「卒都婆小町?」と決めた傘寿記念公演を前に急逝した、偉才の能役者による、壮絶な自伝。
能の二流をまたぎ、前衛劇に出演し、オペラを演出した波乱あふれる劇的人生のありかを、闘志あふれる口調で次世代に遺している。
兄寿夫、弟静夫(後の銕之丞)とともに観世三兄弟とよばれた著者は、能を幅広い劇的世界のひとつととらえ、独自の道を歩んだ。
戦後すぐ、喜多六平太?との出会いが著者の運命を変えた。「構え」や「運び」がどのような身体から形成されるのか、その疑問への回答が著者を喜多流へと向かわせたのである。
さらに能だけではなく、他のジャンルへと関心がひろがり、足を踏み入れていく。そして寿夫の尽力によって再び観世流へと復帰。
「ぼくは命果てるまで考え、行動したい。(中略)体力に応じた舞台を選び、世阿弥をもじって言えば『舞台に果てなし』の心意気で挑んで行きたいと思う」と決意を語ってからわずか三か月。
本書からは、ほんとうに「命はてるまで」考え、行動しぬいた著者の、切実な人生の叫びが聞こえてくる。