飛竜の憂鬱


飛竜の憂鬱(仮)
月見里 作・・・協力者募集

 つまりアレだ。
 はしゃぎ過ぎた。
 私も。

 「にしても綺麗なところだねー。」
 どこまでも広がる緑の草原。白と青のコントラストが美しい空。確かに綺麗なところだ。
 だが、黄泉に堕ちたというのに、こんなにのん気でいいのか。
 私が首を回して彼女を睨むと、
「な〜に、大丈夫だよ。ここで生活している人もいるわけだし。」
 しかし黄泉の住民は他の世界の者とは少し異なっているらしい。決して納得できる理屈ではない。
「……なに? あたしの所為だって言うの。あんただってはしゃいでたじゃん。」
 逆ギレ。だが否定できない……。
 気まずくなって首を戻す。
「でももったいないなー。墓だらけって。」
 この世界が黄泉と呼ばれる所以が、草原に広がっている。すなわち墓だ。
 死体を埋めて木の札を立てただけの簡素なものだが、なにしろ数が多い。圧倒される。
 この美しい世界に不釣合いな墓。ミスマッチな分、逆に不気味だ。
 脱出する方法が見つかるまでここにいると思うと、鬱になりそうだ。
「じゃあとりあえず人探そうかー。知らない土地に来たときの初歩の初歩だけど基礎は重要だよ。」
 無理に明るくしている。別に私に気を使わなくてもいいのだが。健気な娘だ。
 というわけでは全くなく、ただ単にそういう性格なだけだ。彼女はきっとどんな状況でも鬱にならないに違いない。
 能天気で無鉄砲でおまけに向こう見ずだが、こういうときはうらやましいかもしれない。
「よっしゃ行くぞー!」
 まあ、これで2人、バランスが取れているかもしれないな。
 それともこの思考は無理なプラス思考か?
 まあいい。
 私は彼女が乗ったことを確認すると、助走をつけて飛び出した。
 ……きっと綺麗な緑の草原に私の爪の跡がついてしまったことだろう。少し、悪い事をしたかな。

 つまりアレだ。
 私は飛竜だ。
 ロストワールドの伝説では緑とか赤の鱗に覆われていて力強くて火とかも吐けるようなアレだ。
 もっとも、私の鱗は鈍色だし、飛ぶときは助走要るし、そんなスピード出ないし、スタミナ続かないし、火も氷も怪光線も出せないが。
 いかんいかん。またマイナス思考になってしまった。私の悪い癖だ。
 まあともかく、私は飛竜だ。
 飛行機械ほどの性能はないが、それでもある程度の輸送なら可能だ。
 ほとんど有用性がなく、本来なら処分されるはずだった私のその僅かな能力をフル活用してくれる彼女には感謝している。
 彼女のあまりの能天気さに忘れそうになるが、それでもかなり感謝して
 ドサッ
 何かが翼に当たった。
「バーカ。」
 私の心配など欠片もしていない彼女の声。
 一瞬バランスを崩すが、何とか持ち直す。
 下を見ると、何か中身の入った布袋のようなものと、私たちの荷物が落ちていくのが見えた。
「最近お前ボーっとしてるよ。もっと緊張感持たなきゃ。」
 緊張感ないのはどっちだ。
 しかし、私に発音器官はない。
「それより、落ちた荷物取りに行かないと。」
 きっと彼女は見えて言っているのだろう。荷物の落ちた場所が窪地であることを。
 きっと彼女は分かって言っているのだろう。私が窪地からは飛び立てないことを。
「シカトすなー。」
 背中の鱗を逆さまになでられる。顎の下でなくとも気分が悪い。
 このまま飛び続けるとそのうち私が飛び続けられないような重大なことをされるような気がしたので、仕方なく、近くの丘に降りることにした。
「と〜お〜い〜。」
 明らかに私をからかっている。だが反応するとつけあがるだけだ。
「あー、ひょっとしてー。」
 ……。
「丘の上からじゃないと飛び立てないんだー。」
 ……。
「体力ないな〜。」
 ……。
「アホウドリ。」
 グるるるる……。
「きゃはははは!」
 くっ。私としたことが。
「じゃあちょっと待ってて。」
 ひとしきり嗤ったあと、彼女は窪地にダッシュした。
 何気に結構体力があるのだ。この女は。
 フゥ
 ため息をつく。
 呼び方を変えれば竜の息吹だが、僅かな風圧以外の威力はない。
 遠くで、彼女が荷物を拾っているのが見えた。落ちた荷物は結構重いはずだが、彼女は苦もなく持ち上げている。
 何気に体力があるのだ、この女は。
「珍しい客人ですね。」
 !
 驚いて振り向く。
 声をかけてきたのは、若い男だった。肌は白く、学者風といった感じで、モノクルをかけている。
「そんなに睨まないでくださいよ。」
 睨んでいるのではなく、ただ単に見ているだけなのだが。
 人間と違い表情筋が発達していないので、いつも睨んでいるように見えるらしい。よく彼女にからかわれるネタだ。
「あ、すいません。カナサカ遙護(ようご)といいます。4つ上の世界で学者をしていました。専門は最下層世界の住人について全般です。大戦が終わった1周期前からここに来ています。」
 ……発音器官は無いのだが。
「……っと、今はこの世界の住人の家に下宿しながら手伝いをしています。これなら間近で観察できるし、いろいろと便利ですからね。もちろん目的は秘密です。」
 ……だから、発音器官は無いのだが。
「……ぇっと、そんなところです――。」
 彼女は何をもたもたしているのだ。
 ……気まずい。


あとがき
 月見里です。途中まで書いたんで、とりあえずUPします。
 自分でも続きを書いてみる予定ですが、続きを書いてみてもいいという方、いらっしゃったらお願いします。

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  • ありがとうございます -- ? 2016-08-31 (水) 03:25:43

2006年4月12日仮公開
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