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- ここに始まるはダンディーの物語である。
- ダンディーは激動の七〇年代に長崎に生を受けた。それからである。ダンディーが日本中に、いや世界中に広まったのは。
- ダンディーは一個の快男児である。ナイスガイであり、そのハジケっぷりには定評がある。
- また、彼はそれと同時に一個の概念である。彼はダンディーという概念を求めlong journeyに出ざるを得ない。そういう運命のもとにある。あたかも、三銃士のごとくの快男児であったデカルトが長き旅ののちコギトに到達したように。
- ダンディーは成長する。伝播する。彼がダンディであるなら、この物語を読んだ読者もダンディーである。一草一木にダンディーがある。ダンディーは遍在する。この物語を読むことでダンディーの次のアクションが産出される。過去の記憶が読み変えられる。この物語は読者=作者によって展開される。変化する。ダンディーの未来、過去、そして現在はいかようにも変わる。誰にもそれを推し量ることはできない。ただ確実なのは、世界が一番活き活きと活動する方向へとそれらは動いていく。
- 口上は終わり、劇場の幕は開く。
- 「おきなさい、ダンディーや、ダンディーや」
- 木造モルタルの四畳半である。銀色の配管が張り巡らされ、クリーム色の壁にはRockなグラフィティーがサインペンで墨色濃く描かれている。そんな吉田寮の一室。ベッドの上には山が横たわっていた。
- 男は山のように動かない。人を観るには鋭敏な感覚が必要だ。それがない者にはなにを見たところで切り詰められた印象しか得られない。しかし、恐ろしいことにそんな感覚の違いなどこの男は無視し、だれにとっても山であった。
- ダンディー第一の形態(フォーム)、スリーピングダンディーである。ダンディーは概念である。しかし、ダンディーは純粋なダンディーそのものではいられない。形容詞を頭につけることにより、ダンディーはまさに無限の多様に顕現するのである。
- 「おきなさい、ダンディーや、ダンディーや」声は続く。
- 「起きてよー、岡さーん」別の声だ。
- 「なにー!?」この世のものとは思えない声で山は応えた。
- 「ケイヒロさん、まだはやいよー」山は続ける。
- 「なんだよー、起こしてくれって言ったのは岡さんじゃないか。それに」
- 「朝起こしてくれる幼なじみ萌えー」ナの字が叫んだ。
- 一瞬異様な沈黙に包まれるふたり。
- 「今の何?」「さぁ、俺には聴こえんかったけど。」
- なんだかよくわからないインパクトによって、ダンディーは第二の形態(フォーム)、ウェイキングダンディーへと変貌を遂げた。
- 「ところで」ケイヒロは咳払いをする。「引き受けている俺も俺だけど、人に頼んでいるんだからできるだけ速やかに起床してくれよ岡さん」
- 「まぁまぁくにぴー落ち着いて。」「くにぴーじゃないよ。」
- 「困るよー。」ダンディーは左手で額を押さえつつ、右手で待ったをかける。ダンディー第一の基本技、「困るよー」である。ダンディー道(Dandy Way)はこの技に始まり、この技に終わると言っても過言ではない。
- 「男にはね、起き方ひとつでもダンディーであったり、ダンディーでなかったりすることがあるんよ?」麒麟の片割れのようなディープヴォイスを発しつつ得意顔のダンディーに対し、聞いている方はげんなりしている。
- 「そんなことばかりしていると誰も起こしに来なくなるぞ。」「な、なんだよー!」早速発展技の「なんだよー」に移行するダンディー。逆ギレ時にもダンディーさを忘れないのがダンディーなのだ。
- (つづく)
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