QCM/統計基礎 - stillalive

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統計基礎 †

■ページ内リンク
1.統計を学ぶ意味
2.ものの作られ方と分布
3.正規分布とは？
4.正規分布の性質
5.試験設備の目的と、適切な判定値設定
6.まとめ

1.統計を学ぶ意味 †

■なぜ統計を学ぶのか？
工程の管理には一般的に統計的手法を用いることが当然行われていて、様々な手法が体系付けられています。
例：QC7つ道具等。
先人たちが磨き続けていた知恵の体系といってもいいものです。
ですのでよほどのことがない限りこれらのツールはそのまま使えば、その恩恵に授かることができます。

下記が主なメリットです。
①将来予測が可能(傾向から実力を把握。不良が大量に出る前に原因の究明、対策が行える)

処置にリソースが食われてしまうことを予防します。本来の管理に注力できます。

②不良品解析の効率化

過去のノウハウを蓄積すれば、直し方も標準化できます。極論すれば診断すらも不要になります。
(例えば現象別に交換部品候補をまとめたテーブルがあれば、それにしたがって自動的に交換にいく仕組み等)
ゆくゆくはAIが自動的に行うでしょう。

③関係者（主にユーザー）への訴求力の向上

  **のようだ、**っぽい、ので工数ください、設備購入させてください、では説明になりません。
 投資をお願いするなら、客観性、具体性、合理性のある説明が必須です。

ということで、いろいろ工程で有用なものがあるのですが、今回は統計の基本的考え方と、
正規分布のみを説明します。

2.ものの作られ方と分布 †

■どのようにものが作られるのか？
様々な部品を購入し、それを向上でアセンブリして出荷をしています。
その部品はいったいどのような公差でつくられているのでしょうか？

具体例です。
たとえば全長90mm±0.1mmの基板があったとします。
これの""本当の長さ""はいくつでしょうか？
１つのロットで、どのくらいのものが、どのくらいの頻度で入っているのでしょうか？

例えば下記グループ①、グループ②は、同じでしょうか？（下図1参照）
グループ①10枚中9枚は90mmジャスト、残り1枚は90.1mm
グループ②10枚中5枚は90mmジャスト、残り5枚は90.02mm

・図1 基板長さグループ①、グループ②

どちらも平均値は、90.01mmで同じで差が付きません。
しかし要求仕様が、90.01mm以下となった場合、不良数は、①1枚、②5枚となってしまいます。

分布の相違は製造方法に因るものかもしれませんし、材料かもしれません。
これが組み込まれる製品の特性上影響するならば、分布の違いが無視できなくなります。
(上記の例の場合、たとえばユーザー装置の板金間に基板が入らない等の不良となる場合があります)

ですので分布を考える必要があるのです。

3.分布を可視化する †

それでは、なんとなく分布を考慮する必要があるとして、これを数値化できないでしょうか？
平均値が当てにならないことはわかりました。
しかし、平均値そのものは、グループ全体の傾向を見るためには重要な数値です。
平均値も利用してうまく表現できないか考えます。

どのくらい突出して良い（悪い）ものがある、ということは、きっと平均値からも離れていると考えられます。

それでは平均値からの差ではいかかでしょうか？（下図２）
列"C"がそれです。

・図2基板長さ個体別一覧　統計諸量　C平均値からの差まで

それではこのC列をグループ①、グループ②、それぞれ足したものを求めてみましょう。(下図3)

・図3基板長さ個体別一覧　統計諸量　平均値からの差を足す

これではだめです。差を求めると、平均値より高い(プラス)ときと低い(マイナス)ときがあり、相殺されて”０"になってしまいます。

こうならないように2乗します。するとマイナス側もプラスで表されるので、相殺されなくなります。
これををD列に記入します。

このD列の和を、個体数で割ったものをD列下に記入しました。
つまり1台当たり、どのくらい平均からずれているか、の量です。
これを"分散"と呼んでいます。

分散 V = S^2 －－－－－－①式

・図4基板長さ個体別一覧　統計諸量　D分散Vまで

これで、どのくらい文字通り”分散”しているかを記述する統計量、"分散"が求められます。
これは、"定義"ですので覚えるのみです。

これで、グループ①とグループ②の分布において説明するとき、定量的に説明できる方法が見つかりました。

分散なしの説明1と、分散ありの説明2で、グループの分布を説明してみます。

説明１：グループ①は、1個を除くと平均的であるが、その1個は突出して悪く、グループ②は、90mm,90.02mmに2分されてほぼ平均値に近い。

説明2：グループ①の分散は0.0009、グループ②の分散は0.0001であり、グループ①はグループ②の9倍の値となっている。

少しだけ、説明が簡単になりましたが、まだわかりやすいとも言い難いです。

そもそも2乗したのは、プラスマイナスの差を相殺されないためだけでした。
ですので√をとればよいのです。（下図5参照）

・図5基板長さ個体別一覧　統計諸量　S標準偏差まで

したがって説明はもう少し簡単になって下記"説明2'の通りです。
説明2'：標準偏差はグループ①は0.03、グループ②は0.01であり、グループ①はグループ②の3倍ばらつきが大きい。

例えば電話で説明するときを考えてほしいです。
説明1ではたして伝わるでしょうか？
説明2’は非常にシンプルで分かり易い文章ではありませんか？

本件にかぎらないのですが、一般的によく使用される用語で説明できることは、伝わりやすさの面ですごく重要です。
特に専門用語で通じてしまうと、圧倒的に簡単です。

****補足①****
一般的に通用している用語、専門用語を日頃から使うようにした方が絶対良いです。~
お客様あってこそ、の商売です。うちはうち、ではなく、ユーザーのレベルになるべく近づけるようにしなければなりません。~
"標準偏差わかりません"、ではなくて覚えてください、ということです。~
そのような元データも結局だれかが上長やユーザー説明の度に翻訳しているのです。~
 ************

さてここまでは、標準偏差が持つ統計量の意味合いを理解してもらうために、わざわざ計算しました。
しかし、エクセルを使えば、結果だけすぐ出ます。
下図の”F標準偏差S√S^2”をご覧ください。
関数stdev.pを使って要素個数を選択すればOKです。

・図6基板長さ個体別一覧　統計諸量　F標準偏差（エクセル関数使用）

尚手計算で求めたE標準偏差と同じ値になっています。
日常使用するときは、このように関数を使っていきなり結果だけを利用するのでかまいません。

****補足②****
仕事上そのまま利用できるものはすぐ利用しましょう。~
計算式の導出やオリジナリティに拘って仕事が遅滞してしまうのでは本末転倒です。
どこまでいってもどうせだれかがすでに証明しつくしたことに変わりはないのですからあとは本人の"捉え方"だけです。
例えば、難しい伝送線路方程式の導出や証明がわからないからといってパターン設計しないのですか？
それでは、なぜオームの法則V = R Iの導出や証明はしてみようとは思わないのでしょうか？ 
それは結局慣れと、理解している領域がどこかの捉え方だけの話です。
************

3.正規分布 †

正規分布は、品質管理、保証業務には頻出の専門用語です。
これはしっておくべき用語です。

まず、自然界に存在するものというのは、どういう分布になっているのか、ということを考えてみます。
とはいっても１から説明は難しいので、いきなり下図(図7)に記述します。
分布のイメージだけで十分です。

・図7 自然界の分布記述式とグラフ

自然界に存在する物理量は、よほど特殊な例や意図した選別がおこなわれない限りにおいて、上図のように分布することが知られております。
例えば人間の身長や、学力テストの分布等です。
グラフは平均は0としたときです。

つぎに、このグラフの傾きf'(x)を重ねてみます。(下図8 青線)

・図8 自然界の分布記述式とグラフ

これは、当然中央に行くほど大きくなり、左右に行くほど小さくなる物理量です。
身長でいえば高身長の人は少なく、高ければ高いほどその存在はますます貴重となります。

また個人の能力でいえば、高い能力を身に着けようと思うと最初そこそこ上がるが、高ければ高いほどより難しくなります

ですので、我々が購入する部品はもちろん、製造する製品についても、その測定値はこのグラフの分布に近くなります。

製品を製造するプロセスはより均質な品質を保つ製造プロセスですので、正規分布の両端はかなり特異な個体です。
適切な製造プロセスを外れた個体(つまり不良の被疑個体)である可能性が高いのです。

4.正規分布の性質とその利用 †

正規分布の式自体は難しいので、実際にはその性質を利用して、不良の解析に役立てます。

覚えることは下記のみです。σは標準偏差の値です。下図9も参照ください。
製品の特定の物理量(長さとか、重さとか、電圧測定値等)を前提とします。

①平均値から±1σまでのずれを許容した範囲には、68.26%の製品が含まれる。
②平均値から±2σまでのずれを許容した範囲には、95.44%の製品が含まれる。
③平均値から±3σまでのずれを許容した範囲には、99.74%の製品が含まれる。

・図9 正規分布の±1σ、±2σ、±3σにおける領域

③をはずれてしまう製品は、材料や製造プロセスに問題があることが推定されます。
なぜならメーカーは3σをターゲットに製造しているからです。
この性質を利用してしっかり不良を検出することが試験設備には求められます。
この性質を利用して判定値から、製品不良か設備か、はたまた設計要因かの切り分けも行うことができます。

5.試験設備の目的と判定値の設定 †

正規分布がわかったため、試験設備としてはどの程度の判定値範囲をもてばよいかわかったはずです。
一般的に3σの実力があると認められる製品の物理量であれば、3σ近辺とし、測定対象によって調整するというのが基本的考え方です。
下表10はイメージです。

・表10 試験設備の判定値、設計値、σとの関係

実際にはσは量産前にはわかりませんし、実力としてはかなり精度がよくなります。
特に電圧値はレギュレーターですと、精度は高精度ですので、あまりばらつきません。
よくある例を下表11に示します。

・表11 試験設備の判定値、設計値、σとの関係(実例)

設計値が判定値の中心ではなく、少し上のため、上側マージンが少なくなっています。
このようにして不必要な判定値外の基板、ないし装置が不良落ちします。
これは判定値を設計値に合わせるべきです。

尚設計値がずれているのは、抵抗定数の選定方法に関係します。(下図12)

・図12 レギュレーターのよくある抵抗定数選定と、改善例

最期に悪い例を示します。(表13)
判定値が設計値よりも狭く、±1σしかありません。
この場合、31.74%の確率で不良となります。

・表13 試験設備の判定値、設計値、σとの関係(悪い例)

上記図12のようなディバイダ抵抗R1,R2,R3を変更したりすれば良品化もできるのですが、不良はなかなか減らないことになります。
判定値と、被試験機の設計値、統計的な実力値(σ)を把握し、適切な処置をして不良を将来にわたり減らしていくことが必要です。
判定値の変更を依頼する場合、3σの実力をよく調べておく必要があります。

次に異常系です。(表14)

・表14 異常系

様々な要因が可能性としてはありますが、統計的に3σではずれるということは、試験機測定系誤差の可能性が高いです。
設計値と、3σの差分の誤差を試験機で与えていると考えるのが自然です。
測定精度の妥当性をまず確認しましょう。

次は単発の程度の悪い不良が測定されたときです。(表15) 様々な要因が可能性としてはありますが、統計的に3σを外れている以上判定値内だとしても不良を疑ってしかるべき個体です。

・表15異常系2

6.まとめ †

実例を最後に示します。
①C基板
標準偏差の外れが大きい物は、異常を疑います。
②P基板
試験機判定値内だからといって正常動作とは限りません。
③B基板
試験機判定値外だからといって不良とも限りません。
④3σの有効性
統計データです。
統計ですので数が多くなればなるほど"忠実"に傾向がでます。

統計は賢く使えば、業務の改善、品質の向上に大いに役立ちます。難しい原理はともかく、まずは使っていきましょう。

例：FAN不具合解析。等

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