ふぇんりる氏 第七章:氷海の攻防


『あらら、かっこいいわね〜。ますます気に入っちゃった☆ねぇ、降参しない?』
 アンジェリーナが画像を伴ったレーザー通信回線を維持しつつ、ブレイズに再度 降伏を勧告する。
「断る、そちらが引かないなら倒すまで、だ!」
 ブレイズは手短く、苛立ったように返すと、アンジェリーナの白いブレードライガー TBに自機―イクスver.XB(クロスブレード)をダッシュさせ、間合いを詰める。
『甘いわよ、喰らえ!8連ミサイル!!』
 アンジェリーナは8連ミサイルを扇状に撃ち出し、イクスver.XBの足を止めようと する。
「この程度で止められるか!!」
ブレイズはステップで、散らばったミサイルの隙間に飛び込む。掠めるように小型 ミサイルが過ぎるが、幸い無傷でやり過ごす。更にステップして、フェイント気味に 小型スプレッドボマーを撃つ。弾は狙い通りブレードライガーTBに命中する弾道を 取った。しかし、命中の瞬間、ブレードライガーTBの手前で爆発する。ブレード ライガーTBの手前に形成された、薄赤のEシールドが誘爆を誘ったのだった。しかし、 爆風までは、抑えられずにブレードライガーTBにわずかなダメージを与える。
『や、やるわね・・・』
 アンジェリーナの表情が曇る。しかし、ブレイズは気に留めず、射程距離に入った ことを確認し、更にエレクトロンドライバーを叩きつける。Eシールドでエレクトロン ドライバーを防げないと悟った、アンジェリーナは防御を諦め、シールドアタックを 仕掛けるが、展開したEシールドがイクスver.XBを捉える前に、蓄積されたダメージが、 ブレードライガーTBを転倒させる。追撃の為、イクスver.XBはブレードライガーTBに 接近する。だが、ブレードライガーTBはすばやく起き上がると、至近距離から4枚の ブレードを展開、加速し、イクスver.XBを捉える。今度はブレイズが転倒する番だった。
「・・・『白兎』を継いだのは伊達じゃないか・・・」
 独り言を呟く。アンジェリーナは転倒したイクスver.XBに向けて2連ショック キャノンを叩きつける。左前肩のアーマーが変形し、ブレードセンサーが衝撃で飛ぶ。 ブレイズは更なる追撃を避けるために、機体を起こすと、ダッシュで距離を置こうとした。
『逃がさないわよ』
アンジェリーナは隙を逃さず、後ろを取ると、再度ブレードアタックを試みる。 しかし、ブレイズはアンジェリーナの意図を読み、サイドステップを連続して急激に 軌道変更と減速をし、ブレードが展開する瞬間には逆にブレードライガーTBの後ろを 取った。
『え?えぇ??』
 必殺のブレードアタックがイクスver.XBを捉えたと思ったアンジェリーナは困惑した。
「喰らえ!!」
 必殺の気合と共にブレイズはブレードアタックをブレードライガーTBの 後方から仕掛けた。ブレードライガーTBは、ハイパーブレーキと共にその場で 踏ん張り、ブレードアタックに耐える。
『き、きっつ〜う!』
 レーザー通信回線の画像も消える。甲高い音がして金属片が空に舞い、 氷の上に突き刺さる。しかし、突き刺さった金属片は1つだけではなかった。

『ブレードが・・・、折れた?!』
 アンジェリーナは折れた2本のブレードを見て呆然とする。しかし、ブレイズも呆然と していた。イクスver.XBの右側の長いスタンブレードも根元から折れ曲がって、短いほう は根元から折れ飛んでいた。端末操作で機体状況をサブモニターで確認したブレイズは、 ため息をつく。
「・・・右外側スタンブレード基部損傷、収納もできないか・・・。左だけなら何とかブレード アタックはできるか・・・、まずいな」
 呆然とした二人は迫る危険に気がついていなかった。

 ゴードンのマトリクスドラゴンがティアのシュトゥルム改の3連衝撃砲とウェポン バインダーの同時攻撃で吹き飛ぶ。ロックオンを変更して拡散荷電粒子砲を、 ゼロイェーガーに向けて放つ。シモンのセイバータイガーS(スカウト)を追いかける ことに夢中になっていたゼロイェーガーは拡散荷電粒子砲の光の渦に飛び込む形となり、 その機体を焦がし、爆発と共に残骸と化した。
「さぁ!1機だけよ。さっさと沈黙させて脱出するわ!」
『どうやら、何とかなりそうだな・・・』
 ティアは転倒し、起き上がろうとするマトリクスドラゴンに向き直る。
しかし、そこに十数発のマイクロミサイルが降り注ぎ、氷を叩き割る。
「何?」
 ティアは機体をバックステップ、サイドステップを駆使して避ける。避けきったと 思ったティアのシュトゥルム改に再度マイクロミサイルが降り注ぐ。
『まさか・・・援軍か?!』
シモンがレーダーを見る。遠方に共和国所属の信号が動いていた。目視でも氷原の 彼方から青いコマンドウルフが5機こちらに向かってくるのが見えた。
「なんてこと!弾薬の少ない、今の状況じゃまずいわ!」
 ティアが残弾数を確認して、嘆く。
『こりゃ、お手上げだね。どうする?捕虜として降伏するかい?』
 シモンは諦めたように元気なくティアに声をかける。ティアは離れたところで 2代目「白兎」と戦っているブレイズのイクスver.XBを見て、
「ブレイズはまだ戦っているわ。私たちも諦めるわけにはいかないわ!!」
 ティアは言い切る。それに呼応するように、
『その通りよ、そこを動かないで!!』
 先程別行動を取った、ローラの声と共に、ティアとシモンの機体の脇を数発の高 エネルギーのレーザー弾が通り過ぎ、3機のコマンドウルフの反応をレーダーから 消す。
『私はこれだけ。後は、アリア、頼むわよ!』
 ローラの声と同時に雪煙をまといつつティアの妹、アリアのジェノブレイカーが滑り 込む。
『ティア御姉さま、情けないですわね。私がいないと何もできないのですね』
 アリアの皮肉にティアはいつものように反応しないで、
「・・・ありがとう、助かったわ」
 と素直に感謝する。アリアは毒気が抜かれたように、
『フン』
 とだけ鼻を鳴らして、敵機に向く。残った2機のコマンドウルフとゴードンの マトリクスドラゴンも合流し、こちらに構えていた。
『アンジェリーナ様をあのままにしておくわけにはいきません。敵機を撃破します』
 ゴードンの掛け声と共に3機の機獣は突進を開始する。だが、「ビシッ」「ピシッ」 といった破砕音を伴い、凍結していた海面を無数のひびが走る。
『まずいぞ!氷原自体が崩壊するぞ。このままじゃ海の藻屑だ!!』
 シモンが叫ぶ。

『全機撤収しなさい!!』
 ローラが叫び、ティア、シモン、アリアは敵機を無視して、目的の岸に向かって 疾駆する。2機のコマンドウルフも脱出を試みるが、一瞬にして氷塊の狭間に飲み 込まれた。ゴードンはマトリクスドラゴンの飛行能力を使い、アンジェリーナの 下に向かう。ティアも方向を転換し、ブレイズの方に行こうとした。しかし、 アリアのジェノブレイカーが行く手を遮る。ティアは苛立つように、
「アリア、どいて!シュトゥルムの滑空能力なら何とかいけるわ!ブレイズを 助けないと!!」
 更に向かおうとする。しかし、アリアは、
『ティア御姉さま、無理ですわ。それよりも任務はミカムラ中尉を無事に自軍 勢力下に連れて行くこと。隊長もその辺りは承知していますわ』
 と言って遮る。それでもティアは行こうとする。
『いい加減にしなさい、ティア!!任務と私情を割り切りなさい!!』
 ローラがティアを制する。ティアも後ろを気にしつつ、渋々疾駆を再開した。

 唖然としていた二人だったが、共和国側の援軍のコマンドウルフがこちらに 向かってきたのを確認し、アンジェリーナは微笑む。再度切れた画像を伴った レーザー通信回線を開き、
『どうします、蒼雷さん?そちらはますます不利よ?』
 アンジェリーナは降伏を暗に勧める。しかし、一瞬後、数発の高エネルギーの レーザー弾が援軍のコマンドウルフを3機破壊した。同時にアリアのジェノブレイカーが 滑り込みティア達と合流するのが見えた。
『え?何で、・・・アッ、アレは、援軍?キッー!!』
 アンジェリーナは非常に悔しそうな表情をした。しかし、異変が起こった。足元が ぐらぐらと崩壊し、無数の氷塊がその下にある海面に落下し始めた。ティア達が退避を 開始し、コマンドウルフが消えたのが見えた。
「ウッ、このままじゃまずい」
 ブレイズもまた、目的の岸に向かって疾駆しようとするが、崩壊でできた亀裂の為、 上手くいかない。すぐ脇では、アンジェリーナのブレードライガーTBが戸惑っている。 レーザー通信回線の画面でも困惑が見て取れた。非常事態と、ブレイズは判断し、 「アンドレアだっけ?休戦だ、逃げるぞ!ついて来い」
 と、声をかける。掛けられた、アンジェリーナは、むすっ、とした表情をし、
『私の名前はアンジェリーナ!!ついていくわよ!!』
 と、返し、ブレイズに続く!しかし、マトリクスドラゴンがこちらに向かってきて、 ブレードライガーTBに牽引用のワイヤーを絡ませ、空中に引き上げた。
『アンジェリーナ様、暫し我慢を。さらばだ、「蒼雷」よ。生きていたら会おうぞ』
『じゃあね、「蒼雷」さん、またお会いしましょうね』
 ゴードントアンジェリーナの声を残し、マトリクスドラゴンは飛び去った。だが、 ブレイズは全てを見ている暇はなく、氷塊と共に海中に飲み込まれた。このまま、 死ぬのか・・・、ブレイズの意識はゆっくりと消えかかっていた。その沈みつつある イクスver.XBを巨大な影が飲みこんだ。暗くなると共にブレイズの意識は途絶えた。