民法 / 担保物権


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担保物権とは

 民法の定める担保物権には以下の2種類がある

  1. 法定担保物権:法律の定めにより特別の債券に当然に認められるもの(留置権・先取特権)
  2. 約定担保物権:当事者の合意により設定されるもの(質権・抵当権)

担保物権の通用性

 民法の定める4種類の担保物権には、それぞれ特有の性質もあるが、共通した性質もあり、これを担保物権の通用性という。具体的には附従性・随伴性・不可分性・物上代位性の4つがある。

附従性

 その担保されるべき債権(被担保債権)の存在を前提に成立するので、被担保物権が弁済等で消滅すれば担保物権も消滅するということ

随伴性

 担保物権は、被担保債権が譲渡されると、それに伴って移転するということ

不可分性

 担保物権は、被担保債権の全体について効力を有するので、被担保債権の全額が弁済されるまで、担保物権は目的物の全部について権利行使ができるということ
 ⇒抵当権を外すには被担保債券の全額についての弁済が必要であると言うこと


物上代位性

 担保物権の目的物が滅失や毀損した場合に、目的物所有者の受けるべき「金銭その他の物」に対しても、担保物権の効力を及ぼす事ができること
 ⇒損害賠償請求権や債権といったもの

 なお、この物上代位性は、留置権には認められていない
 ⇒留置権は物の留置的効力のみが認められ、優先弁済的効力が認められていないため

担保物権の効力

 担保物権の効力については、担保物権も物権である以上、一般的な物権的効力(物権的請求権など)は当然に認められる。また、それ以外にも、各担保物権の性質に応じて、以下のような効力が認められる。

  1. 優先弁済的効力
    • 担保物権を換価して発生した経済的価値について、他の一般債権者に優先して弁済を受けられる効力のこと。なお、留置権には認められていない。
  2. 留置的効力
    • 債務が完済されるまで債権者が目的物を自分の所に留めおき、債権の弁済を間接的に促すことのできる効力。留置権と質権に認められる。

留置権<295条>

 他人の物の占有者が、その物に関して生じた債権を有する場合に、その債権の弁済を受けるまで、その物を手元に留めておくことができる法定担保物権のこと。

 留置権は、法定担保物権であるから、一定の要件を備えた場合には法律の規定により当然に発生する。また、留置権には、附従性、随伴性、不可分性および留置的効力はあるが、物上代位性及び優先弁済的効力はない

先取特権<303条>

 あらかじめ民法が定める一定の債権を有する者は、債務者の財産から優先的に弁済を受けることができるという法定担保物権のこと。法では、社会的に見て、他の債権よりも優先的に支払いを受けるべき債権を法定し、これに先取特権を付与している。

 先取特権には以下の種類がある。

  • 一般の先取特権
    1. 共益の費用
    2. 雇用関係
    3. 葬式の費用
    4. 日用品の供給
  • 動産の先取特権
    1. 不動産の賃貸借
    2. 旅館の宿泊
    3. 旅客または荷物の運輸
    4. 動産の保存
    5. 動産の売買
    6. 種苗または肥料の供給
    7. 農業の労務
    8. 工業の労務
  • 不動産の先取特権
    1. 不動産の保存
    2. 不動産の工事
    3. 不動産の売買

質権<342条>

 債権者がその債権の担保として債務者または第三者から提供を受けた者を占有し、かつその物について他の債権者に優先して自己の債権の弁済を受けることができる約定担保物権のこと。

 質券には以下の3種類がある。

  1. 動産に質権を設定する動産質
  2. 不動産に質権を設定する不動産質
     ※不動産質権では不動産を使用・収益できるが、利息は請求できない<357、358条>
  3. 権利に質権を設定する権利質

 質権は、当事者の意思によって発生する約定担保物権であり、この質権の成立には目的物の占有移転が必要である(要物契約)。

 また、質権には、附従性、随伴性、不可分性、物上代位性があり、留置的効力、優先弁済的効力もある。


転質

 質権者が、自分の質物として預かっている物を、更に質に入れて自分が融資を受けること

  • 転質には以下の2種類がある。
    1. 承諾転質:最初の債務者に承諾を得てから再度の質入を行うもの
    2. 責任転質:最初の債務者の承諾を得ないで、転質を行うもの
       ⇒判例も含めて責任転質を認めるのが通説となっている。
  • 転質による注意点
    1. 転質権の債務額が原質権の債権額を超えることはできない。もし、越えて設定した場合には、原質権の被担保債権額の範囲内で優先弁済を受けられるに過ぎない。
    2. 転質権設定者は、転質をしなければ生じなかったはずの損害については、不可抗力による場合にも責任を負う。
    3. 転質権者が実行をするには、転質権の被担保債権の弁済期が到来していることはもちろん、原質権の被担保債権についても弁済期が到来していることが必要となる。

抵当権

 金銭の消費貸借契約などと同時に設定するもので、端的に言うと、金銭債務等を弁済できなかった場合に、抵当権を設定した不動産を競売に付し、その代金から優先的に弁済をうけうるとするもの。

 不動産の所有者と債務者が同一の場合と、異なる場合があるため、以下のように呼ぶ。

  1. 抵当権の権利者:抵当権者
  2. 自己の不動産に抵当権を付ける人:抵当権設定者
  3. 担保される債権:被担保債権

 また、抵当権は交換価値の把握と言われるように、抵当権の対象となる不動産の所有権や仕様権限などは競売が為されるまでは抵当権設定者にあるのが大きな特徴となる。

意義

  • 抵当権とは、債務者または第三者(物上保証人)から、占有を移さずに、債務の担保として供された不動産について、抵当権者が他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利をいう<369条1項>
  • 抵当権の目的物は、不動産の他に地上権及び永小作権も可能である<369条2項>
  • 質権と同じ約定担保物権であるが、質権と異なり、物の留置的効力は無い
     ⇒抵当権設定後も継続して目的物を使用することができる

被担保債権

 抵当権における被担保債権は、通常は金銭債権であるが、金銭債権に限らず、一般の債権でも可能である。また、現在成立している債権だけでなく、将来の債権(期限付債権、条件付債権)についても設定することができる。

抵当権設定のパターン

  1. 債務者と不動産の提供者が同じ場合
  2. 債務者と不動産の提供者が異なる場合

 後者の場合、不動産の提供者を特に物上保証人と言う。


抵当権の対抗要件

  • 通常の物権と同様に、第三者に対抗するためには、登記が必要となる。
  • 抵当権は、同じ目的物に複数設定することも可能であるが、その場合には登記の先後によって順位を決めることとなる。

内容

被担保債権の範囲

 抵当権により具体的に担保される債権の範囲は、元本及び満期となった最後の2年分の利息に限定される<375条>

抵当権の効力が及ぶ範囲

  • 付加一体物
     抵当権を設定すると、抵当目的物その物だけでなく、原則として目的物の付加一体物にも効力が及ぶ<370条>。
     ※付加一体物:付合物・従物・従たる権利
  • 果実
     果実の取り扱いについては、抵当権の設定によっても、その目的物から生じる果実には効力が及ばないのが原則であるが、債務の不履行が生じた場合には、その後の果実にも抵当権の効力は及ぶことになる<371条>。
  • 土地と建物との関係
     我が国では不動産について土地と建物を別に扱うので、土地に抵当権を設定しても建物には抵当権の効力は及ばないことになり、その逆も同様となっている。

抵当権実行の効果

  • 被担保債権の不履行
     被担保債権が履行されない場合には、抵当権者は目的物を差押・競売・換価することにより、目的物の代金から優先的に債務の弁済を受けることになる。
  • 残存する第二順位の債権
     第一順位の抵当権者への弁済後の残額が第二順位の抵当権者の債権額に達しない場合、残りの部分は一般債権として残存することになる。
     ⇒債権は消滅するわけではなく、担保がない債権として普通の債権者と同様に債務者に請求することになる

法定地上権

民法第388条
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。

意義

 法定地上権とは、土地及びその上にある建物が同一の所有者である場合に、いずれか一方若しくは双方に抵当権が設定され、その抵当権の実行によって、結果として土地と建物が別人の所有になってしまった場合に、建物の存続のために、法律の規定により発生する地上権のこと。

 これにより、土地の取得とと共に、家を壊して出ていけと請求されることを制限している。

要件

  1. 抵当権設定当時、土地の上に建物が存在すること
  2. 抵当権設定当時、土地と建物が同一人の所有に属すること
  3. 土地と建物の一方若しくは双方に抵当権が設定されたこと
  4. 競売の結果、土地と建物が別人の所有に属するようになったこと

抵当権その他

一括競売<389条>

 一括競売とは、土地に抵当権が設定された後に、その土地に建物が建てられた場合に、抵当権の実行により土地のみならず建物も競売できるという制度を言う。
⇒従来は建物を建てたのが抵当権設定者であれば一括競売が認められていたが、第三者が建てた場合には一括競売できなかったため、抵当権設定者と悪意の第三者がグルになって建物を築造、抵当権の実行を妨げることが行えていたために、平成15年の改正で、抵当権の設定後に建物を誰が建てたとしても、抵当権者は一括競売を行えるものとした。

 なお、一括競売するかどうかは、義務ではなく抵当権者の任意である。

 また、この一括競売によって建物を競売に付しても、抵当権者が優先的に弁済を受けるのは土地の売却代金からのみとなる。


抵当権設定後の賃貸借<395条>

  • 原則
    • 抵当権は物権であり、賃貸借は債権であるから、ある建物に賃借人が居住していた場合、その建物に抵当権が設定され、その実行により建物の所有者が変わった場合には、賃借人は新しい所有者に自己の賃借権を対抗できないのが原則となっている。
       ⇒賃借権という債権は、旧所有者に対する債権であって、新所有者に対する債権ではないため。
  • 例外
    • 民法605条では、不動産の貸借権についても、登記をすれば抵当権に対抗できることとしている。従って、不動産の賃借権の登記があり、それが抵当権の登記よりも先にであれば、抵当権の実行によって所有者が変わっても、新所有者に対して賃借権を主張することができる。

建物明渡猶予制度

 抵当権に劣後する賃借権の場合、抵当権の実行により販売・買付がなされ新所有者が出現すると、その新所有者には賃借権を対抗できないことになるため、この賃借人の不利益を緩和するために、競売による買付の時点から6ヶ月間は明け渡しが猶予される建物明渡猶予制度<395条>)。

 また、抵当権の登記後に登記した賃借権は、原則として抵当権に劣後するが、もし優先する抵当権者の全員の同意が有り、その同意の登記があれば、同意をした抵当権者に対する対抗力が賃借権に与えられる<387条>。

抵当不動産の第三者取得者の地位

 抵当権は登記すると、その後に目的物の所有が移転しても、対抗要件制度によって、新たな所有者(これを第三取得者という)に対しても抵当権を主張できることになる。
 このような場合において、抵当不動産の第三取得者は、いつ抵当権者による抵当権実行により土地の所有を失うのか不明であり、非常に不安定な立場にいることとなるため、民法では抵当不動産の第三取得者の救済手段として、代価弁済<378条>と抵当権消滅請求<379条>を定めた。

代価弁済

 抵当不動産の第三取得者が、抵当権の請求に応じて、その代価を抵当権者に弁済した場合に、抵当権をその第三者のために消滅させる制度。
 ※抵当権者側が抵当権の消滅を主導する

抵当権消滅請求

 抵当不動産について、所有権を取得した第三者が、自己の提示する価格で抵当権を消滅させるように抵当権者に請求する制度。
 ※抵当不動産の第三取得者が抵当権消滅請求を行う。また抵当権者はこの請求に応じる義務はない


抵当権の処分

転抵当<376条>

  • 抵当権者がその抵当権をもって自己または他人の債権の担保とすること。
  • 転抵当の設定については、原抵当権の債務者に対する転抵当をした旨の通知または承諾がなければ、債務者・保証人・抵当権設定者及びこれらの承継人に対して対抗できない。
  • 転抵当権についての対抗要件は登記が必要となる。
  • 転抵当権者は、原抵当権の被担保債権を限度として優先弁済を受けることになるが、競売配当時に原抵当権の被担保債権が減っていれば、その額までが優先弁済の限度である。また、転抵当権を実行するには、転抵当権の弁済期到来だけでなく、原抵当権の被担保債権の弁済期も到来していることが必要である。

抵当権の譲渡・放棄

  • 抵当権の譲渡
     抵当権者から無担保の債権者に対して為される地位の移譲
  • 抵当権の放棄
     抵当権者が一般債権者に対して、優先弁済権を放棄して同順位となること。配分は、放棄者と一般債権者との債権額の割合で按分する。

抵当権の順位の譲渡と放棄

  • 抵当権の順位の譲渡
     先順位の抵当権者が後順位の抵当権者に対して、先順位である地位を譲渡すること
     ⇒優先弁済額の配分の順序変更
  • 抵当権の順位の譲渡
     先順位の抵当権者が後順位の抵当権者に対して、先順位の地位を放棄して、その後順位の抵当権者と同意の抵当権者となること。
     ⇒配分は、両者の受けうる優先弁済額の総額を債権額の割合で按分する

抵当権の譲渡と放棄まとめ

  • 譲渡:譲渡者の優先弁済額から、被譲渡者がまず債権額を取って、残りを譲渡者が取る
  • 放棄:放棄者の優先弁済額から、被放棄者と放棄者とで債権額の割合に応じて按配
  • 順位の譲渡:譲渡者と被譲渡者の優先弁済額の合計から、被譲渡者がまず債権額を取って、残りを譲渡者が取る
  • 順位の放棄:放棄者と被放棄者の優先弁済額の合計から、被放棄者と放棄者とで債権額の割合に応じて按配

抵当権の順位の変更<374条>

  1. 抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければならない。
    • 利害関係を有する者:転抵当権者、被担保債権の差押債権者など
  2. 前項の規定による順位の変更は、その登記をしなければ、その効力を生じない。

根抵当権

  • 抵当権の一形態で、継続的な取引関係にある場合において利用される担保制度
  • 一定の範囲を定めて、不特定の債権を、担保限度額(極度額)を決めて、この極度額の範囲であれば担保するというもの
     ⇒両者間において毎回抵当権を設定する手間等を省くため