ダイブマスターの講習では、着底しバディとBCDおよびマスクを交換するスキルを学びます。ここでは中性浮力を保ちながら脱着するスキルを説明します。
中性浮力を保ちながら、あるいは泳ぎながらBCDを脱ぐ必要はありますでしょうか? 実は意外にあります。水中でタンクが外れることがあります。バディになおしてもらうのが原則、と答える方が多いです。水中あるいは海面で他人のタンクをなおしたことがあるでしょうか? バディとのタイミングがあわなければ実はかなり難しいスキルです。バディに任すより自分でやったほうが早いです。練習すれば2分とかからずできるようになります。
水中でのBCDの脱着で守らなければならないことがあります。絶対にセカンドステージを口から外してはいけません。脱いだ、あるいは脱いでいる最中のBCDは不安定です。浮いていってしまったり、沈んでいったら呼吸源がなくなります。セカンドステージをくわえているのはもちろんのこと、必ず片手はBCDをつかむか袖に腕を通しておきます。
中性浮力が保たれているのであれば脱着は難しくありません。重さを感じない分、船上より楽です。片方づつ腕を抜きます。タンクをなおす場合はタンクを両膝で挟むと簡単です。泳ぎながらの場合は、時折、手で進むか、水平状態でBCDを水中に浮かせて、フィンキックしながらなおします。泳ぎながらなおすのはかなり難しいです。タンクが外れて困っているゲストに気づかないガイドのほうが問題なのでガイドを無視してもかまいません。
BCDの脱着は練習すれば誰でもできるようになります。難しいのは中性浮力を保ちながらウエットスーツを脱ぐことです。これができるようになれば自信をもって中性浮力ができるようになったといえます。BCDを脱いだら、片方の腕をBCDに通し、もう片方の腕を脱ぎます。左右逆にして残りの腕を脱ぎます。両腕を脱いだらBCDを着ます。次にウエイトベルトを外し、輪っか状態を作ります。ウエイトベルトは落とすと急浮上しますので、絶対に落ちないところ、すなわち首にぶらさげます。次に下半身のウエットスーツを膝ぐらいまで下げます。ここでウエイトベルトを戻します。この状態では身動きがとれないので肺だけで中性浮力がとれることが大前提です。片方のフィンを脱ぎ、小脇にかかえます。ストラップタイプのフィンならばチェストストラップに固定するのが確実です。ウエットスーツを脱いで、フィンをはきます。反対側も同じようにします。これで無事、ウエットスーツが脱げました。着るときは、この逆の流れです。ちなみに着るほうがはるかに難しいです。
水中でウェットスーツを脱ぐ必要があるのか? と質問されます。ありません。これは困難な作業をしても中性浮力を維持する練習です。あえて言うならば水中でトイレに行きたくなったときの対処方法です。私のまわりにはトイレに行きたくなり、実際にこのスキルで対応したというインストラクターやベテランダイバーが何人もいます。あえて書きませんが、トイレに行きたいとはどのようなことなのか想像してください。海面でトイレすると恥ずかしい状況です。何度もやった知人連中に言わせると、水深によってトイレの状況が違うし、流れがある場合は流れも考慮する必要があるとのことです。ある意味、本当の意味で究極のスキルなのかもしれません。