民法 / 事務管理・不当利得・不法行為


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事務管理

事務管理
義務に基づかないで、他人のためにする意思を持ってする事務の管理行為のこと<697条>

成立要件<697条>

  1. 他人の事務を管理すること
  2. 法律上の義務のないこと
  3. 他人のためにする意思があること

事務管理の効果

  • 管理者は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理をしなければならない。
  • 事務管理者は、本人のために有用な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。ただし、管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、その償還を請求することができる。
  • 原則として報酬の請求は認められていない

不当利得

不当利得
法律上の原因がないにも関わらず、他人の財産や労務によって得た利益のこと<703条>

成立要件

  1. 利得者が他人の財産または労務によって利益を受けたこと
  2. その利得に法律上の原因がないこと
  3. そのために他人(損失者)に損失を与えたこと
  4. 利得と損失の間に因果関係があること

効果

  • 受益者は、損失者が受けた損失の限度で、その利益を返還しなければならない<703、704条>
    • 返還義務の範囲
      • 受益者が善意の場合:その利益が現に存する限度で変換すれば足りる<703条>
      • 受益者が悪意の場合:その受けた利益に利息を付して返還しなければならない<704条>
  • さらに、受益者が悪意の場合には、損失者に損害があれば、それも賠償しなければならない<704条>

不当利得の特則

債務の不存在を知りつつなした弁済<705条>

 弁済者が、弁済の当時債務が存在しないことを知りながら行った弁済については、その給付したものの返還を請求することができない。

 ただし、過失により債務の不存在を知らなかった場合には、給付者は返還を請求できる(大判昭16.4.19)。

期限前の弁済<706条>

 債権の弁済期が到来する前になされた弁済は、その給付したものの返還を請求することができない。

 但し、債務者が錯誤によってその給付をしたときは、債権者は、これによって得た利益を返還しなければならない。

他人の債務の弁済<707条>

 債務者でない者が錯誤によって債務の弁済をした場合、債権者が善意で債券証書を滅失させまたは損傷し、担保を放棄し、または時効によりその債券を失ったときは、弁済者は返還の請求をすることができない。

 但し、弁済者から債務者に対する求償権の行使をすることはできる。


不法原因給付<708条>

不法原因給付
公序良俗に違反する原因に基づいてなされた給付のこと

 給付者は、原則として給付した物の返還を請求できない
 ex. 賭博などでの負け分は返還請求できないということ。クリーンハンズの原則に基づいている。

 従って、不法の原因が受益者のみに損するときは、給付者は、その返還を請求することができるし、給付者に多少の不法性があったとしても、受益者にも不法性があり、前者の不法性が後者の不法性と比較すると、極めて微弱な物に過ぎないときは、90条(公序良俗行為の無効)および708条の適用はないとされる(最判昭29.8.31)。

  • 不当利得での諸問題
    1. 横領した金銭での弁済(最判昭49.9.26)
       債権者が金銭を受領するにつき、悪意または重大な過失があれば不当利得返還請求権を認めて良いと考えられる。
       すなわち、因果関係については、社会通念上の因果関係であればよいのであるが、横領した金銭で弁済した場合には、横領された者の金銭で債権者の利益を図ったと評価できるし、債権者が悪意・有過失の場合であれば、債権者の金銭の受領は、横領された者に対する関係では、法律上正当性を有するとは言えない、とされている。
    2. 転用物訴権(最判昭45.7.16)
       契約上の給付が契約の相手方だけではなく第三者の利益ともなった場合に、給付をした契約当事者がその第三者に利得の返還を請求することを転用物訴権と言う。
       例えば、Bから借りているクレーンを修理業者Aに修理に出したところ、修理が完了してクレーンがBに戻ったところで、Bが倒産し、クレーンは持ち主であるに返還された。この場合に、修理代金が未払いであれば、修理業者Aは所有者に対して修理代金の請求ができるか否かという問題について、契約の相手方(この場合はB)の無資力を要件として、これを認めるとしている。
    3. 708条の給付の意味(最判昭46.10.28)
       不動産の譲渡における給付の意味について、終局的な給付とはいずれの段階であるかが不明確であるという問題について、未登記不動産については引渡で足りるが、登記済みの不動産については移転登記が必要であるとしている(最判昭46.10.28)

不法行為

一般的不法行為

不法行為
他人の権利や利益に対して、不法に損害を与えた場合には、その賠償をしなければならないという制度<709条>

 不法行為は、契約によらずに債権債務を発生させるものである。

要件

  1. 加害者に責任能力があること
    • 責任能力とは、自己の行為の結果が違法な者として法律上非難され、何らかの法的責任が発生することを認識できる能力(12,3歳程度の能力)のこと
  2. 加害者に故意または過失があること(過失責任主義)
  3. 加害行為が違法であること
  4. 損害が発生したこと
  5. 加害行為と損害との間に因果関係があること

効果

 不法行為が認められると、被害者は加害者に対して、損害賠償請求権を取得し、自己に発生した損害(財産的損害および精神的損害)について賠償請求ができる。


損害賠償の方法

 損害賠償については、原則として金銭賠償による。従って、精神的苦痛も請求する場合には、金銭に換算して請求することになる<722条>。
 但し、名誉または信用が毀損された場合、損害の金銭評価は困難であり、たとえ金銭賠償がなされても、十分な救済効果が得られないことから、民法は、723条で金銭賠償の他に、名誉を回復するのに適当な処分(謝罪広告)を命じることができるとしている。

損害賠償の範囲と算定

 原則として、加害者が賠償すべき損害の範囲は、加害行為と相当の因果関係に立つ損害となる。
 但し、過失相殺制度が認められており<722条>、被害者に過失があった場合には、裁判所の裁量で、損害賠償の額を減額することが可能である。また、この際に全額を免除することはできない

損害賠償請求権の権利行使期間

 不法行為による損害賠償請求は、被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為のときから20年を経過したときも、同様とする。<724条>

監督者責任<714条>

 民法上の責任無能力者が不法行為責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者(親権者、後見人など)、監督義務者に変わって監督する者(幼稚園の保母、小学校の教諭など)が責任無能力者が第三者に加えた損害の賠償責任を負うものとした。
 但し、この場合でも、監督義務者等がその義務を怠らなかったとき、またはその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、損害賠償義務を負わない。

 なお、責任能力のある未成年の不法行為の場合に、監督義務者に監督義務違反があれば、監督義務者は、自己の固有の不法行為責任として、民法709条により損害賠償責任を負う。

使用者責任<715条>

 被用者が使用者の事業を執行するにつき第三者に損害を与えた場合には、使用者に原則としてその損害賠償義務を負わせることとなる。

 この際に、「事業の執行」に該当するかどうかについては、判例では、客観的に行為の外形を標準に判断するとしている。
 従って、被用者が自分の中では事業の執行として行っていない場合でも、外形的に見て事業の執行に見えるような場合には、事業の執行と判断される。この場合に、被害者が、事業の執行ではないことについて悪意であったり、または重過失によって知らなかった場合には保護されない(最判昭42.2.20)。


要件

  1. 使用者と被用者との間に使用関係があること
  2. 被用者が、使用者の事業の執行につき第三者に損害を加えたこと
  3. 被用者の行為が一般的不法行為の要件を充たしていること

効果

 使用者(会社・事業主等)および代理監督者(代表取締役・工場長・現場監督等)は、被害者に対して損害賠償責任を負う。
 なお、使用社ないし代理監督者が損害賠償責任を負う場合でも、被用者も民法709条により損害賠償責任を負い、両者は不真性連帯債務の関係に立つ(大判昭12.6.30)。
 従って、被害者は、いずれかもしくは双方に同時にまたは異時に損害賠償請求ができることになる。

求償権

 使用者および代理監督者は、被害者に損害賠償をした場合、被用者に対して求償権を取得する。

注文者責任<716条>

 請負契約において、注文者の注文・指図に過失がない限り、請負人が仕事について第三者に加えた損害について、注文者は賠償責任を負わない。

 但し、下記の要件を充たす場合には、例外的に注文者に不法行為責任が発生し、注文者は、請負人とともに、損害賠償責任を負うこととなる。

  1. 請負人の行為が、不法行為の要件を充たすこと
  2. 注文者の請負人への注意または指図に過失があること

工作物責任<717条>


要件

  1. 土地の工作物の設置または保存に瑕疵があること
    • 工作物とは、土地に接着した人工的設備(建物、電柱、石垣、エスカレータ、橋など)を意味する
    • 瑕疵とは、その種類の工作物として通常備えるべき安全性を欠いていることを意味する
  2. その瑕疵により第三者に損害が発生したこと
  3. 占有者は損害発生防止につき注意義務違反があること
    • なお、所有者は無過失責任なので注意義務違反が無くとも責任を負う

責任の内容

 第一次的には占有者が損害賠償責任を負う但し、占有者は義務違反がないことを立証すれば、責任を免れる
 次に、占有者が無過失を立証したことにより面積された場合には、所有者が責任を負う(無過失責任)

動物占有者の責任<718条>

 動物の占有者および占有者に変わって動物を管理する者は、その動物の管理についての注意義務に違反していないことを立証しない限り、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。

共同不法行為<719条>

  1. 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
  2. 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

 共同不法行為の効果としては、加害行為を行った者は、連帯して損害賠償責任を負い、各債務は不真性連帯債務となる(最判昭57.3.4)。
 従って、被害者は加害者の一人または全員に対して同時に全額の請求をなすことができる。