ReasonableWeight


適正ウエイト

 インストラクターやガイドでさえ適正ウエイトの定義を正しく説明できる人は少数です。適正ウエイトとはBCDからエアーを抜いた状態で普通に呼吸をして中性浮力を保つことができるウエイト量のことです。中性浮力とは比重がまわりの海水と一致する状態であることは前章で説明したとおりです。そして比重が体積と重さによって変化することも理解済みでしょう。すなわち体積と重さを構成する要素、ウエットスーツの厚さの変化すなわち深度、タンク内のエアーの量(重さ)により比重がかわるため、適正ウエイトというのは深度やダイビング時間、そもそも論としてエントリー時の体積と重さすなわち器材によって違います。適正ウエイトの話をするときは条件を明確にすることが大事です。タンクはアルミニウムなのかスチールなのか、ウエットスーツは5mmなのか3mmなのか、これらの条件を決めたうえで適正ウエイトの概算を計算し実測します。一般には残圧50のときの海面での適正ウエイトを実測しておきます。実測方法は簡単です。いつも使う器材を身につけてタンク内の残圧を50にします。この状態でBCD内のエアーをすべて抜きます。呼吸にあわせて顔面が海中に沈んだり、浮かんだりするウエイト量が適正ウエイトです。肺の中のエアーを吐ききっても沈む気配がなければウエイトを少し足します。逆に呼吸とは関係なく沈んでしまうようならばウエイトを減らします。最終的には500gの単位で調整できれば完了です。
 ほとんどのファンダイバーはオーバーウエイトで潜っています。オーバーウエイトか否かを見極める方法は簡単です。ダイビングの終了間際の安全停止でBCDにエアーを入れなければ中性浮力が取れない場合はオーバーウエイトになっています。安全停止時はBCD内のエアーが空になっているのが理想です。
 次になぜ適正ウエイトが重要で、オーバーウエイトが悪なのかを説明します。オーバーウエイトとは余分な錘を持った状態です。ウエイトが余分ならば、それを補うために体積を増やす、すなわちBCDにエアーを入れる必要があります。余分なエアーを使うことになります。体積が増えれば水の抵抗が増えます。抵抗が増えれば泳ぐ力も増やす必要があり疲れます。そしてエアーを使います。何より体全体が重くなり不快です。ウエイトベルトにウエイトを装着しているのであれば腰に負担がかかります。ウエイトベルトがずれたり、外れたりする危険性も高まります。腰が重くなれば水平姿勢を保つことが難しく、下半身が下がる姿勢になってしまい正しく泳ぐことができません。
 これほどオーバーウエイトが悪にも関わらず、多くのダイバーがオーバーウエイト状態なのは理由があります。そして一緒に潜るインストラクターやガイドは自分のゲストがオーバーウエイトであることに気づいています。まず第一にオープンウォーターの講習では講習生をオーバーウエイトの状態にして講習します。そもそも潜航できなければ講習をはじめることができません。着底しても体が安定しなければ講習どころではありません。それゆえに2kg程度ウエイトを足して講習をおこなうのが普通です。理想は講習の最後、4本目のファンダイビング時に適正ウエイトの調整をおこなうことです。実際には息を吐ききることや、思いっきり肺を膨らますことが最初のうちはできないためオーバーウエイトにしておかなければ、すぐに浮いてしまいます。それゆえに講習の最後までオーバーウエイト状態であり、講習生は講習時のウエイト量が自分の適性ウエイトだと勘違いし、いつまでもオーバーウエイトの状態で潜りつづけることになります。多くのガイドはこのことに気づいています。しかしながらあえてウエイトを減らすよう進言することは稀です。理由は簡単です。ウエイトを減らしたことでゲストが潜航できなかったり、ダイビングの途中で浮いてしまうことが面倒だからです。一対多のガイド対複数ゲストで潜っている場合はひとりだけ潜航できない、あるいは途中で浮いてしまった場合、他のゲストを放置して沈めないゲストをケアする必要があります。バディシステムが機能していないためです。ダイビング業界においては事故がおこった場合、ガイドが責任を問われることが少なくありません。それゆえにできるだけ問題をおこさぬよう事なかれ主義がまかり通っています。ゲストが浮いてスクリューに巻き込まれてしまうより着底してガンガゼに刺されてくれるほうがマシだと考えられています。最後はダイバー自身の問題です。ウエイトを減らしたら沈めないのではないかという心理状態がはたらきます。そして心理的不安があると潜航時の姿勢が崩れたり、肺の中のエアーを吐ききることができず、本当に沈めなくなります。いつもどおり落ち着けば潜航できるはずなのに、それができなくなってしまいます。この点に関しては潜航スキルのところであらためて説明します。
 適正ウエイトの実測ができ、適正ウエイトで潜ろう(オーバーウエイトを脱却しよう)と決断したときに、理解しておかなければならない計算式があります。適正ウエイトは残圧50で実測します。ダイビング開始時の残圧は200です。前章でも説明したとおり、空気には重さがあり、残圧200と50では、残圧200のほうが重くなります。このためダイビング開始時は適正ウエイトを実測したときより1-2kg重いということを理解しておく必要があります。すなわちダイビング開始時はタンク内のエアー分だけオーバーウエイトの状態になっています。これは正常なオーバーウエイトです。最初はオーバーウエイトですが、時間がたつにつれてタンク内のエアーが減り最後に適正ウエイトになります。もうひとつは器材により比重が変化することを意識しておきます。3mmのウエットスーツで実測したにもかかわらず、5mmのウエットスーツを着て潜る場合はどのようになりますでしょうか? 3mmと5mmでは体積が違いますので、体積が増えた分、ウエイトを足す必要があります。およそ2kgの調整が必要です。すなわちこのケースでは測定した適正ウエイトに2kgを足します。アルミニウムタンクとスチールタンクでも2kgの差があり、アルミニウムタンクで測定し、スチールタンクを使う場合はウエイトを2kg減らします。このほか、重さのある器材を持っていく場合はその分少しウエイトを減らしたり、浮力体(カメラ)を持っていく場合は気持ちウエイトを足したりして調整します。1kg程度の誤差は肺で調整可能ですが、できるだけ正確にあわせておいたほうが自然な呼吸で中性浮力を保つことができます。ウエイト量を500g単位でこだわることは決して間違いではありません。またウエットスーツ内のつぶれた気泡はすぐに戻るわけではありません。1本目と2本目ではウエットスーツの体積が違います。2本目以降は500gあるいは1kgウエイトを減らす(あるいは1本目は増やす)ことで調整します。1本目を潜る前に、乾いたウエットスーツを水に浸し、足で踏んで気泡をつぶしておくという方法もあります。

最新の20件

2023-09-10 2023-08-13 2023-07-29 2023-07-01 2023-03-18 2022-12-22 2022-12-18 2022-11-10 2022-09-13 2022-08-10 2022-02-27 2022-01-03 2021-12-26 2021-07-12 2021-07-01 2021-06-30

今日の20件

  • counter: 93
  • today: 1
  • yesterday: 0
  • online: 1