20世紀のアメリカで変死した作家は多い。たとえばヘミングウェイ?しかり、フィッツジェラルド?しかり。
本書はアメリカ作家のなかでも、こうしたメジャーではなく、日本であまり知られていない人物をとりあげ、その変死ぶりから当時の時代精神と彼らの反逆や渇望を描いた力作である。
描かれているのは、デルモア・シュワルツ?、ハリー・クロスビー?、ナサニェル・ウエスト?、ロス・ロックリッジ?、ウェルドン・キース?の五人。デルモア・シュワルツは、1930年代後半に「夢のなかで責任が始まる」という短編を発表してから一瞬の輝きをみせ、のちアルコールにおぼれて変死した。
失われた世代の本当の意味での旗手かもしれないハリー・クロスビーは、数冊の私家版の詩集と一冊の日記帳を残しただけで、人妻を道連れに命を絶った。
弱冠二十三歳にして新たな時代「ローリング・トゥエンティーズ?」の幕開きに登場したナサニェル・ウエストは、愛人のアパートで心臓発作を起こした。
「偉大なアメリカ小説」を夢見たロス・ロックリッジは、処女作『雨の木の郡?』がベストセラー・リストに載ろうとする寸前、自らの命を絶った。
短編小説の名手ウェルドン・キースは、41歳のとき、サンフランシスコのゴールデン・ゲイト・ブリッジの近くに車を乗り捨てたまま、忽然と姿を消した......。
深い造詣とたくみな方法とによって築かれた、アメリカ文学の裏面史を知ることのできる、著者ならではの待望の一冊。