ふぇんりる氏 第二章:「銀騎士」との遭遇


ブレイズ達の見逃したゼネバス兵達は、彼らにとって幸運、ブレイズ達にとっては不運にも、 ゼネバスの「銀騎士」こと、カジム=ハイターの率いる部隊に保護されていた。 作戦用の野戦テントの中から声が聞こえる。
「ふむ、貴様達の言うことが正しければ、最近、噂話に上る『蒼いイクス』がいたということか。 ‥‥どうした物かな」
 カジムが悩む仕草を見せたところ、
「この場合即座に追撃すべきか、と。恐らく撃破機体を鹵獲している為、その場に留まっている 可能性があります!カジム様のお力があれば『蒼いイクス』ですら脅威ではないでしょう!」
 保護されたゼネバス兵が自分の敵を討ってもらおうと必死に訴える。
「愚か者め!!そのような相手の実力を見くびるのがそもそも貴様らの敗因だ。出て行け!」
 ゼネバス兵はカジム部隊の兵士によって引きずられて行った。
「カジム様、彼らのいうことにも一理ありますが、即座に回収、もしくは鹵獲をあきらめ、 戦闘位置から離脱している物かと。恐らく自軍の陣地に十数km移動したと考えるのが妥当でしょう」
 カジムの右腕と称されるコリー=アートが進言する。
「‥‥貴様もそう思うか。良かろう、『蒼いイクス』の力、儂が見極めてくれる。コリー、続け!」
 カジムは意を決したように自機に向かう。周囲の兵達は彼が決めたら止めるだけ無理なことを知っていたので誰も制止しなかった。尤も、「銀騎士」と呼ばれている彼の実力を知っていれば誰も制止しないだろう。カジムとコリーの駆る2機の銀色のロードゲイルが数分後、銀の矢のように出て行った。

ブレイズは仮眠用にとあてがわれたグスタフに牽引されたトレーラーの仮眠室で仮眠を取っていた。
仮眠室とはいっても、殺風景な部屋に数基の簡易ベットが設置されているのみだった。
ふと目を覚ますと、毛布と胸の間にさらさらした重いものがある。そういえばティアとの一戦後だったっけ、 ブレイズは一人、ニヤける。しかし、それを打ち破る様に警報がなる。手近のインターホンを取ると、 ビルが慌てた声で、
『さっきの戦闘現場にブービートラップで指向爆薬を何基か、と対ZOIDS地雷を数基仕掛けてきたんだがね、 どうやら引っかかったヤツがいる。野生ゾイドか何か、とは思うが、用心に越したことは無いだろう。 移動するから準備してくれ』
「わかった。‥‥一つ頼みがある‥‥」
 ブレイズはビルの手際のよさに感心しつつ、同時に一つ提案をした。
『‥‥なるほど面白いな、わかった、5分でやるよ』
「頼んだぞ!」
続いて、簡易ベッドで未だ寝ているティアを起こす。
「なぁに?まだやるのぉー?好きねェ♪…」
 寝ぼけているティアを再度揺らして、
「敵襲だ、敵襲!!」
 と聞かせる。寝ぼけていたティアの顔が引き締まり、すばやく起きると、 ベットの周囲に散らばる衣服をつけ、身支度をしながら、 「何機?」
 と、問う。ブレイズは首を左右に振りながら、
「確実じゃないが、ビルのオモチャに引っかかった奴がいるようだ。用心して移動する」
 ブレイズとティアは仮眠室を飛び出すと、各自の機体に向かう。 整備員がアイドリングをしていてくれたおかげで、パワーゲージは安定していた。 ティアは既に稼動していた高性能レーダージャマー(HPRJ)に続いてアンチジャマー レーダー(AJR)を稼動させる。光点が2つ徐々にこちらに向かってくる。
「こちらに向かってくる光点が2つ。機種までは特定できないけど、恐らくゼネバスか へリックね。どうする?」
 AJRの情報をブレイズのイクスver.XBにリアルタイムで送りながら、問い掛ける。 今現在、護衛部隊を含め最も上官はブレイズだった。彼に決定権がある。
『とりあえず、護衛部隊とビルたちには先に行ってもらおう。どっちにしろこの移動 スピードでは追いつかれる。足止めをしないとグスタフじゃ追いつかれる。こちらは手負いだが、 レーダーが利かないながらも相手はこちらを探しているようだ。付け入るならそこだ』
 ブレイズは手短に作戦を説明する。間もなく、グスタフと護衛部隊のセイバータイガーが先行し、続いてブレイズのイクスver.XBとティアのシュトルムが移動した。

十数分後ブレイズ達の立ち去った広場に2機の銀色のロードゲイルが姿を現した。
「彼らはここにいたか‥‥。先程のブービートラップといい、撤収の手際といい、 なかなかやるようだな。恐らくレーダーが使えなくなっているのもジャマーを掛けて いるからだろう。だが、まだそう遠くには行っていない筈」
 キャンプの跡を見てカジムが判断した。
『カジム様、移動の痕跡を見つけました』
 コリーが移動後を発見した。
「よし、追いかけるぞ。トラップには気を付けてな」
 カジムとコリーが移動を開始し、広場を出た時、広場に仕掛けてあった数基の指向性 爆薬が炸裂した。それを確認しながらカジムは笑う。
「愚策をしたな。我々が痕跡を発見する前だったら、もしくは広場にいるときだったら 効果的だったが、意味は無い。コリー行くぞ!」
 と、進みかけた瞬間、後方の爆炎を切り裂き、蒼いイクスver.XBがダッシュで駆け寄り、クロスブレードを一閃する。2機ともブレードを受けたが、咄嗟にガードをしたカジム機は装甲の一部を吹き飛ばされ、コリー機は右手とそこに在ったエクス2連キャノンを斬り裂かれていた。2機がよろよろと立ち上がり、イクスver.XBに向き直ったとき右側の林の中で光が煌めいた。
「荷電粒子砲だ。かわせ!!」
拡散荷電粒子砲が2機のロードゲイルをなぎ払う。しかし、カジムの叫びで2機とも間一髪かわしていた。

『危ないところだった。貴様はシュトルムの相手をしろ。「蒼いイクス」は任せろ!』
マルチチャンネルレシーバー(MCR)で2機のロードゲイルのパイロット達の会話を 聞きながら、
『流石に当たらないか』
 敵方の話を聞きつつ、ティアの言葉にブレイズは答える。
「相手があの『銀騎士』じゃ厳しい。どっちが本物か影かわかるかい?」
『わかるわけ無いでしょう!両方とも銀色だし‥‥』
「ハイデンをつけているのが本物だ!右手を斬られた影を頼む!」
『本当でしょうね!逆だったら二人してあの世逝きだわ』
「どっちにしろ大して、変わりないが‥‥な。どうやら、こちらと同じ作戦らしい。 来るぞ!!」
 ティアの言葉が返る前に、カジム機はイクスver.XBに8連ミサイル、続いて、 ハイデンシティビームキャノンを撃つ。コリー機もシュトルム改に向けてヘビーマシン ガンを乱射する。同時に8連ミサイルで足を止め、両機とも相手に間合いを詰めていく。 得意の近接で片をつける気らしい。
「喰らう物か!‥‥ちぃぃ!」
イクスver.XBはステップを連続してミサイルを1発、右前脚の付け根に喰らい、アーマーの一部が剥離するだけでかわし切る。
『ほぅ、流石に上手く操る。だが、詰めが甘い!』
しかし、間合いを詰めてきたカジム機が右手の鋏でなぎ払う。イクスver.XBは着地と同時に四肢を踏ん張り、受け止めると密着状態でカッターフェアリングを発動し、ガード状態のカジム機を地に叩き付ける。
『グゥ、まだまだ!!』
すぐさま爪で切り裂こうとするが、カジム機は一瞬早く起き上がり、バックステップをし、エクスキャノンを叩き付けようとする。
『かわせるかな!』
ブレイズはためらいも無くイクスver.XBを突っ込ませる。
「喰らえーッ!」
イクスver.XBはクロスブレードを展開するとその初速を生かして左前側にステップし、 カジム機をその刃に捕らえようとした。 『面白い!!』
カジム機は間に合わないと判断するや、左手の二叉の槍を突き出す。2機が交差し、 両機とも転倒する。ブレイズはサブモニターで機体状況を確認する。画面には下腹部の 一部が黄色に点滅しており、同時に破壊されたか、吹き飛んだか、2連ショック キャノンの信号が消えたことが示されていた。戦闘は続けられるが、かなり 機体状況は悪い。
「クッ、下腹装甲中破か、ショックキャノンもやられたか、マズイな。奴は?」
 カジム機は立ち上がろうとしていた。ティアの方はコリー機を火力に物を言わせ、 一方的に攻撃してかなり有利だった。

「なかなかやりおる。これだけ損害を受けるとはな」
 カジムは機体の状況を示すサブモニターを見て顔をしかめる。ハイデンシティビーム キャノンと左腕がまったく機能していなかった。コリーのほうはシュトルム改の火力に 対して近寄れずに一方的に押されていた。決定的なダメージを受けたわけではないが、 エクスキャノンが無ければ火力のあるシュトルム相手は、流石に無理か、カジムは判断すると、後退の信号弾を撃つ。同時に周囲に8連ミサイルを乱れ撃ち、土煙を舞い上げる。 起き上がったイクスver.XBが掻き消える。カジムは広場を後にして後退する。コリー機も続く。
シュトルムの拡散荷電粒子砲、ウェポンバインダー、イクスver.XBのエレクトロンドライバーが追撃するも、全てをかわした。
「周囲を撃て!」
カジムの指示で2機はリロードされた8連ミサイルを再度、周囲に撒き散らす。 木々が吹き飛び、煙幕効果とともに追撃を抑止する障害物を作り出す。
その障害物と煙幕を盾に2機は後退した。シュトルム改とイクスver.XBもそれ以上 追撃する気は無いようだ。カジム達が後退するのを見て彼らも姿をくらました。