へリック共和国領とガイロス帝国領を隔てる永久雪原ストラス。動く物が皆無の白銀の 世界で動く物があった。白色に塗装されたセイバータイガーとそれを先導するように 2機の黒色のライトニングサイクスがガイロス帝国領に向かって進んでいた。通常の 機体に見えるが、情報部用の隠密性能を向上させたセイバータイガーS(スカウト)と ライトニングサイクスS(スカウト)だった。折りしも、地吹雪が舞い、逃避行には もってこいだった。
『中尉、もうすぐ、ガイロス勢力下に入る。もう大丈夫だろう・・・』
 ライトニングサイクスSのパイロットが周囲を警戒しつつ、誰に言うわけでなく、 つぶやく。
「まだ、へリックの勢力下だぜ。安全になってからそのセリフは聞きたいね」
 セイバータイガーSを操る、ヘリック共和国への潜入情報員、シモン=ミカムラが 護衛役のライトニングサイクスSのパイロットをたしなめた。その時だった。左手から ミサイルが雨の様に周囲に降り注いだ。
『クソー!運が悪いぜ!ヘリックのパンツァーだ。2機か・・・、やるぞ』
『中尉、俺たちが足止めをする。先に行ってくれ』
 ライトニングサイクスSのパイロット達の会話を聞き、シモンは、
「頼むよ!先行させてもらう」
 と、言い残し、2機のパンツァーとは反対方向に移動を開始する。ライトニング サイクスS2機が迎撃に向かった。2機のパンツァーは逃げるシモンのセイバー タイガーSを追いかけようとしたが、包囲するように2手に分かれたライトニング サイクスSからの3連衝撃砲の十字砲火を受け、その場に止まる。更に左右にステップを しながらバルカンで牽制するライトニングサイクスSに標的を変え2機のパンツァーは ミサイルを撃つ。
『ライトニングサイクスの運動性能を甘く見るな!』

上空に弧を描いて降り注ぐミサイルの雨をライトニングサイクスSはステップとダッシュを 織り交ぜ回避する。しかし、ライトニングサイクスSの1機が左脇腹に、ミサイル着弾により 飛び散った、雪の塊を受け、よろけ派手な雪煙を上げる。その隙を見た2機のパンツァーは 装備している全兵器を撃ち出す「バーニング・ビッグ・バーン」を雪煙に仕掛けた。しかし、 敵を確実に葬り去るはずの兵器は雪原に大きな穴をうがっただけだった。 『かかったな!』 2機のパンツァーの側方から全速のライトニングサイクスSが突っ込み、吹き飛ばした。 更に、装備した3連衝撃砲、LRパルスレーザーライフル、バルカンを容赦なく、 叩き込む。パンツァーのミサイルユニットが火を吹き、2機とも炎上した。
「やれやれ、まだ護衛はしてもらえるか。1機になるんじゃ冗談じゃない。助かった・・・」
 無線封鎖をしているので、誰に聞かれる訳ではないが、シモンが安堵の言葉を口にした。
だが、
『ン?・・・もう1機いる。何だ?白い・・・まさか?!』
『「白兎」か?だが、あいつは戦死したんじゃ・・・』
『構うことは無い、こちらは最新鋭2機、こいつもやってやる』
 ライトニングサイクスSのパイロット達の会話に、シモンは、胸騒ぎがして移動速度を 上げた。幾らあのライトニングサイクスSのパイロット達の腕が立っても「白兎」と やって勝つ見込みは少ない。幸いこちらは離れており、色も外の風景に溶け込む白色だ。
このまま逃げてしまえば良い。そう考え、逃げの一手を打ったシモンだったが、その認識は甘かった。
『馬鹿な!こんなことが・・・・』
 背後で爆発音と爆風が来た。すぐさま、
『ヒィィ・・・・・』
 再度、爆発音と爆風が来た。同時に周囲が唸り始まり背後で雪崩が起きていた。 幸運なことに追っ手をさえぎるような雪崩だった。
「畜生!これで俺は一人か。このままじゃ、どうにもならない。助けが来ることを 待つしかないか。ン?」
 もう一つ幸運なことに今の雪崩で眼前の氷壁に裂け目ができていた。 崩れる可能性があるが、敵をやり過ごすには賭けるしかない。シモンは判断し、 裂け目の奥に機体を進めた。

「あの『銀騎士』とやりあってこの程度で済んだとは、僥倖だな」
 ガイロス帝国軍の兵廠都市リューデンの修理ハンガーに収まっているイクスver.XBを 見上げる、左隻眼のやや白髪が混じった巨漢―ランディー=ウグルス少将がいた。
彼の顔には右のこめかみから左口辱まで裂傷があり、一層凄みを増している。
顔の傷はかっての強敵との戦いの勝利の代償だった。その傍らには若い男―ブレイズ= ドレッセルがいた。
「確かに運が良かったです。偶然とはいえ、『銀騎士』にダメージが与えることができ、 後退してもらえたのですから。あのまま遣り合っていたら命が幾ら在っても足りません」
 ウグルス少将は豪快に笑いながら、
「まぁ、運も実力のうちとも言う。この程度の損害なら次の任務までには間に合うだろう。 詳しいことは後でファイルを事務官にでも持たせる。期待しているぞ!」
 ブレイズの肩をたたく。そこに、
「閣下、ここにおられましたか。軍議がありますゆえ、御早く!」
 と、ウグルス少将の副官のダビ=ターラム准将が彼を呼ぶ。
「ああ、わかった、わかった。部下の激励ぐらいの時間も無いのか…」
 ボヤキを残しつつ、ウグルス少将は立ち去ろうとしたが、ふと思い出したように足を 止め、ブレイズに背を向けたまま、
「そういえば、気になる報告があった。へリックには私とかって死闘を演じた『白兎』と いうゾイド乗りがいた。戦死したはずなのだが、最近『白兎』を目撃したという報告が あった。本人かどうかは、わからないが、間違いなく歴戦の兵らしい。戦うこともある だろう、十分気をつけることだ」
 と、言い残し去っていった。ウグルス少将が去るのを見送り、ダビ准将はブレイズに 向き直り、
「閣下は忙しい御身だ。貴様らに構っている暇は無い」
 と、言い残し去っていった。ブレイズは、「やれ、やれ」といった風に肩をすくめると、修理ハンガーに向かった。

「下腹部の損傷は中枢部には至っていないが、数十センチ深かったらコアまで イカれて修理不能だったな。まあ、ここなら十分な修理が可能だ。ティアのシュトルム もエクスブレーカーの付け替えと装甲交換で終わるよ。ただ、武器は最近在庫が厳しくて、来るまで数日かかるかもしれない」
 修理ハンガー脇の事務室で、機体の修理指示表を確認しながらビルが報告した。
それをブレイズとティアは聞き、
「じゃあ、まだ修理できるのね♪」
 と、ティアがうれしそうに言う。
「・・・だが、あと2セットくらいしか予備部品は無いぜ。なんせ、シュトルムユニット 自体がかなりの値段だから、そうそう支給が回ってこない。まあ、CASイクスも 高級品だが、こちらは壊れが少ないから在庫はあるなぁ」
 ビルが皮肉混じりに言い、ティアは、むくれた。ブレイズは苦笑を抑えるのが必死だった。
「壊さなきゃいいんでしょ♯そこの笑っている男!私を守ってよ!!」
「まぁ、ナイトさんに守ってもらえば壊すことは無いな」
 ティアとビルの口撃が自分に移ってきた雰囲気にブレイズは気まずくなった。
「失礼します。ドレッセル中佐、シュラー少佐はこちらでしょうか?」
 ファイルを手に持った事務官が入って来た。ブレイズは助け船が来たと思い、 二人の言葉を無視して、答える。
「・・・あぁ、俺達だが、ウグルス少将から連絡があった作戦指令書かな?」
「ぁ、はい、これが指令書です。確認のサインをお願いします」
 ブレイズはペンを受け取ると、サインをする。同時に厳重に封印されている封書を 受け取った。事務官とビルは退室した。ビルは去り際に、
「あ、そうそう、この間のおもちゃの費用は持ち出しだから後で請求書を回しておくよ」
 今度は逆にブレイズが苦虫を噛み潰したような顔になった。ティアはブレイズに 笑いを聞き取られないように手で抑えていた。室内に2人きりになったのを確認し、
「指令書、どんな内容なの?」
 ティアが先程の剣幕から一転、真面目な表情に変わる。ブレイズは手早く封印を 切り、中からマイクロディスクを取り出し手持ちの携帯端末のスロットに差し込む。同時にデスクのパーソナルコンピューターに繋ぐ。キーボードで個人IDを打ち込む。一拍置いて画面に指令文章が表示される。

[へリック共和国内に潜入した情報員が脱出失敗して、永久雪原ストラスに潜伏して いる。救助ビーコンの信号を確認しているが、周囲には数部隊のへリック共和国軍 機獣隊が展開しており、自力での脱出はほぼ不可能となっている。ブレイズ=ドレッセル 中佐、ティア=シュラー少佐の両名には敵部隊の撃破、情報員の脱出路確保に動いてもらう。尚、サポートスナイパーとしてローラ=ワインバーグ少佐、スナイパーガードとしてアリア=シュラー少佐が随行する。出撃は本日1800時をもって行う。作戦指揮はブレイズ=ドレッセル中佐に一任する。 万一、情報員であるシモン=ミカムラ中尉がヘリックに拘束された場合は奪還せよ。 彼が死亡、もしくは奪還不能と判断した場合、彼の持つ情報ディスクを回収せよ。 以上。   ランディー=ウグルス少将]

「エッー!アリアと?!」
 文面をみたティアが大きな声を出す。ティアとアリア姉妹の不仲は良く知っている ブレイズも顔をしかめる。本来だったら彼女ら姉妹がペアになるはずだった。
その代わりにブレイズとティアが、アリアとローラが組んでいる事情もその不仲が 起因していた。司令部は今回の作戦に当たって、ペアを2つということで作戦立案した のだろうが、一抹の不安がブレイズの脳裏によぎった。