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海面に戻るスキル

 極論を言うならばダイビングにおいて海面に戻るスキルさえ身につけておけば多くの事故を防ぐことができます。
 水中は人間が生存することができない環境です。ダイビングをするときに忘れてはならないことは「生きて戻る」ことです。海面に戻りさえすれば生存確率が高まります。いつでも海面に戻れること。これがダイビングの安全性を担保します。
 海面に戻るスキルはみっつにわかれます。
・浮上を判断するスキル
・浮上するスキル
・海面で浮力を確保するスキル
 バディとはぐれたときに一分間待ち、再会できなければ浮上するというのは最もベーシックな手順です。現実にはこれすら守らないダイバーが多くいます。ガイドですら守らないケースがあります。海中を少しさがせば見つかるのではないかという心理が働きます。まずは海面に出る。これが基本です。海面で再会できなければ、バディは何らかのトラブルに巻き込まれています。人数を動員してすぐに海中捜索するのが早期解決につながります。しかしながら現実にはこの手順を守らないダイバーが多いため、「少し待ったら、あがってくるんじゃないの?」となります。初動捜索の遅れにつながります。バディとはぐれたときの手順は、釈迦に説法であったとしても潜水前にお互いに確認して、そして実行できるようにしておかなければなりません。
 海面に戻るのはなにもバディとはぐれたときだけとは限りません。どんな些細な理由であれ、ダイビングを続けるのが難しいときは、まずは海面に戻りましょう。器材故障。たとえばエアーが吸いにくいなと思ったときもいったん海面に戻ればよいです。落ち着いて考えれば予備のセカンドステージをためしてみたり、流入調節ノブをためしてみたりすることができます。それは場数を踏んだ上級者の話であり、最初のうちは「あれ?」と思っただけでも海面に戻り、ガイドやインストラクターに器材の調子をみてもらうことが心配を取り除く最善の策です。不安を抱えたままダイビングを続けることは、大きな事故につながります。
 「マスクの中に水が入った」「耳抜きができない」「海水を飲んでしまった」、そんなときに無理にダイビングを続けることはありません。まずは海面に戻り、深呼吸をして落ち着きましょう。「パニックになりそうならば、水中で落ちつきなさい」と多くの本に書いてあります。水中で自分の気持ちがコントロールできるくらいなら苦労はしません。コントロールできないからパニックになるのです。
 「何となく不安だ」という理由でもかまいません。気分がのらなければ、いったん海面に戻り、ダイビングを続けるかどうか考えればよいのです。
 ガイドの立場からすると、水中で気持ちを落ちつけてもらい、そのままダイビングを続けてほしいものです。途中でゲストがダイビングをやめるのはガイドの責任にされてしまいます。海面まで付き添って浮上するのであれば、他のゲストを水中に残すことになります。これはバディシステムが機能しておらず、一対多でガイドひとりが全員に対する責任を負うというダイビングスタイルの問題点です。海面に戻るスキルとは直接関係がないので、あらためて章を設けることにします。
 次に浮上するスキルです。
 勘違いしている方が多いのですが、緊急時の浮上では安全停止は不要です。途中で停止することなく海面に戻ることができるのが無限圧潜水いわゆるレクリエーショナルダイビングの最大のメリットです。安全停止は、あくまで念のためにおこなうものであり、緊急時においてはおこなう必要はありません。具体的にはバディとはぐれたとき、海面に戻るのが三分遅れると先に海面に戻ったバディが心配します。お互いの安全を確認することが最優先です。なにより水中で独りっきりになることは単独潜水用の器材とスキルを有していない限りは避けるべき状況であり、できるだけ早く海面に戻るようにします。流れているときも安全停止は必要ありません。流れにつかまってしまい浮上を決断したのに、悠長に安全停止をしていたのでは、どんどん流されてしまいます。フロートをあげているから安心だというのは神話にすぎません。船が、海面にいる人々が自分の打ち上げたフロートを確認してくれる保障はどこにもありません。天候が荒れてしまい視認できないことだってあります。大事なことは、いっこくも早く海面に戻ることです。
 あなたがバディで、プチパニックを起こしているダイバーと一緒に浮上するときは相手のBCDをがっちりつかみ浮上速度があがらぬよう気をつけます。息苦しさを感じてセカンドステージを口から外そうとするかもしれません。相手のセカンドステージのホースの根本を持ち、口から離れないようにします。パージボタンの上をおさえてはいけません。呼吸ができなくなります。相手の目を見て、できるだけゆっくりと呼吸します。そうすれば相手も自分のペースにあわせて呼吸するようになってきます。もし一人で浮上することになった場合も以上のことに気をつけて浮上します。
 海面に戻ったら、やることはただひとつです。浮力確保です。インフレーターの吸気ボタンをおしてBCDを膨らませます。あわてているとインフレーターどころか、インフレーターホースすらみつかりません。右手で左の肩をたたきます。インフレーターの根本が見つかります。タンクにエアーが残っていなければ口からエアーを入れて膨らませます。大事なスキルですので、これは日頃から練習しておきたいものです。筆者はエントリー前にBCDにエアーを入れるときは吸気ボタンも使いますが、多くの場合、オーラルでエアーを入れるようにしています。毎回、毎回、練習しているわけです。BCDにエアーを入れることが難しければ躊躇することなくウエイトを破棄しましょう。ダイビングサービスから借りたウエイトであっても命にはかえられません。あとから文句を言われたってかまわないです。こんなことくらいで文句を言ってくるダイビングサービスは二度と使わないのが得策です。
 海面に戻り浮力さえ確保できたら何も心配はいりません。あとは浮かんでいましょう。ガイドも浮上してヘルプしてくれます。誰もあがってこないのであれば、船に向かって両手をふりましょう。これは「助けて!」の合図です。
 これらが海面に戻るスキルの一連の流れです。
 パニックに起因する事故の多くはいきなりパニックになるわけではなく、その予兆があります。多くの人は他人に迷惑をかけてはいけないという心理から、不安があってもそれを隠してしまいます。自尊心や見栄が邪魔することもあります。海の中は誰だって怖いものです。人が生きることができない世界ですから当たり前のことです。些細な不安でもあればダイビングを中止することが大事です。嫌な顔をするようなダイビングサービスを使うことはやめましょう。スクーバダイビングはスポーツではありません。他人と競うものでもないです。自分のスキルの範囲内で自分が楽しめることが一番です。そして安全に勝るものはありません。それを理解してくれないインストラクターやガイドはレクリエーショナルダイビングそのものを理解していません。

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