JOLT氏『ゾイド∞2on2 第5話 獅子と狼の闘いと……』


 闘いの開始を告げるべく、獅子と狼の咆哮がニビルに響き渡る。 「さて、コマンドストライカーの能力はどうなんだ?」 「あのねえ、開始前に聞いてくれよ。それに、少しは調べてみたらどうなのさ」 「お前が調べている以上、俺が調べる必要を感じないだけだ」 「ったく……。スモークはコマンドと同じ。ミサイルとキャノン……、っと!」  突如、上空から降り注ぐミサイルの雨をシロウのBLはかろうじて避ける。 「なにぃ?ウルフに打ち上げ式ミサイルだと?」 「クロウ!シールド張って!」  驚くクロウのSLの頭上には高速の弾丸が落下してきている。  しかし、突然の事態に反応が遅れたシールドは間に合わず、SLの装甲には 2発の弾丸が突き刺さり、1200ほどのダメージを受けた。 「くそ、なんだってんだ!」  とりあえず、獅子達はビルに張り付くように身を潜める。 「KWのスコープだよ。RWとCWが打ち上げ式に変わるんだ」 「つまり、さっきのは5味噌とデュアルか。えげつない能力だな、それは」 「コアブが無くなった分ガン逃げできなくなったけど、あれがあるから……」 「なるほど、ガン待ちができるわけだな」  その間も続いていた砲撃が止み、狼達が移動を始めるのがレーダーに映る。 「どうやら、ガン待ちじゃなく、最初の挨拶みたいだね」 「……おもしろい、なら何倍にもして返してやらないとな」 「激しく同意だね、それじゃ行こうか!」  白と黒の獅子は、ブーストを吹かしてビルの谷間を駈ける。 「度肝を抜くには、これぐらいはサービスしてみるかな?」  シロウのBLがブレードを一瞬だけ開き、加速する。  ステップ移動を駆使し、高速で走りつづけるBL。  速度が落ちた瞬間、またブレードを一瞬だけ開いて加速する。 「秘技、ブレード漕ぎ!」 「もう少し、いいネーミングは無かったのかよ……」

 呆れるクロウだが、確実にBLとの距離は開いていく。 「ENを考えると、無理に追いかけるのは得策じゃないな、ならばこうだ!」  SLは方向を変え、回り込むように市街を駈け抜けて行く。 「なんとか、こっちに追い込め!誘い込んでもいい!」 「簡単に言ってくれてもう。2体相手になるんだけどなあ」 「それぐらい、期待してもいいだろう?信頼してるぜ、相棒」 「へいへい、お世辞に乗ってみせますよっと!……ほえ?」  KWはBLに接近してくるが、CSはSLの方に向きを変えた。 「どうやら、1on1を希望のようだな。当分は付き合うか」 「了解。ただ、少しずつ誘い込んでみるよ」 「ああ、こちらも努力してみよう」

 BLがビルの角を曲がった瞬間、KWの5味噌の弾幕が視界に広がる。 「うわっとっと!」  辛うじてシールドで受け止めるが、ENゲージが3分の2以上消費された。 「やばやば!こっちも反撃だ!」  BLは8味噌、ショックカノン、ハイデンをKWに発射するが、直前のビ ルを曲がられてしまう。  全ての射撃は赤い家に突き刺さり、爆煙が上がる。 「うーん、やっぱ厳しいなあ。接近戦は5味噌がやばいしなあ」  言いつつも、シロウのBLはKWの後を追う。 「まあ、このまま行けばクロウのところまで行けるでしょ」  ビルの角を曲がった先には、視界を遮る黒い壁。 「うわっと!2連マルチ?」  慌ててブレーキをかけたが間に合わず、プラズマの電撃が800ほどのダメ ージを与える。 「やばいよ、このステージでこのパターンは……、こうなったら!」  シロウは、レーダーを見ながら地形を記憶から呼び出し始めた。

 その頃、クロウのSLはCSを目視で捉えていた。 「さて、准将機体のポテンシャルを見せてもらおうか!」  SLは、挨拶代わりとばかりにDCSと3連衝撃砲を発射する。  しかし、CSはあっさりとステップで両方を回避した。 「なるほど、CWのステップ性能は変わらずか、おっと!」  お返しとばかりにミサイルとキャノンがSLに接近するが、クロウは冷静に シールドで受け止める。 「あのミサイル、小型と中型が2発ずつか。実弾WBだな、まるで。キャノン はハイブリッドに弾速が似ているな。しかし、実弾ばかりなら、こうだ!」  SLはシールドを展開したままブーストを吹かす。  対してCSも、ブーストを全開にして突っ込んでくる。 「血迷ったか?シールドはウルフじゃ飛びこせんぞ!」  接触の寸前、CSのザンブレイカーが輝きを発した。  輝く刃は、シールドを貫通してSLに突き刺さる。  交差した後、地に伏したのはクロウのSLだった。 「なにぃ!」  さらに、追い討ちのミサイルと格闘がSLのHPを奪っていく。 「シールド貫通の格闘武器か、洒落にならんな。さすがは准将機体だ」  起き上がったSLは、距離を取るべく走り出す。

「たしか、この先なんだけどな……」  シロウのBLは、傷つきながらもKWを追いかけていた。 「よっし!このコースなら!」  BLは、ブーストを吹かしたまま角を曲がる。 「クロウ!そっちに行ったらSDしてるから、フォローよろ!」 「おいおい、まさか?」 「そのまさかだよ!行けぇ!ブレードツイスター!」  BLが、白い竜巻と化してビルの谷間を飛翔する。

 途中のプラズマがHPを奪うが、ダウンまでには至らない。  逃げようにも、ここは長い直線で裏道もない。  ガードも間に合わず、KWは吹き飛んだ。  SLの少し手前に、BLが着地する。 「お待たせ!」  SDしたBLにミサイルとキャノンが接近するが、SLがシールドを展開し かばいきった。  ステップしたSLの影からBLの8味噌が飛び出す。  その瞬間、CSは光輝く盾を展開し、すべてを防いだ。 「Eシールドだと!ならば!」  SLがDCSと2連ビームを発射し、シールドを貫通されたCSは転倒する。 「まったく、無茶しやがって」 「信頼してるからね、フォローしてくれるってさ」 「……むず痒くなるような事を言うんじゃない」 「照れてる照れてる」 「やかましい!それより担当交代だ。KWには対物理の方が向いている」 「そうだね、CSはノーマルのEシールドだからいけると思う」 「この間合いなら担当も臨機応変に行くしかないんだがな、一応だ」 「ほいほい、それじゃ行こうか!」  シロウのBLは、CSに向かって走り出す。  クロウのSLは、KWに張りつくように接近する。  BLはザンブレイカーをステップブレードでかわしながらCSを切り裂く。  KWは5味噌とデュアルを発射するが、SLのシールドに全て止められた上、 シールドアタックに無力にも転倒する。 「よし、いいペースだ!」  起き上がったCSはシールドを展開しながら突っ込んでくるが、BLは8味 噌、ショックカノンと立て続けに撃ちこむ。  BLの直前で、CSのシールドは消滅した。

「ノーマルのシールドだと、SDしちゃうんだよね、残念でした!」  動きの鈍ったCSの足元に、赤い波紋が輝く。  波紋が消えた時、BLがCSの周囲を周り、ブレードで斬りつけた。 「投げなんて、対戦で使うのひさしぶりだなあ」  さらに、ショックカノンとハイデンを追い討ちで撃ちこむ。  CSは黒煙を上げ、動かなくなる。  その時、残り時間が0となった。

「ふう、1セット先取か」 「でも、やっぱり強いね。判定なんて、あの姉妹以外は初めてだよ」 「ああ、ニビルだという事もあるがな」 「さて、次はどうしようか?」 「ニビルの特性を最大限に利用するのがおもしろそうだな」 「なるほど、またアレでいくわけだね」 「普通は当たるものじゃないからな、利用できるものは利用するだけだ」 「了解。それじゃ、行ってみよう!」

 第2ラウンドも、KWのスコープ射撃から始まった。  しかし、獅子たちはブーストと歩きをこまめに切り替えながら避ける。 「ふ、分かっていれば当たるような攻撃ではないな」 「……あのさ、1ラウンド目も情報知ってれば当たらなかったんだけど?」 「過去を気にしているようでは、前進はないぞ」 「反省しないようでも、前進はないと思うんだけどなあ」  アホなやりとりの間にも、KWとの距離が詰まる。  その直前には、CSが立ちはだかっていた。 「ふ、王は王妃を守るべく、ってところか」 「そう言えば、カップルなのかな?」 「さあな、倒してから相手を見てみるとするさ」

「それもそうだね。それじゃ、突っ込むよ!」 「了解だ。こちらは射撃控えめになるので、しっかり頼むぞ」 「任せといて!」  BLは、8味噌を放ちながら真っ直ぐ駈けていく。  CSはステップで回避しながらミサイルとキャノンを放つが、BLはシール ドを展開しノーダメージで接近する。 「ザンブレイカーを使うつもりだろうけど、こうだ!」  ザンブレイカーを輝かせたCSを、BLは飛び越える。  虚をつかれたCSにSLのDCSと3連衝撃砲が命中し、転倒した。  BLが着地した瞬間に、ハイデンとショックカノンがKWに突き刺さる。  KWは慌てて5味噌とデュアルを放つが、BLはそれもシールド展開しなが ら数発を受け止めつつ、大多数はジャンプでかわして着地した。 「いくぞ!」  BLのブレードが煌き、KWが転倒する。  HBしたBLは、SLとで狼たちを挟む形になっていた。  そう、チーム名『The Rebersi』のように。

「さて、一段階目は成功だな」 「うん、うまくいったね。ただ……」 「ん?何かあるのか」 「KWもCSも、追加された特殊技をまだ出してないからね」 「ああ、そう言えばそうだな。どんな技なんだ?」 「CSは突撃系、KWは投げなんだけど……」 「なんだ、両方シールドで防げるじゃないか」 「あ、それ、って来た!」  CSとKWがスモークと2連マルチを撒きながらBLに接近する。 「く、スモークのせいでロックができん!」

 さすがのクロウでも、誤射を恐れてトリガーを握れない。 「一人でなんとかしてみるよ!それより、回り込んで!」  KWとCSの全火力がBLに襲い掛かる。  ステップで回避を試みるが、赤い家の壁にBLが接触してしまう。 「くそっ、ニビルじゃ全部はかわしきれないか!」  辛うじてシールドの展開が間に合うが、SDしてしまった。  そこへ、CSがすさまじい速度でザンブレイカーを輝かせて突撃してくる。 「HAHAHAHAHA、ザンブレイクですゼー!」  筐体の反対側から響いてきたのは、陽気な大声。  なんとかガードが間に合ったが、BLはかなりのダメージを受けた。  その斜め前に、KWが現れる。  一瞬の白い波紋の後、BLの装甲にKWの電磁気を帯びた牙が突き刺さった。 「ふふ、エレクトリック・ファンガーの切れ味はいかが?」  筐体の反対側から聞こえてきたのは、よく通る鈴の音のような声。  BLは、電撃に包まれて地に伏せた。 「よし、生きてる!今だよ、クロウ!」 「まかせとけ!DCSマックスファイアー!」  回りこんだSLが、赤い家に向かって光の帯を放つ。  赤い家は閃光に包まれた瞬間に消滅し、その向こうにいた狼たちを包み込む。  光が消えた後には、BLのみが立っていた。  二人の画面に『WINNER』の文字が表示され、白と黒の獅子が勝利の咆 哮をニビルの空に響かせる。  一瞬の攻防で、戦いの幕は閉じた。

「ふぃー、起き上がりの無敵時間で良かったよ」 「しかし、KWもCSも、なぜに動きが鈍ったんだ?」 「あの技は、両方ともSDしちゃうんだよ。特殊技だからね」 「なるほどな。……待て、と言うことは彼らは勝ちを捨てていたのか?」

「違うよ。オレのUrano Earthを、先に倒すつもりだったんだよ。 それなら、なんとかなると思っていたんだろうね」 「ああ、それなら納得だ。さすがに、1対2では勝てないだろうからな」 「きっと、あっさりと勝ったって見えるんだろうね、ギャラリーには」 「そんな事はないのだがな。ウルフの装甲の薄さから決着が早かっただけだ」 「まあ、そのへんはクリアーしちゃってからの話ということで」 「そうだな、さっさと終わらせるか」

 十数分後、二人はCPUをクリアーし、席を離れた。(当然ながら、誰も乱 入してこなかった) 「さて、さっきのパイロットたちは、と……」 「あの人達じゃないかな?」  見れば、小柄な金髪の男性と、背の高い黒髪の女性が近づいてくる。  年齢は、二人とも30代前半ぐらいだろうか。 「HEY!キミたちガ有名な『The Rebersi』だったとはネ!」 「素晴らしい戦いでしたわ、久しぶりに負けてしまいました♪」  笑顔で手を差し出す二人に、シロウとクロウも笑顔で手を差し出す。 「いやいや、こちらこそ充実した戦いができた」 「そうだね、ギリギリの戦術をとるハメになっちゃったのは久しぶりだよ」  その声に、ギャラリーの中からざわめきが起こる。 (おいおい、ストレートで勝ったってのにか?) (しかも、2セット目は60秒かかってなかったぞ?) 「そう言っていただけると、嬉しいですわね♪」 「あの時、BLさえ倒せていれバ、2セット目は勝てると思ったのですがネ」 「でも、赤い家が壊せるのをうっかり失念しちゃってましたの♪」 「Mistakeでしたヨ、まったく」  言いながらも、二人は明るく笑う。 「あれも、シロウの立ちまわりがあったからこそだがね」

「そう言ってもらえると、なんとか動かずにいた甲斐があったと思えるよ」  シロウは、満足げな笑みを浮かべる。 「俺としては、立ち往生というのも絵になったと思えなくもないのだが」 「あのね、いくらアンタが九郎だからって、オレは弁慶じゃないっての」  真剣な顔のクロウに、ジト目を向けるシロウ。 「HAHAHA、聞いていたとおりですネ、二人とモ」 「そうですわね、イメージどおりです♪」  ますますニコニコする二人に、クロウは怪訝な顔を向ける。 「誰から俺たちの事を?」 「ふふ、それはですね……」  その時、自動ドアが開いて大きな声が響く。 「モウ、オ父さん、オ母さん!晩ゴハンぐらい作ってから出かけてクダサイ!」 「……ルーシアちゃん、声大きいよぉ、恥ずかしい……」 「Sorry、ルーシア」 「たまには、娘たちの手料理を食べてみたいじゃないの♪」 「……お母さん、自分が料理できないの棚に上げてる……」 「ほ、ほほほ……」 「「お、おいおい!」」 「あ、シロゥさん、クロゥさん!ナントカ言ってクダサイですヨ!」 「……ルーシアちゃん、わけわからないと思うのだけど」 「あ、自己紹介もしてませんでしたわね♪わたくし、二人の母の流美です♪」 「ボクがAlexander、ニックネームはAlex、二人のFather ですネ」  ニコニコと話す二人を見ながら、シロウとクロウは固まっていた。 (おい!20歳前後の娘がいるこの二人は、一体何歳なんだ?) 「……クロウさん、私達の両親と対戦していたんですか?」 「あ、ああ。強いな、君達の両親だけはある」 「クロウさん、このコったらね、家ではいつも♪……モゴモゴ」

「あーあー!お母さん!ストップ!」  いつもからは想像できないような大声を出しながら、ルカがルミの口を 押さえる。  その顔は、真っ赤に染まっていた。 「あー、なんとなく分かったけど、そう言う事なのかな?ルーシアさん」 「アハ、シロゥさん鋭いですネ、そう言うコトだと思いますヨ」 「単に、クロウが鈍いとしか思えないんだけどさ」 「……さっぱり分からん」 「分からなくていいよ、今はね」 「気付いテないのですカラ、教えないのですヨ」 「むう、気になるが追求はしないでおくか」  生暖かい笑みを浮かべるシロウとルーシア、理解できていないクロウ。 (はぁ……)  その光景を見ながら、ルカは心の中で溜息をついた。

「そうだわ♪シロウさん、クロウさん、夕食一緒にいかが?」 「OH!Good ideaですネ!」 「オ母さん!作るのハ、ワタシたちなのですケド」 「……いいじゃない、ルーシアちゃん。私が頑張るから」 「うーん、まあそれならワタシもガンバルですヨ」 「決定ですネ!」 「さ、行きましょう♪お腹空いちゃった♪」  スタスタと歩き出す親子たち。 「……俺たちの意見は聞かれていなかったと記憶しているのだが?」 「まあ、いいんじゃない?晩飯浮くしさ。アンタが足りるか心配だけど」  仕方なく、つられるように歩き出すシロウとクロウ。

 そして、運命を変える晩餐へと舞台は移る……。