平成16年度 「視器」 概説試験
(1) ヒト眼球の断面を図示し、関連する解剖学的名称を10個記せ。
<解答>1.角膜 2.前房 3.虹彩 4.毛様体 5.水晶体 6.硝子体 7.網膜 8.脈絡膜 9.強膜 10.中心窩
補足:
黄斑部の名称
臨床名 ⇔ 解剖名
黄斑部 ⇔ 中心部
黄斑 ⇔ 中心窩
中心窩 ⇔ 中心小窩
(2)ヒト網膜の断面を図示し、関連する解剖学的名称を5個記せ。
<解答・解説>
(3)右図の空欄を適語で埋めよ。
<解答>隅角の図。(1)角膜上皮 (2)シュレム管 (3)線維柱帯 (4)強膜岬 (5)毛様体
(4)空欄を下記の選択肢で埋めよ。 ・角膜は組織学的に外側から上皮層、(1)、(2)、デスメ膜、(3)の5層からなる。 ・ぶどう膜は虹彩、(4)、(5)の3つからなる。 a.外弾性板 b.脈絡膜 c.毛様体 d.内皮層 e.ボーマン膜 f.外網状層 g.基底膜 h.内弾性板 i.実質層
<解答> 1.e 2.i 3.d 4.b 5.c
(5)検査距離5mで0.1の指標を1mの距離でようやく判読できる時の視力は( )である。
<解答>0.02
<解説>視力について。
視力とは物の存在や形を眼で識別できる限界値のこと。通常2点を2点として識別できる最小分離閾を意味し、その2点のなす最小視角の逆数で表示される。即ち、視力=1/最小視角(単位:分)である。
最小分離閾は基本的には中心窩の錐体密度に依存。2点を2点として識別されるには、刺激された2個の錐体の間に刺激されない錐体が介在する必要がある。中心窩の錐体の直径は1〜1.5μmで視角に換算すると0.21’〜0.31’になるが、実際には様々な因子が関与して最小視角1’が正常値とされる。
形を認識する能力の尺度には、最小分離閾の他に、1点の存在を確認できる閾値である最小視認閾、文字の識別できる閾値である最小可読閾、2直線のずれを認める閾値である副尺視力がある。
最小分離閾は最小視認閾があって成り立ち、最小可読閾には最小視認閾・最小分離閾・副尺視力・知的因子が関与する。
実際の視力測定にはランドルト環が採用されているが、これは最小可読閾に近い能力を測定している。
ランドルト環は環の太さと切れ目がともに環外径の1/5の視標である。5mの距離では1.5mm幅が視角の1’に相当。外径7.5mmで切れ目の幅が1.5mmの視標の切れ目の方向が判別できれば、視力1.0と評価する。
裸眼視力の測定
5m離れた位置から片眼を遮断し、大きい視標から順に読ませる。同じ段の半数以上の視標が正しく判別できる最小視標の段の値を視力とする。5mの距離で0.1の視標が判別できない時は下のように評価する。
5mの距離で0.1の視標が判別できない場合
視標が見えるまで距離を短くする。見えたときの距離をxmとすると、視力は0.1×
x/5である。
50cmの距離でも視標が判別できない場合
指の数を答えさせ、弁別できれば指数弁〔counting finger(c.f.)あるいはnumerus digitorum(n.d.)〕とし、最長距離を目測して併記する。
例:右視力=30cm/指数弁 あるいは
RV=30cm/c.f.
指数が弁別できない場合
眼前で手を動かし、動きの方向がわかれば眼前手動弁〔hand motion(h.m.) あるいはmotus manus(m.m.)〕とする。
例:左視力=眼前手動弁 あるいは
LV=h.m.
手動が弁別できない場合
暗室にて瞳孔に光を入れて、明暗が弁別できれば光覚弁〔light sense(l.s.) あるいはsensus luminis(s.l.)〕とする。
例:右視力=光覚弁 あるいは RV=l.s.
このとき、上下左右から光を投射し、その方向を判別できれば投射確実とする。これをlight projection testという。
光を感じない場合
全盲といい、視力0と記載する。
(6)60歳の女性。右眼視力は0.4(1.2×-1.0D)。3年前の受診時は右眼視力0.5(1.2×+2.0D)であった。正しいのはどれか。( ) a.乱視が変化した。 b.近視化した。 c.遠視化した。
<解答>b
<解説> D(=ジオプトリー)は焦点距離(単位はメートル)の逆数で、レンズの屈折率を表す単位である。
現在:裸眼視力0.4 矯正視力1.2 使用レンズ -1.0Dのレンズ(←凹レンズ)
3年前:裸眼視力0.5 矯正視力1.2 使用レンズ +2.0Dのレンズ(←凸レンズ)
近視化していることがわかる
(7)正常眼の構成部分のうち最も屈折力の強いのは( )である。
<解答>角膜
<解説>角膜が43.05Dで水晶体が19.11D。
角膜自体は、空気中にあれば、凸な前面と凹な後面の両者で屈折を打ち消しあうのでレンズ作用はない。しかし、実際は角膜後面は角膜と屈折率が近い前房水が接しており、後面では殆ど屈折しないのに対して、空気に接する凸な前面では大きく屈折するので約40Dと強いレンズ作用を持つ。
水晶体は空気中にあれば強い屈折率を持つが、前後を水(房水)に接するため、角膜の半分程度の20Dの屈折率しかない。
(8)以下のうち正しいのはどれか。( ) a.近視は年齢とともに進行する傾向があるが乱視は変化しない。 b.若年者には直乱視が多いが加齢により倒乱視が増加する傾向がある。 c.不正乱視の矯正にはハードコンタクトレンズより眼鏡が用いられる。
<解答>b
<解説>
a: 変化する。 c:円錐角膜のような不正乱視では、平行光線は一点に集光しない。ハードコンタクトレンズをのせると不正な角膜前面との間を涙が埋めて、屈折は平滑球面であるハードコンタクト表面で主に起こるので、1点に集光する。
(9)近視に伴いやすい眼底変化または合併症を三つ書け。
<解答・解説>
軸性近視では眼軸の延長に伴い、眼球強膜の裏打ちをする脈絡膜・網膜色素上皮・神経網膜の菲薄化が起こり、様々な眼底変化を現すようになる。網膜色素上皮が菲薄化して脈絡膜の血管紋理が透見できる状態を豹紋状眼底という。また主に視神経乳頭耳側では強膜が
透けて白く見えるようになり、コーヌスと呼ばれる。軸性近視に伴って屈折異常のほかに器質的変化を生じたものを変性近視という。網脈絡膜萎縮・後部ぶどう腫などの変化が見られる。また、神経網膜が菲薄化することで網膜に萎縮円孔が生じて裂孔原性網膜剥離になりやすい状態になる。Bruch膜が菲薄化することで黄斑部に脈絡膜から新生血管が伸びてきて、黄斑部出血を起こすこともある。
(10)正常眼で輻湊(ふくそう)時正しいのはどれか。( ) a.散瞳する b.縮瞳する c.瞳孔径に変化はない
<解答>b
<解説>近見反応
近くのものを見るとき、縮瞳(瞳孔括約筋)・内よせ(輻輳:内直筋)・調節(毛様体筋)が同時に起きる。これら動眼神経支配の3つの反応をあわせて、近見連合反応とよぶが、特に近見反応の縮瞳を輻輳反射と呼ぶこともある。
(11)正常眼で調節時、屈折力が最も変化する部位は( )である。
<解答>水晶体
<解説>眼球の屈折要素:角膜曲率半径・水晶体屈折力・眼軸長
水晶体の屈折力のみ可変であり、これによって様々な距離の対象物を網膜に結像させることを調節という。
水晶体はZinn小帯を介して毛様体ひだ部に吊り下げられている。毛様体には毛様体輪状筋(Muller筋)があり、これが収縮すると毛様体の直径が小さくなるのでZinn小帯が緩む。そのため水晶体の弾性により、水晶体が厚くなり、屈折力が増す。
(12)視力が0.5(1.5×-1.0D)の眼で、裸眼での近点が25cmの時調節力はいくらか。( D)
<解答>3
<解説>近点が25cm…このとき 1/0.25=4D の屈折力。
また、本例は-1.0Dの近視(遠点は網膜前方1メートル)であり、
調節力= 1/近点距離 – 1/遠点距離 に代入。
(13)調節についてHelmholtzの弛緩説によると、近くのものを見ようとするとき( )中の( )筋の収縮で( )が弛緩し、( )が弾性により( )形に近づくことで屈折率が( )する。
<解答>順に、毛様体、Muller、Zinn小体、水晶体、楕円、上昇。
(14)カルテにVd=0.06(1.5×-3.0D cyl-1.5D Ax.150°)、Vs=0.08(1.5×-4.0D cyl-1.0D Ax.30°)と記載されていた。何を意味するか説明せよ。
<解答>
右眼視力はRV(right vision)またはvd(visus dextra)、左眼視力はLVまたはvs(visus sinistra)と示される。
右眼:裸眼視力が0.06であり、-3.0Dの球面レンズに-1.5Dの円柱レンズを150°に負荷して、矯正視力1.5を得た。
左眼:裸眼視力が0.08であり、-4.0Dの球面レンズに-1.0Dの円柱レンズを30°に負荷して、矯正視力1.5を得た。
(15)屈折を構成する要素を列記し、屈折の異常を分類して説明せよ。
<解答>要素→角膜曲率半径・房水・水晶体屈折率 分類→近視・遠視・乱視
(16)調節の加齢に伴う変化および調節の異常について書け。
<解答・解説>調節にかかわる要素は毛様体筋・Zinn小帯・水晶体。このうち水晶体弾性は年齢と共に低下する。これは水晶体線維細胞からなる水晶体皮質の割合が減少して、弾性力のない硬い水晶体核の占める割合が年齢と共に増加してくるためである。
そのため調節力は学童期までは10D以上であるが、45歳ほどで3D程度に減少し、65歳ほどで0Dになる。調節力が減少して近方視が困難になることを老視という。
(17)以下に挙げる疾患に対し、重要と思われる検査を記号にて記載せよ。 緑内障 ( )( )( )( )( )( ) 白内障 ( )( ) 視神経炎 ( )( )( )( )( ) 網膜剥離( )( )( )( ) 糖尿病網膜症( )( )( )( )( )( )( ) 1)視力検査 2)眼圧 3)隅角検査 4)視野検査 5)CT,MR 6)超音波検査
7)螢光眼底検査 8)中心フリッカー 9)眼底検査 10)細隙灯検査
<解答・解説>自信ありません
緑内障→2:原発性解放隅角緑内障の場合、21mmHg以上の高眼圧が測定できる。しかし、正常眼圧緑内障の場合は眼圧は正常範囲にとどまる。
原発性閉塞隅角緑内障の場合、急性緑内障発作時には50〜60mmHgに至ることもあるが、寛解期には眼圧は正常値を示す。緑内障が疑われる場合、緑内障誘発試験(暗室試験・散瞳試験・うつむき試験)を行い、8mmHg以上の眼圧の上昇を確認する。
3:この観察なしでは緑内障の診断は不可能。
前房隅角は、角膜強膜の移行部と虹彩の根部のなす部分のこと。観察法には直接法と間接法の2種類がある。
直接法:通常仰臥位で、手持ち細隙灯顕微鏡や手持ち顕微鏡を用い、直接型隅角鏡にて直視下に観察する。
間接法:一般的。対面の隅角を反射させて、細隙灯顕微鏡を用い、間接型隅角鏡にて座位で観察する。局部細部の観察に適している。
隅角で観察できるのはシュワルベ線(角膜内皮とDescemet膜が角膜辺縁で終わった部分と隅角線維柱帯の前縁とを境界)・線維柱帯・強膜岬・毛様体帯・虹彩根部。
隅角の観察なしに緑内障の正確な診断はできない。臨床的に広隅角/狭隅角を分類し、原発性緑内障は開放性隅角緑内障/閉塞性隅角緑内障を分類。
また、隅角の広/狭だけでなく、隅角部の浮腫・充血・結節の存在の有無・周辺虹彩前癒着の存在やその他異常を観察。
4:緑内障視野変化(Seidel暗点,Bjerrum暗点,Roenne鼻側階段,求心性視野狭窄)
2004卒試1参照。
6:隅角鏡検査に加え、超音波生体顕微鏡で隅角の開放/閉塞を断層像で確認。
9:視神経乳頭萎縮/網膜神経線維層欠損の観察。
緑内障性視神経乳頭変化:乳頭の辺縁部が狭細化・生理的乳頭陥凹の拡大
網膜視神経線維層欠損:乳頭線維の網膜に視神経線維層欠損が認められる。これは視野欠損と対応することの多い重要な所見。
10:隅角鏡検査にも細隙灯顕微鏡を用いるが、続発性緑内障の診断(血管新生緑内障の場合では虹彩に新生血管が見られる)に役立つ。
白内障→6:水晶体の混濁で眼底を透見できない場合、白内障以外の病変がないか(網膜剥離・眼内腫瘍など)検索するために用いる(B-mode)。白内障手術の際、眼内レンズの度数の決定に用いる(A-mode)。
10: 散瞳した状態で水晶体の混濁をみる。混濁の部位を特定。
視神経炎→1:障害部位/程度によって視力低下がみられる。
4:視野異常のパターンから視路における障害部位を推定できる(例:球後視神経炎で病変が視神経の中心部に起こる場合、この部を通る神経線維は眼底では乳頭から黄斑の神経節細胞層に属するので、Mariotte盲点から固視点に伸びる特有の暗点、石津暗点を呈する)。
5:視神経腫瘍・眼窩内腫瘍・多発性硬化症の有無を確認。
8:視標の点滅光を注視して、ちらつきが感じられなくなったときの周波数を測定する。通常、35Hz以下を異常とする。視神経炎では視力低下よりも鋭敏に異常を呈する。
9:視神経乳頭萎縮(視神経炎や乳頭浮腫に続発する萎縮)や蒼白浮腫(視神経の循環障害によって起こる)など。
網膜剥離→1:黄斑部に剥離が及ぶと著しい視力低下。
4:剥離に一致して視野が障害。
9:網膜裂孔の数や網膜剥離の範囲を正確に観察。格子状変性や網膜円孔などが見られることも。
10:網膜の全体像をつかんだ後に、細隙灯顕微鏡とGoldmann三面鏡で裂孔の確認。また、硝子体の変化など詳細な観察を行う。白内障や硝子体混濁により、透見できない場合は、超音波検査なども用いる(6も正解にはなる?)。
糖尿病網膜症→1:黄斑部に障害が及べば視力低下。
2:新生血管緑内障を起こせば眼圧は上昇。
3:虹彩ルベオーシス(前房隅角・瞳孔縁・虹彩に新生血管)がないか確認。
4:神経線維の循環障害から視野障害に及ぶ。
7:蛍光眼底造影によって、毛細血管の拡張/閉塞/透過性亢進などを確認。
9:2004卒試2(2)参照
10:虹彩などに新生血管・硝子体や網膜の詳細な観察。
(18)前記の5疾患に対する検査にて、予想されうる検査結果を記載し簡潔に説明せよ。
<解答・解説>上記参照
(19)( )内をうめよ。
a,点眼された薬物は主に( )を通って眼内に移行する。
b.点眼された薬物の、前房内薬物濃度は一般に点眼された濃度の( )%程度である。
c.結膜嚢の保持液量は( )程度である。
d.瞬目1回での涙液の排出量は( )程度である。
<解答> a 角膜 b 0.01 c 30μL d ?
(20)眼局所注射法を2つ記し、その特徴を述べよ。
<解答> 結膜下注射…頻回点眼より有効だが、房水内移行は投与量の1/100以下。 テノン嚢下注射…後眼部への効果もあり、結膜下に比し眼組織内の滞留が長い。 球後注射…硝子体内移行は結膜下、テノン嚢下に比べ高い。 全房内注射…感染症に対する抗生物質投与に用いる。 硝子体内注射
(21)眼内における機能的なバリアー(関門)の種類と、その働きについて簡単に述べよ。
<解答・解説>
Blood-Ocular Barrier(血液眼関門)について
Blood-Aqueous Barrier(血液房水関門)
毛様体突起の毛細血管床と眼の前房中の房水との間における選択的透過性をもつ関門。単純な立方上皮の2層でなっており、それらは細胞頂部で接合器により接合している。血液成分が房水中に流出しないようにする。手術の炎症反応や、糖尿病の合併症でこの関門が障害された場合、前房や硝子体中にフィブリンが析出するなどの異常を起こす。
Blood-Retinal Barrier(血液網膜関門)
内血液網膜関門:脈絡毛細管板は有窓血管であるのに対して、網膜毛細血管にはtight
junctionがあり、内血液網膜関門inner blood-retinal barrierを形成。
外血液網膜関門:網膜最外層は網膜色素上皮細胞である。これは視細胞の維持に関与。
上皮細胞相互間にtight junctionがあり、脈絡膜から網膜下腔への物質輸送は選択的
である。
(22)眼科領域でレーザー治療が対象となる疾患を3つ記し、さらにその目的を簡単に述べよ。
<解答>
レーザー光凝固:強い光を瞳孔より照射すると、網膜色素上皮細胞や脈絡膜メラニン色素
にエネルギーが吸収され、組織蛋白が凝固し瘢痕化。この変化は網膜外層に限局。
・網膜裂孔や黄斑変性では病変部周囲の網脈絡膜の癒着を強化して網膜剥離を予防。
・中心性網脈絡膜症では蛍光漏出部の凝固により血液網膜柵の修復を促進。
・糖尿病性網膜症では出血・浮腫の吸収の促進、新生血管増殖の抑制。