ふぇんりる氏 第四章:ブリザードの中の狙撃


永久雪原ストラスはあいにく冬季のブリザードが吹き荒れていた。今度の作戦で ブレイズは不安ばかりだった。弾薬、武装の補給都合で今回は違う武装に換えられて しまった。例えば、彼の機体―イクスver.XBには使い慣れた2連ショックキャノン ではなく小型スプレッドボマーが、相方のティアのシュトルム改はエクスブレイカーと アクティブシールドは新品になっていたが、高圧濃硫酸砲を3連衝撃砲に換装されていた。
補給部門に抗議はしたが、あちらこちらで小競り合いが起きており、物資の不足は深刻だった。
更に大きな不安要素があった。
『ティア御姉さま、何も見当たりませんね。見つからなくては何にもできませんわ』
 ティアに似た声だが口調は穏やかながら、毒が在った。ティアの妹アリアだった。
『当たり前よ!こんな広い雪原で探すのが任務なの!それよりあなた方はスナイパーが 任務でしょ。私達と同道していて良いの?』
 ティアとアリアは姉妹と言えど、不仲だった。詳細はわからないが、最初からこんな具合だと先が思いやられる。ブレイズも、アリアのパートナーのローラも同感だった。二人の言い合いはこんな具合で出発時から続いていた。苛立ちをぶつけるようにローラが、
『いい加減にしなさい!!作戦予定地区は雪原といってもこの先のクレバス点在地点よ。 アリア、挑発する暇があるなら、目視周囲警戒は?ティア、レーダー索敵とジャミングは やっているわよね。ついでにスナイピングに最適な地点を前方0時方向2キロ先、周囲30 メートルの範囲に絞って検索!』
 指示を出す。本来なら指揮官のブレイズを差し置いての越権行為だが、ブレイズは黙殺 することにした。
『・・・前方、2時方向1キロ先に敵機らしき反応があるわ。数は・・・2機ね。0時方向に 向かっているわ。周囲3キロに敵影は他にはないわ。どうするの?』
 ティアの索敵結果にブレイズは、
「もちろん、叩く。だが距離がありすぎる・・・どうした物か」
 即決をしたが、手段が無かった。敵機との間には白いカーテンが視界を遮っていた からだ。狙撃しようにも目視ができなくては射線が通らない。そこに、ローラが、
『中佐!私が狙撃するわ。よろしいか?』
「いけるのか?だが、視界が遮られているぞ?!」
『それなら何とかなりますわ。どういたします?』
 ブレイズとローラの会話にアリアが割り込んできた。ブレイズは少し考えると、 腕を見るにはいい機会と思い、
「わかった、任せる」
 決断を下した。

『了解!』
『了解しましたわ』
 二人が返事をすると、ローラは手近の大岩の上に陣取り、乗機のケーニッヒウルフS (スナイパー)に「伏せ」の体勢を取らせると、頭の上のスコープを下げた。
『ティア、レーダーの情報を短距離レーザー通信でリアルタイムに提供して』
『了解』
 ティアは短く答え、ケーニッヒウルフSへ短距離レーザー通信回線を繋ぐ。
 一方、アリアは機体背部のスラスターを吹かし、敵機の方向に突進した。すぐに白い カーテンがアリアのジェノブレイカーの姿を隠した。
『ガイロスきっての狙撃名手といわれる腕とそのパートナーの実力、見せてもらいま しょうか』
 ティアがつぶやく。ブレイズは反応しなかった。しばらくして、レーダー上でアリア機が 敵機の索敵範囲ギリギリまで接近する。その瞬間、ローラのケーニッヒウルフSの背中に 装備されているロングレンジレーザーライフルが数回発光し、レーザー弾を撃ち出す。
『まさか、本当に撃った?!でも、当たるの?』
 ティアが驚愕する。ブレイズも同様だった。しかし、敵機の2つの光点の内、 1つが消えた。そして残ったもう1つにアリア機を示す光点が急接近し、接触し、 消し去った。
『終わったわ。中佐、どうします?』
 ローラが機体をすばやく起こし、構えつつ、聞いた。
「・・・あ、ああ、アリアに合流しよう」
 ブレイズは彼女らの手際の良さに感心しつつ、命令した。

アリアは敵機の反応地点に愛機のジェノブレイカーを迂回しながら走らせる。
ローラの狙撃の為の射線を確保し、敵機の注意をそらした状態での攻撃の布石だった。
自機のレーダーの索敵範囲には映らないが、先程のティアのデータを元に現在の敵機の 位置がサブモニターに表示される。アリアは誰ともなしにつぶやく。
「ティア御姉さまのデータだけど活用させてもらいましょう」
ほぼ予測位置に敵機がレーダー上に表示された。アリアは限界一杯まで速度を上げ、 光点に突進する。疾走していたコマンドウルフとライガーゼロがこちらに向く。
同時に高エネルギーのレーザー弾が数発、眼前を通過し、敵機に接触して派手な光を発した。
コマンドウルフ胴部をレーザー弾が貫通し、吹き飛ばし雪の中に叩き込む。
半ば埋もれて機能を停止した。レーダーに映る敵機のうち1つの光点が消える。 ライガーゼロは被弾をものともせずにこちらに向かってくる。しかし、アリアは右に ステップしてその爪を避けると、自機のエクスブレイカーの爪を容赦なく頭部に叩き込む。 爪を引き抜くとライガーゼロは崩れるように倒れこんだ。

敵機の消えた地点にはアリア機が佇んでいた。その足元には頭部をエクスブレイカーの爪で破壊され、右肩にビーム痕のあるライガーゼロが倒れていた。更にすぐ脇の雪の吹き溜まりには、ビーム痕が3条、胴部の中心部と頭部を抉り、機能を停止したコマンドウルフが雪に埋もれるように転がっていた。
『皆さん、遅かったですわね。この通り敵は排除しましたわ』
 アリアが報告する。ブレイズは、
『ああ、実力はわかったよ。これなら支援役でも十分いけるな』
 と、感心した。しかし、ティアの心境は微妙だった。仲の悪い妹をブレイズが誉めている。
面白くは無かった。
「作戦予定から少し遅れているわ。いきましょう!!」
 少し語気を荒げて一同を急かす。実際に余計に時間がかかっていた。
『・・・そうだな、今回は救援が目的、急ぐに越したことは無いな』
 ティアの不機嫌を感じたか、これ以上こじれると、作戦行動に支障が出ると判断したのか、ブレイズが行軍を指示した。相変わらずブリザードが吹いていたが、移動するにつれて、吹き荒れていたブリザードが急に静まり、視界が開けた。データ通り、永久雪原ストラスは起伏の少ない雪原で所々に巨石が幾つか―大きい物は大型ゾイドが隠れることができるくらいの規模から1メートルくらいの物が―白いのオブジェとして散在していた。ブリザードが収まった為、レーダーの有効範囲が一気に広がる。10時方向5キロ先に共和国機特有の信号―恐らく敵機だろう―の反応が散開して6つ、その更に1キロ先に極めて弱いが味方らしき反応が1つあった。どうやらその1つに対して包囲しつつあるようだった。
「敵機6、10時方向5キロ先に散開、ターゲットらしい反応1、10時方向6キロ先、 敵機は包囲隊形を取っています」
 ティアの報告にブレイズが即座に判断した。
『10時方向6キロの反応はターゲットと判断する。ティアは俺と速やかに敵機の排除に 向かう。ローラ、狙撃ポイントを確保して敵勢力の削除、アリアはローラの護衛を。 ローラ、後の判断は任せる』
『了解、狙撃ポイントを確保します』
『了解しましたわ』
「了解、こちらは約90秒後に敵に接触する見込み」
ティアが自機の移動速度を元に計算する。
 二隊に分かれ、ローラとアリアが進行方向から少し外れ、狙撃ポイントを確保しようと した。
『・・・狙撃ポイント、確認・・・狙撃は20秒後からできます』
 距離が離れたせいか、通信に多少ノイズが入る。ブレイズは構わず、言い放つ。
『狙撃可能になったら狙撃開始!』
ブレイズとティアは先程よりも速度を上げ、ほぼ限界速度で白い雪原を、 蒼と赤い矢のように疾駆した。ほぼ時を同じくして狙撃体勢を取ったローラ機の ロングレンジレーザーライフルからもレーザー弾を撃ち出された。