コレラ


各論

コレラ菌 Vibrio cholerae
グラム陰性の桿菌 3.コレラ毒素及びコレラの臨床症状と治療方法について簡単に述べよ 戸田新p575 1) コレラ毒素

毒素は1分子のA1フラグメントと5分子のBサブユニットがA2フラグメントを介して結合している。粘膜上皮細胞のレセプターにサブユニットBで結合すると、A1フラグメントが膜に侵入し、アデニル酸シクラーゼを活性化する。これによりcAMP濃度が上昇し、膜イオン透過性が変化し、細胞内より水が大量に流出して下痢となる。(Gs蛋白質をADPリボシル化)

2) 臨床症状

水溶性下痢(米のとぎ汁様)、嘔吐など。

(以下は参考までに : 通常1日以内の潜伏期の後、下痢を主症状として発症する。一般に軽症の場合には軟便の場合が多く、下痢が起こっても回数が1日数回程度で、下痢便の量も1日1リットル以下である。しかし重症の場合には、腹部の不快感と不安感に続いて、突然下痢と嘔吐が始まり、ショックに陥る。下痢便の性状は"米のとぎ汁様(rice water stool)"と形容され、白色ないし灰白色の水様便で、多少の粘液が混じり、特有の甘くて生臭い臭いがある。下痢便の量は1日10リットルないし数十リットルに及ぶことがあり、病期中の下痢便の総量が体重の2 倍になることも珍しくない。  大量の下痢便の排泄に伴い高度の脱水状態となり、収縮期血圧の下降、皮膚の乾燥と弾力の消失、意識消失、嗄声あるいは失声、乏尿または無尿などの症状が現れる。低カリウム血症による痙攣が認められることもある。この時期の特徴として、眼が落ち込み頬がくぼむいわゆる"コレラ顔貌"を呈し、指先の皮膚にしわが寄る"洗濯婦の手(washwoman's hand)"、腹壁の皮膚をつまみ上げると元にもどらない"スキン・テンティング(skin tenting)"などが認められる。通常発熱と腹痛は伴わない。)

3) 治療方法

対症療法が中心で、経静脈補液とともに経口補液を行えば、いずれコレラ菌が体外に排出される。

(以下は参考までに:大量に喪失した水分と電解質の補給が中心で、GES (glucose‐electrolytes‐ solution)の経口投与や静脈内点滴注入を行う。WHOは塩化ナトリウム3.5g 、塩化カリウム1.5g 、グルコース20g 、重炭酸ナトリウム2.5 g を1 リットルの水に溶かした経口輸液(Oral Rehydration Solution, ORS)の投与を推奨している。ORS の投与は特に開発途上国の現場では、滅菌不要、大量に運搬可能、安価などの利点が多く、しかも治療効果も良く極めて有効な治療法である。  重症患者の場合には抗生物質の使用が推奨されている。その利点として、下痢の期間の短縮や菌の排泄期間が短くなることがあげられる。第一選択薬としては、ニューキノロン系薬剤、テトラサイクリンやドキシサイクリンがある。もし菌がこれらの薬剤に耐性の場合には、エリスロマイシン、トリメトプリム・スルファメトキサゾール合剤やノルフロキサシンなどが有効である。  予防としては、流行地で生水、生食品を喫食しないことが肝要である。経口ワクチンの開発が試みられているが、現在のところ実用化されていない。)