生々流転


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生々流転    岡本かの子“著”

遁れて都を出ました。鉄道線路のガードの下を潜り橋を渡りました。わたくしは尚それまで、振り払うようにしてきたわたくしの袂の端をつかむ二本の男の腕を感じておりましたが、ガードを抜けて急に泥の匂いがする水っぽい闇に向かい合う頃からその袂はだんだん軽くなりました。代わりに自分で自分の体重を支えなくてはならない妙な気怠るさを感じ出しました。これが物事に醒めるか冷静になったとかということでしょうか。 道は闇の中に一筋西に通っております。両側は田園らしく泥の匂いに混じった青臭い匂いがします。蛙が頻りに鳴いております。フエルト草履裏の土にあたる音を自分で聞きながらわたくしは足に任せて歩いて行きました。わたくしの眼にだんだん闇に慣れてきますと道の両側に几帳面な間隔で…………(略)