちを二人は心の片隅に押し込めた。

 若干、こちらの方が有利だという流れで闘いは進んでいく。  だが、残り時間30秒。  碧獅子の咆哮が、戦局を大きく変えようとしていた。

 きっかけは、BLとSLが同時にダウンした事だった。  それも、PA1機の活躍によってである。

 BLの近接をLZがガードした瞬間、赤いエフェクトが足元で光った。 「投げか!」  バックステップシールドを展開するBLに、ミサイルの雨が降り注ぐ。 「やば!」  BLのシールドはPAのミサイルを大量に受け止め、システムダウン。  その瞬間、爆風の中を飛びこんできた蒼き獅子がBLを地に叩き伏せた。  さらに、PAの目の前にいたSLに2連ミサイルとグレネードが接近する。 「これぐらいなら!」  全てをシールドで無効化したSLが左近接を叩きこむが、ガードされる。  その瞬間、PAが咆え、蒼き機体から流星が飛び出した。 「ここでバーニングだと!?」  TLCと2連ミサイルがノーロックでSLに突き刺さった瞬間、ロック警報 が点灯する。 「くそっ!そう言うことか!」  転倒したSLに正面からグレネード、空から大量のミサイルが突き刺さった。

 一瞬の攻防で、SLのHPは1000、BLのHPは3000を割っていた。 「敵ながら、見事というしかないな」 「正直、予測できなかったよ」  立ち上がろうとするBLの後ろで、LZが咆哮を上げた。  碧き獅子より響き渡るは、長く尾を引く咆哮。 「あれが、LZの特殊技か」 「そう。オーバーストライク・レザークロー。ハイパー装備限定。要するに、 20秒ハイパー&移動速度UP。」 「弱点はないのか?」

「20秒後SD。あとはブースト消費ENが2倍なんだけど……」 「それは、今の状況では弱点にならんな」  起き上がった2機は接触し、HPを等分する。  そして、SDから回復しきっていないPAに集中砲火を浴びせダウンさせる。  LZがその間に間合いを詰めて殴りかかってくるが、BLはガードで耐えた。 「やば、ガードしても400近く削られるよ!」  そうこうしているうちにPAも起き上がり、2機にミサイルをばら撒き出した。  PAのHPは1000程度、LZのHPは3000以上。  PAを先に片付ければ楽になるのだろうが、LZが脅威の速度でまとわりつく ため、機会が見出せない。  近接をガードした瞬間にPAのミサイルで即死が確定する、最悪の状況。  打開策が見出せないまま、無常にも時間は過ぎていく。  残り15秒。2機のHPが1000を切った瞬間、Klowが呟いた。 「……仕方ない、今度は俺が死ぬか」 「え?」 「機会は作ってやる!BLの真の強さを見せつけてやれ!」  言うが早いか、SLはLZに向かってDCSマックスファイアーを撃ち放つ。  しかし、距離が若干離れていたため呆気なくステップでかわされる。  SDで、ほとんどの武装と機動力を奪われたSLに輝く爪が迫る。 「く!タダでは死なないぜ!」  LZの爪が食い込んだと同時に、密着状態で放たれたSLの3連衝撃砲が 碧獅子の装甲に食い込み、HPを1000ほど奪っていく。  黒煙を上げ、崩れ落ちるSL。 「後はまかせた!」 (今だ!最後のチャンス!)  Shilowはブーストを一瞬吹かしLZを正面に捉えると、スティックを 開いて両トリガーを引いた。 「いけぇ!ブレード・ツイスター!」

 BLはブレードを展開しながら、両方のアタックブースターを斜め後ろに向 けて閃光を放ち、猛烈な回転状態で直進する。  ELのレシプロケティング・ミサイルの様だが、範囲が格段に広い。  格闘直後のLZは、BLが引き起こした竜巻に巻き込まれ吹き飛んだ。  それでも、荒れ狂う白き竜巻は止まらない。  その勢いのまま、PAに向けて突っ込んでいく。  KlowのSLが、命を賭けて作ったこのライン。  ShilowのBLは、勝利への唯一の道を翔ぶ。  虚を突かれたPAの反応は一瞬だが遅れた。  掠めるような軌道でブレードがHITした瞬間、PAのTLCが光る。  PAは横殴りに吹き飛ばされ、黒煙を上げた。  回転が止まり、着地した白獅子。  しかし、刃持つ獅子は勝利の咆哮ではなく、黒煙を上げた。 「あら?」  崩れ落ちるBLの上に、『DRAW』の4文字が表示される。 「うそぉー?」  ギャラリーの拍手の中、BLと同様に、Shilowも筐体に崩れ落ちた。

「すげーよ、あんたら!サイコーだよ!」  二人は、筐体から降りると同時に、ギャラリーに囲まれた。 「ああ、感動した!対戦初めてで、あのコたちにドロー!驚異的だよ!」  Shilowは困惑しながらも、頭に浮かんだ疑問をぶつけてみる。 「あのコたち?」 「なんだ、対戦相手見てなかったのかい?ほら、こっち来た」  視線を転じた先には、二人の女性がいた。  艶やかな長い黒髪の女性と、輝くブロンドをポニーにまとめた女性。  二人とも、20歳前後であろうか。  しかし、二人をなによりも印象付けたのは、深く蒼い瞳だった。