ふぇんりる氏 第九章:永遠なる者


FrontPage

Another story of ZI 第九章:永遠なる者(1) 「ふふふ、此処の事と、私のことが知りたいの?いいわ、教えても。だけど、 正直に答えてもあなたは納得しないでしょうね」  女は意味ありげに微笑む。ブレイズは、苛立ちを隠す様子もなく表に出し、 「納得しないも、何も、話せ!」  催促した。女は諦めたように、ため息をつくと、 「私の名前は、アリス=レイド。どこの国にも属さずにゾイドの研究をしているわ。 まず、話をする前に確認したいわ、あなたの名前は?」 「・・・、ブレイズだ」  ブレイズは、正体もわからない相手に素性を明かしては、と考え、ファースト ネームのみを教える。 「そう、・・・ブレイズね。で、ブレイズ、どこから話せばいいかわからないわ、あなたの 記憶の最後は?」  誘導尋問のように感じたが、ブレイズは、あえて乗ることにした。 「俺の乗っているゾイドが戦闘中に足場の氷山ごと崩れた。そこまでだ」 「そう、そしてあなたと、ゼロタイプのゾイドは氷海の中に沈んだ。そして、 それを回収し、保護したのは私と、この『フォートレス・ザウルス』よ。そして今、 海底にいるわ」  ブレイズの頭の中に聞いたことのない言葉が残る。 「『ゼロタイプ』『フォートレス・ザウルス』って言うのは、なんだ?」  質問にアリスは、しまった、と言う表情をする。 「『ゼロタイプ』って言うのはライガーゼロの試作機時代の開発コードネームよ。 ・・・『フォートレス・ザウルス』は、・・・私の守護者でもあり、牢獄でもあるわ。今、 あなたと私は『フォートレス・ザウルス』の中にいるの。後で、操縦室に案内するわ。 そうすれば納得するでしょう」  アリスは言ってから、自嘲気味に、少し、もの悲しい表情をした。努めて、明るく、 「あなたの『ゼロタイプ』、いえ、ライガーゼロはイクスタイプのCASね?そして、 あのスタンブレード、壊れていたけど、アニス=レード博士の提案事例を実施した物の 様ね。どうして乗っているの?答えてもらえなくては、あなたにゾイドは渡せないわ、 ガイロス帝国の軍人さん」  と、逆に制約をつけて質問をする。制服を見ればわかるだろう事を言葉の最後につけて、 圧力を掛けていた。 「・・・あれを開発した人間のことは知らない。ただ、あれに相性が良かったから乗っている。 それだけだ」 「そう、そして、もう1機の提案事例を実施したブレードライガーと戦った?そうね?」  アリスは、少し、人格が換わったようにプレッシャーを掛けてきた。ブレイズは、多少 気押されながらも、 「戦闘データを見たのか?その通りだ」  と、だけ答えた。その瞬間、糸が切れたように、アリスの表情が穏やかになる。 「そう・・・。わかったわ。じゃあ、あれを着て、操縦室に案内するわ」  アリスは部屋の隅においてある服を指差す。ブレイズの着ていた制服だった。 綺麗に折りたたまれていた。ブレイズは護身用の銃に細工がされていないことを確認し、 アリスが変な動きをしないように見ながら服を着る。アリスは少し微笑みながら見ていて、 ブレイズは気まずかったが、仕方がない。服を着終わり、銃を抜くと、アリスに突きつけ、 「まだ、信頼したわけではない、操縦室ではなく、俺のイクスのところに案内しろ!」  と命令した。アリスはため息をつき、 「・・・わかったわよ、付いてきて」  と、自らドアを開ける。ブレイズも間髪入れずにドアを抜ける。その先は狭い小部屋に なっていた。アリスはドアのところに有るボタンを押す。部屋が小刻みに揺れる。

Another story of ZI 第九章:永遠なる者(2) 「!!何をした!」  ブレイズは驚き、詰め寄る。アリスは冷静に、 「この部屋が移動しているの、少し揺れるけど、すぐに着くわ」  その間にも揺れは収まった。アリスはドアを開く。そこには暗闇が広がっていたが、 一瞬後、照明が点き、真昼のように明るくなった。目の前にブレイズの傷だらけのイクス ver.XBが「伏せ」の体勢で駐機していた。ブレイズは駆け寄ると、操縦席に乗り込み、 起動を確認する。サブモニターに「機体損害あり」と出るが、一瞥し、そのまま、 立ち上がらせる。残弾がある、小型スプレッドボマーをアリスに向け、脅す。 「ここから出せ!出さないと、撃つ!!」  しかし、アリスは、冷ややかに、 「撃てば良いでしょう。だけど、永遠にここから出れないわよ。それより、 私の話を聞いてもらえないかしら?そのあとなら近くの海岸に下ろすわ。約束するわ」 「仕方がない、力ずくだ!」  ブレイズの指がトリガーを引こうとした時、アリスは意味深に微笑む。 「・・・、力ずくって言うのは、嫌いじゃないのよ」  言葉が終わらないうちに重量の大きい黒い物が3つ、イクスver.XBの周囲を 囲むように落ちてきた。同時に、黒い塊が、咆哮を挙げる。 「ジェ、ジェノザウラーか?!」 背部にビームガトリングユニット、脚に8連ミサイル、頭部にレーザーガンを 装備しており、黒いアーマーにそれぞれが紫、赤、黄のベースフレームだった。 3機のジェノザウラーが3方向からビームガトリングユニットと8連ミサイルの狙いを 定める。 「・・・、クッ、こういうことかよ・・・」  ブレイズの額に、嫌な汗が流れる。今のイクスver.XBは、満身相違、更に1対3、 どう考えても不利だった。 『話だけでも聞いてもらえないかしら?』  再度、アリスが話し掛ける。いつのまにか眼前の、紫ベースのジェノザウラー 背後にある、マイク付きのスピーカー端末のそばに移動して、呼びかけていた。 「・・・、いいだろう。このままで構わないなら、な」 『・・・、信頼しろ、というほうが無理だったわね。わかったわ』  アリスは渋々話し出した。

Another story of ZI 第九章:永遠なる者(3) 『あなたは、アニス=レード博士を知らないようね。まずは、彼女の事を話すわ。 天才的ガイロス帝国軍技術士官として、工学博士号を若くして持ち、新兵装の開発設計を 担当していたわ。一方で、古代ゾイド人の遺跡の一つを研究していたわ。ある意味、 有名だった彼女は現在、公式には行方不明ということになっているけど・・・。ブレイズ、 あなたのイクスに装備されているエレクトロンドライバーver.XBなどは本来、彼女が 10年ほど前に提案した設計プランがあって、その当時の技術力では開発すらできなかった 代物だったわ。開発できない設計などは必要ない、と判断したガイロス軍司令部は開発を諦め、 設計自体が存在しなかったことにした。ここからは推測だけど、恐らく何かしらの拍子に その設計図を手に入れた誰かが設計しなおし、製作した物でしょう。本当に頭にくるわ、 人の物を横取りなんて・・・』  ブレイズはアリスの語尾の表現に、違和感を感じた。しかし、アリスは何事もないように 続ける。 『設計自体を闇に葬った、ガイロス軍司令部は他国の軍部に彼女自身と、彼女の頭脳が 渡ることを恐れて、彼女の抹殺を図ったわ。「使えないけど、他の国にも使わせない」 って、事かしら。彼女は、彼女の研究の特殊性ゆえに、軍施設や、都市から離れた所に あった古代遺跡に併設して研究所を持っていたわ。そこを軍特殊部隊が襲撃したの。 彼らは不穏分子を排除するという任務だ、と思っていたようね。そして、彼女を殺害し、 遺跡と研究所ごと、破壊したはずだった・・・。しかし、彼女は既にそのことを予見しており、 対策を講じていたわ。その一つが、遺跡で発見した大型ゾイドの設計方法と、 出力が通常より向上した半永久稼動の特殊ゾイド・コア―「エターナル・コア」と便宜上 呼んでいるけど、それらを併せて開発した「フォートレス・ザウルス」よ。そして、 自分自身の命は確保できなくても後継者を残すことを考えていたわ。それがもう一つの 対策は、彼女の分身をクローンにて作ることだったわ。ゾイド・コア自身を利用し、 その増殖技術を応用した人造人間を完成させたわ。そして、彼女の人格をコピーして擬似人格と して組み込んだ。だけど・・・』

Another story of ZI 第九章:永遠なる者(4)  アリスは、古傷が痛むような表情をし、 『出来た者たちは、生命体としては、不完全だったわ。私を含め8体の実験体の内、 残ったのは「ナンバー7」の私と「ナンバー8」のみ。そして、「ナンバー8」は、 人間に対する憎しみに溢れ、存在する人間を支配するか、滅ぼす気で画策しているわ』  そこまで聞いて、ブレイズは、信じられないという印象を持った。 「そんな、馬鹿な話があるか!証拠はあるのか!!」  ブレイズの言葉に、アリスは髪の毛をかき揚げ、右半顔をさらす。そこは、彼女の外見と は違い、金属のウロコのような物が仮面のように肌を覆っていた。 『これは、私が不完全な証拠。ゾイド・コアからのエネルギーを吸うか、人間との接触、 要は、あなた方が行う生殖活動と同じ事をすることによるエナジードレインでしか、 この症状を抑える手段はないの。そして、抑え切れなくなった時、私の体は、崩壊が始まり、 金属の塵と化すわ。この「フォートレス・ザウルス」の「エターナル・コア」からエネルギーを 吸っている限りは、ほぼ不死だけど・・・』  一息つくと、 『このことを、信じるかどうかは、あなたの自由。しかし、私はあなたに期待したいの。 野望を持った彼女を止める「鍵」として。・・・、あなたには、また会うことがあるでしょう。 それまでに考えて頂戴』  アリスの言葉と同時に、虫の羽音のような音が聞こえた。ブレイズは意識が消えるの に耐え切れなかった。