ふぇんりる氏 第八章:生か、死か


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Another story of ZI 第八章:生か、死か、(1) 「ふふふ、久しぶりの若い男、楽しませてもらうわ」  薄暗い殺風景な部屋だが、大き目のベッドが中央に置かれていた。独特な彫刻装飾を 施されたそれの上には、上質なシルクで作られたシーツが雲霞のように置かれていた。 声の主の若い女性は、そこの上で豊満な乳房を隠すことなく、惜しげもなくむき出しで 座っていた。彼女の顔右半分は豊かな量の金髪に隠されていた。この部屋のベッドの上に はもう一人、男が仰向けに横たわっていた。意識がないのか、眠っているのか、ピクリとも しない。いや、その女性が乗っている腰部が女性の前後運動と共に動いていた。 「はぁ〜、いいわ、この感じ。」  女性は、一人心地よさそうに満足行くまで、意識のないその男を弄んでいた。

「報告は以上か?・・・今回の作戦でドレッセル中佐を失ったのは痛いな。まぁ、 仕方はあるまい。ティア=シュラー少佐、君は別命あるまで兵舎で休息を取れ。 ワインバーグ少佐、アリア=シュラー少佐、ご苦労だった。君たちも2日ほど休息し、 その後、別の作戦に参加してもらう。解散」  ウグルス少将はローラ、ティア、アリアを前に冷たく言い放つと、解散を指示した。 「待って下さい、ブレイズは、いえ、ドレッセル中佐は私のペアで、あなたの部下 なんですよ、そんな言い方・・・」  ティアが感情に任せて、言葉を口にする。それを遮るように、 「で、私にやさしい言葉でも彼に送れと言うのかね。今でも、戦闘のたびに死者が 出る。幾ら部下と言っても、悲嘆に暮れていたのでは軍の仕事は勤まらん。 君も冷静になれ。感情に任せていたのでは命がいくつあっても足りん」  と、それだけ言うと背を向ける。ティアはさらに言おうとしたが、ローラが、 「失礼しました」  と、無理やり部屋の外に引きずり出す。 「なんでよ!あんな言い方ないんじゃない!!」  ティアは激情と共に言う。しかし、 「ティア御姉さま、いつまでたっても失った物は還りませんわ。冷静になって下さい」  と、言うアリアの言葉をも聞かない。「パシッ」と音を立てて、ローラがティアの 頬を平手打ちした。 「いい加減にしなさい!!少将も口ではああ言っているけど、悲しいのよ!あなたが 全て背負い込んだように考えないで!!」  ローラが強い口調をさらに強めて言った。ティアは「ハッ」とすると、悟ったように、 「ごめんなさい」  と、だけ口にした。ローラはそれ以上何も言わず、そっと抱きしめ、 「少し、ゆっくり気持ちを整理しなさい」  と、だけ言って、ティアと別れた。ティアは少し落ち着きを取り戻し、先に兵舎に 戻ることを告げ、ローラ達と別れた。

Another story of ZI 第八章:生か、死か、(2)  いつもならイクスver.XB(クロスブレード)が収まっているはずの、空の修理 ハンガーを見上げ、ビルは呟いた。 「また、一人いなくなったか・・・。俺と気が合う奴は早死にする。奴は、俺の趣味も わかっていたし、それを上手く使ってくれた・・・、使ったおもちゃの金もくれたし、な。 要はいい奴だった。今度、誰の機体がこのハンガーを使うか、わからんが、今は奴を 慰めたいぜ。・・・・・、とりあえず、シュラー少佐の機体は万全にしてやるよ」  それだけ言うと、ハンガーの脇に手に持っていたウイスキーのボトルの中身を注ぐ。 見る見る床に褐色の液体が広がるが、ビルはそれが空になって流れが止まって その場に立っていた。

 情報部に今回の任務で調査した案件を全て報告書にまとめ、窓口にデータディスクを 提出したシモンは同僚に呼び止められた。 「シモン、『蒼雷』と一緒だったんだろ、どうだったんだ、奴の最後は?」  同僚は、悪気はないが、内勤だと刺激が少なく、興味本位で、戦場で死んだ有名な 奴の話を聞いて見たかっただけだったかもしれない。 「・・・氷と共に海の中さ・・・用は済んだよ」  と、言葉少なくその場を去った。情報部ということで実際の戦場に立つことは少ない。 増して、戦死者に会うことも稀だった。しかも、今回は救出される短い時間の付き合い だったはずだが、ティア=シュラー少佐の取り乱しようから、彼女の恋人だったかも しれない男が死んだという事実が彼に暗い影を落としていた。かつては戦場で仲間が 死んだのに立ち会ったことも有る。しかし、今回のような影は感じなかった。 「何故なんだ!!」  シモンは苛立つ。答えは見つからなかった。

 ウグルス少将はティア達が退室すると、少し考え、手元のインターホンを取る。 「私だ、レスダト海峡付近の国境警戒部隊に繋いでくれ。・・・『蒼雷』が行方不明に なっている。共和国、ゼネバスの動きを厳重に監視せよ。『蒼雷』が生きていた場合、 どちらかといざこざを起こす可能性がある。こちらからも、近日中に数名部下を派遣する。 もし、そのようなことがあれば現場判断で介入しても構わない。とりあえず『蒼雷』の 資料は送っておく」   インターホンを置き、ため息をつくと、デスクの背後にある窓からブラインド 越しの景色を眺め、 「あの馬鹿者が・・・、今は、生きていることを願うしかないな」  口に火の付いていない葉巻をくわえたが、逆向きだったことに気がついて、 ウグルス少将は苦笑した。

Another story of ZI 第八章:生か、死か、(3) 『蒼いイクス』が、死んだというのか!!そんな馬鹿なことがあるか!」  ゼネバスの軍本部に併設されている兵舎の自室で自らの「右腕」と呼ばれる腹心の 部下、コリー=アートから報告を受けたカジム=ハイターがデスクから立ち上がり、 叫ぶ。 「しかし、先に起こったレスダト海峡でのヘリックの機獣部隊との戦闘にて大規模な 氷海崩壊が発生し、それに巻き込まれたようです。未確認情報では在りますが、その 戦闘時にヘリック側には『白兎』がいた模様です」  コリーが補足報告をする。カジムは「白兎」という単語に反応する。 「死んだというが、最近姿を現した奴か!・・・、死んだというなら、まぁ奴もそれまで だということか・・・」 「『蒼いイクス』には随分御執心のようだな。『銀騎士』様が認めるとは、噂どおり かなりの強者だったのだろう。相手をしてみたかったな」  入り口ドアの、声の主の方に二人の視線が向く。そこには痩身の男が立っていた。 「あ、あなたは・・・」  コリーが動揺する。その男の軍服には階級章はなかった。替わりに、銀色の星を 3つ蛇が咥えた紋章が輝いていた。その紋章はゼネバス帝国軍皇帝親衛隊の所属を 表すもので、3つの星は第3親衛隊、銀色の星は、金色の星を持つ隊長に次ぐ、 次席隊長を表すものだった。 「幾ら、大佐階級より3階級上級の親衛隊次席隊長殿でもノックせずに立ち聞きとは、 失礼ではないか」  カジムが怒鳴る。しかし、男は、意に介せず、 「それは失礼しました」  と、慇懃な態度を取り、退室した。男は出て行きながら、「それほどの男なら、 部下としても優秀だろう、生きていれば、な。惜しい事をした・・・」と彼自身の立身 野望の達成のための部下として利用しそこなった事を、後悔していた。

 ブレイズは、目を覚ました。体に異様な倦怠感があるが、上体を起こす。 「俺は一体・・・、確か、足元の氷が崩れたのに巻き込まれて・・・」  ベッドに横たわって、シーツは掛けてあるが、服は何もまとっていなかった。 怪我らしい、怪我はなかった。頭を振り、めまいを追いやる。ふと、周囲を見回すと、 装飾のない無機質のグレーの壁で囲まれた部屋だった。 「病院か?だが、変だ・・・」  怪訝な表情をしていると、唯一のドアの外に影が映る。ブレイズは横になって未だ 眠っているフリをした。ドアが開いて、人影が入ってくる。ブレイズは人影がベッドの そばに来ると、シーツを投げかけ、相手の視覚をふさぐと、すばやく背後に周り、 腕を逆手にひねり上げ、無力化、自由を奪う。ブレイズは人影に投げ掛けたシーツを空いて いる手でどかした。 「・・・女?」  ブレイズは少し動揺した。その女は薄手のガウンしか纏っておらず、軍人や看護婦と 言うよりは娼婦の感じがしたからだ。彼女の顔右半分は豊かな量の金髪に隠されて見え なかった。 「痛い・・・、命の恩人にこれはないでしょう。離しなさい!!」  女は怒っているが、ブレイズは無視して、 「ここはどこだ?お前は誰だ?」  と聞く。 「そ、そうね。とりあえず、離して、これじゃ、痛くて、話もできない・・・、それとも、 こういった方が、お好みかしら?」  ブレイズは、舌打ちして手を離し、突き離す。締め上げられた手をさすりながら、 女は向き直った。ブレイズは全裸では様にならないので、妙な動きをしないように女を 視線で牽制しながら、床からシーツを拾い、腰に巻いた。そして、女に催促する。 「さあ、教えてもらおうか!」