ふぇんりる氏 第五章:「蒼雷」の誕生


白い雪原を、蒼と赤い矢が走る。2本の矢の行き先には6機の共和国のゾイドがいた。
ナイトミサイルを装備した黒いゴジュラス1機とビームキャノンを背負った青いシールド ライガーが2機、そしてライガーゼロのCASの1種シュナイダーを装備した白いゼロ シュナイダーが1機、赤の装甲のものと合わせて3機散開していたが、一斉にブレイズ= ドレッセル中佐のイクスver.XBとティア=シュラー少佐のシュトゥルム改に向き直る。
「散開するぞ!」
『了解!』
ブレイズとティアは意思の疎通を一瞬で済ますと、6機からの火線を、速度を落とさず にステップの連続でかわす。散開して空いた隙間を6本のレーザー弾が通過する。6本の レーザー弾はシールドライガー1機とゼロシュナイダー2機襲ったが、シールドライガーと ゼロシュナイダー各1機づつを各坐させたに過ぎなかった。指揮官機らしいゼロシュナイダーを 襲った火線は咄嗟のステップによってかわされていた。
『遠距離からの狙撃か?!気をつけろ!散開して攻撃する!』
と、そのゼロシュナイダーのパイロットが叫ぶ声が無線に入る。
『ローラからの支援狙撃はこれまでね、どうするの?』
 ティアは努めて冷静に言っていたが、声が震えていた。ローラの機体の遠距離狙撃は 6発が限度でシステムダウンを起こす。加えて、以前に見たデータに間違いなければ、 あのゼロシュナイダーと『白兎』の機体は合致する。ブレイズにもウグルス少将の 『間違いなく歴戦の兵らしい。戦うこともあるだろう、十分気をつけることだ』という、 忠告が脳裏に蘇る。迷いを振り切るように、
「相手が誰であろうとやるしかない」
 ブレイズが喝を入れる。しかし、そのうちにも赤と白の2機のゼロシュナイダーが ブレイズのイクスver.XBに肉薄していた。

 ティアの方にもシールドライガーが襲い掛かる。ティアは引き付けてからウエポンバ インダーを発射する。しかし、シールドライガーはEシールドを展開し、ダメージを 最小にしつつ、シールドアタックを仕掛けてきた。
『御見通しよ!』
 ティアは時間差で目くらましに3連衝撃砲をシュトゥルム改に発射させると、シールド アタックの圏外にステップして逃げる。そこにロングレンジからのナイトミサイルと 8連装ミサイルが降り注ぐ。数発被弾し、転倒するシュトゥルム改。
『くたばれ!ガイロスの犬め!!』
追い討ちとばかりに接近しつつ、ビームキャノンを発射するシールドライガー。だが、 ティアはすばやく機体を起こすとサイドにステップし、ゴジュラスの射線上に文字通り 盾のようにシールドライガーを捕らえると、エクスブレイカーで串刺しにする。シールド ライガーからエクスブレイカーを抜くと同時に至近距離で拡散荷電粒子砲を撃ち、シールド ライガーもろともゴジュラスを破壊した。
 距離を縮めてきた2機のゼロシュナイダーに対して、相手の狙いは時間差もしくは同時の ブレード攻撃と踏んだ、ブレイズはその場で牽制の小型スプレッドボマーを撃ち出す。 さらに爆風でフォーメーションを崩す2機のゼロシュナイダーに負けず距離を縮める。 爆風回避のため逸れた軌道を修正しつつ左右から交差するように2機のゼロシュナイダーが ブレードを展開し、接近する。
「ここだ!」
ブレイズは交差するタイミングを勘で図り、それより先にブレードを展開し、その加速で 交差前の隙間を通り抜ける。尻尾のアースコンデンサーが抜け切れずに斬り裂かれ、 弾け飛んだ。構わずハイパーブレーキを即座に掛けると、赤のゼロシュナイダーに エレクトロンドライバーを撃ち出し、更にステップしながら、再装填の済んだ小型 スプレッドボマーを叩きつけた。背後から襲い掛かる電撃と、小型スプレッドボムに 赤のゼロシュナイダーはなすすべもなく、破壊される。しかし、白いゼロシュナイダーは ステップして射線を取らせないように距離を稼ぐと、不意にハイパーブレーキで振り向き、 ブレードスラッシュを撃ち出す。ステップの着地のタイミングを捉えられて、 イクスver.XBは右のフェアリング部分を吹き飛ばされ、転倒した。更に追い討ちをかけようと 接近する白いゼロシュナイダーの足元に3連衝撃砲が穴をうがつ。ステップで後退する白いゼロ シュナイダーだが、すばやく起き上がったイクスver.XBは小型スプレッドボムを撃ち込み、 更に後退をさせる。その隙にティアとブレイズは合流する。
『・・・、やられてしまったか・・・。さすが、噂の「蒼いイクス」か。1対2では分が悪いな。 あの方の御手を煩わしたくなかったが、仕方がない・・・』
 白いゼロシュナイダーのつぶやきが聞こえると、腹部の2連ショックキャノンを手近の雪が 被った巨岩に叩きつける。爆発と共に小規模の雪崩が起こる。
「くっ、雪崩を起こしたな。この隙にターゲットを確保するぞ!!」
ブレイズとティアは雪崩を避けつつ、1キロ先の味方らしき反応に向かう。
『あの「白兎」は離れていくわ』
 ティアがレーダーで確認しつつ、報告した。今回は高性能レーダージャマー (HPRJ)を使っていないのでブレイズの機体のレーダーでも確認はできた。
「多分、戦力を引き連れてくるつもりだろう。長居は禁物だ。急ぐぞ!」
 ブレイズ達は目的に近づく

『シモン=ミカムラ中尉か?こちらはガイロス帝国軍第2機獣師団特務遊撃隊所属ブレイズ =ドレッセル中佐だ』
 接近してくる蒼いライガーゼロイクスと赤いシュトゥルムに身構えていたシモンは 警戒を解く。
「あんた、まさか『蒼雷』か?助かったぁ・・・。俺はてっきりお終いかとあきらめていた が、ね」
 シモンの安堵の声にブレイズは怪訝な反応をした。
『「蒼雷」って何だ?』
シモンはそれに気づき、答えた。
「『蒼雷』って言うのはあんたを示すコードネームさ。まだ、公式には出回って 使われていないが、情報部では使っているのさ」
『・・・そうか』
 ブレイズは納得したようだ。同時に接近してきた赤いシュトゥルム改のティアが、
『「蒼雷」って言うのかっこいいわね。でも、急がないと、「白兎」が追ってくるわ。 自走できそうね?』
 ティアが、シモンのセイバータイガーS(スカウト)の状況をモニター越しに見ながら 確認する。
「ああ、何とか動けるよ。・・・あんたが『蒼雷』のパートナー、赤いシュトゥルム改を駆る シュラー少佐かい。今度、御茶でもどうです?・・・って、今『白兎』って言ったのか?!」
 シモンは慌てる。
『そうよ、白いゼロシュナイダー。だけど、今は一時撤退って所かしら。早く移動したほうが いいわ。彼はデータ通りなら恐るべき相手でしょ』
 ティアがシモンを押さえ込むように言う。
「わかったよ。移動しよう」

 シモンは納得して、乗機のセイバータイガーSをブレイズ達の機体と共に移動させる。 しばらくして、
「・・・緊急事態下だから軍規を破るが、俺の掴んだ情報では、今の『白兎』は以前と 同様の白いゼロシュナイダーを駆ってはいない。話にあった白いゼロシュナイダーは多分、 機体は本人のだが、乗っている人間は別人の筈・・・。今『白兎』の名を継承した人間は 違う機体に乗っているようだ」
『何ですって!!』
 緊急事態とはいえ、「情報部が調べた情報は情報部以外では一部の将官しか知っては ならない」という軍規を破ってまでも、忠告したシモンの言葉にティアが反応した。
『じゃあ、あの白いゼロシュナイダーは一体?本当に「白兎」と呼ばれる人間は・・・?』
 ブレイズが口にした疑問に、
「多分あんたらの言っているのは、かつての『白兎』の機体を譲り受けた男かも 知れない・・・。それ以上は悪いが、だんまりだ。確実性のない情報なんで、な。とりあえず、 このことは軍には黙っていてくれ」
 シモンは付け加えた。重い空気が流れた。その重い雰囲気を振り払うように、ブレイズは ティアに命じた。
『このまま来た方向を戻ったのではさっきの白いゼロシュナイダーとほとんど同じ方向に進む ことになる。ローラ達がいるだろうが、彼女たちも今回の任務は敵の殲滅でないから無駄な戦闘は 避けるだろう。比較的安全と思われるルートを検索してくれ』
『了解!でも、ローラはともかく、アリアの性格だと「無駄な戦闘」もやりかねないかもね』
 ティアは軽口を叩きながら検索を実行した。
『駄目、データが少なすぎるわ。どうするの?』
 ティアがため息混じりに言う。今回の作戦に関してある程度の地理データは用意したが、 予測作戦地域を外れる形になっている為、データが不足していた。
「・・・なんだったら、俺もデータを持っているのだけど。まぁ、参考になるだろうよ、 送るよ」
 沈黙を守っていたシモンが口を開き、新しい地理データを他の2機に送った。
『なるほど・・・。多少危険性があるかもしれないが、海岸線へ迂回して、凍結している だろうレスダト海峡を行くのがベターかもしれない』
 ブレイズが判断した。
「確かに、それはいい手だね。奴らとて、陸戦用の機体が海へ進路をとるとは思わない だろうし、下手に大部隊でも投入すれば、みんな、ドボン!!まあ、まっとうな指揮官 なら考えないわな」
 シモンの半ば皮肉とも取れる言葉に眉をひそめたが、ブレイズは努めて、静かに指示した。
『海岸線と海峡経由で脱出する!!』