死体現象とは個体が死亡した後に死体に発現してくるすべての物理的、化学的、組織学的変化をいう。死体現象は死の確徴であり、これが出現していれば死亡が確認され、また死後経過時間や死因、死因の種類の推定に有用である。
1)死斑
心停止しても血液は重力により沈むため、その沈下した血液を体表から見たもの。
血管内の血液である。死斑の色で死因が判明することもある。
死後1〜2時間 死斑が出現し始める。
死後5〜6時間 死斑がはっきりし始める。血液の血管外への漏出も始まる。
死後5〜8時間 この時間帯までであれば、死体の体位変換などで血管内血液、つまり死斑の移動がおこる。
死後12時間 死斑はMAXとなる。さらに死後12時間以内であれば、指圧により死斑が消失する。
2) 死後硬直・死体硬直
死の直後(1〜2時間)では、筋は弛緩するが、その後硬直する。
→死によって、筋細胞の筋小胞体の膜破壊がおこり、Caが放出されて筋収縮がおこるのではないか
死後1〜2時間 死後硬直が出現し始める。下顎から頚部に向けて始まる。
死後5〜6時間 上肢に出現
死後12時間 全身に出現
死後20〜24時間 MAX
3) 死体の冷却
一般的には直腸温度は37℃くらいであり、死後1〜2時間はほとんど低下しないが、その後、死後10〜12時間くらいまでは比較的急速・直線的に下降し、外気温に近づくと降下速度が緩やかになる。死体の冷却速度は死体の年齢、性別、栄養状態、着衣などの他、死体の置かれている環境に影響を受けやすい。
4) 死体の乾燥
死後も生体と同様体表面からは水分の蒸発が続くが、死体の場合生体と異なり内部からの水分補給が行われないため体表面は時間経過と共に乾燥する。
5) 眼球の変化
眼圧は生前は一定だが、死亡すると循環の停止、水分の蒸発および就下のために低下する。また角膜は眼圧低下のため死亡後光沢を失い、半日〜1日で全般に半ば混濁し、1〜2日くらいで強く混濁し、瞳孔の透見が不可能となる。
呼吸が阻害されること。それによる死を窒息死という。
・呼吸の定義と種類
呼吸とは酸素を取り入れて、二酸化炭素を排出することであり、呼吸には外呼吸と内呼吸がある。外呼吸は外界と個体間でのO2とCO2のやりとりであり、内呼吸は組織でのO2とCO2のやりとりである。
内呼吸の阻害を内窒息といい、一酸化炭素中毒や青酸中毒など。一般には、外呼吸の阻害を(外)窒息という。
・(外)窒息の分類
大気中のO2が血液に入るまでには以下のような道をたどる。その各々での閉塞が窒息の分類へとつながる。
1) 大気(O2)→2)鼻口→3)咽・喉頭→気管→気管支→4)肺→血液
1) 大気(O2)
O2分圧低下(大気もしくは吸気の酸欠窒息)
高山・狭所・ビニール袋内で起こり得る。
2)鼻口
鼻口部(呼吸口)閉塞による窒息で、痕跡が見つからないことも多い。
3)咽・喉頭→気管→気管支
一般に気道閉塞という。外から気管を圧迫する頚部圧迫が多い。
4)肺
肺胞閉塞による窒息である。
・内因→肺炎、肺水腫
・外因→溺水、血液を飲み込んでしまったなど
5)呼吸運動の阻害
・内因→筋疾患
・外因→胸部圧迫、圧死など
6)胸腔異常
気胸、血胸など
・窒息死体の所見
1.顔面の所見
→静脈圧迫時は、顔面はうっ血、腫脹、結膜に溢血点
動脈圧迫時は、顔面は蒼白になる。
2.死斑
死斑が強いことが特徴である。血液の流動性が高く、O2分圧が低下しているので暗赤色になって死斑が強く現れる。臓器もうっ血し、臓器にも溢血点が見られる(腎盂、心外膜、肺胸膜など)
・溢血点
溢血点は、O2欠乏によって毛細血管内皮細胞が脆弱になり破綻することによってできる点状出血のことである。
損傷とは機械的、物理的外力による障害で、おおよそ局所的であるが、まれに全身性であることもある。熱による熱中症や寒冷による凍死は損傷ではない。
・損傷の分類
(a) 形状による分類
(b) 成傷器による分類
(c) 組織による分類
(a) 形状
皮膚面の創であるか傷であるか
→傷口が開いていれば創、開いていなければ傷という感じ。
離断しているか否か
擦過傷であるか
→表皮剥脱、皮下出血していることが多い。
(b) 成傷器
鋭器/鈍器
(c) 組織
皮膚 →表皮剥脱、皮下出血しているか
筋肉 →内出血、断裂しているか
骨 →骨折、離断しているか
脳 →出血、挫傷しているか
・刺創から
刺創を見て、まずその長さ、尖と鈍の部分を確かめて、刃がどういう方向で刺入していったかを知る。
刃長のうち何cmのところまで入ってるか →創洞を見て
刃幅は何cmか →刺創の長さから
刃背の厚さは何cmか →刺創の幅から
・損傷の自他為
自為 他為
致命傷 1つ 多数
配列 規則正しい 不規則
この他にも、浅い規則正しい、複数のためらい傷が自為には認められることが多い。
さらに、自為の場合は、着衣の上から刺していることが多く、遺書があるときもある。
一酸化炭素は無色・無臭の気体であり、密度0.967で空気より軽い。
COはO2に比べ、「Hbとの結合力」は1/10であるが、「親和性」と「離開しにくさ」は2500倍であるため、総合的に250倍、ヘモグロビンと結合しやすい。よって、O2が組織に運ばれなくなるため、組織が酸欠状態になる(内窒息)。
・血中CO・Hb濃度
血中CO・Hb濃度が50~60%を超えると致死的である。
→大気中のO2濃度は20%であるから、大気中のCO濃度が20/250=0.08%あれば、血中O2・Hb濃度とCO・Hb濃度はともに50%となり、致死的である。よって、大気中の致死的CO濃度は0.08%となる。
・一酸化炭素中毒では、Fe2+の多い白質・淡蒼球が傷害される。
また意識のあるうちに動けなくなるのが、一酸化炭素中毒の特徴である