旧歌舞伎町近郊で一番大きく賑わっているのが、昔「コマ劇場」と呼ばれたビルがあった処だ。
今、そこは幅150m、奥行100m、高さ70mもの巨大なクラブに変わっている。
クラブ“アルザス”は新宿でトップの人気を誇るクラブだ。
3フロアぶち抜きの巨大なホールでは、DJ任せで踊ったり飲むのは当然として、一流処のライブやショーも行われる。
ホールから上がった第四フロアから第六フロアは「ハニカム」と呼ばれ、宿泊・休憩も可能だ。もちろんシンミツなオタノシミも許される。
しかし、それらはオタノシミの範疇でしかない。 このビルが賑わう本当の理由は、「ヘル」――地下――と、「ヘヴン」――第七フロアから上――にある。
「ヘル」は地下第四階層にある。通常、エレベーターも階段も地下は2階までしかないように見える。
ハンター協会や政府など、“その筋”の人間にだけ「ヘル」への扉が開かれるのだ。
「ヘル」は隣の人間の顔すら殆ど見えないようなバーフロアだ。
カウンターだけが薄明かりで照らされており、真っ赤な毛皮の猫の顔をした男――“天使猫”がバーテンを勤めている。
ヘルには大きな声で話す人間はいない……と言えば、どのような場所かは想像がつくだろう。
それでもどこから足がつくかわからない、と心配性の人間は「ヘヴン」を使うことも出来る。
“天使猫”が管理する専用エレベーターだけが第七階層から上のヘヴンに繋がっているのだ。
第七階層から第十階層までのヘヴンには、三つの大きな個室しかない。つまり一フロア一部屋だ。
完全防音・電波遮断などの設備が整っており、どうやっているのか魔法による盗聴まで防ぐ。
新宿でこのレベルのセキュリティを達成しているのは綾坂本社ビルと政府の一部建造物、そしてこのヘヴンエリアだけだ。
元ネタ:大原まり子「未来視たち」収録「アルザスの天使猫」