五木の子守唄


『五木の子守唄』

おどま 盆切り 盆切り
盆から先ゃ おらんど
盆がはよ来りゃ はよ戻る

おどま 勧進 勧進 あん人たちゃ よか衆

よか衆 よか帯 よか着物

おどんが うっ死んだら 道ばちゃ 埋けろ
通る人ごつ 花 上ぎゅう

花は 何の花 つんつん椿
水は 天から もらい水

おどんが お父っつぁんな 山から山へ
里の祭りにゃ 縁なにゃあ

熊本県五木村 堂坂ヨシ子さん

 “おどま盆切り盆切り、盆から先きゃ居らんと(私はお盆が奉公の期限。お盆から先はここにはいない。古里に帰れる)。盆が早よ来りゃ早よ戻る”。~


 音楽の教科書でも取り上げられていた、五木の子守唄。これは、熊本県五木の山村で育った年端もいかぬ娘たちが、相良藩(今の人吉市)の裕福な家庭に子守奉公に出された時に歌っていたものだと言われている。遠く離れた親を慕い、古里の五木を懐かしみ、労働の辛さを子守唄に込めた少女たち。五木に帰ってからも歌い継がれて来たのだろう。作詞者不祥のまま、今なお数多くの歌詞が残っている。

 その五木村で、正調五木の子守唄の継承者として歌い続けているのが堂坂ヨシ子さんだ。堂坂さんの哀切に満ちた歌声を聞こうと日本全国、そして韓国や中国からもツアー客がやってくる。それらの人たちの求めに応じ、ボランティアで子守唄を聞かせてくれる。

 堂坂さんは7人兄妹の末っ子。お母さんも、五木の子守唄を歌って子守をしていたはずだ。しかし堂坂さんの記憶に残る五木の子守唄との出会いは、小学生時代。校門のそばで泥遊びをしていると、どこかのお婆さんが赤ちゃんをおんぶして歌っているのが聞こえた。“おどまいやいや、泣く子の守りは。泣くと言われて憎まれる”。その物悲しいメロディと歌詞が心に残り、お母さんに話すと「子守歌の文句はいくつもあるとよ」と教えてくれた。その後、学校で出た宿題が「自分の周りの人に聞いて、五木の子守唄の歌詞を集めてくるように」というもの。級友と合わせると、歌詞の種類は数十にも上った。「でも、どれが一番でどれが二番かは、誰も知らんとですよね。誰ともなく口々に歌って来たとでしょうねえ」。堂坂さんのお母さんが子供の頃、身近に歌われていたというが、それが1870年代。明治初期である。明治になって進められた廃藩置県で相良藩がなくなったので、五木の子守唄が歌われたのはそれ以前のことだろう。「百何十年も、よう伝わって来たと思いますよ、本当に」と堂坂さんは目をつぶって語る。

 五木の子守唄は北原白秋に絶賛された。音楽の教科書にも取り上げられ、全国の小学生の知るところとなったが、掲載された歌詞に、こういうものもあった。“おどま、かんじん、かんじん。あん人たちゃ良か衆(よかし)。良か衆、良か帯、良か着物(きもん”)。意味は「私はかんじんさん(物もらい)のような、みすぼらしい格好をしている。あの人たちはお金持ちで、立派な帯に立派な着物を着ているのに」というようなものだ。子守を雇うほどの裕福な家庭。赤ちゃんの姉にあたる少女が、そこのお嬢様としてきれいな着物を着て遊んでいる。対して、あまり年の変わらない自分は粗末な着物をまとい、赤ちゃんをおんぶするという重労働をさせられている。赤ちゃんが泣けば叱られ、食事を与えられないこともある。かばってくれる人もいない。我が身の哀れさが身に染みたのだろう。歌詞の一つに“辛いもんばい、他人の飯は。煮えちゃおれども、喉こさぐ”というのもある。「ご飯はちゃんと煮えてるけど、喉につかえるというか、素直においしいと言って食べる気持ちにはなれんかったとでしょう。その頃の子供は素朴で純真で、おとなしかった。本当に辛かったとでしょうね。」

 堂坂さんが小学校を卒業した70数年前にも、6年生が終わってすぐ奉公に出る子も多かった。また、当時どの家庭も子だくさんだったため、自分の弟妹の子守をさせられることあったそうだ。血のつながった弟妹と言えども、小さな体には耐え難い重さだっただろう。その当時を知る年配の方や、自身も小学校を出てすぐ働いた方などは、堂坂さんの子守唄を聞くと、「わかるわかる」と泣いてしまう。若い人でも、堂坂さんの歌う哀しい響きに、少女たちの切なさがしのばれ、涙がにじんでくるはずだ。~


 今、堂坂さんは、五木村の小学生2〜3人に正調五木の子守唄を教えている。27時間テレビで演歌歌手の氷川きよしが習いに来て、子供たちとも一緒に歌ったそうだ。音楽の教科書とは少し違う正調五木の子守唄。その唄声を聞きに、五木村を訪れてほしい。

私の持っている歌集には、2番(おどま勧進勧進)と3番(おどんが打死だちゅて)の間に下記の歌詞3番?があります。

あすは山こえ どこまで行こか
鳴くは裏山 蝉ばかり

出典は、松永伍一著「日本の子守唄」紀伊國屋書店刊です。

「正調・五木の子守唄」

1.
おどまいやいや泣く子の守りにゃ
泣くといわれて憎まれる

2.
ねんね一ぺん言うて眠らぬやつは

頭たたいて尻ねずめ

3.
ねんねした児に米ン飯くわしゅ
黄粉アレにして砂糖つけて

4.
ねんねした児のかわいさむぞさ
起きて泣く児の面憎さ

5. 子どんが可愛いけりゃ守に餅くわしゅ 守がこくれば児もこくる

6. つらいもんばい他人の飯は 煮えちゃおれどものどこさぐ

7. おどま馬鹿々々馬鹿んもった子じゃっで よろしゅ頼んもす利口か人(しと)

8. おどま盆ぎり盆ぎり盆から先ゃおらんと 盆がはよくりゃはよもどる

9. おどま非人(かんじん)々々あん人たちゃよか衆 よか衆よか帯よか着物(きもん)

10. おどま非人々々ぐわんがら打ってさるこ ちょかで飯ちゃあて堂にとまる

11. おどんがこン村に一年おれば 丸木柱に角がたつ

12. 丸木柱に角たつよりは おどまはよ暇ンでればよか

13. おどんがおればこそこン村もめる おどんが去(い)たあと花が咲く

14. 花が咲いてもろくな花ささん 手足かかじるイゲの花

15. おどんがうっ死んだちゅうて誰が泣(にあ)てくりゅうか うらの松山蝉がなく

16. 蝉じゃござらん妹でごさる 妹なくなよ気にかかる

17. おどんがうっ死んだら道ばちゃいけろ 通る人ごち花あぎゅう

18. 花はなんの花つんつん椿 水は天からもらい水

19. おどんがとっちゃんなあン山おらす おらすともえば行こごたる

http://www.mahoroba.ne.jp/~gonbe007/hog/shouka/00_songs.html

本日の蛇足。「五木の子守歌」は昭和20年代に作曲家の古関裕而が五木村周辺でフィールドワーク・採譜した、20種類ぐらいの「五木の子守歌」からまとめて発表したものだそうです。小学校の鑑賞教材CDには、「おどま盆切り盆切り」の歌詞で全然違うメロディの録音(2拍子)が資料として入っていたと思います。(ん?他で聞いたんだっけ?) で、通常知られている「五木の子守歌」は、明治以前の日本の歌にあまりない「3拍子である」ことが特異で、それは秀吉の朝鮮出兵のときに朝鮮から労働力として連れてこられた人々が五木村周辺に住まわされ、彼らが伝えたメロディなのではないかという話。朝鮮では3拍子は普通で、「アリラン」もよく知られたメロディは3拍子ですし、地域ごとに沢山あるヴァリエーション(というのかな)も3拍子や8分の6拍子などが多いようです。以上、聞きかじり読みかじりからの混ぜ合わせですので、不正確なところもあるかも知れません

おどんが お父っぁんな あんやみゃ おらす おらすとおもえば いごこたる おどんが お父っぁんな 山から山へ 里の祭にゃ 縁がない おどんが お父っぁんな 山から山へ 宮座宮座にゃ 縁がない おどまいやいや この山奥で 鹿のなく声 聞いて暮らす おどんが お父っぁんな 川流しの船頭 さぞやさんかろ 川風に 山の谷間で なく鹿さえも 親が恋しと いうてござる 親は薩摩に 子は島原に 桜花かよ ちりぢりに おどまいやいや この山奥で 花の都が みてみたい おどまいやいや なく子の守りにゃ 絹の小袖に 巻かりゅとも 人の守りこは 哀れなもんよ どこで 死んでん 墓もなか 旦那さんたちゃ 茶わんめし食ぁすが おどま守り子で 握んめし おどま親なし 七つん歳で 人の守り子で 苦労する つらいもんばい 他人のままは にえちゃおれども のどこさぐ 子もちよいもん 子にくせつけて 添寝するちゅうて 楽寝する 姉しゃん 子もちやれ 子はおがかろうで かろうて育てて 後とらしゅ 子んこにくらし おどんがだけは なんせんのに すぐに泣く ねんねして泣く 子にゃ乳のませ 乳をのませて 泣かんよに ねんねした子の 可愛いさ むぞさ おきて泣く子の つらにくさ ねんねーぺんいうて ねむらぬ餓鬼は 頭たたいて しりねずむ ねんねしなされ 朝起きなされ 朝は六時の 鐘がなる ねんねしなされ 朝起きなされ 朝はお寺の 鐘がなる ねんねしなされ 朝起きなされ 朝の目覚ましゃ 茶とタバコ ねんねした子にゃ 米んめし くわしょ 黄紛あれにして 砂糖つけて おどまいやいや 泣くん子の守りにゃ 泣くというては 憎まるる おどまいやばい 泣くん子の守りにゃ 泣くというては つろうござる おどまいやばな 泣くん子の守りにゃ 守りといわれて つろござる おどまいやいや 泣くん子の守りにゃ 泣けばおどんも 泣こごたる おどんば おごれば かるとる子が 泣くで 泣けばおどんも 泣こごたる 髪をつかんで ひっぱるよな こどま 旅のやんほしどんに くれてやろ 守りといわれて 腹がたつよでは 守りは守りでも ゲスの守り こん子かわゆし この親にくし 出るに出られぬ 身のつらさ うちの真婆女が ぐずぐずゆおば とうかのとぎで くわんとやれ 山をこえこえ 使いに来たが いもの一つも くれはせぬ 盆がきたつちゃ 正月どんが来ても 晴着ひとつも 着せはせん こん子よう泣く ヒバリかヒヨか 鳥じゃござらぬ 人の子よ おどまいやいや 泣くん子の守りにゃ おどま泣かん子の 守りがよか おどまいやいや いやまのもりで いやといわれて だまされる 山でこわいのは イゲばら 木ばら 里でこわいのは りの口 おどま知っとるばってん いわんでのこつよ いえばきらわれ にくまるる わしがおるじゅは ほうびゃぁたのむ わしがでたあていうてたもれ  おどま一年奉公 二年ちゅちゅ おらん あてにゃ よかとの 気にいっと 話しゃやめにして やすもじゃないか おごけしまいやれ 寝て話そ おどんがごたってにゃ ものいうな 名いうて 情かくんな 袖ひくな 情かくっちゅて もみんぬかかけて さまの情は かゆござる 子どん可愛いけりゃ 守りに餅くわせ 守りがこくれば 子もこくる おどまかんじん かんじん ガンガラうってさるこ チョカで ママ炊ぁて 堂でとまる おどまかんじん かんじん かんじん袋さげて あんしゅ よか人 かたなさけ おどんが 歌とたいは 二階から笑ろた うたじゃ 飯ぁくわん ゴゼじゃなし おどんがちんかときゃ やつおの せった いまじゃほんけなって つのむすぶ おどんがちんかときゃ 鐘うちせきった いきはほんとなって 一のむすぶ おどま盆きっ盆きっ 盆かっ先ゃ おらんと 盆が早よ くりゃ 早よもどる おどまかんじん かんじん おんしたちゃ よかし よかしゃ よか帯 よかきもん おどんが 死んだちゅうて だが泣ぁて くりゅきゃ 裏ん松ちゃみゃ 蝉がなく 蝉じゃござらぬ いもつで ござる いもつ泣くなよ 気にかかる おどま馬鹿 馬鹿 馬鹿ん 持った子じゃって よろしゅ たのんもそ じこか人 おどんが うっちんずろば 道ばちゃ いけろ 通る人ごて 花あぐる 花なんの花 つんつん椿 水は天から もらい水 おどんが若いときゃ 芳野に通た 木かもや なびかせた わたしゃ お前さんは 踏みやろごたる 四月五月の 泥足で 思い気りゃんせ 木にのぼりゃんせ こけて死なんせ わしゃ みとる おどんが こん村に 一年とおれば 丸木柱に 角がたつ 丸木柱に 角がたつよりも 早くいとまが でればよい おどんがおればこそ こん村がもむる おどんが 行ったあて 花がさく 花はさいても どくな花はさかん 手足かかじる いけの花 思うてきたかよ 思わできたか わたしゃ裏から おもてきた  とととかかとは だきよて 寝やる おどま ちんかいども ひとりねる 今年ゃ ここん水 また来年は どこん 流れごの 水のもか 森の雀も 別れをつげて 里へ出ていく わしゃ ひとり あすは山越え どこまで行こか なくはうら山 蝉ばかり おれと お前さんな 姉妹なろゃ お前ゃ姉さま わしゃ 妹

 以上の歌詞は、以前五木村内の高校生が地元で聞き取り調査を行い、とりまとめた「五木の子守唄」です。(以上、「やませみ」でいただいた資料より)

伝承者 三浦一雄 ねんねしなされ 早起けなされ 朝は六時にゃ(お寺の)鐘が鳴る

おどま盆ぎり盆ぎり 盆から先ゃおらんと 盆が早よくりゃ 早よもどる

おどまくゎんじんくゎんじん ぐゎんがら打てさるく ちょかでままたゃて ろにとまる

おどんが打死(うちん)ちゅうて 誰(だい)が泣(に)ゃてくりゃか 裏の松やみゃ せみが鳴く

せみじゃござらぬ 妹でござる 妹泣くなよ 気にかかる

花は何の花 つんつん椿 水は天から もらい水

おどんが打死んだら おかん端(ばちゃ) いけろ 人の通る数 花もらう

伝承者 吉松 保 おどま盆ぎり盆ぎり 盆から先ゃおらんと 盆が早よくりゃ 早よもどる

おどまかんじんかんじん あん人たちゃよか衆(し) よか衆ゃよかおび よか着物(きもん)

おどんが打死だときゃ 誰が泣(に)ゃてくりゅか 裏の松山ゃ せみが鳴く

せみじゃござらぬ 妹でござる 妹泣くなよ 気にかかる

おどんが死んだなら 道端ゃいけろ ひとの通るごち 花あげる

辛いもんだな 他人の飯は 煮えちゃおれども のどにたつ

伝承者 川辺 みゆき おどまいやいや 泣く子の守にゃ 泣くといわれて 憎まれる 泣くといわれて 憎まれる

おどんま盆ぎり盆ぎり 盆から先ゃおらんと 盆が早よくりゃ 早よもどる 盆が早よくりゃ 早よもどる

花は何の花 つんつん椿 水は天から もらい水 水は天から もらい水

伝承者 堂坂 よしこ おどまいやいや 泣く子の守にゃ 泣くとゆわれて 憎まれる 泣くとゆわれて 憎まれる

ねんねした子の かわいさむぞさ 起きて泣く子の 面憎さ 起きて泣く子の 面憎さ

おどんがお父つぁんな あの山ゃおらす おらすと思えば 行こごたる おらすと思えば 行こごたる 

伝承者 中園 スナ(故人) おどま盆ぎり盆ぎり 盆から先ゃおらんと 盆が早よくりゃ 早よもどる 盆が早よくりゃ 早よもどる

ねんねした子の かわいさむぞさ 起きて泣く子の 面憎さ 起きて泣く子の 面憎さ