相続とは、特定の自然人が死亡した場合に、その物の有する権利・義務が、その者と一定の関係にある者に承継されることをいう。相続が開始されると、まず、相続人の確定、次に相続財産の確定、さらに、相続財産をどのように分割するのかを確定して分配することになる。
相続回復請求権とは、不真性相続人(表見相続人(相続を放棄しているが、外見上相続人の地位にいる者)および詐称相続人)が、真正相続人の相続権を否定して、相続の目的たる権利を侵害している場合に、真正相続人が自己の相続権に基づきその侵害を排除し、相続財産の回復を請求する権利のこと。
例えば、相続が開始した場合に、相続を排除された者等の表見相続人や、相続人と称する全くの第三者(詐称相続人)が、相続財産の一部または全部を占有したりするなどして、相続人の権利を侵害するような場合に、真正相続人が、その侵害を排除し、相続財産を回復するために設けられたのが、相続回復請求権になる。
相続回復請求権は、相続人またはその法定代理人が、相続権を侵害された事実を知ったときから5年間これを行わないときは、時効によって消滅する。
また、相続開始のときから20年を経過したときも、相続権侵害の事実を知ったと否とに関係なく消滅する。
現行法では、相続の開始によって、相続人の意思とは関係無く当然に相続の効果が相続人に帰属するのであるが、相続人は、これを、単純承認するか、限定承認するか、放棄するかを自由に選択することができるとしている。
相続の承認・放棄は、原則として、相続人が自己のために相続の開始のあったことを知ったときから3ヶ月以内に、これをしなければならず(熟慮期間)、この期間中に申し出を行わない場合は、単純承認をしたものとみなされる。「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」とは、相続人が相続開始の原因たる事実の発生をしり、かつそのために自己が相続人となったことを知ったときとなる。
また、一度、相続の承認・放棄がなされると、原則として、その効果は確定的に生じ、熟慮期間内でも承認・放棄を撤回することはできない。
単純承認とは、相続人が被相続人の権利義務を無制限・無条件に承継することを内容として、相続を承認する相続形態のこと。
相続人が限定承認も放棄もしないで熟慮期間を徒過したときは、単純承認をしたものとみなされる。単純承認は、相続人の意思表示で、しかも相手方のない単独行為であり、何らかの形式を要しないものと解されている。
限定承認とは、相続人が、相続で得た財産の限度においてのみ被相続人の債務および遺贈を弁済することを留保して、相続の承認をする相続の形態のこと(要するに、続財産をもって負債を弁済した後、余りが出ればそれを相続できるということ)。相続人の意思表示によるものであり、相続債務がどの程度あるのか不明な場合に、この制度が意義を持つ。
相続人が限定承認をするには、3ヶ月の熟慮期間内に、財産目録を調整して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
限定承認がなされると、相続人は、限定承認によって、相続財産によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務および遺贈を弁済すれば足りることになる。
相続の放棄とは、相続の開始によって一応相続人に生じた相続の効果を確定的に拒絶し、初めから相続人でなかったのと同様の効果を生じさせる、相続人の意思表示のこと。
相続の放棄をしようとする者は、3ヶ月の熟慮期間中に、放棄の旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
相続の放棄を下茂のは、その相続に関しては、初めから相続人とならなかった者と見なされ、相続開始のときに遡って、遺産に属する積極財産も消極財産も一切承継しなかったのと同じ位置に置かれることになる。
原則として、相続人は相続開始の時に権利能力者として存在していなければならない(同時存在の原則)と考えられるが、民法では、相続開始の時に胎児であった者については、相続に関しては既に生まれたものとみなすこととしている。
相続人には、被相続人と血縁関係にあることによって相続権が与えられる血族相続人と、被相続人の配偶者であることによって相続権が与えられる配偶者相続人があり、血族相続人には、被相続人の子、直系尊属および兄弟姉妹がある。
まず、被相続人の配偶者は、血族相続人とは別に、常にそれと並んで相続人となる。すなわち、配偶者は、血族相続人がいるときは、それらの者と同順位で相続人となり、血族相続人がいないときは、単独で相続人となる。
次に、血族相続人の順位として、第1順位の相続人は、被相続人の子である。実子と養子の間、嫡出子と非嫡出子との間にも、順位の差は無く、子が数人いれば同順位で相続する。ただし、嫡出子と非嫡出子の間では、後者は前者の相続分の1/2となる。
続く第2順位の相続人は、直系尊属であり、第1順位の子(およびその代襲者)がいないときに、初めて相続人となる。1親等の直系尊属である父母にも、2親等の直系尊属である祖父母にも固有の尊属権が与えられているが、直系尊属の中に親等の異なる者がいる場合には、親等の近い者のみが相続人となり、それ以外の者は相続人となることができない。また、実父母であるか養父母であるかによって順位の差は無く、親等が同じであれば同順位で相続する。
さらに、第3順位の相続人は、兄弟姉妹であり、第1順位、第2順位の相続人がいないときに、初めて相続人となる。兄弟姉妹が数人いるときは、同順位で相続するが、被相続人と父母を同じくする兄弟姉妹と一方を異にする兄弟姉妹では、後者は前者の1/2しか相続分を有しない。
代襲相続とは、相続開始以前に、相続人となるべき子または兄弟姉妹が死亡し、または相続の欠格事由に該当しもしくは廃除されたために相続権を失った場合に、その者の直系卑属(代襲者)が、その者に代わって同一順位で相続人となり、その者の受けるはずであった相続分を承継する制度のこと。
なお、代襲相続は兄弟姉妹にも認められるが、兄弟姉妹の代襲相続は、その子(被相続人の甥・姪)に限り認められる。
また、代襲原因は、相続開始以前の死亡、相続欠格、相続人の廃除の3つに限られる。なお、相続の放棄は代襲原因とならず、子が相続を放棄した場合には、その孫以下の直系卑属は相続人とはならない。
代襲相続の要件が備わると、代襲者は、被代襲者に予定されていたのと、同一順位で、被代襲者の相続分を相続する。
複数人が何らかの原因で死亡し、これらの者の死亡時期の前後が不明な場合に、法律によりこれらの者が同時に死亡したものと推定する制度をいう。
相続欠格とは、相続人となるべき者であっても、一定の重大な事由が存するため、その者に相続させることが一般法感情から見て妥当でない者を相続欠格者として、被相続人の意思を問うことなく、法律上当然に相続人たる資格を奪う制度をいう。
相続欠格者は、以下の通り。
廃除とは、相続欠格に該当するほどではないが、被相続人に対する虐待等の事由があり、被相続人が推定相続人に相続させることを欲せず、また欲しないことが一般の法感情からみて妥当とされるような事情がある場合に、被相続人の意思によって、推定相続人の相続人たる資格を奪う制度をいう。
廃除事由は以下の通り。
廃除の対象となる者は、遺留分を有する推定相続人、すなわち子、直系尊属、配偶者に限られる。
各共同相続人の相続分の決定については、現実には、まず、被相続人の遺言による指定によって決定され(指定相続分)、遺言による指定がなされない場合には、相続人全員の協議により定められる(分割協議)。そして、いずれもが適用されない場合には、民法の定めるところにより決定される(法定相続分)。
被相続人は、遺言で、共同相続人の相続分を定め、またはこれを定めることを第三者に委託することができる。これによって定まった相続分を指定相続分という。相続分の指定あるいは指定の委託は、共同相続人の全員についてすることもできるし、その一部の者についてのみすることもできる。
指定相続分は、遺留分の規定に反することができないので、共同相続分の相続分が、その者の有する遺留分より少なくなるような相続分の指定をすることはできない。
相続分の指定あるいは指定の委託がない場合には、各共同相続人の相続分は、民法に定める法定相続分により定める。各相続人の法定相続分は、相続人の組み合わせにより異なる。
相続人の組み合わせ | 配偶者 | 子・直系尊属・兄弟姉妹 |
配偶者+子 | 1/2 | 1/2 但し非嫡出子は嫡出子の1/2 |
---|---|---|
配偶者+直系尊属 | 2/3 | 1/3 |
配偶者+兄弟姉妹 | 3/4 | 1/4 父母の一方が異なる兄弟姉妹は 父母の双方が同じ兄弟姉妹の1/2 |
相続人が数人あるときは、相続財産は相続の開始と同時に相続人の共有に属することになるが、この共有関係は、遺産分割がなされるまでの過渡的なものであり、相続人の共有に属した相続財産は、遺産分割によって各相続人に個別具体的に帰属することになる。遺産分割とは、共同相続人の共有に属する相続財産を、各相続人の固有財産とするための総合的な分配手続のことをいう。
共同相続人は、相続開始後いつでも事由に遺産分割をすることができるのが原則となる。但し、遺言により分割方法の指定がなされた場合には、その定めに従って遺産分割をしなければならない。
遺言による分割方法の指定がないときは、いつでも共同相続人の協議によって遺産を分割することができる。協議分割をするには、共同相続人全員の参加を要し、一部の共同相続人を除外し、またはその意思を無視されてなされた協議分割は無効となる。
次に、遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる(審判分割)。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に対して、法律上取得することが保障されている相続財産の一定の割合であって、被相続人の贈与または遺贈によっても奪うことができないものをいう。
遺留分の認められる者は、兄弟姉妹以外の相続人、すなわち、子およびその代襲相続人、直系尊属、配偶者となる。
それぞれの遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人であるときは、法定相続分の1/3、それ以外の場合には、自己の法定相続分の財産の1/2となる。
遺留分権利者が、現実に受けた相続財産の額が、算定された具体的な遺留分の額に達しない場合は、各人の遺留分が侵害されていることになる。そこで、遺留分権利者およびその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度、すなわち遺留分が侵害された額の限度で、遺贈および贈与の減殺を請求することができる(遺留分減殺請求権)。
この場合、遺留分の規定に反する遺贈あるいは贈与が、当然に無効となるわけではなく、遺留分減殺請求権の対象になるに過ぎず、遺留分を欲しない相続人は、遺留分減殺請求権を行使せずともよく、その場合には、遺贈・贈与の効果はそのままとなる。
遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、相続の開始および減殺すべき贈与または遺贈があったことを知ったときから、1年間これを行わないときは、時効によって消滅する。
また、遺留分減殺請求権は、相続の開始の時から10年を経過したときも、消滅する。
遺言とは、遺言者の死後の法律関係を確保し、遺言に示された意思表示に一定の法律効果を与える制度をいい、遺言によってすることができる事項は法定されている。
遺言が効力を生じるのは、遺言者の死亡の時であるので、遺言者にその意思を確かめることはできないので、厳格な様式が定められ、かつ遺言ですることが出来る事項も法定されている。
遺言をするには、遺言事項について合理的な判断をするだけの意思能力遺言能力が必要であるため、民法ではその能力を有する標準を15歳に定めた。したがって、未成年者であっても、15歳に達した者は、単独で有効に遺言をすることができる。
また、成年被後見人も、単独で遺言をすることができるが、遺言の時に本心に服していたことを証明するために、医師2人以上の立ち会いを必要とすることとしている。
撤回はいつでもできる。前の遺言と抵触する内容の遺言がなされた場合には、抵触する部分で、撤回が為されたものとみなし、遺言に抵触するような行為があった場合には、同様に遺言の撤回とみなす。
遺言には、普通方式の遺言(自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言)と特別方式遺言(一般社会と隔絶した値での遺言など、特殊な状況での遺言)がある。
秘密証書遺言をするためには、次の方式を備えなければならない。
秘密証書遺言は、遺言の内容は秘密にしておきたいが、遺言の存在は明確にしておきたい場合に用いられる遺言の方式となる。
秘密証書遺言の場合にも、家庭裁判所の検認が必要となる。
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