【質問】 日露戦争の旅順要塞攻防戦で投入されていた海軍重砲隊は,もし野戦に投入したとしても有効だったの?


 【質問】
 日露戦争の旅順要塞攻防戦で投入されていた海軍重砲隊は,もし野戦に投入したとしても有効だったの?
 『軍備拡張の近代史』だと,攻城戦オンリーだった重砲が,野戦で有効な兵器だと認識されたのも,日露で欧米が得た教訓だったそうだけど.

 【回答】
 要塞に対しては海軍の砲は有効だけれど,野戦向きではないよなぁ.
 孫引きだけれど,大砲大好きソ連赤軍の「赤軍砲兵操典」の,野戦における砲兵隊の射撃要領(大砲の効率的な撃ち方)によると,

『完全断面の散兵壕及び重援蓋』を破壊するためには,2mあたりにつき152mm砲弾ならば15発〜20発.

『特に堅固なる地下掩蔽部』に対しては,280mm〜305mm砲弾を50発

『べトン援蓋部,機関銃トーチカ,砲塔』に対しては,一目標に付き203mm〜228mmを60〜80発,距離が離れた場合150発

とあるにゃ.
 貧乏な日本陸軍には,これほどの投射量は無理なんじゃないかなぁ.

 また,着弾観測の問題もある.
 時代が少し進んだ第1次世界大戦で,砲の運用に一番熱心だったイギリスでさえ,信頼できる着弾観測は,
「丘に上ったベテラン観測員が,メガホン+大声で伝達」
だったりする.  WW1で着弾観測に飛行機を使おうと考えた英国海軍も,天候不良で飛行機飛ばせなかったくらいだし,日露戦争で着弾観測するといってもなぁ.

 そんなこんなで,重砲だからって射程が伸びて凄いとかにはならないし,相手砲座や鉄条網に「ちゃんと」当たれば,重砲じゃなくても威力十分だし,それなら,小回りが利いて回転率が高くて弾も沢山用意できて遮蔽も簡単な,普通の野砲のが億万倍使いやいわけですよ.

 さらに言えば,奉天会戦の頃の日本軍は相当厳しい砲弾不足と,無理矢理増産した砲弾の品質が悪いという,二重の問題に苦しんでた.
 そこに新しい砲兵隊を持ってきても,手持ちのタマを撃ち尽くした後は,他の部隊と同じ事になる.

 ちなみに戦前の日本は一応,「砲兵戦術講授録」という砲兵教典の中の1項目,「外国軍砲兵の用法」という項で,各国軍の砲兵運用について書いている.
 日本だって金がないなりに,ちゃんと「研究だけ」はしているのよね.

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附録 外国軍砲兵の用法

通則 

 外国軍砲兵の用法は其編成,装備に基くもの多きが故に之を明に知悉するを要す 

 然れども編成,装備に関しては 各国共機密事項とするを以って茲に説述する能はざるを遺憾とす 

 依って以下其公刊せる典範に依り 主として世界大戦に最も関係深き独,仏,露(ソ連邦)軍砲兵に就き比較研究して以って他山の石たらしめんとす 
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 良い事書いてあるのに,あまり実践出来ていない部分もあるのが,日本らしいというか.
 大砲火力で押すイメージのあるソ連軍でも,小目標に向けては精密射撃するよ,ってちゃんと書いてある.
 「イ,撲滅射撃」の赤軍の項目は,結構参考になります.

軍事板,2011/12/09(金)〜12/11(日)

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