JOLT氏『ゾイド∞2on2 第4話 新たなる脅威』


 あの対戦から1週間後。  『The Rebersi』は70勝0敗3分という、すさまじい戦績を 記録していた。  最近では、ほとんど人が入って来ないという、寂しい状態にもなっている。  そんな中、『Valkyrie of Blue Eyes』は常に戦って くれる好敵手となっていた。

「あう、マタ勝てなかったのですヨ」 「……ルーシアちゃん、近接狙いすぎ」 「だ、だっテ、1回でも当てれバ逆転じゃナイですカ!」 「……だから、シールドではじかれるの、分かってるでしょ?」 「あ、あう……」 「おつかれさん、二人とも。今日もいい戦いだったな」  筐体から降り立ったクロウが声をかける。 「……CPUは?」 「ああ、実はラスボス寸前だったから、入ってくれてありがたかった」 「100円でも、無駄にしたくはないから。勝っても負けても、ね」 「負けたワタシたちは、無駄になったような気もするのですガ?」  のほほんとしたシロウに、ルーシアが拗ねたような表情を見せる。 「あれ、楽しくなかった?」 「それハ、もちろん楽しかったですヨ」  心配顔を見せたシロウに、ルーシアは笑顔を見せる。 「正直、君達ぐらいだからな。俺達と互角に戦えるのは」 「……さりげなく、かなり自慢していませんか?」 「あえて遠まわしに言うが、……激しく肯定だ」 「……すごくストレートなんですけど」  呆れた表情を見せたルカに、ニヤリと笑うクロウ。  一瞬の間の後、全員が吹き出した。

「あ、そろそろ帰らないといけないのですヨ」 「そっか。じゃ、またね」 「おつかれさん、また戦おう」 「……はい、それではまた」  黒と金の髪をなびかせて、二人は去っていった。 「しかし、ルーシアさんと仲いいじゃないか」 「まあ、抱き合った仲ですから」 「うぬ、つまらん。多少は動揺しやがれっての」  悔しそうなクロウに、涼しい顔でシロウは答える。 「使い古したネタは評価に値しません。それより、ルカさんが普通に話せる ようになってるね。まだ、ぎこちなくはあるけどさ」 「ああ、メールでやりとりしているうちに慣れたようだな」 「ほえ?いつの間にそんな関係に?」 「こら、誤解するんじゃない。戦術を教えているだけだ。代わりに、ゾイド 関係のサイトを紹介してくれている」 「それってさ、敵に塩送りまくりじゃない?」 「気にするな。敵が強くなっていく分、俺達も強くなればいいだけだ」 「どっから、それだけ自信が出てくるんだか」  平然としたクロウに、シロウは思わず溜息を洩らす。 「ところでさ、メールでもルカさんってあんな感じ?」 「いや、なんというか顔文字全開でかなり明るいな。本当は、リアルでもその ノリでいきたいんじゃないか?」 「憧れの自分ってヤツだね、きっと。ルーシアさんは、変わらないけど」 「ほう、そちらもメールしているのか、やはり……」 「まだ言う?小説の感想だっての。プライベートは一切なし」 「そうなのか?こちらは色々聞いてくるな。失礼にならん程度に答えている」  不思議そうな顔を見せるクロウに、シロウの方が驚いてしまう。 「意外だね、アンタがそういうやりとりしてるってのは」

「こら、俺をどういう目で見ているんだ。一般的な人間の行動だろうが」 「アンタを一般的だと評価すると、人類の80%は一般的じゃないよ」 「お前な……」 「まあまあ、気にしない。で、どんな事をやりとりしてるの?」 「食い物とか、服とかの話題が多いな。正直、よく分からん事もあるので 検索かけまくったりもしてるがね」 「マメだねえ」 「相手に合わせるのは大切な礼儀だぞ」 「それを、なんでオレにはしてくれないのかなあ、ったく」 「野郎にしても、楽しくないからだ」 「やっぱり?まあ、そう言うだろうと思ってたよ。しかし……」 「ああ、誤解はするなよ。ルカさんは、弟子で妹みたいなものだからな」  ニヤケ顔のシロウに、クロウはあっさりと釘を刺す。 「なんだ、そう思っているんだ」 「当然だ、それ以外になにがある?言っておくが、10歳近くも年離れている んだぞ?俺には、弟しかいないからな、正直懐いてくれて嬉しいところはある」  珍しく、純粋に楽しげな表情を見せるクロウ。  それを見て、シロウは喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。  代わりに口から出たのは、ありきたりな台詞。 「……まあ、ゲーマーのコミュニケーションは大事だし、いい事だよね」 「そう言うことだ。さて、そろそろ対戦に戻るかね」 「そうだね、いこうか」  筐体に向かいながら、シロウは心の中で先ほど出なかった言葉を呟いた。 (向こうは、そうは思っていないんじゃないかな……?)

 対戦台は、また空いていた。 「ありゃ、オレたちがいなくなって盛んになっていたのに」 「おそらく、連勝しているのがいるみたいだな」

「あ、『The Rebersi』のお二人さん!」  常連の一人が声をかけてくる。 「どうした?」 「もうじき、10連勝されちまうんだ、あいつらに」 「あ、オレたちが30連勝したから、10連勝でゲームオーバー設定になった んだっけ」 「まあ、過疎にならんためには必要な措置だからな。ところで、機体は何だ?」 「ウルフだよ!コマンドとケーニッヒに勝てないんだよ、みんな!」 「は?コマンドウルフ?確かに強化はされているが、装甲は紙だろうが」 「それだけ、腕がいいんじゃない?ケーニッヒがうまいのかも知れないけど」 「腕がいいだけじゃないんだ!コマンドはコマンドでも、准将機体だよ!」 「……もしかして、コマンドストライカーなの?」 「そう、その通り!また、相方のケーニッヒも強くてさ!」 「狼使いのコンビ、しかも准将か……、おもしろい」  言うが早いか、クロウは筐体へと座る。 「ほれ、早く来い。ショータイムの始まりだ!」 「はいはい。それじゃ、いっちょ行きますか!」

 数秒後、対戦台の大型モニターに対戦カードが表示された。

PN・Shilow中尉  ZN・Urano Earth(BL) PN・Klow中尉    ZN・Dark Aegis(SL)    VS PN・Alex准将  ZN・Optimist King(CS) PN・Lumi准将  ZN・Allegory Queen(KW)

 ステージは、ニビル市。  市街の平穏を破る合図のように、獅子と狼の咆哮が響き渡った……。