血液 / 概説 / 03


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2003年度概説試験(復元) 1. 造血幹細胞について、100字以内で説明せよ。 造血幹細胞とは、多分化能により必要に応じて生体内に各系統の血液細胞を補充するという能力を持つと同時に、自己複製能により自分と同じ細胞を産生して造血幹細胞の数を維持するという能力を持つ細胞である。(97字) 解説: 1、造血幹細胞は多分化能(multipotentiality)と自己複製能(self-renewal)を持つ。 2、造血幹細胞にも未分化な細胞からやや成熟した段階の細胞までが存在するが、やや分化した造血幹細胞でさえ、状況によっては未分化な細胞へと逆戻りし、さらには骨髄から出て血液中を流れて、肝や筋肉、心臓、脳などの臓器を形成している肝細胞、骨格筋や心筋細胞、神経細胞などにも分化しうる可能性がある(可塑性plasticity)。一方、逆に他の臓器の細胞を生み出している肝幹細胞や神経幹細胞、筋幹細胞などの各種幹細胞もまた、条件によっては骨髄に流れてきて造血幹細胞に分化しうることが明らかにされつつある。 参考:朝倉内科学P.1784 2. 下記の問に答えよ。 (1) 成人男性の基準範囲を赤血球、白血球、血小板について記せ。 (2) 血小板検査用の抗凝固剤は何を一般的に用いるか。 (3) 凝固検査用の抗凝固剤は何を一般的に用いるか。 (4) 血球検査・凝固検査用に採血した後、検査するまでの間で守らなければならない点を挙げよ。 (1)赤血球:427〜570×104/μl(女性:376〜500×104/μl)白血球:4000〜8000/μl 血小板:15〜35×104/μl (2)EDTA塩;特徴:脱Ca作用が強く凝固検査には不適。白血球形態がよく保たれるので血球計算に用いられる。抗凝固剤にEDTAを用いるとEDTA血小板凝集が起こり、自動計数器で血小板減少になることがある(偽性血小板減少症)。 (3)クエン酸ナトリウム;特徴:脱Ca作用を持つ。希釈されるため血算・生化学に不適。検査時Ca添加で凝固する。凝固検査・赤血球沈降速度に用いられる。 (4)室温で保存すること。(4時間以内の検査が必要) 解説:その他の抗凝固剤 フッ化ナトリウム・・・脱Ca作用を持つ。全血血糖に解糖阻止剤として使用する。血糖検査以外に不適。 ヘパリン・・・抗トロンビン作用を持ち、血小板凝集を来たす。血液ガス測定・細胞培養・生化学検査(緊急検査)に用いられる。高価。 参考:臨床検査データブック2003-2004 P.19、P.305〜308 3. 易疲労感、発熱、出血傾向を認める白血病を疑う患者が来院した。どのような造血系検査を施行したらよいか。箇条書きに5項目記しなさい。 ・末梢血血球検査 ・骨髄像(May-Giemsa染色)の鏡検 ・細胞組織化学染色:ペルオキシダーゼ染色、エステラーゼ染色など ・細胞表面抗原検査(モノクローナル抗体) ・染色体・遺伝子検査 (注)最近のWHO分類によると芽球が20%以上、FAB分類では30%以上を急性白血病と定義している。 G. 血液 G - 41 G - 41 4. ( )内に選択した数値または、正しい用語を入れよ。 (1) 赤血球濃厚液1袋(400ml全血由来、ヘモグロビン60g/dl含有)の輸血は酸素運搬能を(A)ml上昇させるか?ヘモグロビン1分子の分子量を65,000、Abogadro数22.4lとする。 a)1 b)10 c)100 d)1000 (2) 新鮮凍結血漿5単位(400ml)中には約1gのフィブリノゲンが含まれているので50kgの成人でフィブリノゲン濃度は(B)mg/dl上昇する。循環血液量は体重の7%、ヘマトクリット値30%とする。 a)0.4 b)4 c)40 d)400 (3) 血小板濃厚液(10単位)を輸血した場合、末梢血血小板数は3〜5万個/mm^3増加する。増加が得られない場合は、(C)、(D)、(E)などを鑑別する必要がある。 (4) ABO不適合輸血では補体が作用して凝集した赤血球が(F)するので、(G)は起こらず窒息死を免れる。 (5) アルブミンは血管内に40%、細胞外液中に60%の割合で分布している。血清アルブミン値を1g/dl上昇させるためには何グラムのアルブミンが必要か?体重50kg、ヘマトクリット値30%として概算せよ。(H) (A) c? (B) d (C) 破壊亢進 (D) 免疫抗体 (E) 消費過剰 (F) 溶血 (G) 肺塞栓(H)約60g (1)1分子のHbにつき4分子の酸素が結合する。 60g/dl×4dl÷65000×4×22.4L=0.330L=330ml ※Hbが運搬できる酸素量:1.35ml/g (2)循環血液量:3.5L 血漿2.45L 1000mg÷24.5dl=408mg/dl (3)血小板輸血不応状態。 (4)ABO不適合輸血では内因系凝固因子活性化→DIC→急性尿細管壊死、高K血症→心停止が起こる。治療は早期であれば腎不全予防を、遅れた場合は高K血症のコントロールを主に行う。(5)循環血液量:3.5L 血漿2.45L 1g/dl×24.5dl÷0.4=61.25g 5. 下の文章の( )内に適当な言葉を下の言葉から選び、A〜Eの( )に対応する番号(1〜16)を記せ。 骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome;MDS)は別名を(A)と称し、通常の貧血治療薬の鉄剤やビタミンでは治らない慢性進行性の造血障害で高率に白血病に移行することから、(B)と位置付けられる。発病年齢のピークは(C)歳代にある。MDSの本態は多能性造血幹細胞の(D)異常に基づく疾患である。MDSは骨髄では活発に造血しているにもかかわらず、骨髄細胞の分化成熟に異常を来し、正常な血球を供給できない状態、(E)にある。多彩な血球形態異常は(E)を反映する変化で、その原因としてアポトーシスが関与すると考えられている。 【選択肢】 1.不応性貧血 2.無効性貧血 3.有効造血 4.無効造血 5.50-60 6.60-70 7.70-80 8.クローン性 9.非クローン性 10.多クローン性 11.真性多血症 12.骨髄線維症 13.慢性骨髄単球性白血病 14.前白血病状態 15.前再生不良性貧血状態 16.前巨核球性状態 【解答】(A) 1 (B) 14 (C) 9 (D) 8 (E) 4 (2001.10.16岡村精一先生の授業プリント参照) 6. (1) 予後良好に分類される染色体異常を持つ急性骨髄性白血病を3つあげ、その細胞学的特徴について述べよ。 (2) FAB分類による急性白血病の診断手順について述べよ。その際M1、M2、M3等の略名の記載は不可とする。 (3) 急性白血病の寛解導入療法、強化療法、維持療法について述べよ。 【解答】 (1)朝倉内科学P.1858、P.1861参照 G. 血液 G - 42 G - 42 ・ t(8;21)…M2の50%に見られる。転座の結果AML1/MTG8というキメラ型転写因子ができ、これが正常造血の分化制御に重要な役割を担っているAML1に対してdominant negativeに働くことで発症すると考えられている。 ・ t(15;17)…M3の90%以上に見られる。転座の結果PML/RARα型のキメラ遺伝子を持ち、骨髄系細胞の分化に関与するレチノイン酸シグナルにdominant negativeに作用し、分化の異常を来たす。 ・ inv16…M4Eoに見られる。関連遺伝子はCBFβとMYH11である。 (2)イヤーノートG-42のチャート参照。 (3)STEP2 P.257、イヤーノートG-43参照。 ・ 寛解導入療法…1012に体内で増殖した白血病を減少させ、抑制された正常造血を回復させるもの。具体的にはダウノルビシン(DNR)・シタラビン(Ara-C)・メルカプトプリン(6-MP)・プレドニゾロン(PSL)を用いた多剤併用療法を行う。 ・ 強化療法(地固め療法)…完全寛解後も、体内には10⁸〜10⁹の芽球が残存するといわれている。この残存した芽球を減少させるために寛解導入療法以上に強い抗癌剤による治療を行う。寛解導入療法で使用しなかった薬剤を含む、なるべく多くの薬剤を用いる。 ・ 維持療法…地固め療法後に比較的弱い化学療法を長期間に渡って行うこと。 7. 以下の病態、症状のうち、多発性骨髄腫、慢性リンパ性白血病、マクログロブリネミアに当てはまるものを選べ。 (1) Bリンパ球の腫瘍であり、細胞表面にはimmunoglobulinを発現していない。 (2) 白血球数が増加していることが多い。 (3) ほとんどの症例で血清中にM蛋白が上昇している。 (4) 末梢血中で大型の成熟リンパ球数が増加していることが多い。 (5) 核が偏在し、車軸核を持つ細胞が骨髄中で増加している。 (6) 眼底にソーセージ様静脈怒張が見られることがある。 (7) 骨に再生像を伴わない骨融解像がみられ、骨折しやすい。 (8) 血清Ca値が上昇する症例は稀ではなく、それに伴う意識障害で受診する例もある。 (9) 腎障害を生じやすい。 (10)欧米では白血病の約30%を占めるが、我が国では2〜3%とその頻度は低い。 (11)IgM産生細胞が単クローン性に増殖した疾患である。 (12)血小板数などに比し、出血傾向がみられやすい。 (13)約10%の症例でアミロイド―シスを合併する。 (14)細胞表面にCD5を発現していることが多い。 (15)若い成人には稀で、高齢者に好発する。 (16)病期が進行すると貧血、血小板減少を生じることが多い。 (17)病初期からの積極的な化学療法が予後を改善する。 (18)病期が進行すると、肝・脾腫が見られることが多い。 (19)急性白血病に比べ、経過はゆるやかである事が多い。 <答>多発性骨髄腫…3、5、7、8、9、13、15、16 慢性リンパ球性白血病…2、10、14、15、16、18、19 マクログロブリネミア…3、5、6、11、12、15、16、18 G. 血液 G - 43 G - 43 8. 以下にしめす単語は各々1及び2のいずれと関連が深いと考えられますか。答えは番号で示して下さい。 (1) 細胞性免疫:1.Tリンパ球 2.Bリンパ球 (2) リンパ節の副皮質:1.Tリンパ球 2.Bリンパ球 (3) CD20抗原:1.Tリンパ球 2.Bリンパ球 (4) 悪性リンパ腫の臨床病期分類:1.Ann Arbor分類 2.WHO分類 (5) 胃MALTリンパ腫:1.ピロリ菌 2.EBウイルス 【解答】 類似問題は過去も頻出。 (1) 1 (2) 1 (3) 2 (4) 1 (5) 1 (4)Ann Arbor分類はHodgkin病の病変や進行度を表す評価だが、非Hodgkinリンパ腫にも汎用されている。 (5)イヤーノートA-40参照 HPの除去によりMALTリンパ腫は有意に防止しうる。EBVはBurkittリンパ腫の原因。 9. 小児の血液疾患につて正しい組み合わせはどれか。 (1) 牛乳貧血を来す乳児には、高蛋白血症を見ることが多い。 (2) 重症再生不良性貧血の患児にはHLA適合同胞から骨髄移植を行う。 (3) Fanconi貧血の診断には染色体不安定性の確認が重要である。 (4) 遺伝性球状赤血球症の患児はヒトパルボウイルスB19感染に伴い溶血発作をおこす。 (5) 小児の特発性血小板減少性紫斑病には6ヶ月以内に治癒しない慢性型が多い。 a(1),(2) b(1),(5) c(2),(3) d(3),(4) e(4),(5) <答>c (1)×:牛乳貧血では低蛋白血症を見ることが多い。 (2)○ (3)○ (4)×:ヒトパルボウィルスB19は赤血球膜レセプターに吸着し、骨髄無形成発作を起こすので、急激に貧血が増強することがある。 (5)×:急性型:慢性型=9:1 10. 次の文章を正しいものには○、誤っているものには×を記入しなさい。 (1) Down症の児は、健常人に比べ高頻度に悪性腫瘍を発生する。 (2) 悪性新生物は、1歳から14歳の小児における死因の第2位である。 (3) 小児白血病の約50%が急性リンパ性白血病である。 (4) 中枢神経白血病予防目的の頭蓋放射線照射により、白血病が完治した後も低身長が持続する児が見られる。 (5) 日本において過去10年間に発症した小児急性リンパ性白血病の5年生存率は約50%である。 【解答】 (1)○ (2)×:1-4歳での死因:1、不慮の事故 2、先天奇形 5-14歳での死因:1、不慮の事故 2、悪性新生物 (3)×:70-80%がALL。AML15-20%、CML<5%(4)○ (5)急性白血病の中で小児のALLが最も治療成績がよく5生率も60%を超えている。 11. 次の文章を読み正しいものには○、誤っているものには×を記入しなさい。 (1) 転座型染色体異常を伴う小児急性リンパ性白血病患児の予後は、常に不良である。 (2) 小児の固形腫瘍で最も頻度の高いものは脳腫瘍である。 (3) 小児急性リンパ性白血病では、全ての症例に対し第1寛解期早期に同種造血幹細胞移植を行うべきである。 (4) 小児に対する造血幹細胞移植では、晩期障害を回避するために、全身放射線照射(TBI)を用いない移植前処置を選択しなければならない。 【解答】(1)×:t(8;14)やdic(9;12)で予後良好。 (2)×:小児悪性腫瘍 1、白血病 2、交感神経腫瘍 3、悪性リンパ腫 4、脳腫瘍(3)×:t(9;22)、t(4;11)など予後不良因子を持つ場合に。 (4)○