「経営計画」はレビューに始まる


まず計画する──、それで本当に正しいのか

 仕事ができる人とできない人を比べると面白いことが分かる。仕事ができる人は、依頼してきた人の意図や意向を初めから的確に理解することはできないと考えて、仕事は最初の段階では時間も手間も掛けずに簡単なものを作って依頼者に見せる。専門用語でいえばプロトタイピングしているのだ。依頼者にたたき台を見せることによって、具体的な文句や要望を得る。頑張って考えるのはそこからであり、その結果出来上がったものは依頼者が喜ぶものになる。

 これに対して仕事ができない人は、依頼者の気持ちを最初から何とか分かろうとして頑張るものの結局、頑張れば頑張るほど依頼者の望むものにならず、大きな不満を受けてしまう。その結果、せっかく頑張ったのに評価してくれないとやる気をなくしてしまい、ますます仕事の出来栄えを悪くしてしまう。

 結局、仕事ができる人間は最初はどうせ大したPlanができないと考えて、仮のDoを実行してSeeを行い、Seeの結果に基づいてしっかりとしたPlanをすることで2回目のDoで成果を出しているのだ。仕事ができない人は独り善がりなPlanに基づいて1回だけのDoで成果を出そうとしている。

モデリングと環境適合

 科学者は、研究対象の本質を追究するためにモデリングという手法を使う。この手法、実はそれを考え出したのは科学者ではなく、“生物”である。

 われわれの身体は常に新たな病原体にさらされている。われわれが病気ばかりにならずに済んでいるのも免疫というモデリングの仕組みによるものだ。われわれの体は生まれたときからずっと病原体と戦って、抗体を作り上げている。新たな病原体と出合うと過去に戦って勝ってきた病原体の記憶モデルと照らし合わせて、似ているモデルから有効そうな抗体を作り出す。そうして学習を積み上げることで環境適合力を高めていくのである。

 科学者が使うモデリングも同じで、実験と仮説を積み上げていくことによって、モデルの精度を高めていく。そしてそのモデルが実世界を説明したり取り扱うのに有効であれば社会でも利用される。需要予測や消費者行動予測のためのさまざまな多変量解析手法もこうしたモデリング手法の1つである。

 企業における経営活動でも同じことがいえないだろうか。仕事のやり方にもいえないだろうか。仕事ができる人間のSee-Plan-Doも、シックスシグマのMAICも結局、プロトタイピングや測定によって対象となる問題をモデリングしようとしている。

 正体を完全に暴くことが難しい諸問題をモデリングという手法でレーダー・サーチし、実際の対応を通じてより詳しい情報を得てモデルを修正し、より望ましい行動を取れるようにしていくのである。

 生物が初めて出合ったものには用心深く、熱いとか痛い、怖いといった体験(当然、おいしい、楽しいといううれしい体験もある)を通じて環境に適合していく姿こそ、変化の激しい現代社会に対応していかなくてはならない企業が学ぶ知恵ではないだろうか。

 自社を取り巻く内外経営環境(SWOT:強み、弱み、機会、脅威)をタイムリーにそして詳細に知る力を持つためにこそ、企業は情報システムを構築しなければならない。だからこそBI(ビジネスインテリジェンス)やバランスト・スコアカードに取り組まなくてはならないのである。分析のための分析など要らない。計画のためにこそ分析はあるのだ。明日より、仕事はプランではなくレビューから始めようではないか。