視器 / 卒試 / H15


平成15年度 「視器」 卒業試験

1.以下の文章の空欄をうめよ。

網膜剥離とは網膜第(1)層の(2)層が第(3)層の(4)層から分離する状態である。網膜剥離は特発性網膜剥離と続発性網膜剥離に分類される。

続発性網膜剥離は網膜色素上皮の透過亢進による原田氏病、(5)、(6)など、網膜血管からの漿液漏出による(7)など、網膜の前方への牽引による(8)、糖尿病網膜症などである。

特発性網膜剥離としては(9)などがある。特発性網膜剥離の頻度は約(10)万人に一人である。患者年齢は50〜60歳がピークで次に、(11)〜(12)歳に第二のピークがある。 

<解答>

1.10 2.網膜色素上皮 3.9 4.視細胞 5.中心性網脈絡膜症 6. 7. 8.未熟児網膜症 9.後部硝子体剥離(による網膜裂孔) 10.1 11.20 12.30

<解説>網膜剥離について

網膜剥離には大きく分けて2種類(裂孔原性と非裂孔原性)ある。

裂孔原性網膜剥離:(=特発性網膜剥離)網膜に生じた裂孔から液化した硝子体が網膜下に侵入・貯留するために起きる病態。多くは進行性で、手術的な治療が必要となる。前駆症状として光視症・飛蚊症などを訴えることもあるが多くはなく、網膜剥離の進行による視野狭窄・視力低下などの症状で発見されることが多い。

網膜裂孔にはさらに大きく分けて2種類ある。

 加齢に伴うもの:硝子体の経年変化により、ゲル状の硝子体が融解・液化し、収縮・虚脱するため後部硝子体膜から剥離を起こすが、網膜硝子体癒着の強い部位で網膜が牽引され、網膜裂孔が形成。このタイプの裂孔は50〜60歳代に多く、すでに硝子体の液化が進んでいるため、急激に網膜剥離が拡大する傾向にある。

 近視に伴うもの:近視に伴う眼軸長の延長は眼球全体を引き伸ばし、神経網膜の伸展が起こる。特に網膜周辺部に位置する部位では格子状変性と呼ばれる萎縮が見られる。変性の内部は陥凹し、周辺部は硝子体と癒着しているため、変性層の内部では網膜円孔を生じやすく、その周辺部も網膜裂孔を起こしやすい。このタイプは20〜30歳代に起こりやすく、液化硝子体も少ないため進行は穏やか。

下の2種類は非裂孔原性(=続発性網膜剥離)

牽引性網膜剥離:網膜に癒着した硝子体の索状あるいは膜状の組織が、網膜を牽引して起こす網膜剥離。

…糖尿病性網膜剥離・未熟児網膜症・網膜静脈閉塞症など。

滲出性網膜剥離:他の疾患が原因となり網膜剥離を来たした状態。

…ぶどう膜炎(原田病など)・眼内腫瘍(網膜芽細胞腫・脈絡膜黒色腫・網膜血管腫・転移性腫瘍など)など。

2.網膜剥離に対して、観血的手術が第一選択となるのはどれか。

 1 中心性漿液性網脈絡膜症  2 網膜血管腫  3 増殖性硝子体網膜症

 4 黄斑円孔網膜剥離  5 裂孔原性網膜剥離

 a 123  b 125  c 145  d 234  e 345

<解答>e

<解説>

中心性網脈絡膜症:原因不明の疾患。30〜50歳の中年男性に好発。片眼性で比較的急性の軽度視力低下を自覚し、実性暗点・変視症・小視症を伴う。検眼鏡的に黄斑部に円形ないしは楕円形の境界鮮明な漿液性網膜剥離があり、感覚網膜が隆起している。病理学的には網膜色素上皮細胞の局所の変性・壊死。血液網膜関門が局所で傷害されているので、蛍光眼底造影で蛍光漏出が確認できる。

網膜が隆起しているため軽度に遠視化しているがレンズで矯正可能。この点で他の原因の網膜剥離と性格を大きく異にしている。放置しても3〜6ヶ月で回復するが、再発も多い。治療としては薬物療法(vit.B1・血管拡張剤など)・光凝固(蛍光漏出部が中心窩から離れている場合)など。

網膜血管腫:詳細は神経疾患のHippel-Lindau disease参照。常・優。網膜血管腫には網膜剥離が続発しやすいので、早期発見と光凝固などの治療が必要。

増殖性硝子体網膜症では硝子体手術による増殖膜の除去と光凝固。黄斑円孔網膜剥離では硝子体手術による円孔の閉鎖。裂孔原性網膜剥離では光凝固療法や網膜冷凍凝固,網膜内陥術などの選択肢があるが、網膜深部裂孔では硝子体手術による裂孔閉鎖が行われる。

3.白内障の種類について記述せよ。

<解答・解説>

(1)先天性白内障:遺伝によるものや胎内感染によるもの。後者で代表的なのは、母体の風疹感染による先天風疹症候群。

視機能は生後から数年かけて両眼に均等に視性刺激が加わることで発達するため、白内障がある場合視機能が発達しない。

治療:手術。術式としては水晶体吸引術(水晶体核が形成されない若年者の軟性白内障が対象)。術後の視能訓練は視力向上に不可欠。

(2)老人性白内障:水晶体構成蛋白の加齢変性による混濁が原因。紫外線も危険因子。症状として、視力低下・羞明(混濁水晶体部分での散乱が原因)。

治療:薬物治療は水晶体の代謝改善を目的としたもので、混濁を改善させる効果はない。視力低下・羞明の改善には手術治療を要する。術式は水晶体嚢外/内摘出術。

(3)併発白内障 2004 卒試10参照

治療:視力低下に対して手術。手術による原疾患の再燃・増悪があるため、手術適応は白内障の進行により眼底が見えなくなった場合、ぶどう膜炎が鎮静化した場合が目安になる。

水晶体嚢外摘出術が良いと考えられるが、眼内レンズ挿入では慎重を要す。

(4)薬物性白内障:水晶体上皮細胞の分裂異常・線維細胞の代謝異常を生じる薬物が原因となる。副腎皮質ステロイドは後極部後嚢下の混濁を特徴とし、進行性。その他、向精神薬・硝子体置換ガスなど。人工透析での白内障も薬物性と考えられる。

治療:視力低下例に手術。

(5)放射線白内障:放射線は水晶体上皮細胞の細胞分裂抑制作用により、後極部後嚢下に混濁を生じる。眼部を含む放射線療法では眼球の保護が必要。

治療:視力低下例で手術。

(6)外傷性白内障:非裂孔性外傷では外力が加わった部位での水晶体前嚢下の混濁を特徴とする。治療は不要。穿孔性外傷では水晶体破損により水晶体蛋白の変性が生じて混濁する。

治療:感染予防が重要。角膜または強膜穿孔部の処置と白内障手術を一期的/二期的に行う。術式は水晶体嚢・Zinn小帯の程度次第。

(7)後発白内障:水晶体嚢外摘出術では水晶体前嚢の上皮細胞が一部残存する。後発白内障はこの残存上皮細胞の増殖・線維性物質が後嚢上に伸展することによる混濁・視力低下。現在本症を抑制する有用な方法はない。

治療:視力低下・羞明が強い場合は、Nd:YAGレーザーで非観血的に瞳孔領内の混濁部後嚢を切開する。切開直後から視力の回復が得られる。

4.白内障の治療について記述せよ。

<解答・解説>上記参照

5.我が国の3大ぶどう膜炎とは1:ベーチェット病 2:Vogt-小柳-原田病 3:サルコードシスに伴うぶどう膜炎をさす。このうち1つを選び、その病態・診断・治療について簡単に述べよ。

<解答・解説>2004卒試4参照

6.症例の検査をみて、以下の問いに答えよ。

 (症例)65歳女性。健康診断の際に高眼圧と眼底の異常を指摘され、検査のために来院した。

(1) 図の視野検査法の名前は何か。

(2) どのような眼科疾患に有用か。

(3) この症例では検査上どのような異常があるか。視野異常を表す用語を使って説明せよ。

(4) どのような眼圧の異常が予測できるか。

<解答> 1) ゴールドマン視野検査法(この写真は右眼の視野)

2) 緑内障、視神経交叉障害、視覚伝導路障害

3) 注視点の上10°の内10°から外10°にかけて暗点を認め、かつレンネ鼻側階段を認める。

4) 21mmHg以上の高眼圧、6mmHg以上の眼圧の日内変動

7. (1)角膜組織のうち障害されると再生しないのはどれか。

 1 上皮  2 ボーマン膜  3 内皮  4 デスメ膜  5 実質

  A 12  b 15  c 23  d 34  e 45

<解答>c  2004 卒試8参照

(2)クラミジア結膜炎の治療として適切なのはどれか。2つ選べ。

 A クロラムフェニコール  B トブラマイシン C テトラサイクリン 

D エリスロマイシン E アミノベンジルペニシリン

<解答>C、D

(3)Stevens-Johnson症候群でみられる眼所見はどれか。

 1 瞼球癒着  2 角膜潰瘍  3 角膜新生血管  4 涙液減少

  A 123  b 12  c 23  d 4  e 1~4すべて

<解答>e 2004卒試7(3)参照

(4)結膜・角膜の感染防御に役立つ涙液成分はどれか。

 1 分泌型IgA  2 ムチン  3 補体  4 リゾチーム

  A 134  b 12  c 23  d 4  e 1~4すべて

<解答>e 2004卒試7(2)参照

(5)Sjogren症候群の涙腺病理でみられるのはどれか。

 1 リンパ球浸潤  2 形質細胞浸潤  3 腺実質萎縮  4 導管上皮増殖

  a 134  b 12  c 23  d 4  e 1~4すべて

<解答>e 2004卒試7(5)参照

8.ヒト正常角膜の断面を図示し、各層の名称を記せ。

<解答>2004卒試8参照