下に床は無く、上に空は無い。
……もとより、それはなんら不思議なことではない。書物にある知識によれば、この世界は連なった12の世界の頂点であり、またそれぞれの世界が異なった環境をしていると。
そんなこと誰も不思議に思わない。誰もが理解しているからだ。ここ最上層は成熟した知識を持つもの達が集う場所。下界では天界とも呼ばれているが、それに近いだろう。いつの間にやら誰かが増え、同じようにいつしか誰かがいなくなる。そこで私たちはまるで魂のように地に足を付けず、浮遊する。その移動方法で娯楽へ赴いたり……娯楽しかないか。すべてが浮遊するこの世界の中、皆好き勝手に本を読む。
本当、気の楽な世界だった。何もせずにただ時が過ぎるのを楽しんだり、忘れかけた知識を修復したり、気の済むまで延々と仲間と話したり。今まで住んでいた、事の交錯し過ぎた世界なんかよりは、ずっと。ここはまるであの頃に行きたいと願った天国だった。
だけどそれも破られた。ある日下から、何かが飛んできたのだ。それは天井へと突き刺さり、しばらく後に爆発した。
そうして、虚無に佇む夢の世界はここに死んだ。そして爆発は同時に破戒をもたらして我々は浮遊できなくなり、天井に重力が発生してそこが床となった。モノが全て堕ちた、とてつもなく悲惨な足場だった。歩けば無数の本を踏み漁る。止まっていても無数の本を圧縮する。温(ゆたか)だった時は歪められ、幸せに満ち足りたあの時間は、同時に空しさを含むものとなった。
そうして目の前に知らない世界が迫ってくる。それはこの繋がる世界なのだろうか。ただその新しい法則に私達は徐々に耐えられなくなり、だけどもそんな恐怖よりも私は、その知らない世界が面白そうで――進んだ。その、母を殺してでも生まれようとする子供のもとへ。
……世界は、崩壊した。新たに生まれる世界のために。
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