業界研究


機会業界 OA機器、工作機械、計測機器、時計、重機・建機、医療用機器などを扱う業界。一般消費者にはなじみの薄い業界ですが、各産業の製造現場を支えるという役割はとても大きなものです。

2009年にはリーマンショックによる世界的な景気後退によって、企業の設備投資の大幅な抑制、もしくはキャンセルが相次ぎました。このため、工作機械受注総額は前年の半分近くにまで落ち込みましたが、2010年は前年の2倍以上の9786億円と急回復しました(日本工作機械工業会調べ)。同工業会が毎月発表している会員企業の受注額は、設備投資の動向が示す日本経済の「先行指標」として取り上げられており、機械業界の業績を見れば景気の先行きが分かるといえます。資源開発や産業拡大が進むBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)などの経済状況は好調を維持しており、新興国の設備投資拡大に期待がかかります。

産業用機械以外には、発電所や天然ガス・石油の採掘プラントを建設するプラント会社、航空エンジンや人工衛星などを手掛ける重機会社、韓国、中国と激しい首位争いを繰り広げる造船会社、新興国の開発で潤う建設機械、農業機械などがあり、有力企業がひしめいています。リーマンショック後には苦境に立たされた機械各社ですが、新興国の設備投資は依然として活発です。先端的な独自技術を持った国内機械各社はまだまだ成長の余地があるといえるでしょう。

主な企業 三菱重工業IHI川崎重工業コマツ島津製作所横河電機ファナック安川電機日揮日立プラントテクノロジー千代田化工建設日立造船ダイキン工業クボタ日本精工荏原

電気・電子業界 冷蔵庫や洗濯機といった白物家電、テレビや携帯音楽プレーヤー、DVDレコーダーといったAV機器、コンピューターや携帯電話などの情報機器、半導体や電子部品など幅広い製品の製造に携わる業界。かつては世界を席巻した日本の電機業界ですが、今ではその影は薄れ、韓国勢など新興勢力に圧倒されています。

(社)電子情報技術産業協会の「電子工業生産実績表」によると、2010年の電子機器の生産額は、民生用が前年同期比8.0%増の2兆3944億円、産業用が同5.5%増の4兆6715億円、電子部品・デバイスが19.0%増の8兆2656億円でした。リーマンショック後の世界同時不況によって電機各社の業績は大幅に悪化しましたが、2011年3月期決算を見ると回復に転じた企業も出ています。日立製作所と東芝はインフラ事業や半導体事業が好調で過去最高の純利益を記録しました。一方、シャープ、ソニー、パナソニックの3社は、単価下落の影響によってテレビ事業の採算が悪化しています。ITサービスを主力とする富士通、NECは国内企業の設備投資抑制によって赤字。京セラ、TDK、日本電産などの電子部品会社は、スマートフォンの販売増や自動車業界の回復、旺盛な海外需要によって業績は好調でした。

電機各社は震災の影響を受けていることと、国内需要の回復の遅れが懸念材料としてあります。今後は、海外市場の需要をいかに取り込むかが課題で、太陽光発電に代表される環境対応製品、利益率の高いスマートフォン関連商品に期待が集まっています。

主な企業 日立製作所、東芝、三菱電機、シャープ、ソニー、パナソニック、NEC、富士通、キヤノン、リコー、富士ゼロックス、京セラ、TDK、日本電産日東電工村田製作所アルプス電気ローム

通信・ネットワーク業界 国内通信市場は、NTT、KDDI、ソフトバンクの3グループ体制で、総合通信事業の覇権争いを繰り広げています。2010年4月末時点の携帯電話契約者数は、NTTドコモが5721万件、2位のKDDIが3252万件、3位のソフトバンクが2439万件ですが、2011年5月の契約の純増数はソフトバンクが29万9000件でトップ。2011年3月期連結決算を見ても、各社震災で被災した設備の復旧コストが増大して収益を圧迫していますが、ソフトバンクは「iPhone」の販売が絶好調で唯一増収増益となりました。

iPhoneに対抗する製品としてドコモ、KDDIはグーグルの基本ソフト「アンドロイド」を搭載した機種で対抗、2011年春から新モデルを相次ぎ発表し、巻き返しを狙っています。携帯各社は減少が続く音声通話を補うためにも、インターネット接続やメール通信需要が多いスマートフォンの普及を進めたいところ。データ通信量の増加に備えて携帯電話基地局の増設を急ぐほか、通信速度が現在の携帯電話の約5倍になる携帯サービス「LTE」に対応したスマートフォンにも注目が集まっています。ドコモが12年度中に発売する計画で、各社も順次投入する予定。

主な企業 NTT、KDDI、ソフトバンク、イー・モバイル

ITサービス・ソフトウエア業界 企業の効率化を進めるシステムを開発したり、インターネットのWEBサイトを構築したりするのがITサービス・ソフトウエア業界です。特に、海外に拠点を持つ企業は、瞬時に世界中の拠点の販売状況やコストを把握し、効率良く在庫管理などをできるシステムの構築を急いでいます。このような国内企業の海外拠点を含めたITシステムの構築需要が増える中、国内IT企業は海外IT企業の買収に動き始めています。2009年には富士通がオーストラリアのIT企業KAZ、2010年にはNTTが南アフリカIT大手のディメンション・データ、NTTデータは米IT企業キーンを買収しています。各社は国内需要はもちろんのこと、中国、インドなどBRICsに代表される新興国の市場に活路を見いだそうとしています。また、業界で話題となっているのがネットワーク経由で情報システムの機能を利用できる「クラウドコンピューティング」です。特に東日本大震災や電力供給不足などが心配される中、データバックアップやコミュニケーション手段の強化として、クラウドコンピューティングサービスの需要が増えると思われます。IDCによると、国内クラウドサービス市場は、2010年〜2015年の年平均成長率が41.3%で、2015年の市場規模は2557億円になると予測しています。

システムの複雑化で、ITの知識や技術を備えた人材の不足感がこれまで以上に強まっていますが、なかでも中級・上級クラスに相当するICT(情報通信技術)人材の不足が深刻化していると指摘されています。実践的な知識や能力を備えた人材を育成するために、国家レベルでのIT戦略が必要とされ、研修制度を充実し、大学への教育支援を行うことが業界の急務です。

主な企業 富士通、NEC、NTTデータ、NTTコムウェア、日本ユニシス、伊藤忠テクノソリューションズ、新日鉄ソリューションズ、大塚商会、CSKシステムズ、野村総合研究所