R氏作品「追憶」


R氏作品「新たなる力」

編集前ログです。

56 名前:追憶〜伝説の始まり〜:2004/09/27 17:31 ID:kIsZsc3A

「まったく……一週間という期限をつけたのは俺だが、仕事の量が多すぎやしないか?
 とても終わるとは思えん。」
コンビニに止めた4WDの中で、マスターはDrへの定期連絡を行なっていた。
「たしかに、一週間にしては無理な仕事です。でも、期限を決めたのはあなただ。
 私が用意しておいた仕事の内容を聞く前に期限を決めた貴方が悪い。」
普通なら、期限に合わせて仕事の量を減らしそうなものだが、Drにその気はまったく無かった。
自分の計画通りに事が進まなければ気のすまないタイプのようだ。
「……もし、仕事が終わらなかったら?」
「もちろん、彼の場所はお教えしません。一週間以内に終わらせなかった場合でもね。
 …もしよろしければ、期限の延長申告、承りましょう。どうです?」
「……いや、いい。一刻も早く奴と戦いたいからな。多少辛くても、やり遂げてみせるさ。」
受話器の向こう側から、楽しげな笑い声が聞こえる。
「強情な人だ。実に貴方らしい。実に、ね。では、また後ほど…。」
その言葉を最後に、電話は切れた。
「…ちっ、これなら深夜トラックのほうがまだ楽だ。」
そう吐き捨てたマスターは、買っておいたコーヒーを一気にあおり、深夜の道路に車を走らせた。
「しかし、こうでもしなきゃ奴の居場所はつかめん。奴と戦えるならば、安いものだ…。」
そうつぶやくマスターは、どこか懐かしげに、楽しげに目を細め、思い出していた。
天才と呼ばれた彼との出会いを。そして、人に何かを教えることの無かった自分が
初めて弟子をもったことを。
「確かあの時は、台風が来ていた時だったな…。」
伝説は、激しく降りしきる雨の中、人知れず始まった。

静かに…   激しく…    壮大に…
60 名前:追憶 第二話:2004/09/27 23:11 ID:kIsZsc3A

台風の影響か、その日のゲームセンターに来店する客は少なかった。
わざわざずぶ濡れ覚悟でくるほど酔狂な奴も数えるほどのようだ。
そんなゲーセンの一郭に、体格のいいGO使いが一人、初心者マークつきのLZに乱入していた。
「え?!何!?」
乱入された青年は驚いて周りを見回した。見ると、目つきの鋭い男が座っている。
視線に気付いた男が、睨みを利かせる。青年は完全に萎縮してしまった。
結果は言うまでも無く、GOの勝利に終わった。完膚なきまでに大敗した青年は、
すごすごとその場から去っていった。ベンダーにカードを通すことも無く…。
「…ふん。」
男はつまらなそうにCPU戦に入った。ただ何の気なしにはじめたこのゲームも、
ただキャノンを当ててさえいれば勝てるつまらないゲーム。そんな考えが男にはあった。
「もったいないなぁ、折角良いもの持ってるのに。狩りなんかやってないで、たまには
 本気の勝負してみたら?」
急に、後ろから声がした。見ると、青いカッパを着た青年がそこに立っていた。
今尚滴り落ちる雫が、来たばかりだという事を物語っている。
「……文句あるか?」
男は鋭く睨み付ける。
「喧嘩なんかするつもりは無いよ。ただ、対戦しに来たんだ。ゾイドでね。それと、
 君に負ける気もしない。ただのキャノン厨の君にはね。」
男の眉がピクリと動いた。自分に対してここまで強気に、しかも挑発までしてくる奴は
そういなかった。挑発してくるのは、喧嘩に自信のある奴位だった。しかし、目の前のこの男は
とても強そうには見えない。
「…そこまで言うなら、対戦しよう。望みどおり、本気で戦ってやる。」
男はシートに向き直った。
「今の君の本気…か。まぁ、あまり期待しないけど、よろしく頼むよ。」
「…いちいちつっかかる奴だな。さっさと乱入してきたらどうだ。」
61 名前:追憶 第三話:2004/09/27 23:13 ID:kIsZsc3A

「言われなくても、すぐにやるよ。そう焦るなって。」
青年はカッパをシートの横に脱ぎすて、箇体にカードを通した。
「さぁ、楽しもうか。」
画面が暗くなり、挑戦者が現れたことを告げる。お互いの所属国家が表示され、
機体名とPNが表示される。
「アグレス…か。いい名前だな。」
青年は、隣に向かって話し掛ける。
「…ふん。貴様のよりはそうだろうな。お前のPNはなんだ?読み方がわからん。」
青年のPNは K.LEO と表示されていた。
「クレオ、とでも呼んでくれて構わない。他の読み方もちゃんとあるけど、
 こっちの読み方のほうが浸透しててね。」
アグレスは少々怪訝そうにクレオの目を見る。
「好戦的なのか、友好的なのかわからん奴だな。女みたいなPNも使っているし…。」
「クレオ・パトラか?ははっ、お前案外おもしろいなぁw」
クレオは楽しげに笑う。相手のペースに巻き込まれつつあるアグレスは、少々疲れてきていた。
「…始まるぞ。」
「ん?ああ、そうだな。場所はフォボス要塞か。」
アグレスのGOに対するクレオの機体は、LZだった。普通なら、誰もがGOの勝利を予想するだろう。
だが、事の一部始終を遠巻きから見つめる男の予想は、全く逆の物だった。
「あのクレオとかいう男…。もし、あの噂の主なら、あのGOに勝ち目はない。弱いGO使いではないが、
 戦い方を知らない。……高みの見物といこうか。」
そういって、箇体に歩み寄る男の背中には、雄々しい鷹の絵が刻まれていた。
2体のゾイドの咆哮が響き渡る。クレオの目つきが、急に鋭いものになった。
「……いくぞ。」
クレオの口から発せられたその声には、今までの軽い感じは微塵も感じられなかった。
本物の天才…。その実力を、アグレスは目の当たりにすることとなる。
そして、傍観に徹する男は確信する。クレオこそが自分の探し求めていた男だという事を。
62 名前:追憶 第四話:2004/09/27 23:46 ID:kIsZsc3A

試合開始と共にLZは素早く建物の影に隠れ、建物の裏側を伝いながらGOに接近していく。
「接近戦を有利に持っていくためだろうが、そうはさせない。」
LZの向かってくる反対の方向に、GOは走り出した。GOが建物の影に入ろうとした瞬間、
急に真横から炸裂音が響き渡った。
「!? 何!?」
見ると、GOのHPが減少している。すぐさまHBしたアグレスの目に飛び込んできたのは
信じられない光景だった。建物の影から顔をのぞかせるLZの姿が、そこにはあった。
しかも、その距離はLZではロックできるはずのない距離だった。だが、LZの放った弾丸は
確実にGOを捕らえていた。クレオのとった行動は、通常ではありえないことだった。
「まさか、最初の建物の影に隠れたのはフェイク!?」
アグレスはこのとき初めて恐怖を覚えた。
クレオは建物の影に隠れた後すぐさま反転し、建物の影ギリギリに手動で照準を合わせ
、デュアルスナイパーライフルとショックカノンを一斉射撃したのだ。
「あの置きは、相手の行動がわかっていなければ出来ない。そして、わかっていても
 こんな芸当ができる人間はまずいない。どうやら、本物のようだ。」
男の顔がみるみる笑顔になっていく。
「…LZが建物の影に隠れれば、お前が建物の影に隠れることはわかっていた。
 お前のような奴は、馬鹿みたいに突っ込んでは来ないからな。弾速の早いDSR
 なら、当たるだろうと思ったのさ。」
クレオはさも当然のように言ってのけた。相手の動きの先を読む能力。撃ちたいところに
ノーロックで撃てる正確さ。そして、その決断力の速さ。それらを兼ね備えた人間を人はこう呼ぶ。
「天才…か。見つけたぞ…!」
アグレスを圧倒するクレオ。この技でさえ、クレオにとってはたやすい事だった。
建物の影に再び隠れたLZの咆哮が鳴り響く。
「さぁ…ショータイムだ!!」
光る爪を携えた獅子が、猛然と走り出す…。
66 名前:追憶 第五話:2004/09/28 20:36 ID:gYV0tCbI

「やけを起こした…かな?案外もろいな。」
迫りくる弾幕を軽々と避け、LZはGOのすぐ右横を通り過ぎようとした。
「! そこだ!」
アグレスは零距離キャノンを当てるべく、すぐさまHBを入力した。
だが、アグレスの目に映るはずのLZの側面部はそこには無かった。
真正面からGOを見据えるLZが、そこにはいた。
「動きが単調なんだよ。お前は。」
LZの光る爪が、横にスライドしていく。LZはGOよりすこし早いタイミングで
HBし、右にステップしていた。慣性のついたGOの体の上に、ちょうどLZがひっかかる形になった。
「喰らえ…。」
ガードする隙を与えることも無く、GOの頭上からそれは振り下ろされた。
GOの装甲が、まるで紙のように切り裂かれていく。
「なるほど。相手ゾイドの体に乗ることで、発生速度を極限にまで高めたか。
 しかも、あの威力はハイパーストライククロー。5秒もあれば、奴なら確実に
 当てられるか…。」
残り時間は40秒もあるというのに、両者のHPの差は歴然としていた。
「もう少しやると思ったけど、これまでだな。」
LZが倒れているGOの後ろにつく。
「さっさと終わらせようか。すでに、次の対戦相手も控えてるようだしね。」
クレオは後ろに視線を移した。男と目が合う。
「…ふん。」
男の手には既にカードとコインが握られ、乱入する準備は整っていた。
「………」
アグレスにもう勝機は残されていない。アグレスの体から放たれていた闘気は、すでに
感じられなかった…。
73 名前:追憶 第六話:2004/10/03 23:04 ID:nl5e1Xk2

外に降りしきる風雨は、より一層の激しさを見せる。
来訪者を拒むように、誰もその場から逃がさぬように……。
2人の勝負は、すでに決着がついていた。一度も優勢に立てぬまま、
アグレスは負けたのだ。生まれて初めて味わう、絶対の敗北。
アグレスの手は、無意識に財布へと伸びる。
「やめておけ。今のお前では、何度やっても同じ事だ。」
男の言葉に、アグレスの手が止まる。悔しかった。その通りだと、自分でわかっていることが。
アグレスはゆっくりとシートから立ち上がった。そして、言葉を発せぬまま立ち去ろうとした。
「ちょっと待てよ、アグレス。負けたらそれで終わりなのか?違うだろ?確かに今のお前じゃあ
 俺に勝てない。でも、強くなるチャンスを、自分から捨てるつもりか?これから自分よりも
 強い奴等の対戦が見れるんだ。その技を盗んで、自分の物にするくらいの根性は、お前には
 無いのか?」
アグレスの足が止まる。様々な音が交錯する店内だというのに、風の音が酷く響いた。
「…どのみち、ここまで天気が荒れていては帰れまい。」
男が外を見やり、呟いた。男は既に、クレオの隣のシートに腰掛けていた。
「たとえ一人でも、ギャラリーがいるほうが盛り上がる。見物していったらどうだ?それと…」
男が微かに笑う。
「お前なら、この戦いを見ることで確実に強くなれる。」
この男もまた、アグレスの才能を見抜いていた。クレオとの対戦でボロボロに負けていたGO
を見て尚、才能があると言い放つ。余程の眼力を持っていなければここまでのことは言えないだろう。
「…わかった。立ち会わせてくれ、この対戦に。負けたままではいられない。俺はもっと、強くなりたい…!」
今まで死んでいたアグレスの目に、再び生気が宿る。そんな彼を見て、シートに座る二人が顔を見合わせる。
「この先、面白くなりそうだ。そう思わないか?クレオ。」
「ああw…そういえば、あんたは誰だ?なんで俺を知っている?」
クレオが最もな疑問を投げかける。初対面のはずのこの男が、何故自分の名前を知っているのだろうか?
「噂のLZ使いを追って、ここまで遠征してきた。PNはマスターだ。…よろしく頼む。」
二つの伝説の邂逅は、一つの才能開花の手助けとともに果たされた。ここから、すべてが始まる…
74 名前:追憶 第七話:2004/10/03 23:04 ID:nl5e1Xk2

CPU戦を進めるクレオに、マスターが乱入する。
「さて、マスターさんの機体は何でしょう、と。」
クレオが画面を見つめる。その目に映ったのは、GJだった。しかも見る限り、キャノンさえ付いていない。
「…?俺を探していた奴にしちゃあ、随分機体が貧弱じゃあないか?」
少し不満の色を含みながら、マスターの顔を見るクレオ。噂に名高いLZ乗りを探すくらいなら、相当の
熟練者のはずだ。それが何故、あえてキャノン無しのGJで挑むのか。クレオは正直わからなかった。
「…その機体、狩り人を懲らしめる為の機体だろう。俺が聞いていた限りでは、あんたの本気の機体は
 LXのはずだ。LZ乗りとはいっても、それはLZシリーズすべてを指す。そう聞いていた。事実、さっき
 あんたは本気ではなかった。動きが少しぎこちなかったからな。」
クレオは驚いた。さっきの対戦は、普通の人から見れば十分上手い部類に入る。本気と言えば遜色の無い
プレイだったはずだ。それを、マスターは本気でないと見抜いた。事実、久々のLZで少し動きが鈍っていた。
「だから、俺も趣味で作った羽根付きのGJでお前に挑んだんだ。これなら、互角だろう。…不服か?」
そう言われた途端、クレオの顔がほころんだ。
「いや、十分だ。そこまでいうなら、あんたの腕も相当なはずだ。存分に楽しませてもらうよ。それに、
 ナイトミサイルは弱いわけじゃない。十分驚異だよ。やりがいがある。」
その返答に、マスターも笑顔になる。
「退屈は、させないさ。…始まるぞ。」
場所はシドニアだった。2体のゾイドの咆哮が、奈落に吸いこまれる。
「……」
「……」
途端に、二人が無口になる。見ているアグレスにまで、ピリピリしたムードが伝わった。
クレオの目つきが再び鋭くなった。彼の気迫があたりを支配していく。しかし、マスターにあまり変化は感じられなかった。
それどころか、緊迫した空気を感じていないかのような、とても穏やかな顔つきだった。
「俺の気迫に動じないか。おもしろい…。」
2人のレバーを持つ手に力が入り、2体のゾイドが走り出した。
88 名前:追憶 第八話:2004/10/12 01:23 ID:lyWXjJaw

LZは台座から降りると、すぐに移動を止めた。
「…ふむ」
GJはわざわざ旋回して、台座側面部から降りていた。そして、外周をなぞるように移動してきていた。
「あの位置なら、中央付近よりは置きに対しての的が一番小さい。考えたな。」
LZの砲身がGJに向く。まだロックはしていない。
「だが、それが命取りだ。そこは回避行動が1番とりにくい。先手はもらった!」
DSRから砲弾が放たれた。しかし、それと同時にGJからもミサイルが放たれてきた。
「そんなノーロックのミサイルに当たるような俺じゃない。甘く見るな!」
LZはすぐさまステップして回避しようとした。ミサイルはLZの横ぎりぎりを通り過ぎていく。
しかし、ステップの高さが一番高くなった瞬間、LZにレーザーが三発当たった。
「何!?」
GJはミサイルが放たれた直後、LZがステップする方向にレーザーを放っていた。斜めを向いた分、
置かれたDSRは一発しか被弾しなかった。そして、最終的にHPはGJの方が上回っていた。
「外周を走れば、置く時に自分も必ず外周にいなければならない。ならば、ステップは両者とも
 壁の反対側にしか出来ない。それなら置くのは簡単だ。」
GJが静かに止まる。
「…俺に遠距離戦で勝とうと思うな。LZなら、それらしく格闘戦でも挑んで来い。得意なのだろう?」
マスターの発した言葉は、掻き消されることなくクレオに届いた。
「へぇ、やるじゃないか。わざわざ遠征してくるだけのことはある。…その腕に敬意を表して、
 本気で行かせてもらう!!」
LZが咆哮を上げる。ハイパーストライククローを発動させたのだ。GJは、それを止める気配を
見せない。それどころか、逆にブーストを吹かしながら近づいていく。
「お前の本気で動く5秒間、見せてもらおう。それを撃墜する事は、二つとない強さの証となる!」
咆哮が止まり、LZの爪が光り出した。
「ここまで強い奴に、初めて逢った気がするな…。しかも、わざわざクローを潰さないで格闘を
 挑んでくる奴も、初めてだ。…後悔しても遅いからな!」
89 名前:追憶 第九話:2004/10/12 01:23 ID:lyWXjJaw

LZが走り出したことを確認したマスターは、ショックカノンとマシンガンを撒きながら突進した。
「ちっ、それがどうしたぁ!!」
クレオは前に進むことをやめなかった。ブーストを吹かしながらステップしたLZは、転倒こそ
しなかったが、ダメージはそこそこ喰らってしまった。そして、そのままGJの右側面に回り込み、
格闘戦を仕掛けられる間合いに入った。しかし、
「やらせん!」
射撃しながら減速していたマスターは、側面を取られながらもロックマーカーを黄色にしていた。
GJはあさっての方向を向いたまま尻尾を振り回した。だが、流石と言うべきか、クレオはそれを難なくガードする。
「そう何度もダメージをもらってられないからな。そろそろこっちの攻撃も喰らってもらおうかぁ!!」
LZはシドニアの中央側から格闘を繰り出した。GJは当然のようにガードするが、そこからは動けそうになかった。
「直撃は避けさせてもらおう。たとえダウンしても、大ダメージを受けるよりはましだ。」
続けざまに放たれた二撃目の爪もガードしたマスターは、次にくるであろう三撃目の爪に備えた。
しかし、LZはそこからブーストを一瞬吹かし、ショックカノンを当ててきた。
「何!?」
ブーストの余波で前に出たLZはGJの後ろに移動していた。それを認識したマスターは最速でHBを行なった
「わざわざ間合いを開けるとは、浅はかだったな!」
LZに向き直ったGJは、すぐさま全ての武装を発射しようとした。だが、LZは爪を振りかざしながらすぐ目の前にまで迫っていた。
「速い…!?」
ガードをしようにも、すでにショックカノンとマシンガンが放たれてしまっている。しかも、それら全てが
発射途中な上に、ほとんど当たっていなかった。
「お前にも味あわせてやるよ。俺のLZの光る爪を!!」
LZが右から凪ぐように放った格闘は、ギリギリでGJに当たった。その瞬間、LZの爪から光が消えた。
「ジャスト五秒。今度は俺がリードだ。」
その後の追撃をあわせて、今度はLZがHP上でリードしていた。
「…坂の高低差を利用して通常よりも距離の長い格闘を出したのか。だから、HB直後のGJに格闘が当たった…。
 侮れないな。お前という奴は…!」
マスターのレバーを持つ手に力が入った。
「この遅れはすぐに取り返す。このままで終わると思うなよ…。」
90 名前:追憶 第十話前編:2004/10/12 01:25 ID:lyWXjJaw

その後の試合展開は、LZの独壇場だった。自分のペースに戻そうとするマスターだが、絶妙のタイミング
で回避と格闘を繰り返すLZがそれを許さなかった。時には、GJから放たれた弾を受けながらも強引に攻め
たてる場面もあった。マスターにペースを戻させるほど、クレオは甘くなかったのだ。その流れが最後ま
で続いて、1ラウンドはクレオが勝利した。ただ、LZのHPもまた、1000を切っている状態では逢ったが…。
「…強い。」
1セット取られたというのに、マスターは気落ちすることもなく画面を見据えていた。
「噂通りだ。LZでここまで動けるのだから、LXはさらにすごいのだろう。まったく、恐ろしくさえあるな…。」
1セット目を制したクレオも、一瞬の気の緩みもなくレバーを握っていた。
「あいつ、さっきは様子見のような動きがいくつかあったな。…最初から本気で行くのはまずかったか?」
2体の咆哮が鳴り響き始めた。
「…クローの発動はかなり制限されるな。だが、それだけだ…!」
試合開始と共に、LZは今度は正面から台座から降りた。坂の中腹辺りから走って近づこうとするLZの目の前に
三本のレーザーが迫ってきていた。マスターが先手を打って置いてきたのだ。
「…っ!中々うまく置いてくるじゃないか!」
LZそれをジャンプでギリギリ避けた。しかし、着地した瞬間、今度はミサイルが飛んできた。
91 名前:追憶 第十話後編:2004/10/12 01:26 ID:lyWXjJaw

「くそっ!次から次へと!」
すぐさまステップして回避するクレオだが、一発は避けきれず被弾してしまった。
「誘導している!?もうそんな近くにいるのか!?」
見ると、GJはすぐそこにまで迫ってきていた。その両腕からは、すでにショックカノンとマシンガンが
発射されていた。ステップ直後に重ねられたその攻撃を、クレオは避けきれずに転倒した。
「いいタイミングで全ての武装を撃ってくるな…。これはそう簡単には近づけないか…。」
倒れるLZを見下ろし、マスターは表情を変えずに追撃を入れる。
「先ほどは、随分手痛くやられてしまったな。光る爪のお礼に、今度はGJの与える抜けられない恐怖を
 堪能してもらおう。…逃げられるとは、思わないことだ。」
立ち上がったLZは、後ろを見ずに距離を離していった。そして、ある程度走ったところでようやくHBした。
しかし、またもその目の前にレーザーが置かれていた。GJは、離れるLZを追おうとはせず、レーザーを置く
位置にまで移動していたのだ。クレオの顔に、初めて焦りの色が見えた。
「近づけないどころか、離れては勝機がない。久々に、厄介な相手だ…。」
「もう一度、あえて言おう。逃げられると思うなよ…!」
静かな殺気を帯びたGJが、マシンガンをばら撒きながら走り出した。
109 名前:追憶 第十一話前編:2004/10/13 23:37 ID:5Kl70YLs

「逃がす気はない…か。なら、俺の取るべき先方は1つだ!!」
クレオは放たれた弾丸の雨を坂を駆け上がりながら避けた。
「上に逃げただと?端まで行けば俺が有利だと忘れたか!」
GJは駆け上がるLZを狙撃することなく追い立てた。今撃てば、確実に全て避けられることを、マスターは
わかっていた。クレオという人間には、それができる。
「たとえ後ろから攻撃しても、ジャンプでもされたらほとんどが地面に当たる。奴なら、それを
完璧にこなせるだろう…。ならば、奴と同じ外周ラインに立った時こそ攻撃のチャンスだ!」
LZが坂の頂上付近に差し掛かろうとしたとき、マスターはあることに気が付いた。LZの右前方に、スタート時
に乗っていた台座があったのだ。
「!! 奴はわざわざ追い詰められるような場所に逃げるようなミスはしない。乗り上げる気か!?」
マスターの読み通り、LZは台座の真横に向かっていた。
「ここで目の前から消させるわけにはいかん。何としてでも止める!」
マスターはミサイルとレーザーを一斉射撃させた。しかし、その瞬間にジャンプしたLZによって
それはことごとく回避され、LZは台座の上を走り向こう側に着地した。LZとGJは、台座をはさんで
睨み合う形になった。
「気付くのが遅れて対応が間に合わなかったか…。だが、HPは俺が十分リードしている。焦ることはない。」
LZの取る行動に対応しやすいようにマスターはGJを後ろに下がらせた。その瞬間、聞きなれたLZの咆哮が響き渡った。
「突っ込んでくる気か?その判断が失敗だったという事を、その身をもって教えてやろう!」
GJは台座を回り込んだ。しかし、その目の前には走ってきているはずのLZの姿はなかった。しかし、LZの
走る足音だけは聞こえる。
「…!? 上か!!」
それに気付いた時、LZはGJの頭上にいた。台座の上から高く飛び上がったのだ。着地したLZはGJの真後ろでHBした。
「逃げ切れないか…!だが、ガードはできる!」
マスターがレバーを倒した瞬間、LZが飛び掛ってきた。
110 名前:追憶 第十一話後編:2004/10/13 23:38 ID:5Kl70YLs

「ここで守りきれば、もうお前に逆転のチャンスはない!俺の勝ちだ!!」
LZの爪がGJに届いた…かのように見えた。
「…甘かったな、マスター。俺は坂の下から格闘を出したんだ。届くはずがないだろう?」
クレオの言葉に嘘はなかった。LZの爪はGJの背中ギリギリで空を切っていた。
「何!? しまったぁ!!」
走り出そうとしたGJだが、台座の角に引っかかり、一瞬動きが止まってしまった。
「まさか…ここまで計算していたのか!?」
「いけぇ!ライガー!!」
クレオの言葉と共に、光る爪を携えたLZが天高く飛び上がった。GJの頭上から幾筋もの光が注ぐ。
「ジャンプ近接…だと…。」
HP上で優位に立っていたGJだがこの攻撃でわずかに逆転されてしまった。
「万が一、ガードを入力されてもこれなら問題ないだろう。
 …今日はよくゴジュラスの頭を狩る日だな…あぁ、そうそう。」
クレオは思い出したようにマスターの方を向いた。それに、マスターも気付いた。
「逃げられると、思うなよ?」
「!?」
クレオが悪戯っぽく笑った。しかし、その目からは一片の油断も感じられない。自らの言葉をそっくり
そのまま返されたマスターは、悔しさからかレバーを持つ手が少し震えていた。しかし、深呼吸した直後に
それは治まった。
「見くびるな。逃げるつもりなど毛頭ない。ただ、攻めるのみだ…!」
GJは起き上がった直後に最速でHBした。
「気が合うねぇ。俺もだ!」
LZが走り出した。その爪からは、もう光は発していなかった。
111 名前:追憶 第十二話一編:2004/10/13 23:39 ID:5Kl70YLs

「そう簡単に格闘を出せるとは思わないことだ。この間合いで避けきれると思うな!」
GJは実弾兵器を一斉射撃した。
「かまうかよ!最終的に転ばなければ良いんだ。喰らいやがれぇ!」
ミサイルやマシンガンを数発被弾しながらも、LZはステップしてGJに空中で密着した。そのわずかな隙間から閃光がほとばしった。
「DSRとショックカノンの接射か!」
普通あれだけ攻撃が当たればLZはとっくに転んでいる。それが倒れもせずに弾幕を抜け、尚且つ接射までこなしている。
「影付き、か。だが、これならどうだ!」
GJが間髪いれずに尻尾を振り回す。しかし、LZはそれをガードした。
「いいタイミングで格闘入れてきたな。だが、まだ遅い!」
LZは爪を横薙ぎに振るう。GJもまたそれをガードする。
「そう何度も喰らう俺ではない!今度は俺が攻め勝つ!」
「させねぇよ!」
長い格闘戦が、始まった。

「…すごい…」
後ろで黙って見ていたアグレスが初めて口を開いた。格闘戦が始まってからすでに20秒程たとうとしている。
両者の攻防は目まぐるしく変わるばかりか、どちらも今だダウンしていない。そこまで激しく動いているにも
かかわらず、2人のレバー操作はとても静かで確実だった。
「…立ちたい…あの高みに…俺も…!」
アグレスの胸に、言い様のない感情が込み上げてきた。闘争心にも似たその感情は、今尚続く格闘戦を見る
たびに大きくなっていった。

「残り時間も少ない…か。ならば、ここで決めようか!!」
斜め後ろからのガードしたマスターは、GJを坂の中腹に向けて走らせた。
「間合いを開けた!? 逃がすかぁ!!」
112 名前:追憶 第十二話二編:2004/10/13 23:40 ID:5Kl70YLs

クレオは坂の上からピッタリとGJの真横につけた。
「これで最後だ!!喰らえ!!」
旋回して坂の上に向いたGJは実弾兵器を断続的に発射した。
「望み通り当たってやるよ!だが、倒れるのはお前だ!!」
LZが弾幕を突き破り、爪を振り下ろす。
「…まだだ!」
HBしたGJが尻尾を振り上げる。
「くっ…!先に当てろ!ライガー!!」
「やらせるな!GJ!!」
爪が、尾が、咆哮が、暗いシドニアに交錯した。その一角から衝撃音が鳴り響き、黒煙が立ち上がった…。

長かった戦いに、ようやく決着がついた。しかし、勝者の雄叫びはまったく聞こえてこなかった。
「…引き分け…か。」
「…ああ。」
放たれた両者の攻撃は、互いに炸裂した。結果、HPも共にゼロとなっていた。
「つまり、この試合は俺の負け…ということだな。」
マスターがゆっくりとレバーから手を離す。
「ああ…。だけど、1ラウンドのあんたは様子見がほとんどで本気じゃなかっただろう?もし、最初から
 本気を出されてたら、この勝負、わからなかったよ…。」
試合には勝利したクレオだが、何故か不満の面持ちでマスターに向き直った。
「ふん…。俺が用心深すぎただけだ。確信はあったんだが、噂の主かどうか自分の手で試してみたかった。
 ただ、それだけのこと…。」
対照的に、マスターは満ち足りた顔で天を仰いだ。クレオはといえば、何か言いたげではあるが、俯いたまま
何も言わない。
「納得がいかないか?…なら、すぐに再選でもしようか?」
113 名前:追憶 第十二話三編:2004/10/13 23:42 ID:5Kl70YLs

マスターの申し出に、クレオの顔が途端に明るくなった。
「ああ、やろう!!あんたとの対戦が今までで一番楽しかった!今度は本気の機体でやろうぜ!」
財布を喜々として取り出すクレオ。
「まったく…。プレイ中とは別人だな、お前は。」
マスターが呆れ顔で呟く。財布の中身を探るクレオだが、急に表情が暗くなった。
「忘れてた…。さっきのが最後の金だったんだ…。でも、LZで本気の勝負できるわけないし…。」
その場にいた二人は目を丸くした。これが伝説とまで言われたLZ乗りなのだろうか?
肩をうな垂れるそのうしろ姿を見る限り、とてもそうとは思えない。
「…こんな奴に負けたのか、俺は…。」
アグレスは溜息混じりに呟いた。
「…まぁ、人は見かけじゃないという、いい例だろう。…たしかに、少し情けなくはなるが…。
 ん、雨が止んでるぞ。」
マスターは外を見やった。さっきまでの轟音が嘘のように消え、雨水で見えなかった外の景色は
はっきりと見て取れた。
「…台風の目にでも入ったか。今日はこれで終わりにしよう。今帰らなければ、ずっとこの店に缶詰だ。」
マスターは席を立った。
「そっかぁ…。帰るのかぁ…。……また、対戦できるか?」
CPU戦に見向きもせず、クレオが訊ねる。
「ああ、もちろんだ。俺もお前との対戦が一番充実していた。次こそは、納得のいく決着をつけよう。」
「…約束、だ。」
クレオが手を差し出す。それをマスターは無言で握った。これから幾度となく戦い、技を競い合う
両者の初戦は、こうして幕を閉じた…。
114 名前:追憶 第十二話四編:2004/10/13 23:43 ID:5Kl70YLs

マスターは駐車場に止めた4WDに向けて歩いていた。
「…待ってくれ!!」
後ろから呼び止められたマスターは、声のした方を向いた。
「…アグレス、か。」
「あんたに、頼みがある…。」
しばし、無言のまま立ち尽くす二人。不意に、遠くから雷が鳴り響いた。
「…車に乗れ。このまま居ては、じきに降られる。ついでに送ってやろう。」
マスターの提案にアグレスは合意した。

「…で、頼みとは?」
車を走らせて間もなく、小粒の雨が徐々に大きさを増していた。
「…俺に、GOの動かし方を教えてくれ。」
マスターは無言で車を運転する。
「俺はあんた達のように強くなりたい。一切の汚れのない、純粋な強さが欲しい!
 …あんた達のように、熱い戦いがしたいんだ…。」
「…ふっ」
マスターは静かに笑った。
「俺は今まで、人に教えたことなど一度もない。恐らく、教え方も上手いとはいえないだろう。
 …それでも良いのか?」
「…ああ。構わない。」
アグレスの決心は揺るがなかった。強くなりたい。その気持ちに、嘘はなかった。
「……いいだろう。教えてやる、俺のGOの全てを。そして、早く上がって来い。ここまで…な。」
「…はい!よろしくお願いします、師匠!!」
それまで尖っていたアグレスの口調が、いきなり敬語に変わった。そのギャップに、マスターは笑いを
抑えきれなかった。
「…くくっ。そこまでかしこまらないでもいい。マスターと呼んでくれればそれでいい。」
115 名前:追憶 第十二話五編:2004/10/13 23:43 ID:5Kl70YLs

「はい!マスター!」
尚も敬語が直らないアグレスに、またも笑いがこみ上げた。

マスターの車は、アグレスの希望で駅に向かっていた。降りつづけていた雨は、
ついに先ほどと変わらない激しさになっていた。
「そうだ、1つ面白いことを教えてやろう。」
「? 何です?」
「クレオの名前の意味だ。」
アグレスは少し興味が湧いた。クレオが何故あんな奇妙な名前を名乗っているのか。
「…聞きたいですね。」
アグレスが興味を抱いたことを確認し、マスターは続けた。
「あれは、周りの人間がつけた名前らしい。それまでは自分の下の名前をそのままPNにしていたそうだ。
 奴の操るLZシリーズが抜きんでて強かった、だからこの名前がつけられたんだ。それを奴も気に入ったんだ」
「焦らさないで下さいよ。…で、名前の意味は?」
「…King of LEO。それが奴の名前の由来だ。」
再び雷が鳴り響いた。その轟音は、何故かLZの咆哮を思い出させた。
「獅子座の王、か……。出来すぎた名前だけど、なんだか納得します。」
「そうだな…。だが、俺はいつか奴をその玉座から引きずり下ろす。必ず…な!」
2人のゴジュラス使いを乗せた車は、激しくなった台風の中を突き進んだ。
それは、これから2人が歩む激戦の歴史を示唆していたのかもしれない…。
116 名前:追憶 エピローグ:2004/10/13 23:45 ID:5Kl70YLs

「……あれからもう随分経つな……。」
いつしか、暗い空から雨が降り注いでいた。マスターの運転する車は、市街地の真っ只中
に差し掛かっていた。
「もうすぐ、目的地だな。」
マスターは左に視線を移した。その視界の端に、青い色の傘が映った
「!?」
慌てて青い傘を目で追うが、運転中な上に、傘をさした人物が角を曲がってしまったために見失ってしまった。
「……まさかな。奴が使っていたのは青いカッパだ。それに、こんなところにいる訳もない。
 …急がねば。なるべく早く奴と戦うためにも…な。」
マスターの車がスピードを上げた。その先にある、激戦を求めて…。

「? 今の車は、マスター?」
傘をさした男が、車の走り去った道路の先を見つめる。
「まさか…な。こんなところに来てるわけないもんな。…気のせいか。」
男が再び歩き出す。
「しっかし、長い間使ってたカッパが破れるとはなぁ〜。お陰で余計な出費しちまった…。」
男は買ったばかりの傘をくるくる回す。降りしきる雨が、傘の上で弾けた。
「たしか、この辺だったかな。強い奴がいるっていうゲーセン。…ああ、あったあった。」
視線の先に、様々な音が漏れる建物が映った。
「マスターを見習って随分遠征してるけど、まさかDrからついでの仕事を押し付けられるとはなぁ。
 結構楽な仕事ではあるんだけどね。…さて、該当者はいるかな?」
男は傘を閉じて店内に入っていった。その閉じた傘の柄には、几帳面にも名札がついていた。
そこにはこう書かれていた。K.LEO、と。

それは、雨が呼び起こした記憶。その雨音は、新たなる強者の参入を告げる…。