民法 / 債券総論


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債権法の学習内容

総論

  • 債権
    • 特定の人が特定の人に対して、一定の財産上の行為を請求する権利のこと
    • 請求する側からは債権といい、請求される側からは債務という
    • 物権とは異なり、物を直接支配するものではなく、あくまで債務者に一定の行為を請求するもの

債権の発生原因

債権法における債権発生原因の主要なものとしては、以下の2つがある。

  1. 契約:当事者の意思によって債権債務が発生
  2. 事務管理・不当管理・不法行為:当事者の意思によらずに法律上、債権債務が発生

債権の効力債権の実現(債務不履行責任)

債権実現の方法には以下の2つがある。

  1. 強制執行
  2. 契約責任の追及
     債務の不履行に基づく契約責任を追及、具体的には損害賠償の請求及び契約の解除ができる。
     この両者はいずれか一方を選んで行使することもできるし、双方を同時に行使することもできる(545条3項参照)。

債権者代位権・債権者取消権

 債権には、その効力として、債権の履行を確保するために、一定の場合には、債務者の財産管理について関与することが認められる場合がある(債権者代位権、債権者取消権)。


債権の消滅

 債権は円満に給付内容を実現(債務の履行)して消滅するものであるが、法律が一定の場合には消滅すると規定している場合もある(当事者に責任が無く履行が不可能になったような場合)。

特定物債権と不特定物債権

 債権の分類方法の一つとして、債権を特定物債権と不特定物債権に分類する方法がある。

  • 特定物債権
    • 当事者がその物の個性に着目して取引した物を引き渡すという債権
      • 中古品の販売など
    • 特定物の引渡しの場合の注意義務<400条>
      • 債権の目的が特定物の引渡であるときは、債務者は、その引渡をするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
    • 特定物の現状による引渡し<483条>
      • 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。
  • 不特定物債権
    • 不特定物の引渡を目的とする債権(物固有の個性に注目していない)
      • 新品の販売など
    • 不特定物については、下記の場合には「特定」が生じ、それ以降は特定物債権となる<401条2項>
      1. 債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了したこと
      2. 債務者が債権者の同意に基づいて給付すべき物を指定した場合

債務不履行

意義と要件

 債務不履行とは、債務者が債務の本旨に従った債務の履行しないことを言い、この場合に債権者としては以下の3つの態度がある。

  1. 履行の強制
  2. 損害賠償の請求
  3. 契約の解除

債務不履行の種類

  1. 履行遅滞:履行が可能にもかかわらず履行期に履行しない場合
  2. 履行不能:履行が契約後に不可能になってしまった場合
  3. 不完全履行:一応の履行はあったが、それが不完全である場合

履行遅滞の要件

  1. 履行が可能なこと
  2. 履行期を過ぎていること
    • 確定期限がある債務は、期限の到来により地帯に陥る。
    • 不確定期限の場合には、債務者が期限の到来を知ったときから地帯に陥る。
    • 期限の定めがない場合には、債権者が請求したときから地帯に陥る。
  3. 債務者に責任があること
    • 原則として地帯の責任は債務者にあることになる
    • 債務者が自己が債務不履行責任を負いたくない場合には、自分に責任がないことを立証しなければならない。
  4. 遅滞が違法であること
    • 原則としては履行が遅滞している以上、違法性があるものと推定される
    • 債務者が履行遅滞が違法でないと考えている場合には、債務者側で違法性が無い事を立証しなければならない。

履行不能の要件

  1. 履行が不能なこと
    • 履行不能かどうかについては社会通念による
  2. 債務者に責任があること
  3. 不能が違法であること

 ここでの不能は、後発的不能(解約が締結されてから不能に陥ること)が必要となる。

不完全履行の要件

  1. 不完全な履行があること
  2. 債務者に責任があること
  3. 不完全履行が違法であること

損害賠償請求

 損害賠償請求とは、契約の不履行により、債権者が損害を被った場合には、公平の見地から当事者間で金銭による保障がなされる仕組みのこと

損害賠償の要件

  1. 債務者に債務不履行があること
  2. その債務不履行により損害が発生していること
  3. その債務不履行と損害との間に因果関係が存在すること

金銭債務の特則<419条>

 債務不履行の中でも、金銭債務の不履行についてだけは、要件と効果に特則が設けられている

  1. 成立要件の特則
     債権者は損害の証明をする必要が無く、債務者は責任の有無について不可抗力であるという抗弁ができない。
  2. 効果の特則
     損害賠償の内容としては、原則として法定利率によるが、当事者間でこれと異なる利率を約束していた場合(約定利率)には、その利率による。

過失相殺<418条>

 債務の不履行において、債権者にも過失が認められるような場合には、裁判所が賠償額の算定にあたって、債権者の過失を斟酌する(必要的斟酌)。

損害賠償の予定<420条>

 当事者が、予め債務不履行があった場合の賠償責任について契約により定めていたような場合には、債権者は債務不履行があった事実のみを証明すれば、損害の発生や損害額の立証をすることなく、契約により定めた額を債務者に請求できる。また、この予定額は裁判所も増減ができない(但し、公序良俗や特別法などの制約はある)。

受領遅滞

 債務の履行に債権者の受領が必要となる場合において、債務者が債務の本旨に従った提供をしたにもかかわらず、債権者が債務の履行を受けることを拒んだりすることにより履行遅滞になる場合を言う<413条>。

  • 受領遅滞の学説
    • 法定責任説
      • 公平の見地から特別に法が認めた責任であるとする説であり、これが通説となっている
    • 債務不履行説
      • 債権者にも契約により債務者と協力して債権の実現を目指す義務があり、受領遅滞はこれに反する一種の債務不履行であるとする説
  • 受領遅滞の要件
    1. 債務者が債務の本旨に従った履行の提供をしたこと
    2. 債権者が受領拒絶もしくは受領不能であること
    3. 債務者不履行説では債権者の帰責事由(故意・過失)も要求する
  • 受領遅滞の効果
    • 弁済の提供効果が生じる
      • 履行遅滞責任を免れる
      • 債権者の同時履行の抗弁権がなくなる
    • 債務者の善管注意義務が軽減される
    • 目的物の補完の費用や弁済費用が増加した場合には、これらが債権者の負担になる
    • 債務不履行説からは、債権者に対する損害賠償が認められる

債権者代位性・債権者取消権


債権者代位権

債権者代位性
債務者がその財産権を行使しない場合に、債権者が自己の債権を保全するために、債務者に変わって自己の名前で、その権利を行使して債務者の責任財産の保全を図る制度

債権者代位権の要件

  1. 被保全債権が金銭債権であること
  2. 被保全債権が弁済期であること
    • 原則
      • 被保全債権の弁済期が到来していないのに、債権者代位権を認めるのは債務者の私的自治について、過度に干渉するものと考えられるため
    • 例外
      1. 裁判上の代位<423条2項前段>
         債権者が不当に債務者の財産管理権を侵害することのないように、裁判所の関与による履行期前の代位権行使を認めている
      2. 保存行為
         この場合は、債務者の現状の財産を維持する行為をさす
  3. 債務者が無資力であること
  4. 債務者が未だ権利を行使していないこと
     明文されているわけではないが、判例において要求されている(最判昭28.12.14)
  5. 代位行使される権利が一身専属的ではないこと
     権利を行使するか否かが権利者の個人的意思に委ねられているべき権利であると言うこと

債権者代位権の行使方法

 債権者代位権は、裁判上でも裁判外でも行使できる。
 また、代位権を行使する場合には、債務者の名前で行使するわけではなく、債権者の名義で行使することになる。
 なお、相手方は、債権者が相手でも債務者に対する全ての抗弁を主張することができる。

債権者代位権の請求内容

  • 原則
    • 債権者代位権の請求内容としては、原則として、債権者が、相手方に対して「債務者に履行せよ」という内容になる
  • 債権者への直接履行請求の可否
     「債権者に直接履行せよ」という主張について。
    • 動産や金銭債権の場合には、これを認めないと、債務者が受領しないような場合には代位権の実効性がないし、債権を行使する権限には受領権限も含まれるべきであるとして、肯定する(大判昭10.3.12)。
    • 不動産の場合には、債務者のもとに登記を戻すだけで目的が達成できるので、債務者の受け取り拒絶ということが考えられないことから、債権者に直接支払えというような主張はできない。
  • 請求額について
    • 代位行使における請求額は、一般的には、債権者の債権額の範囲に留まるべきであるとされている。

代位権の行使の結果

  • 債務者の処分権限の喪失
     債権者代位権が行使されると、債務者は当該債権の処分権限を喪失し、債権譲渡など、債権者の代位行為を妨げるような行為ができなくなる。
  • 財産は総債権者の共同担保となる
     債権者代位権が行使されると、財産は原則として債務者の財産に帰属することになり、全ての債権者のための責任財産となる。
     なお、判例によると、動産・金銭債権については例外的に債権者に直接受領することになり、事実上は回収に努力した債権者が優先弁済を受けることになる。

債権者代位権の転用

  • 意義
    債権者代位権は、債務者の責任財産を保全するものであるから、責任財産から支払いを受けるような、金銭債権を被保全債権とするのが原則である。しかし、判例条は、金銭債権以外の債権でも、一定の場合には、債権者代位権の行使を認め、これを債権者代位権の転用という。
  • 転用事例
    • 移転登記請求権の代位行使
       判例は、不動産がABCと順次売買されたが、いまだ登記がAに残存しているような場合に、CBに対する登記の移転請求権を保全するために、BAに対する登記請求権を代位行使することができるとする(大判明43.7.6)
  • 債権譲渡の通知請求権の代位行使
     判例は、Aに対して有する債権がABCと譲渡されたが、に対してAからの債権譲渡通知が未だなされていないような場合に、CBAに対して有する通知請求権を代位行使できるとする(大判大8.6.26)
  • 所有権に基づく妨害排除請求権の代位行使  判例は、BA所有の土地を賃借している場合に、この土地を不法占拠するCに対して、賃借人であるBが所有者であるAの妨害排除請求権を代位行使することを認める(大判昭4.12.16)
  • 転用の場合の無資力要件
     債権者代位権の転用の場合には、金銭債権の場合と異なり、債務者の無資力が要件とならない
     ⇒責任財産の保全ではなく、特定の債権の保全という目的のため

債権者取消権

 債務者が積極的に自己の財産を減少させたり、自己の債権回収を困難にするような行為を行った場合に、債権者が裁判上その法律行為を取り消して財産を返還させ、責任財産を保全するための制度<424条>。詐害行為取消権とも言う。

要件

  1. 被保全債権が金銭債権であること
    • 債権者代位権とは異なり、債権者取消権では転用が認められない
    • 弁済期の到来は不要
  2. 被保全債権が詐害行為の前に成立していること
  3. 債務者が無資力であること
  4. 債務者の詐害行為が財産権を目的とする法律行為であること
    • 婚姻や離婚などの身分行為であるような場合は原則的に適用しない
      • 民法768条3甲の趣旨に反して不相当に課題であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があれば取消の対象となる(最判昭58.12.19)
  5. 債務者に詐害意思があること
  6. 受益者・転得者が悪意であること
    • 債権者を害するような意思ではなく、当該行為が債権者に対する弁済の資力不足を招くということを認識している程度でも良いとされている。

債権者取消権の行使の方法

  • 債権者取消権は裁判上のみで行使できる<424条1項>
  • 債権者は自己の名前で行使する

債権者取消権の行使期間

 債権者が取消原因を知った(債権者が詐害の客観的事実、詐害意思があることを知った)ときから2年で消滅時効にかかり、詐害行為の時から20年を経過したときも消滅する<426条>


債権者取消権の行使の内容

  • 詐害行為当時の取消権者の被保全債権額の範囲に限定される
    • 但し、目的物が不可分な場合には債権額を超えていても目的物全体について取消が可能

債権者取消権の効果

  • 債権者取消権が行使されると、その効果は総債権者のために生じ、取り戻された財産は債務者の責任財産として回復される<425条>
  • 債権者代位権同様、動産や金銭債権の場合には、債権者は直接自己に引渡を請求でき、受け取った債権者が事実上の優先弁済を受けうることになる(大判大10.6.18)
  • 不動産の場合には、債務者の元に登記を戻すだけで目的を達成できるので、債務者の受け取り拒絶ということが考えられないため、債権者に直接支払えというような主張はできない(最大判昭36.7.19)

多数当事者の債権及び債務

分割債権債務・不可分債権債務

分割債権債務

一つの債権・債務について複数の当事者が生じた場合に、分割可能な債権債務については、各人について平等に分割されるというもの<427条>
 ex. 債務者の死亡等で複数の相続人が債務を相続する場合は、原則として等分分割負担することとなる

分割債権債務は、対外的には分割された各々の債権・債務は独立したものと扱われ、各分割債権者は自己の債権のみを独立して行使できるし、債務者は自己の債務のみを弁済すればよく、当事者の一人に生じた事由は、他の債権者・債務者に影響を及ぼさない。

不可分債権債務

複数人が一個の不可分な給付を目的とする債権または債務を有するもの<428条>
 ex:共同相続した不動産の引渡債務など

不可分債権債務関係では、不可分債権と不可分債務とで効力が異なる

  • 不可分債権
    • 各債権者は独立で債務者に債権を全額履行請求ができるし、また債務者は債権者のうちの一人に対して債務の全額を弁済することもできる
    • 当事者の一人について生じた事由は、他の当事者について、効力が及ぶ場合と及ばない場合がある
      • 効力が及ぶ(絶対的効力)場合
         履行請求及びそれに伴う時効中断・履行遅滞、弁済、弁済の提供、供託、受領遅滞
      • 効力が及ばない(相対的効力)場合
         上記以外の事由
  • 不可分債務
    • 債権者と不可分債務者の関係には連帯債務の規定が準用される
      • 従って、債権者は各債務者に対して同時または順次に全部または一部の履行を請求できる
    • 弁済に関する事項(弁済、供託、弁済の提供、受領遅滞等)のみ絶対的効力が生じる。

連帯債務

民法432条
数人が連帯債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次にすべての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。

連帯債務の成立

  • 当事者による意思表示
  • 法律の規定による場合

連帯債務の当事者間における効力

 連帯債務者の一人について生じた事由は原則として相対的効力となるが、下記の事由については絶対的効力となる。

  • 弁済・代物弁済
     連帯債務者の一人が債権者に債務全額を弁済したならば、債務は全て消滅し、その効力は他の連帯債務者にも及ぶ。
  • 請求<434条>
     債権者が連帯債務者の一人に履行を請求しても、全員に対し、請求したこととして扱われる(=一人に請求すれば全員の債権の時効が中断、または履行遅滞に陥る)。
  • 更改<435条>
     連帯債務者の一人と債権者との間に更改があったときは、債権は、すべての連帯債務者の利益のために消滅する。
  • 混同<438条>
     連帯債務者の一人と債権者との間に混同があったときは、その連帯債務者は、弁済をしたものとみなす。但し、相殺した連帯債務者は弁済したとき同様、他の連帯債務者に対して求償権を有する。
     ⇒債務者の一人が債権者を相続した場合など
  • 相殺<436条>
     連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において、その連帯債務者が相殺を援用したときは、債権は、すべての連帯債務者の利益のために消滅する。また、その連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債務者の負担部分についてのみ他の連帯債務者が相殺を援用することができる。
  • 免除<437条>
     債権者が連帯債務者の一人に対して債務を免除すると免除された連帯債務者の負担部分に付いて総債務は減少し、他の連帯債務者は負担部分を差し引いた額の連帯債務を債権者に負うことになる。
     ⇒免除があった場合には、債務総額から免除分が除外されるということ  
  • 消滅時効<439条>
     連帯債務者の一人の債務について時効が完成したときは、その負担部分に付いて総債務は減少し、他の連帯債務者は負担部分を差し引いた額の連帯債務を債権者に負うことになる。

求償権

 連帯債務者の一人が弁済その他自己の出捐(=出費)によって、他の債務者の債務を免れさせた場合は、他の債務者に対して負担部分に応じて求償権を獲得する。
 ※要するに立て替えた分は返せ、ということ

保証債務

  • 主たる債務の履行がない場合に、債務者以外の者(保証人)が負担する制度
  • 保証人を人的担保と表現することもある
  • 保証契約の成立に当たっては、書面で契約をしなければならない<446条2項>

保証契約の特徴

 保証契約は債権者と保証人の間で締結され、債務者(主債務者)はこの契約の当事者ではない
 ※現実には債務者の依頼で保証人となることがほとんどであるが、契約上は関係無い

法的性質

  • 同一内容性・附従性
    • 同一内容性:保証債務は主たる債務と同一の給付内容を有するという性質
      • 主たる債務が成立していなければ保証債務が成立することもなく、主債務よりも内容・様態において軽くなることは許されても、重くなることは許されない
    • 附従性:保証債務は主たる債務の存在を前提とし、主たる債務の存在を前提に保証債務が存在するという性質
      • 要するに主たる債務が消滅すれば、保証債務も消滅するということ
  • 随伴性・補充性
    • 随伴性:主たる債務が移転すると、保証債務もまた、主債務に従って移転するという性質
    • 補充性:主たる債務者が、その債務を履行しない場合に、始めて保証人が保証債務を履行する義務が生じるという性質
      • 保証人は、この補充性を担保するために、催告の抗弁権検索の抗弁権を有する<452、453条>
催告の抗弁権
債権者が主たる債務者に履行の請求をすることなく、いきなり保証人に保証債務の履行を請求してきた場合に、保証人が債権者に対して「まず主たる債務者に催告(請求)するように」と主張することができる権利
検索の抗弁権
債権者が債務者に催告した後でも、先に保証人に対して執行してきた場合には、保証人は主たる債務者に弁済の資力があり、かつ執行も容易であることを証明すれば、まず主たる債務者の財産に対して執行すべきであると債権者に抗弁できる権利

保証債務の範囲

 保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する<447条>
 ※附従性による制約を受けることに注意

主たる債務と保証債務との関係

  1. 主債務について生じた事由が保証債務に及ぼす影響
    • 原則として主たる債務について生じた事由の効力は、附従性によりすべて保証人に及ぶ
      • 但し、主たる債務が保証契約後に増額されるような内容であったり、主たる債務が消滅時効にかかったが主債務者がこれを放棄するような場合には、保証人には効力が及ばない
  2. 保証債務について生じた事由が主債務に及ぼす影響
    • 弁済などの主たる債務を満足させる物以外は、主たる債務には何らの影響もない

保証人の求償権

 保証人が保証債務の弁済を行った場合、実質的には保証人は主債務者の債務を肩代わりしたに過ぎないため、民法では、保証人が保証債務を弁済した場合には、主催武者に対して求償権を取得することとした<459条>

保証人の事前求償権<460条>

 委託を受けた保証人は以下の場合に事前求償権を行使することができる

  1. 主たる債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に加入しないとき
  2. 債務が弁済期にあるとき。ただし、保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は、保証人に対抗することができない。
  3. 債務の弁済期が不確定で、かつ、その最長期をも確定することができない場合において、保証契約の後十年を経過したとき。

 また、物上保証人の事前求償権については、判例において否定的な見解を示している。

連帯保証

  • 保証人が主たる債務者と連帯して保証債務を負担する保証債務
  • 連帯保証には附従性はあるが補充性はない
    • 催告の抗弁権も検索の抗弁権も有しないということ
      ⇒単純な保証の場合と異なり、債権者はいきなり連帯保証人に対して債務の履行請求をすることができる
  • 連帯債務の絶対的効力に関する規定が準用される
    • 但し、連帯保証人には自分の債務が存在しないので、連帯債務の規定についても、負担部分を前提とする規定は準用されない

債権譲渡

 債権の同一性を保ちつつ、契約により債権を移転させること

債権譲渡の成立

 債権譲渡は、債権の自由譲渡性を前提に認められ、譲渡するのに債務者の承諾は不要であり、譲渡人と譲受人との合意で成立する

債権譲渡における制限

 債権譲渡には債権の性質上の制限及び法律上の制限がある。

  • 性質上の制限:特定人に役務を提供させる債権などの不代替的債権など
  • 法律上の制限:不要請求権や恩給請求権など
  • また、当事者が特にこれを禁止する場合(譲渡禁止特約)もある
    • 但し、この特約も善意無過失の第三者には対抗できない(466条2項、最判昭48.7.19)

債権譲渡の対抗要件

  • 債務者に対する対抗要件
    • 債権の譲受人が債務者に対して譲り受けた債権を主張するには、譲渡人から債務者に対する通知、または債務者からの承諾が必要となる<467条1項>
    • 通知の場合には、債権者が通知をする必要がある
  • 債務者以外の第三者に対する対抗要件
    • 債務者以外の第三者に対する対抗要件としては、確定日付がある証書による通知、または承諾が必要となる<476条2項>(確定日付のある証書とは、例えば公証役場において証書に確定日付を付して貰ったり、内容証明郵便における郵便記載の日付をさす)
      • 債権者Aに対する債権をBCへ二重に譲渡した場合、BC間の優劣は確定日付のある証書による通知、または承諾が対抗要件となる
      • 上記の場合においてBCともに確定日付のある証書を有する場合には、判例によると確定日付の先後ではなく、証書の到達の先後により優劣を決定することとされる(最判昭49.3.7)

異議なき承諾

 AB間にはもはや債権が無いにも関わらず、債務者Bが『債権はありますよ。そしてその譲渡は承諾しますよ。』と言い、Cはこれを信じてAから債権を譲り受けたような場合、嘘を付いたBは保護に値しないため、例え債権が無くてもBCに弁済しなければならない。

  • 異議なき承諾と抵当権の復活について
     債権譲受人に対して異議なき承諾をしたために債権が復活した場合に、その債権を担保するために設定されていた抵当権が復活するかどうかは以下のように場合分けされる(大判昭11.2.13)。
    • 譲渡債権が弁済により消滅した場合:抵当権の消滅を主張できない
    • そもそも債権が不存在であったような場合:譲受人が抵当権取得を主張できない
  • 異議なき承諾と保証債務の復活について
     異議なき承諾により、その債務についての保証債務が復活するかどうかについては、判例で否定的に解されている(大判昭15.10.9)。

債権の消滅

 債権の消滅原因には以下のようなものがある

  • 弁済・代物弁済
  • 供託
  • 相殺
  • 時効
  • 免除
  • 混同
  • 更改

弁済

弁済とその当事者

  • 弁済
    • 債務の本旨に従って、債務の内容である一定の給付を実現する、債務者その他の第三者の行為を言う
  • 弁済者
    • 原則として債務者本人が行うが、第三者も弁済することが可能である
    • 但し、債務の性質が第三者の弁済を許さない場合は、第三者が弁済することができない
  • 利害関係を有しない第三者
    • 利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反してまでは弁済できない<474条>。
       ※ここでいう利害関係とは、弁済することについての法律上の利害関係を意味する
  • 弁済を受領する者
    • 弁済受領権者は弁済の相手方のことであるが、これは債権者に限らず、債権者から受領権限を託された者でも構わない
  • 債権の準占有者
    • 本来債権者も含めて、受領権限のない者に弁済をしても有効な弁済とはならないが、民法では例外的に、債権の準占有者への弁済の場合には、受領権限のない者にした弁済も有効に扱うこととした。
債権の準占有者
取引観念上からみて真実の債権者であると信じさせるような外観を有する者(ex. 債権者に無断で債券証書と印鑑を持ち出した者など)を言い、この者に対して善意・無過失で弁済した場合は有効とされる<478条>。

弁済の内容

  • 弁済の時期
    • 原則
      • 契約等により定められた時期に行うことを要し、原則として期日以前に支払う義務はない(期限の利益)、
      • 履行期前でも債務者が任意に履行することは可能であるが、債権者の利益を害することはできないとされる<136条>
        ⇒金利が付されていた契約の場合は、履行期前に返済する場合でも、満期分の利息を付す必要がある
    • 例外<137条>
      • 債務者が破産手tづきかいしの決定を受けたとき
      • 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、または減少させたとき
      • 債務者が担保を今日する義務を負う場合において、これを供しないとき
  • 弁済場所<484条>
    • 通常は債権者の現在の住所が弁済の場所となる(持参債務の原則
    • 特定物の引渡を目的とする場合には、その債権が発生した当時の目的物の存在した場所となる(取立債務
  • 弁済の内容
    • 原則として、債務の本旨に従った弁済であることが必要である
      • 特定物債権の場合には、引渡をする時の現状のまま引き渡せば足りる<483条>
      • 不特定物債権の場合には、瑕疵のない物を引き渡す必要がある
  • 弁済の費用<485条>
    • 弁済に関する費用は、別段の定めがなければ債務者の負担となる
    • 但し、債権者が住所移転等により弁済の費用を増加させた場合には、増加分については債権者が負担する
  • 弁済の効果
    • 弁済があると、その効果として債権は消滅する
  • 弁済による代位
    • 保証者などの債務者以外の第三者が弁済をした場合に、債権者が債務者に対して有していた権利が弁済をした第三者に移転する制度のこと
    • 民法では499条(任意代位)と500条(法定代位)で、その効果を規定している
    • 上記規定にて債権者に代位した者は、自己の権利に基づいて求償をすることができる範囲内において、債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる<501条>。

弁済の提供

 弁済の提供とは、債務者が給付を実現するために必要な準備をして債権者の協力を求めることをさす
 ⇒債権者の非協力によって債務の履行遅滞となることを防ぐことを目的としている

  • 要件
    • 現実の提供:債権者が目的物を受領する以外は何もしなくて良いほどの提供を債務者が行うこと
    • ただし、債務者が予め受領を拒んでいる場合や、債務の履行について債権者の行為が必要な場合には口頭の提供(弁済の準備をしたことを通知して、その受領の催告をすること)で足りる
  • 効果  弁済の提供があると、債務者は債務不履行責任から免れることになる

相殺

  • 債権者と債務者が相互に同種の債権・債務を有する場合に、その債権債務を対当額で消滅させる一方的な意思表示のこと
  • 相殺する側の債権を自働債権、相殺される側の債権を受働債権という

相殺の要件

  1. 当事者間に債権が対立していること
  2. 双方の債権が同種の目的であること
  3. 双方の債務が弁済期にあること
    • 自働債権は弁済期にあることを必要とするが、受働債権は必ずしも弁済期にある必要はない
      ⇒受働債権については相殺をする側が期限の利益を放棄すれば良いため
  4. 債務の性質が相殺を許すものであること
    • 相殺を許さないもの
      • 当事者間に相殺を禁ずる合意がある場合など
      • 自働債権に抗弁権が付着している場合や、差押えを受けている場合など
      • 受働債権が不法行為による損害賠償請求権である場合や、差押えが禁止されている、または差押えを受けている場合など
        不法行為による損害賠償請求権を自働債権とする相殺は許される

相殺の効果

  • 相殺の要件が整い、相殺が可能な条件になっても(相殺適状)、当事者の意思表示がなければ効果は発生しない
  • この意思表示には、条件や期限は原則として付することはできないが、例外的に当事者の合意があれば付することができる
  • 相殺の意思表示が行われると、当事者間に対立する債権は対当額で消滅し、その効果は相殺適状になった時点に遡る

その他の債権消滅原因

供託<494条〜>

  • 意義
     債権者が弁済を受領しない場合に、弁済者が弁済の目的物を債権者のために供託所に供託して、これにより債務を免れる制度
  • 要件
    • 債権者の受領拒絶若しくは受領不能があること
    • 弁済者に過失が無く、債権者が分からないこと
    • 弁済する者が契約の目的物であること
  • 供託の方法
     弁済者が、債務履行地を管轄する供託所に供託して行う。供託者は債権者に対して供託の通知を行う。
  • 効果
     供託をすると、債務は消滅することになり、債権者は供託物の還付請求する権利を取得することになる。

更改<513条〜>

  • 意義
     債権または債務の要素を変更することにより、新債券を成立させるとともに、旧債権を消滅させるという契約
  • 要件
    • 消滅するべき債務が存在すること
    • 新債務が成立すること
    • 債務の要素が変更されていること
  • 効果
     旧債務が消滅し、新債務が成立する

免除<519条>

  • 意義
     債権者が一方的に意思表示により無償で債務を消滅させること
  • 要件
    • 免除する者に処分権限があること
    • 意思表示がなされること
  • 効果
     債権の消滅

混同<520条>

  • 意義
     債権及び債務が同一人に帰属することにより消滅すること
  • 混同の例外
    • 債権が第三者の権利の目的である場合
    • 証券化した債権
    • 不動産賃貸借関係